⑤子どもが親に本音を話せなくなる理由(実践編)
はじめに
距離が離れてしまっているのか・・・遠慮・関心などなど・・・。
どうせ話してもねえ・・・。
そういうことか。聞いてるようで聞いてない・・・。
ま、そんなところかな。
うまく歩み寄れるといいんだが・・・。
- 0.1. 事例プロフィール
- 1. はじめに
- 2. 「どうして何も話してくれないの?」
- 2.1. 質問するほど、子どもは黙っていった
- 2.2. 「分からない」は、答えたくないという意味なのか
- 3. 「話すと、また何かしなきゃいけなくなる」
- 3.1. 何気ない一言が、学校の話に変わってしまう
- 3.2. 本音を話すと、次の行動を求められる
- 3.3. 「学校の話をしない日」をつくってみる
- 3.4. 「話してくれたこと」を、すぐ次の課題にしない
- 4. 親だからこそ、すべてを聞かなくてもいい
- 4.1. 「親に話せないことがある」と認める
- 4.2. 「話してくれなくてごめん」ではなく「聞きすぎてごめん」
- 4.3. 言葉にできない気持ちを、別の方法で伝える
- 5. 本音を聞き出すことより、安心して話せる関係をつくる
- 5.1. 「何を言っても学校へ行けって言われると思ってた」
- 5.2. 「話してくれた量」で変化を判断しない
- 5.3. 学校のことを話さない日にも、親子の関係は育つ
- 5.4. 親子の信頼は、日常の小さなやり取りから育っていく
- 5.4.1. 理論編はこちらから
事例プロフィール
- 対象者: Kくん(中学1年生)
- 地域: 福井県内
- 性格・特徴: おとなしく、周囲に気を遣いやすい。自分の気持ちを説明することが苦手
- 開始時の状況: 学校を休み始めて約2か月。自室で過ごす時間が増え、家族との会話が減っている
- 保護者の悩み: 不登校の理由を聞いても「分からない」としか答えず、最近は学校以外の話題にも反応しなくなった
- 支援テーマ: 子どもが本音を話せなくなる背景を理解し、安心して話せる親子関係を取り戻す
はじめに
「何を聞いても、『別に』『分からない』しか言わないんです」
不登校の子どもを持つ保護者から、こうした悩みを聞くことがあります。
学校で何かあったのではないか。
友達との関係に問題があったのではないか。
勉強についていけなくなったのではないか。
理由が分かれば、何か助けられるかもしれない。
そう思うからこそ、保護者は子どもに質問します。
しかし、質問すればするほど、子どもが黙ってしまうことがあります。
やがて、学校の話だけでなく、日常の何気ない会話まで減ってしまう。
保護者は「親なのに何も分かってあげられない」と悩み、子どもは「何を話しても分かってもらえない」と感じる。
そんなすれ違いが起こる場合があります。
けれど、子どもが話さないことは、必ずしも親を信頼していないことを意味しません。
自分でも理由が分からない。
話したあとに何が起きるのか怖い。
親を心配させたくない。
さまざまな気持ちが重なり、言葉にできなくなっていることもあります。
今回の実践編では、子どもの本音を知ろうとするあまり、質問を重ねてしまった保護者と、次第に口を閉ざしていった中学生の関わりを描きます。
大切なのは、子どもから無理に答えを引き出すことではありません。
「何を話しても大丈夫」と思える関係を、どう取り戻していくか。
その過程を一緒に考えていきましょう。
「どうして何も話してくれないの?」
相談に来た保護者は、疲れたような表情で椅子に座りました。
🔴 保護者
「もう、どうしたらいいのか分からないんです。」
🔵 講師
「何が一番困っていますか?」
🔴 保護者
「Kが、何も話してくれないんです。」
🔵 講師
「学校のことですか?」
🔴 保護者
「最初はそうでした。でも、最近は普通の会話もほとんどなくなってしまって。」
🔵 講師
「そうなんですね。」
🔴 保護者
「学校を休み始めたころは、何とか理由を知ろうと思っていました。」
🔵 講師
「どんなふうに聞いていましたか?」
🔴 保護者
「学校で嫌なことがあったのか、友達と何かあったのか、先生に何か言われたのか……。」
🔵 講師
「いろいろ確認していたんですね。」
🔴 保護者
「はい。でも、何を聞いても『分からない』ばかりなんです。」
保護者は小さくため息をつきました。
🔴 保護者
「親なのに、何も教えてもらえないんですよ。」
🔵 講師
「それは、心配になりますね。」
🔴 保護者
「何が原因なのか分からなければ、助けてあげられないじゃないですか。」
🔵 講師
「そう思って、何度も聞いていたんですね。」
🔴 保護者
「はい。でも、最近は聞こうとするだけで嫌な顔をされます。」
質問するほど、子どもは黙っていった
保護者は、数日前の出来事を話し始めました。
夕食のあと、Kくんがリビングでテレビを見ていたときのことです。
🔴 保護者
「K、ちょっといい?」
🟢 生徒
「何?」
🔴 保護者
「学校のことで聞きたいことがあるんだけど。」
Kくんはテレビから目を離さずに答えました。
🟢 生徒
「……何?」
🔴 保護者
「学校へ行けなくなった理由、少しは分かった?」
🟢 生徒
「分かんない。」
🔴 保護者
「友達と何かあったんじゃないの?」
🟢 生徒
「ない。」
🔴 保護者
「先生に何か言われた?」
🟢 生徒
「別に。」
🔴 保護者
「じゃあ、勉強が嫌なの?」
🟢 生徒
「分かんないって。」
🔴 保護者
「何か理由があるはずでしょう。」
Kくんは黙ってしまいました。
🔴 保護者
「怒ってるわけじゃないんだよ。ただ、何が嫌なのか教えてほしいだけなの。」
🟢 生徒
「……。」
🔴 保護者
「何も言ってくれなかったら、どうしたらいいか分からないよ。」
するとKくんは、リモコンをテーブルに置いて立ち上がりました。
🟢 生徒
「もういい。」
🔴 保護者
「待って。まだ話が終わってないでしょう。」
🟢 生徒
「だから、分かんないって言ってるじゃん!」
Kくんは強い口調でそう言うと、自分の部屋へ戻ってしまいました。
保護者はその場に残されました。
助けたいだけなのに。
責めているつもりはないのに。
どうして、こんなふうになってしまうのだろう。
その夜、保護者は何度も同じことを考えました。
「分からない」は、答えたくないという意味なのか
話を聞いた講師は、保護者に尋ねました。
🔵 講師
「Kくんは、何度も『分からない』と答えていたんですね。」
🔴 保護者
「はい。でも、本当に何も分からないなんてことがあるんでしょうか。」
🔵 講師
「あると思いますよ。」
🔴 保護者
「そうなんですか?」
🔵 講師
「学校へ行けなくなる理由が、本人にも整理できていない場合があります。」
🔴 保護者
「でも、何かきっかけはあるはずですよね。」
🔵 講師
「きっかけがある場合もあります。ただ、それが一つとは限りません。」
🔴 保護者
「一つではない……。」
🔵 講師
「例えば、授業についていくのが少し大変だった。友達との関係にも気を遣っていた。毎日疲れていた。そうしたことが重なっている場合もあります。」
🔴 保護者
「なるほど……。」
🔵 講師
「本人がまだ言葉にできないこともありますし、話したくないこともあるかもしれません。今の段階では、決めつけずに考えたいですね。」
🔴 保護者
「私は、何か隠しているんだと思っていました。」
🔵 講師
「そう感じるのも分かります。でも、Kくんが『分からない』と言っているなら、まずはその返事を受け止めてみませんか。」
🔴 保護者
「分からないままでいいんでしょうか。」
🔵 講師
「今すぐ理由を説明できなくても、必要な支援を考えることはできます。」
保護者は少し考え込みました。
これまで、理由を聞き出すことが支援の出発点だと思っていたのです。
しかし、理由が分からない状態でも、子どもの生活や心身の状態を見守り、学校と相談しながらできることはあります。
原因を一つに決めることより、今のKくんが何に困っているのかを少しずつ理解していくことが大切なのかもしれません。
「話すと、また何かしなきゃいけなくなる」
次の相談で、講師は保護者に一つの質問をしました。
🔵 講師
「Kくんが何か話してくれたとき、どんなふうに返していますか?」
🔴 保護者
「できるだけ、解決方法を考えるようにしています。」
🔵 講師
「例えば?」
🔴 保護者
「友達が嫌だと言ったら、先生に相談しようかって。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「勉強が分からないと言ったら、家で少し勉強しようかって。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「それがいけないんでしょうか。」
🔵 講師
「提案すること自体が悪いわけではありません。ただ、Kくんがそのとき何を求めていたのか、考えてみたいですね。」
🔴 保護者
「何を求めていたのか……。」
🔵 講師
「もしかすると、解決方法を聞きたいのではなく、ただ気持ちを話したかったのかもしれません。」
保護者は、以前の会話を思い出しました。
何気ない一言が、学校の話に変わってしまう
学校を休み始めて間もないころ。
Kくんが、夕食中に話しかけてきたことがありました。
🟢 生徒
「今日、友達からメッセージ来た。」
🔴 保護者
「そうなの? 何て?」
🟢 生徒
「ゲームのこと。」
🔴 保護者
「そうなんだ。学校のことは何か言ってた?」
🟢 生徒
「言ってない。」
🔴 保護者
「学校でどうしてるか、聞いてみたら?」
🟢 生徒
「別にいい。」
🔴 保護者
「友達と連絡が取れるなら、学校へ戻りやすくなるかもしれないよ。」
🟢 生徒
「……。」
そのあと、Kくんは何も話さなくなりました。
当時、保護者は特に気にしていませんでした。
友達とのつながりを大切にしてほしかっただけだからです。
しかし、今振り返ると、Kくんは単にゲームの話をしたかったのかもしれません。
🔴 保護者
「そういえば、友達から連絡が来たって話してくれたことがありました。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「でも私は、すぐ学校の話にしてしまって……。」
🔵 講師
「そのとき、Kくんはどんな反応でしたか?」
🔴 保護者
「黙ってしまいました。」
🔵 講師
「もしかすると、Kくんはゲームの話を続けたかったのかもしれませんね。」
🔴 保護者
「私は、友達との関係を学校復帰につなげようとしていました。」
🔵 講師
「保護者の方としては、助けたい気持ちがあったんですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「でも、Kくんにとっては、何を話しても学校の話になってしまうと感じた可能性があります。」
保護者は、静かにうなずきました。
本音を話すと、次の行動を求められる
講師は続けました。
🔵 講師
「Kくんが『勉強が分からない』と言ったら、どうしますか?」
🔴 保護者
「勉強を教えようとすると思います。」
🔵 講師
「『友達に会いたい』と言ったら?」
🔴 保護者
「連絡してみたらって言うと思います。」
🔵 講師
「『学校へ行くのが怖い』と言ったら?」
🔴 保護者
「先生に相談しようって……。」
そこまで話して、保護者は気づきました。
🔴 保護者
「私、何を言われても、次に何をするか考えていたんですね。」
🔵 講師
「そうですね。解決しようとする気持ちが強かったのかもしれません。」
🔴 保護者
「でも、それではKは話しにくかったんでしょうか。」
🔵 講師
「その可能性はあります。話すたびに何かを求められると、話すこと自体が負担になる場合がありますから。」
🔴 保護者
「……そうですよね。」
🔵 講師
「まずは、話してくれたことをそのまま聞く時間をつくってみませんか。」
🔴 保護者
「解決方法を言わずに?」
🔵 講師
「はい。必要なときには一緒に考えればいいんです。でも、毎回すぐに答えを出す必要はありません。」
🔴 保護者
「私にできるでしょうか。」
🔵 講師
「最初からうまくできなくても大丈夫です。まずは、学校以外の何気ない会話を大切にしてみましょう。」
「学校の話をしない日」をつくってみる
その週末、保護者は一つのことを意識してみることにしました。
Kくんが話しかけてきたら、すぐ学校の話につなげない。
質問を重ねすぎない。
何か言ってくれたら、まずその言葉を受け止める。
土曜日の午後。
Kくんがリビングにやってきました。
🟢 生徒
「何かお菓子ある?」
🔴 保護者
「クッキーならあるよ。」
🟢 生徒
「それでいい。」
保護者はクッキーをテーブルに置きました。
Kくんは袋を開けながら、テレビを見ていました。
しばらくして、画面にゲームの広告が流れました。
🟢 生徒
「これ、もうすぐ新しいの出るんだよ。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
🟢 生徒
「前のやつより、できること増えるらしい。」
🔴 保護者
「へえ。どんなこと?」
Kくんは少し驚いたように顔を上げました。
そして、ゲームの内容を説明し始めました。
🟢 生徒
「前は一人でやることが多かったけど、今度は友達ともできるんだって。」
🔴 保護者
「そうなんだ。楽しそうだね。」
🟢 生徒
「うん。」
そのあとも、Kくんはゲームの話を続けました。
保護者は途中で、
「友達と一緒にできるなら、学校の友達とも……」
と言いかけました。
しかし、そこで言葉を止めました。
今は、学校へ戻るための話ではありません。
Kくんが好きなことを話してくれている時間です。
🔴 保護者
「そのゲーム、前のと何が一番違うの?」
🟢 生徒
「えっとね……。」
Kくんは、少し楽しそうに説明を続けました。
その日の会話は、学校の話にはなりませんでした。
何か問題が解決したわけでもありません。
けれど、久しぶりに親子で自然な会話が続いたのです。
「話してくれたこと」を、すぐ次の課題にしない
翌週、保護者は講師に報告しました。
🔴 保護者
「Kと、久しぶりに普通の話ができました。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
🔴 保護者
「ゲームの話なんですけど。」
🔵 講師
「いいですね。」
🔴 保護者
「でも、学校のことは何も分かりませんでした。」
🔵 講師
「そうですね。今回は学校の話をする時間ではなかったんですね。」
🔴 保護者
「それでもいいんでしょうか。」
🔵 講師
「Kくんが安心して話せる時間があったことは、大切だと思いますよ。」
🔴 保護者
「……はい。」
🔵 講師
「Kくんは、どんな様子でしたか?」
🔴 保護者
「楽しそうでした。以前みたいに、いろいろ説明してくれました。」
🔵 講師
「それは、うれしかったでしょう。」
🔴 保護者
「はい。久しぶりでしたから。」
少し沈黙がありました。
🔴 保護者
「でも、私はまだ、Kが何を考えているのか知りたいんです。」
🔵 講師
「その気持ちは自然ですよ。」
🔴 保護者
「いつか、学校のことも話してくれるでしょうか。」
🔵 講師
「いつ話してくれるかは分かりません。ただ、話したときに安心して聞いてもらえる関係を、少しずつつくることはできます。」
🔴 保護者
「安心して聞いてもらえる関係……。」
🔵 講師
「それに、Kくんが親以外の人に話したいと思うこともあるかもしれません。」
🔴 保護者
「親以外の人に?」
🔵 講師
「はい。親だからこそ話しにくいこともありますから。」
保護者は少し寂しそうな表情を浮かべました。
🔴 保護者
「でも、親なのに……。」
🔵 講師
「親だから、すべてを聞かなければならないわけではありませんよ。」
保護者は、その言葉を静かに受け止めました。
子どものことを知りたい。
困っているなら助けたい。
その気持ちは変わりません。
しかし、子どもの本音をすべて聞き出すことが、本当に必要なのだろうか。
そして、親に話せないことがあるなら、どのように支えていけばよいのだろうか。
保護者は、これまでとは少し違う視点で、Kくんとの関係を考え始めていました。
親だからこそ、すべてを聞かなくてもいい
次の相談で、保護者は講師に尋ねました。
🔴 保護者
「前回、親だからすべてを聞かなければならないわけではないとおっしゃいましたよね。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「でも、Kが何を考えているのか分からないままで、本当に支えていけるんでしょうか。」
🔵 講師
「心配になりますよね。」
🔴 保護者
「学校へ行けない理由も分からない。何がつらいのかも分からない。それなのに、何も聞かないでいるのは、放っておくことになりませんか?」
🔵 講師
「何も聞かないことと、無理に聞き出さないことは違いますよ。」
🔴 保護者
「違うんですか?」
🔵 講師
「はい。Kくんの様子を見守り、必要なことを確認し、困っているときには支える。ただし、本人がまだ話せないことまで、無理に説明させようとしないということです。」
🔴 保護者
「なるほど……。」
🔵 講師
「例えば、体調が悪そうなら声をかけますし、食事や睡眠の様子も気にかけます。学校との連絡も必要です。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「でも、『なぜ学校へ行けないのか、全部説明して』と求め続ける必要はありません。」
保護者は、しばらく考え込みました。
🔴 保護者
「私は、理由が分からないと何もできないと思っていました。」
🔵 講師
「理由がはっきりしなくても、今の生活を支えることはできます。」
🔴 保護者
「そうですね。」
🔵 講師
「それに、Kくんが自分の気持ちを整理するには、時間が必要なのかもしれません。」
🔴 保護者
「私が答えを急がせていたのかもしれませんね。」
「親に話せないことがある」と認める
講師は続けました。
🔵 講師
「もう一つ、考えておきたいことがあります。」
🔴 保護者
「何でしょうか。」
🔵 講師
「Kくんが、保護者の方以外の人に相談したいと思う可能性です。」
🔴 保護者
「学校の先生とかですか?」
🔵 講師
「そうですね。スクールカウンセラーや、学校以外の相談員なども考えられます。」
🔴 保護者
「でも、Kは学校の先生とも話したがらないんです。」
🔵 講師
「それなら、無理に学校の先生に話させる必要はありません。本人が話しやすい相手や方法を探していけばいいと思います。」
🔴 保護者
「親以外に話した内容は、私にも教えてもらえるんでしょうか。」
🔵 講師
「相談内容には、本人のプライバシーがあります。安全に関わる問題などを除いて、本人の同意なくすべてを保護者へ伝えることは適切ではありません。」
🔴 保護者
「そうなんですね……。」
🔵 講師
「もちろん、必要な支援について、本人と相談しながら保護者の方にも協力してもらうことはあります。」
🔴 保護者
「でも、私だけ知らないことがあると思うと、少し寂しいです。」
🔵 講師
「その気持ちも自然だと思います。」
保護者は小さくうなずきました。
🔵 講師
「ただ、Kくんが誰かに安心して相談できることと、保護者の方との信頼関係は、必ずしも対立しません。」
🔴 保護者
「そうでしょうか。」
🔵 講師
「はい。親に話せないことを別の人に相談できるのも、Kくんにとって大切な力です。」
🔴 保護者
「私が全部知っていなくても、Kが助けを求められるなら、それでいいのかもしれませんね。」
🔵 講師
「そうですね。ただ、本人の安全や健康に関わることは、大人が必要な確認と対応をしていきましょう。」
保護者は、これまで自分が抱えていた思いに気づき始めました。
「親なのだから、子どものことを全部知っていなければならない」
その考えが、いつの間にか自分自身を苦しめ、Kくんにも負担をかけていたのかもしれません。
「話してくれなくてごめん」ではなく「聞きすぎてごめん」
その日の夕方。
Kくんはリビングでゲームをしていました。
保護者は、隣の椅子に座りました。
🔴 保護者
「K、ちょっとだけいい?」
Kくんは少し警戒した表情を見せました。
🟢 生徒
「何?」
🔴 保護者
「この前まで、学校のことを何度も聞いてたでしょう。」
🟢 生徒
「……うん。」
🔴 保護者
「何があったのか知りたくて、質問ばかりしてしまったね。」
Kくんは黙っていました。
🔴 保護者
「心配だったんだけど、Kが話したくないときにも聞いてしまっていたと思う。」
🟢 生徒
「……。」
🔴 保護者
「聞きすぎて、ごめんね。」
Kくんは、少し驚いたように保護者を見ました。
🟢 生徒
「……別に。」
🔴 保護者
「今すぐ何か話してほしいわけじゃないよ。」
🟢 生徒
「うん。」
🔴 保護者
「困っていることがあったら、一緒に考えたいと思ってる。でも、話せないことを無理に聞き出すのはやめようと思う。」
Kくんはゲームの画面に視線を戻しました。
🟢 生徒
「……分かった。」
それだけの返事でした。
保護者は、それ以上何も聞きませんでした。
謝ったのだから、何か本音を話してほしい。
そんな期待が、まったくなかったわけではありません。
しかし、謝ることまで子どもに返事を求める行為にしてはいけない。
そう考えたのです。
言葉にできない気持ちを、別の方法で伝える
数日後、Kくんが夕食後にスマートフォンを見ながら話しかけてきました。
🟢 生徒
「ねえ。」
🔴 保護者
「どうしたの?」
🟢 生徒
「学校の先生に、何か聞かれた?」
🔴 保護者
「最近の様子を聞かれたよ。」
🟢 生徒
「何て答えたの?」
🔴 保護者
「家ではゲームの話をしたり、普通に過ごしていることを伝えたよ。学校へ行けない理由については、まだ本人も整理できていないみたいだと話した。」
Kくんは少し黙りました。
🟢 生徒
「……そっか。」
🔴 保護者
「何か気になることがある?」
🟢 生徒
「別に。」
保護者は、そこで質問を続けるのをやめました。
しばらくして、Kくんが言いました。
🟢 生徒
「先生に、言ってほしくないこともある。」
🔴 保護者
「そうなんだね。」
🟢 生徒
「まだ、うまく説明できないから。」
🔴 保護者
「分かった。学校に伝える内容は、できるだけ先に相談するね。」
🟢 生徒
「……うん。」
🔴 保護者
「もし直接話しにくかったら、紙に書いたり、メッセージで教えてくれたりしてもいいよ。」
Kくんは少し考えました。
🟢 生徒
「メッセージでもいいの?」
🔴 保護者
「うん。話すほうが楽なら話してもいいし、どちらでもいいよ。」
🟢 生徒
「じゃあ、そうするかも。」
その日は、それ以上の話にはなりませんでした。
しかし、Kくんは初めて、自分が話しやすい方法について考え始めていました。
本音を聞き出すことより、安心して話せる関係をつくる
それから一週間ほどたった夜。
保護者のスマートフォンに、Kくんからメッセージが届きました。
同じ家の中にいるのに、メッセージを送ってきたのです。
画面には、短い文章が表示されていました。
「学校のこと、ちょっとだけ話したい」
保護者は驚きました。
すぐにKくんの部屋へ行こうとしましたが、いったん手を止めました。
そして、返信しました。
「分かったよ。話すのとメッセージ、どっちがいい?」
しばらくして、返事が届きました。
「メッセージがいい」
保護者は、
「うん。聞くよ」
と送りました。
「何を言っても学校へ行けって言われると思ってた」
少し時間がたってから、Kくんのメッセージが届きました。
「学校、嫌いなわけじゃない」
保護者は、すぐに返しました。
「そうなんだね」
続いて、もう一つ届きました。
「でも、朝になると行きたくなくなる」
「うん」
「何でか自分でも分からない」
保護者は、以前なら、
「何か理由があるでしょう」
と聞いていたかもしれません。
しかし今回は、
「分からないままでも、話してくれてありがとう」
と返しました。
少し間がありました。
そして、Kくんから長めのメッセージが届きました。
「前に学校の話したとき、すぐ先生に相談しようとか、明日どうするって言われたから、もう話したくなかった」
保護者は、胸が痛くなりました。
それでも、言い訳をせずに返信しました。
「そうだったんだね。話してくれたのに、すぐ次のことを決めようとしてしまったね」
「うん」
「ごめんね」
しばらくして、Kくんから返事が届きました。
「別に怒ってるわけじゃない」
そして、もう一つ。
「ただ、話しただけで学校行くことになるのが嫌だった」
保護者は、その文章を何度も読み返しました。
Kくんは、学校のことを何も考えていなかったわけではありません。
ただ、話したあとに登校を求められることが怖かったのです。
「分かったよ。話してくれたからって、すぐ学校へ行く約束にすることはしないよ」
そう返信すると、Kくんから短い返事が届きました。
「うん」
その夜、親子はそれ以上学校の話をしませんでした。
しかし、保護者にとっては大きな気づきがありました。
Kくんが話せなかったのは、話す気持ちがなかったからではなく、話したあとのことが不安だったからかもしれない。
そのことを、ようやく理解し始めたのです。
「話してくれた量」で変化を判断しない
次の相談で、保護者は講師に報告しました。
🔴 保護者
「Kが、メッセージで学校のことを話してくれたんです。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
🔴 保護者
「今まで何を聞いても答えてくれなかったのに、自分から連絡してきました。」
🔵 講師
「Kくんにとって、メッセージのほうが話しやすかったのかもしれませんね。」
🔴 保護者
「はい。それに、私がすぐ学校へ行く話につなげるのが嫌だったみたいです。」
🔵 講師
「そう感じていたんですね。」
🔴 保護者
「私は、何とかしてあげたいと思っていたんですけど……。」
🔵 講師
「その気持ちは、Kくんを大切に思っていたからでしょう。」
🔴 保護者
「でも、Kが求めていたこととは違っていたんですね。」
🔵 講師
「そういうこともありますね。」
保護者は少し考えてから尋ねました。
🔴 保護者
「これからは、もっと話してくれるようになるでしょうか。」
🔵 講師
「それは、分かりません。」
🔴 保護者
「そうですよね……。」
🔵 講師
「ただ、話す量が増えることだけを目標にしなくてもいいと思いますよ。」
🔴 保護者
「どういうことでしょうか。」
🔵 講師
「Kくんが話したいときに話せること。話したくないときには、無理に聞かれないこと。そして、困ったときには助けを求められること。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「その関係をつくることが大切なんです。」
🔴 保護者
「なるほど……。」
🔵 講師
「親子の会話は、学校の問題を解決するためだけにあるわけではありませんから。」
保護者は静かにうなずきました。
学校のことを話さない日にも、親子の関係は育つ
それからも、Kくんが毎日学校のことを話すようになったわけではありません。
何も話さない日もありました。
返事が短い日もありました。
学校の話題を避ける日もありました。
しかし、保護者は以前のように、
「どうして話してくれないの?」
と問い詰めることは少なくなりました。
代わりに、何気ない会話を大切にするようになりました。
ゲームの話。
テレビの話。
食べたいものの話。
最近気になっていること。
そうした会話を、学校へ戻すためのきっかけにしないようにしました。
ある日の夕食後、Kくんが言いました。
🟢 生徒
「今日のご飯、おいしかった。」
🔴 保護者
「本当? よかった。」
🟢 生徒
「また作って。」
🔴 保護者
「いいよ。」
それだけの会話でした。
けれど、保護者はうれしく感じました。
学校のことを話してくれたわけではありません。
不登校の理由が分かったわけでもありません。
それでも、Kくんが自然に声をかけてくれたことを、そのまま喜べるようになっていたのです。
親子の信頼は、日常の小さなやり取りから育っていく
不登校の子どもが親に本音を話さなくなると、保護者は不安になります。
何があったのか知りたい。
どうして学校へ行けないのか知りたい。
何を考えているのか教えてほしい。
その気持ちは自然なものです。
しかし、子どもが話せない理由は、一つではありません。
自分でも気持ちを整理できていないことがあります。
親を心配させたくないこともあります。
話したあとに、何かを求められるのが怖い場合もあります。
だからこそ、子どもが話さないことを、すぐに親への拒絶と受け取る必要はありません。
まずは、子どもが安心して過ごせる関係をつくることが大切です。
話してくれたことを、すぐ評価しない。
答えを急がせない。
学校の話だけでなく、何気ない会話も大切にする。
親が間違えたときには、伝え直す。
そして、親以外の人に相談することも認める。
そうした関わり方の積み重ねが、子どもにとって、
「困ったときには話してもいい」
と思える環境につながります。
もちろん、子どもが話さないからといって、健康や安全に関わる問題まで確認しなくてよいわけではありません。
心身の不調が強い場合や、いじめ、自傷などの心配がある場合には、学校や専門機関と連携して必要な対応を進めることが大切です。
しかし、日常のすべての会話を、問題解決のための質問にする必要はありません。
親子で笑う時間。
好きなことを話す時間。
何も話さず、同じ部屋で過ごす時間。
そうした何気ない時間も、親子の関係を支えています。
子どもの本音をすべて知ることが、親の役割ではありません。
子どもが話したいときに、安心して話せる存在でいること。
そして、話せないときにも、必要な支えを届けられる関係をつくること。
それが、親子の信頼を少しずつ取り戻すための、大切な一歩なのです。
理論編はこちらから
⑤子どもが親に本音を話せなくなる理由(理論編)
はじめに 「何かあったら、何でも話してね」 子どもが小さいころから、そう伝えてきた保護者は多いのではないでしょうか。 困ったことがあったら相談してほしい。 学校で嫌なことがあったら教えてほしい。 一人で悩まず、親を頼って […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません


