③不登校になる原因は一つではない(実践編)
はじめに
長年不登校の子どもたちと関わってきて感じるのは、不登校は一つの出来事だけで起こることは少ないということです
何が原因なんでしょうか?
「コレ」って断定できるといいんですが・・・。
そういうわけでもない?
ひとつじゃないことが多いんです・・・。
はじめに
「先生、結局うちの子は何が原因だったのでしょうか。」
相談に来られる保護者の多くが、最初に口にされる言葉です。
「いじめだったのでしょうか。」
「勉強についていけなかったのでしょうか。」
「私の育て方が悪かったのでしょうか。」
「何か見落としていたのでしょうか。」
原因が分かれば解決できる。
そう考えるのは、とても自然なことです。
しかし、長年不登校の子どもたちと関わってきて感じるのは、不登校は一つの出来事だけで起こることは少ないということです。
子どもの心には、毎日の生活の中で小さな負担が少しずつ積み重なっています。
そして、その積み重ねが限界を超えたとき、「学校へ行けない」という形で表れることがあります。
今回は、一人の中学生とその保護者との面談を通して、「原因探し」から「子どもを理解すること」へと考え方が変わっていく様子をご紹介します。
何が原因なのか、それだけでも知りたいんです
🔴 保護者
「先生、今日はよろしくお願いします。」
🔵 講師
「こちらこそよろしくお願いします。今日は、今までのことをゆっくりお聞かせください。」
🔴 保護者
「息子は中学二年生です。」
「三か月前から学校へ行けなくなりました。」
「でも、私には理由が分からないんです。」
🔵 講師
「理由が分からないというのは、とてもつらいですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
「いじめがあったのかと思って聞いても、『違う』と言います。」
「勉強が難しいのかと聞いても、『別に』と言います。」
「友達と何かあったのか聞いても、『何もない』としか言いません。」
「本人が何も話してくれないので、私も何を信じればいいのか分からなくなってしまいました。」
🔵 講師
「お母さんは、そのたびにどう声をかけていましたか。」
🔴 保護者
「『何か理由があるなら言って。』
『お母さんには話せるでしょう?』
『理由が分からないと助けてあげられないよ。』
そんなふうに何度も聞いていました。」
🔵 講師
「息子さんは、どんな様子でしたか。」
🔴 保護者
「最初は『分からない』と答えていました。」
「でも最近は、聞くだけで『別に……』と言って部屋へ戻ってしまいます。」
「私も焦ってしまって……。」
「何とか原因を見つけなきゃ、この子を助けられないと思っていました。」
「原因探し」をやめたとき、親子の会話が少しずつ戻り始めた
面談のあと、お母さんは少し考え込んでいました。
これまで毎日のように繰り返してきた「原因を聞く」という関わり方が、本当に子どものためになっていたのだろうか。
そんな思いが頭の中を巡っていました。
🔴 保護者
「先生……。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「私は、この子を助けたい一心だったんです。」
「だから、理由が分かれば解決できると思っていました。」
「でも、そのたびに息子は黙ってしまいました。」
「もしかすると、私は追い詰めてしまっていたのでしょうか。」
🔵 講師
「お母さんは、お子さんを追い詰めようとしていたわけではありません。」
「助けたいという気持ちが強かったからこそ、答えを探していたのです。」
「ただ、子どもにとっては、その『答えを求められる時間』そのものが苦しかったのかもしれません。」
🔴 保護者
「……。」
🔵 講師
「以前、担当していた中学生にもよく似たケースがありました。」
「お母さんは毎日、『何があったの?』『誰かに何か言われたの?』『先生と何かあった?』と聞いていました。」
「どれも心配だからこその質問です。」
「しかし、その子はいつも『分からない』『別に』としか答えませんでした。」
🔴 保護者
「うちと同じですね……。」
🔵 講師
「ある日、その子が私にこんなことを話してくれました。」
『お母さんは理由を聞いてくるけど、自分でも分からないんです。分からないって言うと信じてもらえない気がして、もう話したくなくなるんです。』
🔴 保護者
「そんなふうに思っていたんですね……。」
🔵 講師
「子どもは、話したくないのではなく、『話せない』ことがあります。」
「気持ちが整理できていない状態で答えを求められると、何を話せばいいのか分からなくなってしまうのです。」
「今の気持ち」を大切にする関わり方
🔵 講師
「そこで、そのご家庭には一つだけお願いをしました。」
🔴 保護者
「どんなことですか。」
🔵 講師
「一週間だけ、『どうして?』『原因は?』という質問をやめてみてください、とお願いしました。」
🔴 保護者
「それだけですか?」
🔵 講師
「はい。」
「そして代わりに、『今日は少し眠れた?』『ご飯はおいしかった?』『何か困っていることはある?』というように、今の様子を気にかける声かけをしてもらいました。」
🔴 保護者
「原因ではなく、今を見るんですね。」
🔵 講師
「その通りです。」
「原因は、心に余裕ができてから本人が話せるようになることもあります。」
「でも、心が疲れ切っている時期は、まず安心できることの方がずっと大切です。」
「無理に答えを引き出そうとすると、『また聞かれる』『また答えられない』という不安が強くなってしまいます。」
🔴 保護者
「そうだったんですね。」
🔵 講師
「数週間後、そのお子さんは夕食のあと、自分からお母さんに話しかけたそうです。」
『今日、友達からLINEが来た。』
『学校の文化祭の写真を送ってくれた。』
『少しだけ学校のことを思い出した。』
「それまで学校の話題を避けていた子が、自分から話し始めたんです。」
🔴 保護者
「すごいですね……。」
🔵 講師
「それは、『原因を聞かれる場所』から、『安心して話せる場所』へ家庭の雰囲気が変わったからかもしれません。」
原因を探すより、「これから」を一緒に考える
🔴 保護者
「先生、私は今まで『過去』ばかり見ていました。」
「何が悪かったのか。」
「何を間違えたのか。」
「そればかり考えていました。」
🔵 講師
「そうですね。」
「でも、お子さんが本当に必要としているのは、『過去を責める人』ではなく、『これからを一緒に考えてくれる人』です。」
🔴 保護者
「……。」
🔵 講師
「もちろん、原因を知ることが役立つ場合もあります。」
「しかし、不登校は一つの原因だけで説明できないことが多くあります。」
「だからこそ、『原因探し』に時間を使い過ぎるよりも、『今日、少し笑えたね』『今日は一緒にご飯が食べられたね』という、小さな前進を見つけることの方が大切なのです。」
🔴 保護者
「私にもできそうな気がします。」
🔵 講師
「大丈夫です。」
「特別なことをする必要はありません。」
「子どもの話を最後まで聞くこと。」
「答えを急がないこと。」
「『困ったら一緒に考えよう』と伝え続けること。」
「それだけでも、お子さんは『一人じゃない』と感じられるようになります。」
子どもを理解することが、回復への第一歩
面談を終え、お母さんは来られた時よりも穏やかな表情になっていました。
🔴 保護者
「先生、今日やっと分かりました。」
「私は『原因』を見つけようとしていました。」
「でも、本当に必要だったのは、この子の気持ちを理解しようとすることだったんですね。」
🔵 講師
「その気づきが、とても大切です。」
「子どもは、『分かってもらえた』と感じることで安心します。」
「そして、その安心感が少しずつ心のエネルギーを回復させていきます。」
🔴 保護者
「家に帰ったら、もう原因を問い詰めるのはやめます。」
「まずは『今日はどんな一日だった?』と、ゆっくり話を聞いてみたいと思います。」
🔵 講師
「それだけで十分です。」
「子どものペースを信じてください。」
「話したくなったとき、安心できる相手がいると分かれば、子どもは自分から少しずつ心を開いていきます。」
おわりに
不登校になる原因は、一つではありません。
勉強、人間関係、性格、環境、心や体の疲れなど、さまざまな要因が少しずつ積み重なり、「学校へ行けない」という状態につながることがあります。
だからこそ、「本当の原因は何だったのか」と一つの答えを探し続けるよりも、「今、この子は何を感じているのだろう」と寄り添うことが大切です。
子どもは、安心して話を聞いてくれる大人がそばにいるだけで、「自分は一人ではない」と感じられるようになります。
その安心感が、次の一歩を踏み出す力になります。
焦って答えを見つけようとしなくても大丈夫です。
親子で同じ方向を向き、「これから」を少しずつ積み重ねていくことが、未来を取り戻すための確かな道になるのです。
理論編はこちらから
③不登校になる原因は一つではない(理論編)
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