④朝になると体が動かなくなる理由(実践編)

はじめに

朝になると動けない・・・怠けているわけでもなく、ほんとうに動けない・・・。

甘えてるだけなんでしょうか・・・。

そういう場合もあるけど、ほんとうに動けなくなる人もいます。

どうすれば・・・。

まずは状況からですね・・・。

はじめに

「先生、夜までは普通なんです。」

「家族で夕飯も食べますし、テレビを見て笑うこともあります。」

「『明日は行けるかもしれないね。』なんて話す日もあるんです。」

「でも、朝になると急に『無理……』と言って布団から出てこなくなるんです。」

このような相談は、不登校支援の現場で本当によくあります。

保護者からすると、夜は元気そうに見えていた子どもが、朝になると別人のように動けなくなる姿は理解しがたく、「本当にそんなことが起こるのだろうか」と戸惑うのも無理はありません。

しかし、子ども自身も好きでそうなっているわけではありません。

「学校へ行かなければ。」

「行きたい。」

「でも体が動かない。」

そんな葛藤を抱えながら、朝を迎えている子どもも少なくありません。

今回は、毎朝腹痛を訴えて学校へ行けなくなった中学生と、その保護者との面談を通して、「朝になると体が動かなくなる理由」について一緒に考えていきます。

夜は元気なのに、朝だけ動けないんです

🔴 保護者

「先生、本当に不思議なんです。」

🔵 講師

「どんな様子なのか、詳しく教えていただけますか。」

🔴 保護者

「夜は普通なんです。」

「夕飯も食べますし、弟とゲームをして笑っていることもあります。」

「昨日なんて、『明日は学校へ行ってみようかな』と言っていたくらいです。」

🔵 講師

「それで、翌朝はどうなりましたか。」

🔴 保護者

「朝になると急にお腹が痛いと言い始めました。」

「顔色も悪くなって、涙を浮かべながら『今日は無理……』と言うんです。」

「熱はありません。」

「病院でも異常はないと言われました。」

「だから最初は、『また始まった』『気持ちの問題じゃないの』と思ってしまいました。」

🔵 講師

「そう思ってしまうお気持ちは、とても自然です。」

🔴 保護者

「主人も、『夜はあんなに元気だったのに、朝だけ動けないなんておかしい』と言っています。」

「私も最初は、『とにかく制服だけ着よう』『学校の近くまで行こう』と何度も声をかけました。」

🔵 講師

「そのとき、お子さんはどんな反応でしたか。」

🔴 保護者

「黙って泣いていました。」

「最後は『お願いだから今日は行かせないで』と言って、布団にもぐってしまいました。」

その時のお母さんの表情には、「どうすれば助けられるのか分からない」という苦しさがにじんでいました。

子どもも、自分の体に戸惑っています

🔵 講師

「お母さん、お子さんは学校へ行きたくないと言っていますか。」

🔴 保護者

「いいえ。」

「『みんな勉強してるよね。』

『テストが心配。』

『友達に会いたい。』

そんなことはよく言っています。」

🔵 講師

「それを聞く限り、お子さんは学校を完全に拒否しているわけではなさそうですね。」

🔴 保護者

「そうなんです。」

「だから私も、『それなら行けるじゃない』と思ってしまって……。」

🔵 講師

「実は、そこが多くの保護者の方が悩まれるところなんです。」

「子ども自身も『行きたい』と思っている。」

「でも朝になると体が動かない。」

「この二つは矛盾しているように見えますが、不登校では決して珍しいことではありません。」

🔴 保護者

「本当にそんなことがあるんですか。」

🔵 講師

「あります。」

「以前担当していた高校生が、こんなことを話してくれました。」

『夜は「明日は行こう」と本気で思うんです。でも朝になると制服を見るだけで息が苦しくなって、お腹も痛くなってしまうんです。自分でも「どうして?」と思うけど、体が言うことを聞かないんです。』

🔴 保護者

「その子も、自分で理由が分からなかったんですね。」

🔵 講師

「そうです。」

「子ども自身も『どうして動けないのか』が分からず、一番戸惑っていることがあります。」

「だから『怠けている』『気持ちが弱い』と言われると、『自分でも頑張りたいのに……』とさらに苦しくなってしまうのです。」

🔴 保護者

「私は、頑張らせようとしていたつもりでした。」

🔵 講師

「そのお気持ちはよく分かります。」

「ですが、心が限界に近づいている時は、『頑張れ』という言葉が、本人にとっては『もっと頑張らなければ認めてもらえない』というプレッシャーになることがあります。」

🔴 保護者

「そう考えると、息子は毎朝、本当に苦しかったんですね……。」

🔵 講師

「はい。」

「そして、その苦しさを一番理解してほしかった相手は、お母さんだったのかもしれません。」

お母さんは静かに目を伏せ、小さくうなずきました。

これまで「どうして動けないの?」と考えていた気持ちが、「この子はどれほど苦しかったのだろう」という気持ちへと、少しずつ変わり始めていたのでした。

「朝だけ動けない」のは、心と体からのSOS

面談は静かに続いていました。

お母さんは、これまで毎朝のように「どうして動けないの?」と問いかけていた自分の姿を思い返していました。

子どもを責めるつもりはありませんでした。

何とか学校へ行けるようにしてあげたい。

その一心だったのです。

🔴 保護者

「先生……。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「私は毎朝、『あと少し頑張れば行けるよ』『学校まで送るから』『教室に入れなくてもいいから、とりあえず行こう』と声をかけていました。」

「励ましているつもりでした。」

🔵 講師

「お母さんの言葉には、お子さんへの愛情が込められています。」

「ですが、その頃のお子さんは、心も体も限界に近かったのかもしれません。」

🔴 保護者

「限界……。」

🔵 講師

「心が強いストレスを受け続けると、体は自分を守ろうとします。」

「朝、『学校へ行かなければ』という現実を意識した瞬間に、脳は危険を感じ、自律神経が大きく反応することがあります。」

「すると腹痛や頭痛、吐き気、強いだるさなどが現れ、『動きたいのに動けない』状態になることがあるのです。」

🔴 保護者

「つまり、仮病ではないんですね。」

🔵 講師

「はい。」

「もちろん、すべてのケースが同じとは限りません。」

「しかし、検査で異常が見つからなくても、心の疲れが体に症状として現れることは珍しくありません。」

「本人も『どうして自分は動けないんだろう』と苦しんでいます。」

🔴 保護者

「そう考えると、私は息子に『頑張れ』と言い続けてしまっていました。」

🔵 講師

「以前、担当した高校生がこんなことを話してくれました。」

『朝、お母さんに「頑張れ」と言われるたびに、「これ以上どう頑張ればいいの?」と思っていました。頑張れない自分が情けなくて、ますます布団から出られなくなりました。』

🔴 保護者

「……。」

🔵 講師

「『頑張れ』という言葉が悪いわけではありません。」

「ただ、すでに限界まで頑張っている子どもにとっては、その言葉が『もっと頑張らなければ認めてもらえない』という重荷になってしまうことがあるのです。」


「行かせること」より「安心できる朝」を目指す

🔵 講師

「そこで、そのご家庭には朝の関わり方を少しだけ変えていただきました。」

🔴 保護者

「どのように変えたんですか。」

🔵 講師

「『今日は行ける?』という問いかけをやめてもらいました。」

「代わりに、『おはよう』『昨日はよく眠れた?』『何か飲めそう?』というように、体調や気持ちを気遣う声かけをお願いしました。」

🔴 保護者

「学校の話はしなかったんですね。」

🔵 講師

「はい。朝は特に緊張が高まりやすい時間です。」

「その時間に登校の話題ばかりになると、子どもの不安はさらに大きくなることがあります。」

「まずは『安心できる朝』をつくることを目標にしました。」

🔴 保護者

「すると、何か変化はありましたか。」

🔵 講師

「すぐに学校へ行けるようになったわけではありません。」

「しかし、一週間ほどすると、お子さんの表情が少しずつ穏やかになりました。」

「朝、リビングに来て一緒に朝食を食べられる日が増えたそうです。」

「そして、ある日お子さんが自分からこう話したそうです。」

『朝になると、お腹がギュッとなるんだ。自分でも止められない。』

🔴 保護者

「初めて本音を話してくれたんですね。」

🔵 講師

「はい。」

「『学校へ行けるか』ではなく、『苦しさを分かってもらえた』と感じたことで、安心して気持ちを言葉にできたのだと思います。」

「動けない朝」を責めないことが、回復への第一歩

面談の終わり、お母さんの表情には少し安心した様子が見られました。

🔴 保護者

「先生、私は朝になるたびに『どうして今日も動けないの』と思っていました。」

「でも、本当は息子自身が一番困っていたんですね。」

🔵 講師

「その通りです。」

「子どもは好きで苦しんでいるわけではありません。」

「『学校へ行きたい』という気持ちと、『体が動かない』という現実の間で、一番苦しんでいるのは本人です。」

🔴 保護者

「これからは、『今日は無理なの?』ではなく、『今日も苦しいね』『何か手伝えることはある?』と声をかけてみます。」

🔵 講師

「それだけでも、お子さんの安心感は大きく変わります。」

「『理解してくれる人がいる』という実感は、心を少しずつ回復させる大きな力になります。」

🔴 保護者

「焦らず、小さな変化を見守っていこうと思います。」

🔵 講師

「はい。」

「朝起きてリビングまで来られた。」

「少し朝食が食べられた。」

「笑顔で『おはよう』と言えた。」

「そうした一つひとつが回復への大切な一歩です。」

「その積み重ねが、やがて『今日は少し学校へ行ってみようかな』という気持ちにつながることもあります。」


おわりに

朝になると体が動かなくなる子どもは、決して珍しくありません。

それは「怠け」や「甘え」ではなく、心の疲れや強いストレスが体に表れている可能性があります。

だからこそ、「どうして動けないの?」と原因を追及するよりも、「今はとても苦しいんだね」と気持ちに寄り添うことが大切です。

子どもは、自分の苦しさを理解してくれる大人の存在によって、少しずつ安心感を取り戻していきます。

そして、その安心感が心と体を回復させる土台となり、自分の力で次の一歩を踏み出す勇気へとつながっていくのです。

朝の一歩は、小さくても構いません。

焦らず、子どもの歩幅に合わせて寄り添い続けることが、未来への確かな支えになります。

理論編はこちらから

④朝になると体が動かなくなる理由(理論編)

はじめに 「夜は普通に話していたのに、朝になると急に『学校へ行けない』と言い出すんです。」 「休日は元気なのに、平日の朝だけ腹痛や頭痛を訴えます。」 このような相談は、不登校支援の現場で非常によくあります。 保護者からす […]

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