⑤心が疲れると勉強できなくなる理由(実践編)

はじめに

勉強しようとしても頭が働かない・・・。

勉強しないといけないってのは分かってるんだけどね・・・。

できない・・・と。

そういうこと。

ま、よくある状態かな・・・。

はじめに

「先生、このまま勉強しなくなったら、この子の将来はどうなるのでしょうか。」

面談で、この言葉を聞かない日はありません。

学校を休み始めると、保護者が次に心配するのは「勉強の遅れ」です。

友達は毎日授業を受け、テストを受け、少しずつ先へ進んでいきます。

その一方で、自分の子どもは教科書を開こうともしない。

ゲームや動画は見られるのに、勉強だけは全くしない。

その姿を見ると、

「少しでも勉強した方がいい。」

「一日十分だけでも机に向かおう。」

そう声をかけたくなるのは、ごく自然なことです。

しかし、不登校の子どもたちの中には、「勉強したくない」のではなく、「勉強しようとしても頭が働かない」という状態になっている子どもがいます。

今回は、「勉強しなさい」という言葉が親子の距離を広げてしまった一つの事例を通して、心の疲れと学習の関係について考えていきます。

少しでいいから勉強してほしいんです

🔴 保護者

「先生、この子は学校を休み始めて二か月になります。」

「最初は体を休めることが大切だと思っていました。」

「でも、何もしないままだと勉強がどんどん遅れてしまいますよね。」

🔵 講師

「そのことが、一番心配なのですね。」

🔴 保護者

「はい。」

「高校受験のことを考えると焦ってしまいます。」

「だから私は毎日、『十分だけでもいいから勉強しよう』『プリント一枚だけやってみよう』と声をかけていました。」

🔵 講師

「その時、お子さんはどんな反応でしたか。」

🔴 保護者

「最初は『あとでやる』と言っていました。」

「でも、結局やらないんです。」

「私もだんだんイライラしてしまって……。」

『ゲームはできるのに、どうして勉強はできないの?』

『動画を見る時間があるなら、勉強できるでしょう。』

そんなことを言ってしまいました。」

🔵 講師

「その後、お子さんはどうなりましたか。」

🔴 保護者

「教科書を見ることすら嫌がるようになりました。」

「『勉強』という言葉を出すだけで部屋へ行ってしまいます。」

「私は、この子のために言っていたつもりなんです。」

お母さんは、自分を責めるようにうつむきました。

子どもの将来を思う気持ちが強かったからこそ、どう関わればよいのか分からなくなっていたのです。

勉強したいのに、できない子どもがいます

🔵 講師

「お母さんに一つ、お伝えしたいことがあります。」

🔴 保護者

「はい。」

🔵 講師

「不登校の子どもの中には、『勉強したくない』のではなく、『勉強したいけれどできない』という子が少なくありません。」

🔴 保護者

「そんなことがあるんですか。」

🔵 講師

「あります。」

「以前担当した中学生が、こんなことを話してくれました。」

『勉強しなきゃいけないことは分かってるんです。でも教科書を開くと、文字が頭に入ってこないんです。同じページを何回読んでも意味が分からないんです。』

🔴 保護者

「……。」

🔵 講師

「その子は決して勉強が嫌いになったわけではありません。」

「学校へ行っていた頃は成績も悪くありませんでした。」

「しかし、不登校になってからは集中力が続かず、五分も机に向かえなくなっていました。」

🔴 保護者

「うちの子も同じです。」

「ノートを開いても、すぐ閉じてしまいます。」

🔵 講師

「心が疲れ切っている時は、勉強に必要な集中力や判断力も大きく低下します。」

「だから『頑張ればできる』という問題ではないことが多いのです。」

🔴 保護者

「私は、それを怠けているだけだと思っていました。」

🔵 講師

「そう感じてしまう保護者は少なくありません。」

「ですが、本人も『勉強できない自分』に苦しんでいます。」

「『勉強しなさい』と言われるたびに、『できない自分はダメなんだ』と自分を責めてしまう子どもも多いのです。」

🔴 保護者

「先生……。」

🔵 講師

「お母さんのお子さんも、勉強が嫌いになったのではありません。」

「今は、勉強するための心のエネルギーが足りなくなっているのかもしれません。」

その言葉を聞いたお母さんは、静かに目を閉じました。

「勉強しない子」ではなく、「勉強したくてもできない子」。

その見方を知った瞬間、お子さんへの印象が少しずつ変わり始めていました。

「勉強しなさい」をやめたことで見えてきた変化

面談のあと、お母さんはしばらく考え込んでいました。

「勉強しなさい。」

この言葉を言わない日はありませんでした。

子どもの将来を思えば思うほど、不安になり、その不安が言葉になって毎日のように口から出ていたのです。

🔴 保護者

「先生……。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「私は、この子の将来が心配で仕方なかったんです。」

「だから勉強だけは止めちゃいけないと思っていました。」

「でも、私が言えば言うほど、この子は教科書を閉じてしまいました。」

🔵 講師

「それは、お母さんの言葉が悪かったわけではありません。」

「心配するのは当然です。」

「ですが、お子さんはその言葉を『期待』ではなく『プレッシャー』として受け止めていたのかもしれません。」

🔴 保護者

「プレッシャー……。」

🔵 講師

「以前、担当していた高校生がこんなことを話してくれました。」

『お母さんは「勉強しなさい」と言うけど、自分だって勉強しなきゃいけないことは分かってるんです。でも本を開いても頭が真っ白になるんです。何も入ってこないんです。だから「またできなかった」と思って、自分が嫌いになっていました。』

🔴 保護者

「……。」

🔵 講師

「勉強できないことが一番つらいのは、実は子ども自身なのです。」

「友達が進んでいくことも分かっています。」

「受験が近づいていることも分かっています。」

「それでも思うように勉強できない。」

「その苦しさを抱えながら毎日を過ごしている子どもは少なくありません。」

🔴 保護者

「私は、その気持ちまで考えられていませんでした。」


学ぶ力は「安心感」から戻ってくる

🔵 講師

「そこで、そのご家庭には一つだけお願いをしました。」

🔴 保護者

「どんなことですか。」

🔵 講師

「しばらくの間、『勉強しなさい』という言葉を使わないようにしていただきました。」

🔴 保護者

「それだけで大丈夫なんですか。」

🔵 講師

「もちろん、それだけで急に勉強ができるようになるわけではありません。」

「ですが、まず必要なのは『勉強しなければならない場所』ではなく、『安心して過ごせる場所』を家庭の中につくることでした。」

🔴 保護者

「それで、お子さんは変わりましたか。」

🔵 講師

「少しずつ変わりました。」

「最初の一週間は大きな変化はありませんでした。」

「でも二週間ほど経ったある日、お子さんがリビングで本を読んでいたそうです。」

「勉強ではありません。」

「好きな小説でした。」

🔴 保護者

「それでも前進なんですね。」

🔵 講師

「もちろんです。」

「文字を読むことにもエネルギーが必要です。」

「『本を読もう』と思えたこと自体が、心に少し余裕が戻ってきた証拠だったのです。」

🔴 保護者

「私は『勉強じゃない』と思ってしまいそうです。」

🔵 講師

「ですが、その一歩を認めることが大切です。」

「さらに数日後、お子さんは自分から数学のワークを取り出し、『一問だけやってみようかな』と言ったそうです。」

🔴 保護者

「自分からですか。」

🔵 講師

「はい。」

「誰かに言われたからではなく、自分で『やってみよう』と思えた。」

「この違いはとても大きいのです。」

「学習は、強制されて始めるよりも、自分で『やってみよう』と思えた時の方が長く続きやすいのです。」


「できたこと」に目を向ける

🔴 保護者

「私は今まで、『今日は何時間勉強したか』ばかり気にしていました。」

🔵 講師

「これからは、『今日は何ができたか』を見てあげてください。」

🔴 保護者

「例えば、どんなことですか。」

🔵 講師

「教科書を開けた。」

「五分だけ机に向かえた。」

「一問だけ解いてみた。」

「分からないところを質問できた。」

「そうした小さな変化を認めてあげることです。」

🔴 保護者

「そんな小さなことでもいいんですね。」

🔵 講師

「その小さな積み重ねが、やがて『勉強できる自分』という自信につながっていきます。」

「逆に、『まだこれしかできない』と評価してしまうと、自信を失い、また勉強から離れてしまうこともあります。」

心が回復すると、学ぶ力も少しずつ戻ってくる

面談の終わり、お母さんは少し笑顔を見せました。

🔴 保護者

「先生、私は勉強を教えることばかり考えていました。」

「でも、本当に必要だったのは、この子の心を休ませることだったんですね。」

🔵 講師

「そうです。」

「勉強はゴールではありません。」

「子どもが将来、自分らしく生きていくための力を育てる手段の一つです。」

「その土台になる心が疲れ切っている時は、まず土台を整えることが何より大切です。」

🔴 保護者

「家に帰ったら、『今日は勉強した?』ではなく、『今日はどんな一日だった?』と聞いてみようと思います。」

🔵 講師

「それだけでも、お子さんは安心できます。」

「安心できる環境の中で心が回復すると、人は自然と『何かやってみよう』という意欲を取り戻していきます。」

「勉強も、その一つです。」

🔴 保護者

「焦らず、小さな成長を見つけながら見守っていきます。」

🔵 講師

「それが、お子さんにとって一番大きな応援になります。」

「学ぶ力は失われたわけではありません。」

「今は少し休んでいるだけです。」

「心が元気を取り戻せば、その力はまた少しずつ動き始めます。」


おわりに

心が疲れている時、勉強ができなくなるのは特別なことではありません。

集中力や理解力、考える力は、心の状態と深く結びついています。

だからこそ、「どうして勉強しないの?」ではなく、「今は勉強できるほど心に余裕があるだろうか」という視点を持つことが大切です。

子どもは安心できる環境の中で少しずつ心を回復させ、自分の力で学ぶ意欲を取り戻していきます。

その過程は人それぞれで、時間もかかるかもしれません。

しかし、一歩一歩の小さな成長を認め、焦らず寄り添い続けることで、子どもは再び前を向く力を育んでいきます。

「勉強ができるようになること」を急ぐより、「学びたいと思える心」を育てること。

それが、不登校からの回復と、その先の未来につながる大切な土台なのです。

理論編はこちらから

⑤心が疲れると勉強できなくなる理由(理論編)

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学校に行けないお子さんのための家庭教師

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