⑯ 家庭教師ができる最初のサポート(実践編)

はじめに

家庭教師・・・最初はどんなことから始めるのでしょうか?

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どんな勉強を・・・

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まあね・・・

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ん?

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いきなり・・・ってのもね

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目次

はじめに

「家庭教師をお願いしたら、少しは勉強するようになるでしょうか。」

不登校の子どもを持つ保護者が、家庭教師に期待することは少なくありません。

学校へ行けない。

授業にも出られない。

家ではほとんど勉強していない。

このままでは学習の遅れが大きくなる。

だから、家まで来てくれる家庭教師なら、少しずつ勉強を再開できるかもしれない。

そう考えるのは自然なことです。

しかし、不登校の子どもに家庭教師が関わる時、最初から勉強だけを始めればよいとは限りません。

子どもにとって家庭教師は、最初は「知らない大人」です。

その人が自分の家に来る。

自分の部屋や生活の一部に入ってくる。

できない勉強を見られるかもしれない。

学校のことを聞かれるかもしれない。

それだけでも、かなり緊張する子どもがいます。

今回は、中学二年生の息子が不登校になって数か月たった家庭を例に、家庭教師が最初にどんな関わりをするとよいのかを具体的に考えていきます。

「勉強してくれるなら、家庭教師をお願いしたいんです」

🔴 保護者

「先生、家庭教師をお願いしようか迷っています。」

🔵 講師

「一番の理由は何ですか。」

🔴 保護者

「やっぱり勉強です。」

「最近、少しずつ生活は落ち着いてきました。」

「家族とも話すようになったし、昼夜逆転も少しずつマシになっています。」

「でも、勉強はまだほとんどできていません。」

🔵 講師

「お子さん自身は、家庭教師について何と言っていますか。」

🔴 保護者

「最初は嫌だと言っていました。」

「『知らない人が家に来るの嫌。』って。」

🔵 講師

「それでも少し気持ちが変わってきたんですね。」

🔴 保護者

「はい。」

「この前、

『学校の先生じゃないなら、まあいいかも。』

と言いました。」

🔵 講師

「なるほど。」

🔴 保護者

「だから私は、

『じゃあ数学を見てもらおう。』

と思ったんです。」

「三か月くらい遅れていますし、英語も心配です。」

「できれば週に一回、二時間くらいやってもらえたらと。」

🔵 講師

「最初から二時間勉強するイメージですか。」

🔴 保護者

「はい。」

「家庭教師って、そういうものですよね。」


「二時間勉強」は最初の目標ではない

🔵 講師

「もちろん、最終的には学習時間をしっかり取れるようになるのはよいことです。」

「でも、最初から二時間を目標にしなくてもいいと思います。」

🔴 保護者

「せっかく来てもらうのにですか。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「それだと、もったいなくないですか。」

🔵 講師

「そう感じますよね。」

「でも、お子さんにとっては、家庭教師が家に来ること自体が最初の課題かもしれません。」

🔴 保護者

「人に会うことから?」

🔵 講師

「そうです。」

「知らない大人が来る。」

「自分と話す。」

「自分のことを見られる。」

「それだけでも、かなりエネルギーを使うことがあります。」

🔴 保護者

「確かに、最近は親戚が来ても部屋から出ないことがあります。」

🔵 講師

「それなら、なおさら最初は関係づくりを優先した方がいいかもしれません。」


初回は勉強をしなくてもいい

🔴 保護者

「でも、初回に勉強しないこともあるんですか。」

🔵 講師

「あります。」

「例えば最初は三十分くらい話すだけ。」

「好きなゲームの話。」

「最近見た動画。」

「好きな教科。」

「逆に嫌いなこと。」

「そんな話で終わることもあります。」

🔴 保護者

「それって家庭教師というより、話し相手みたいですね。」

🔵 講師

「最初はそれでもいいんです。」

「その時間を通して、

『この人は自分を無理に動かそうとしない。』

『勉強できないことを責めない。』

と思ってもらう。」

「それができれば、そのあと学習へつなげやすくなります。」

🔴 保護者

「私は、来たらすぐ問題集を広げてもらうつもりでした。」

🔵 講師

「それが合う子もいます。」

「でも、不登校の子の場合は、

『今日はどこまでできるか』

を見ながら始める方がいいことがあります。」

初対面で大切なのは「何を教えるか」ではない

数日後。

家庭教師が初めて家を訪れました。

息子はリビングにはいましたが、かなり緊張している様子でした。

🔵 家庭教師

「こんにちは。」

「こんにちは……。」

🔵 家庭教師

「今日は、勉強をいっぱいやる日じゃなくて大丈夫だよ。」

息子は少しだけ顔を上げました。

「そうなんですか。」

🔵 家庭教師

「うん。」

「まず、どんな人か分からないと嫌でしょう。」

息子は少し笑いました。

「まあ。」

🔵 家庭教師

「だから今日は、話せそうなことだけ話そう。」

「勉強も、やってみたくなったらやろう。」

その言葉を聞いて、息子の肩の力が少し抜けました。


好きなことから会話を始める

🔵 家庭教師

「最近何してること多い?」

「ゲーム。」

🔵 家庭教師

「何のゲーム?」

息子はタイトルを答えました。

家庭教師も少し知っていました。

🔵 家庭教師

「あれ難しくない?」

「難しいです。」

「でも慣れると面白い。」

🔵 家庭教師

「どういうところが面白い?」

そこから、ゲームの話が少し続きました。

最初は短い返事だけだった息子が、少しずつ自分から説明するようになりました。

お母さんは少し離れたところで、その様子を見ていました。

「勉強はまだ始まらないのかな。」

そう思う気持ちもありました。

でも、息子が久しぶりに初対面の大人と自然に話していることにも気づきました。


「学校どう?」から入らない

しばらくして、お母さんは後から家庭教師に聞きました。

🔴 保護者

「学校のことは聞かなくていいんですか。」

🔵 家庭教師

「本人から出てきたら聞きます。」

🔴 保護者

「最初に確認した方がいいかと思っていました。」

🔵 家庭教師

「学校の話題自体が負担になる子もいますから。」

「まずは、

『この人と話しても大丈夫。』

と思ってもらう方が先です。」

🔴 保護者

「なるほど。」

🔵 家庭教師

「学校について聞くことは、あとからでもできます。」


「今日は勉強しなくていいの?」と子どもから聞いた

三十分ほど話した頃。

息子が家庭教師に聞きました。

「今日は勉強しなくていいんですか。」

🔵 家庭教師

「やってみたい?」

「ちょっとなら。」

🔵 家庭教師

「じゃあ、何なら一番嫌じゃない?」

息子は少し考えました。

「社会。」

🔵 家庭教師

「じゃあ社会にしようか。」

「今学校でやってるところじゃなくてもいい?」

🔵 家庭教師

「もちろん。」

「好きなところでいいよ。」

息子は歴史の教科書を持ってきました。


「遅れているところ」ではなく「できるところ」から

🔴 保護者

「先生、数学じゃなくていいんですか。」

お母さんは、思わず聞いてしまいました。

🔵 家庭教師

「今日は社会でいいと思います。」

🔴 保護者

「数学が一番遅れているんです。」

🔵 家庭教師

「それは今後やりましょう。」

「でも最初に一番苦手なものを出すと、

『やっぱり家庭教師も勉強をやらせる人なんだ。』

となってしまうかもしれません。」

🔴 保護者

「まずは勉強できる感覚を作る。」

🔵 家庭教師

「そうです。」


一問できた時の反応が大切

家庭教師は、息子が以前学習した歴史の内容から簡単な質問をしました。

🔵 家庭教師

「これ、覚えてる?」

「たぶん。」

息子は答えました。

正解でした。

🔵 家庭教師

「合ってる。」

「ほんと?」

🔵 家庭教師

「うん。」

「ちゃんと覚えてるね。」

息子は少しうれしそうでした。

次の問題も答えられました。

三問目は少し迷いました。

「分かんない。」

以前なら、この「分からない」という言葉を言うのも嫌だったかもしれません。

しかし家庭教師は、

🔵 家庭教師

「分からないって言ってくれるの助かる。」

「どこから一緒に見ればいいか分かるから。」

と言いました。

息子は少し驚いたように家庭教師を見ました。


「分からない」が言える関係をつくる

その日の支援が終わったあと、お母さんは家庭教師に聞きました。

🔴 保護者

「さっき『分からないって言ってくれて助かる』って言ってましたよね。」

🔵 家庭教師

「はい。」

🔴 保護者

「どうしてですか。」

🔵 家庭教師

「子どもによっては、『分からない』と言うことを失敗だと思っています。」

「だから分かったふりをしたり、勉強そのものを避けたりします。」

🔴 保護者

「息子もそうかもしれません。」

🔵 家庭教師

「でも、

『分からないと言っても怒られない。』

『一緒に考えてもらえる。』

と分かれば、質問できるようになります。」

「そこから、本当の学習支援がしやすくなります。」


初回は四十分ほどで終わった

その日の家庭教師との時間は、全部で四十分ほどでした。

実際に教科書を開いていたのは十五分程度です。

お母さんは、最初に考えていた「二時間」と比べると、かなり短いと感じました。

でも、息子は家庭教師が帰ったあとも部屋に閉じこもりませんでした。

むしろ夕食の時に、

「今日の先生、ゲーム知ってた。」

と話しました。

🔴 保護者

「嫌じゃなかった?」

「まあ、別に。」

少し間を置いてから、

「次も来るんでしょ?」

🔴 保護者

「嫌なら相談するよ。」

「いや、来てもいい。」

お母さんは、その言葉に驚きました。

勉強がたった十五分だったことより、

「次も来てもいい」

と言ったことの方が、今は大きな変化なのかもしれない。

そう思い始めました。


二回目もいきなり勉強から始めない

一週間後。

家庭教師がもう一度やってきました。

🔵 家庭教師

「こんにちは。」

「こんにちは。」

前回より、息子の返事が少し大きくなっていました。

🔵 家庭教師

「この前のゲーム、そのあと進んだ?」

「進みました。」

そこからまた少し雑談しました。

お母さんは内心、

「もう二回目だから、そろそろ数学を……。」

と思っていました。

しかし家庭教師は急ぎませんでした。

十分ほど話したあと、息子の方から言いました。

「今日は何やるんですか。」

🔵 家庭教師

「何ならできそう?」

「社会でもいいけど……。」

息子は少し考えました。

「数学、ちょっと見てもいい。」

お母さんは驚きました。

自分から数学と言ったのです。


「どこが分からないか分からない」から始める

数学のプリントを出しました。

息子は問題を見ながら言いました。

「これ、全然分かんない。」

🔵 家庭教師

「全部分からない感じ?」

「たぶん。」

🔵 家庭教師

「じゃあ、少し前のところから見てみよう。」

家庭教師は、難しい問題をそのまま解かせませんでした。

少し前の単元へ戻りました。

一問目。

息子は解けました。

🔵 家庭教師

「ここは大丈夫。」

二問目。

これも解けました。

三問目で止まりました。

「ここから分かんない。」

🔵 家庭教師

「なるほど。じゃあ、たぶんここが境目だね。」

息子は問題を見ながら言いました。

「俺、数学全部分かんないと思ってた。」

🔵 家庭教師

「全部じゃなかったね。」

「うん。」

その言葉を聞いた息子の表情が、少し変わりました。


保護者に見えなかった「できるところ」を見つける

支援のあと。

🔴 保護者

「先生、私も数学全部やり直しだと思っていました。」

🔵 家庭教師

「実際に見てみると、できるところはかなり残っています。」

🔴 保護者

「三か月休んでいるから、全部抜けていると思っていました。」

🔵 家庭教師

「学校を何か月休んでいるかと、理解度は必ずしも同じではありません。」

「得意なところもあります。」

「忘れているところもある。」

「少し教えれば思い出せるところもあります。」

🔴 保護者

「それを一つずつ見ていくんですね。」

🔵 家庭教師

「そうです。」


家庭教師が来る日を「テストの日」にしない

二回目のあと、お母さんは気づかないうちに毎週家庭教師の日を楽しみにするようになりました。

そして三回目の前日。

🔴 保護者

「明日先生来るから、少し予習しておいたら?」

と言ってしまいました。

息子の表情が変わりました。

「何で?」

🔴 保護者

「だって、分からないところ少し見ておいた方がいいでしょう。」

「別に先生に言われてない。」

🔴 保護者

「でも、せっかく来てもらうんだから。」

「もういい。」

息子は部屋へ戻りました。

お母さんは、

「またやってしまった。」

と思いました。

家庭教師をお願いしたことで、自分の中にまた、

「せっかくだから成果を出してほしい。」

という気持ちが強くなっていたのです。

翌日。

家庭教師が来る前、息子は少し不機嫌でした。

家庭教師はすぐにその変化に気づきました。

🔵 家庭教師

「今日はちょっと疲れてる?」

「別に。」

🔵 家庭教師

「じゃあ、今日はゆっくりにしようか。」

息子は少し黙っていました。

そして言いました。

「母さんが、予習しろって。」

お母さんは別の部屋で、その言葉を聞いていました。

家庭教師は少し考えてから息子に言いました。

🔵 家庭教師

「予習してなくて大丈夫だよ。」

「ここに来て、一緒に考えるために僕がいるから。」

「……ほんと?」

🔵 家庭教師

「ほんと。」

「分からないままでいい。」

「むしろ、分からないところ持ってきてくれた方が仕事しやすい。」

息子は少し笑いました。

「変なの。」

🔵 家庭教師

「家庭教師だからね。」

その日は、最初の二十分ほどほとんど勉強しませんでした。

ゲームの話をしながら、少しずつ息子の表情が戻っていきました。

そしてしばらくして、息子が自分から数学のプリントを出しました。

「この前の続き、やる。」

家庭教師は、

「いいよ。」

と答えました。

お母さんはその様子を見ながら、家庭教師ができる最初のサポートとは、ただ勉強を教えることではないのだと、少しずつ理解し始めていました。

「成果を出させる人」ではなく「安心して戻れる相手」になる

三回目の支援が終わったあと、お母さんは家庭教師に声をかけました。

🔴 保護者

「先生、少し相談してもいいですか。」

🔵 家庭教師

「もちろんです。」

🔴 保護者

「私、また焦ってしまいました。」

「家庭教師をお願いしたんだから、少しでも成果を出してほしいって。」

「だから予習までさせようとしてしまって。」

🔵 家庭教師

「お母さんがそう思うのは自然ですよ。」

「学習の遅れも心配ですから。」

🔴 保護者

「でも、私が言ったことで、また勉強が嫌になりかけましたよね。」

🔵 家庭教師

「そういうことはあります。」

「家庭教師が来る日が、

『勉強できるかチェックされる日』

になってしまうと、本人も構えてしまいます。」

🔴 保護者

「私は、家でも学校と同じようなことをしていたのかもしれません。」

🔵 家庭教師

「だから、最初は家庭教師の時間を、

『安心して分からないと言える時間』

にすることが大切なんです。」

🔴 保護者

「安心して分からないと言える時間……。」

🔵 家庭教師

「はい。」

「できるところはできる。」

「できないところは一緒に探す。」

「今日は無理なら、少し休む。」

「それでも次にまた来ればいい。」

「そういう関係を作っていきます。」


子どもから初めて出た「学校の話」

その後も家庭教師は週に一度訪れました。

毎回、最初の十分から十五分ほどは雑談でした。

ゲーム。

動画。

好きな食べ物。

最近見たニュース。

勉強とは関係のない話です。

しかし、少しずつ息子の方から話題を広げるようになりました。

ある日。

🔵 家庭教師

「今日は何やる?」

「数学かな。」

🔵 家庭教師

「分かった。」

息子はプリントを取り出しました。

数問解いたあと、ふと手を止めました。

「先生。」

🔵 家庭教師

「何?」

「学校って、どのくらい休んだら戻りにくくなるんですか。」

家庭教師はすぐには答えませんでした。

🔵 家庭教師

「それ、最近気になってる?」

「うん。」

「クラス、もう結構進んでるし。」

「俺、戻っても分かんないと思う。」

🔵 家庭教師

「勉強の遅れが一番心配?」

「それもあるけど。」

息子は少し黙りました。

「みんなに何て言われるかも嫌。」

家庭教師は続きを待ちました。

「ずっと休んでた奴が急に来たら、変じゃないですか。」

🔵 家庭教師

「そう思うんだね。」

「うん。」

「だから学校行くか考えると、なんか面倒になる。」


親には言えなかった不安を第三者には話せることがある

その日の支援後、家庭教師は、お子さんの了解を得た範囲でお母さんに伝えました。

🔵 家庭教師

「今日は、学校のことを少し話してくれました。」

🔴 保護者

「学校のことを?」

「家では最近ほとんど話しません。」

🔵 家庭教師

「勉強の遅れと、戻った時の周囲の反応が気になっているようです。」

🔴 保護者

「そんなこと考えていたんですね……。」

🔵 家庭教師

「お母さんに話したくないわけではないと思います。」

「お母さんには心配をかけたくないのかもしれませんし、話したらすぐ何かが動き出すと思っているのかもしれません。」

🔴 保護者

「確かに私、学校の話が出るとすぐ、

『じゃあ先生に相談しよう。』

と言ってしまいます。」

🔵 家庭教師

「今は、話せたこと自体を大切にしていいと思います。」

「すぐ登校の話につなげなくても大丈夫です。」


家庭教師は親子の間の「通訳」になることもある

🔴 保護者

「私はどうすればいいでしょう。」

🔵 家庭教師

「学校のことを無理に聞かなくていいと思います。」

「もし本人から話したら、その時に聞く。」

「そして、

『そういうことが心配なんだね。』

と受け止める。」

🔴 保護者

「解決しようとし過ぎない。」

🔵 家庭教師

「そうです。」

「必要になった時には、一緒に学校との関わり方を考えればいいです。」

🔴 保護者

「先生が間に入ってもらうこともできますか。」

🔵 家庭教師

「もちろんです。」

「例えば、

『勉強の遅れが不安なら、どこを優先すればいいか一緒に整理しよう。』

というところは私ができます。」

「学校との連絡については、お母さんと学校で調整できます。」

「全部を本人一人に背負わせなくていいんです。」


「戻るための勉強」ではなく「安心するための勉強」

それから家庭教師との学習は、少しずつ形ができてきました。

最初は十五分程度だった勉強が、三十分ほど続く日も出てきました。

ただし、毎回同じではありません。

体調の悪い日は十分だけ。

雑談だけで終わる日もありました。

ある日、息子は数学を解きながら言いました。

「これ分かるようになったら、ちょっと安心かも。」

🔵 家庭教師

「何が?」

「学校行った時、全部分かんないわけじゃないって思えるから。」

🔵 家庭教師

「なるほど。」

「じゃあ、学校へ戻るために全部やるんじゃなくて、不安を減らすために必要なところをやろうか。」

「それがいい。」

この言葉は、息子にとって大きな違いでした。

「学校へ戻るために勉強しなければならない。」

ではなく、

「自分の不安を少し減らすために学ぶ。」

学習の意味が変わっていったのです。

家庭教師が来る日を楽しみにするようになる

さらに数週間が過ぎました。

ある日、お母さんが言いました。

🔴 保護者

「今日先生来るよ。」

以前なら、

「えー。」

という反応だった息子が、

「何時?」

と聞きました。

🔴 保護者

「四時。」

「じゃあ、その前にこの問題見とこうかな。」

お母さんは驚きました。

以前は、

「予習しておいたら?」

と言っただけで嫌がっていた息子が、今度は自分から教材を開いています。

違いは一つです。

やらされているのではありません。

自分で、

「これを聞いてみたい。」

と思っているのです。

家庭教師が到着すると、息子はプリントを持ってきました。

「ここ、分かんない。」

🔵 家庭教師

「じゃあ見てみよう。」

家庭教師にとっては、何気ない一言でした。

しかし、お母さんには大きな変化に見えました。

「分からない。」

と自分から言える。

「教えてほしい。」

と人を頼れる。

以前の息子には難しかったことでした。


「できる」が少しずつ増える

数学のあと、息子は英語の教科書を出しました。

「英語も少しやっていい?」

🔵 家庭教師

「もちろん。」

「でも、今日は数学結構やったから、疲れてない?」

「ちょっと。」

🔵 家庭教師

「じゃあ十分だけにしようか。」

「うん。」

以前のお母さんなら、

「せっかくやる気が出たなら、もっとやってもらえばいいのに。」

と思ったかもしれません。

しかし、今は違いました。

調子がいい日にやり過ぎて、次の週に嫌になるより、

「またやりたい。」

と思えるところで終える。

その意味が分かってきたのです。


家庭教師の支援は親にも変化をもたらす

支援が始まって二か月ほどたった頃、お母さんは家庭教師に言いました。

🔴 保護者

「先生が来てくれるようになって、一番変わったのは私かもしれません。」

🔵 家庭教師

「お母さんがですか。」

🔴 保護者

「はい。」

「前は息子を見るたび、

『勉強しなきゃ。』

『学校どうする?』

って思っていました。」

「でも今は、

『勉強のことは先生と相談できる。』

と思えるようになりました。」

「だから私が毎日言わなくてもよくなったんです。」

🔵 家庭教師

「それは大きいですね。」

🔴 保護者

「息子との会話も、普通の話が増えました。」

「私が全部背負わなくていいんだと思ったら、少し楽になりました。」

家庭教師という第三者が入ることは、子どもだけを支えることではありません。

保護者の負担を少し分けることにもつながります。


子ども自身が「次」を考え始める

ある日の支援中。

息子が家庭教師に聞きました。

「先生、高校って学校休んでても行けますか。」

🔵 家庭教師

「高校について考え始めた?」

「ちょっとだけ。」

🔵 家庭教師

「いろいろな選択肢があるよ。」

「今すぐ決めなくてもいいけど、一緒に調べてみる?」

息子は少し考えました。

「うん。」

その日は勉強を少し早めに終えて、高校について調べました。

どんな学校があるのか。

どんな学び方ができるのか。

何を大切にして学校を選ぶのか。

家庭教師は、

「どこへ行くべき。」

とは言いませんでした。

「どんな生活なら続けられそう?」

「何を勉強したい?」

「どんな環境なら楽そう?」

と尋ねました。

息子は、自分の未来について少しずつ言葉にし始めました。


おわりに

不登校の子どもに家庭教師をつける時、

「どのくらい成績が上がるのか。」

「何時間勉強できるのか。」

「学校の遅れをどこまで取り戻せるのか。」

ということが気になるでしょう。

もちろん、それらは家庭教師の大切な役割です。

しかし、不登校の子どもへの最初のサポートは、必ずしもそこから始まりません。

まず必要なのは、

「この人なら大丈夫。」

と思えることです。

学校へ行けないことを責められない。

勉強できないことを責められない。

分からないと言ってもいい。

今日は疲れていると言ってもいい。

自分の好きな話をしてもいい。

その安心感の中で信頼関係ができると、子どもは少しずつ自分から動き始めます。

「今日は社会をやってみようかな。」

「数学のここが分からない。」

「先生に聞いてみたい。」

そんな小さな言葉が出てきます。

家庭教師の役割は、それを急いで大きな成果に変えることではありません。

一つできたら、次はもっと。

三十分できたら、一時間。

社会ができたら、苦手な数学。

そう進めるのではなく、

その子が今踏み出した一歩を、その一歩のまま大切にすること。

そして、その積み重ねの中で、

「自分にもできる。」

「分からなくても聞けばいい。」

「必要なら誰かを頼っていい。」

という感覚を取り戻していくことです。

家庭教師は、単に勉強を教える人ではありません。

親でもない。

学校の先生でもない。

少し距離のある第三者だからこそ、

子どもの話を聞く。

学習への入り口を一緒に探す。

保護者の負担を分ける。

必要に応じて学校との間をつなぐ。

そして、子ども自身が未来について考え始めた時には、一緒に選択肢を探すことができます。

最初から二時間勉強できなくても構いません。

十五分でもいい。

最初は雑談だけでもいい。

大切なのは、その時間が終わった時に子どもが、

「またこの人と会ってもいい。」

と思えることです。

その安心できる関係がつくられた時、家庭教師による本当の学習支援が始まります。

そしてその先で、子どもは少しずつ、

「もう一度、学んでみよう。」

「自分の未来について考えてみよう。」

という力を、自分自身の中から取り戻していくのです。

理論編はこちらから

⑯ 家庭教師ができる最初のサポート(理論編)

はじめに 不登校の子どもに家庭教師をつけようと考えた時、多くの保護者が最初に期待するのは「勉強を教えてもらうこと」です。 「遅れている数学を見てもらいたい。」 「英語を基礎からやり直したい。」 「高校受験に向けて少しでも […]

学校に行けないお子さんのための家庭教師

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