⑮ 学習を止めない家庭環境づくり(理論編)

はじめに

子どもが学校へ行けなくなると、保護者が心配することの一つが「勉強の遅れ」です。

「授業がどんどん先へ進んでしまう。」

「このままではテストについていけなくなる。」

「高校受験はどうなるのだろう。」

学校へ行けない日が続くほど、こうした不安は大きくなります。

そのため、

「学校へ行けないなら、せめて家では勉強してほしい。」

と思う保護者は少なくありません。

しかし、ここで大切なのは、学習を止めないことと、学校と同じ量の勉強を家庭で続けることは違うということです。

不登校になった直後など、心や体が強く疲れている時期には、教科書を開くこと自体が難しいことがあります。

その状態で、

「毎日二時間勉強しなさい。」

「学校と同じ時間割でやろう。」

と求めると、勉強そのものがさらに苦しいものになる場合があります。

だからこそ必要なのは、

「勉強を無理に続けさせる家庭」ではなく、「学びに戻れる家庭環境」をつくることです。

学びは、学校の授業だけにあるものではありません。

本を読む。

動画で興味のあることを調べる。

料理をする。

ゲームの攻略を考える。

ニュースについて家族と話す。

こうした活動にも、考える・調べる・覚えるといった学びの要素があります。

まずは「学びそのものを嫌いにさせないこと」を大切にしながら、少しずつ教科学習へつなげていきます。

「勉強しなさい」を減らし、学びに戻れる余白をつくる

家庭学習を考える時、多くの保護者が最初に悩むのが、

「どこまで勉強させればいいのか。」

ということです。

しかし、不登校の子どもに対しては、

「どれだけ勉強させるか」

より、

「どうすればもう一度、勉強に近づけるか」

という視点が重要になります。

心が疲れている時は、勉強量より回復が先

心が疲れていると、集中力や理解力が落ちることがあります。

教科書を読んでも頭に入らない。

問題を見ても考えられない。

以前なら簡単にできた問題でつまずく。

そんなこともあります。

本人はそれを見て、

「自分は頭が悪くなった。」

「もう勉強できない。」

と感じてしまうことがあります。

その時にさらに、

「ちゃんと勉強しなさい。」

と言われると、自己否定が強くなってしまうことがあります。

まず必要なのは、

「今は勉強できないほど疲れているのかもしれない。」

と考えることです。

「何分やったか」だけを評価しない

家庭学習を始めると、

「今日は何時間やった?」

「何ページ進んだ?」

と確認したくなります。

しかし、最初の段階では、

教科書を開けた。

一問だけ解いた。

分からないところを見つけた。

学習動画を少し見た。

こうした小さな行動も大切です。

特に学習から長く離れていた子どもにとっては、

「勉強に触れることができた」

ということ自体が一歩になる場合があります。

「学校の遅れ」を毎日伝えない

「もうクラスはここまで進んでいるよ。」

「みんなはこの単元を終えたよ。」

という情報は、必要な時には役立ちます。

しかし、毎日のように言われると、

「自分はどんどん遅れている。」

という焦りだけが強くなることがあります。

今どこまで遅れているかを確認するより、まず今できるところから始めることが大切です。

家庭学習は「小さく始める」方が続きやすい

勉強を再開する時、大きな目標を立てる必要はありません。

むしろ、最初は「これだけでいいの?」と思うくらい小さく始める方が続くことがあります。

五分からでもいい

例えば、

「数学を一時間やる。」

ではなく、

「数学の問題を一問見る。」

でも構いません。

「英単語を50個覚える。」

ではなく、

「今日は5個だけ見る。」

でもいいのです。

大切なのは、最初から成果を求め過ぎないことです。

五分できたら、

「今日は五分できた。」

で終わってもいい。

翌日またできそうなら、少し続ける。

その積み重ねで学習時間が自然に増えることがあります。

得意な教科・好きなものから始める

勉強を再開する時、

「遅れている教科からやらなければ。」

と考えがちです。

しかし、一番苦手な教科から始めると、すぐにつまずき、

「やっぱり自分にはできない。」

と感じることがあります。

最初は、

好きだった教科。

得意だった単元。

興味のある内容。

比較的取り組みやすいもの。

から始めても構いません。

まず、

「分かる。」

「できる。」

という感覚を取り戻すことが大切です。

学校の時間割を再現しなくていい

家庭で、

1時間目は国語。

2時間目は数学。

3時間目は英語。

というように学校と同じ時間割を作りたくなることがあります。

しかし、家庭には家庭の学び方があります。

午前中は難しいなら午後でもいい。

一日一教科でもいい。

調子がいい日に少し多めにやることもできます。

家庭学習の強みは、

その日の状態に合わせて柔軟に調整できることです。

教科書だけを「学習」と考えない

不登校になると、

「勉強していない。」

と保護者も子ども自身も考えやすくなります。

しかし、学びはもっと広いものです。

好きなことの中にも学びがある

例えばゲームが好きな子どもなら、

攻略方法を調べる。

数字を比較する。

文章を読む。

友達と作戦を考える。

といったことをしています。

料理なら、

分量を量る。

時間を計る。

材料の性質を知る。

手順を考える。

必要があります。

動画編集。

イラスト。

プログラミング。

鉄道。

昆虫。

歴史。

スポーツ。

どんな興味でも、そこから学びを広げることができます。

もちろん、好きなことをすべて「勉強に変えなければ」と考える必要はありません。

大切なのは、

「学校の勉強をしていない=何も学んでいない」ではない

と理解することです。

調べる習慣を大切にする

子どもが、

「これってどうなってるの?」

と興味を示したら、

「調べてみようか。」

と一緒に調べてみる。

それだけでも立派な学習です。

疑問を持つ。

調べる。

理解する。

誰かに説明する。

この流れは、学校の教科学習にもつながります。

読む・書く・考える機会を日常に残す

本を読む。

漫画を読む。

好きな記事を読む。

買い物のメモを書く。

家族へメッセージを書く。

料理の手順を調べる。

何気ない日常の中にも、読む・書く・考える活動があります。

教科書に向かえない時期にも、こうした活動を完全に止めないことが、学習への橋渡しになることがあります。

子どもが「自分で学ぶ感覚」を取り戻せる環境をつくる

不登校の家庭学習で特に大切なのが、子ども自身が、

「自分で決めて、自分でできた。」

と思えることです。

親が全部決め過ぎない

「今日は数学30分。」

「次は英語。」

「これが終わったら理科。」

と保護者が全部決めてしまうと、家庭でも学校と同じように「やらされている」感覚が強くなることがあります。

可能であれば、

「今日は何ならできそう?」

「数学と英語なら、どちらからにする?」

と本人が選べる余地を作ります。

小さな選択でも、

「自分で決めた。」

という感覚につながります。

分からない時にすぐ教え過ぎない

子どもが問題で止まった時、保護者はすぐ答えを教えたくなります。

しかし、

「どこまで分かってる?」

「何が分からない?」

と一緒に考えることも大切です。

答えを出すことより、

自分で考える。

調べる。

質問する。

という過程を経験することが、学ぶ力につながります。

「できなかった日」も責めない

今日は勉強する予定だった。

でもできなかった。

そんな日もあります。

そこで、

「昨日決めたでしょう。」

「またできなかったね。」

と言われると、学習そのものが重くなります。

「今日は難しかったんだね。」

「またできそうな時に考えよう。」

と切り替える。

できない日があっても、学びとの関係を壊さないことが大切です。

家庭学習の目的は「遅れを全部取り戻すこと」だけではない

学校を休んでいると、どうしても「遅れ」が気になります。

しかし、家庭学習の目的を「学校の進度に追いつくこと」だけにすると、親子ともに苦しくなります。

まずは「学べる自分」を取り戻す

最初の目標は、

「クラスに追いつく。」

ではなく、

「少しなら勉強できる。」

と思えることでも構いません。

一問解けた。

一ページ読めた。

以前習ったことを思い出せた。

その経験が、

「自分はもう勉強できない。」

という思いを少しずつ変えていきます。

必要な学習はあとから整理できる

心身が回復し、学習へ取り組めるようになったら、その時点で、

どこまで理解しているか。

どこから復習するか。

進路に必要な内容は何か。

を整理していけばいいのです。

すべてを最初から順番にやり直さなければならないとは限りません。

必要なところを優先して学ぶ方法もあります。

「学び続ける力」を育てる

長い人生を考えると、最も大切なのは、

「学校の授業に一度も遅れないこと」

だけではありません。

分からないことを調べられる。

必要な時に学び直せる。

自分に合った方法を見つけられる。

困ったら誰かに質問できる。

こうした力は、学校を卒業したあとも必要です。

不登校の期間に、自分に合った学び方を見つけることが、その後の人生に生きることもあります。

まとめ

不登校になると、

「学校へ行けないうえに、勉強まで止まったら大変だ。」

と保護者は不安になります。

その気持ちは自然です。

しかし、焦って勉強を強制すると、子どもが学習そのものを嫌いになってしまうことがあります。

だからこそ大切なのは、

「勉強を止めないこと」より先に、「学びとのつながりを切らないこと」

です。

五分だけ教科書を見る。

一問だけ問題を解く。

好きな本を読む。

興味のあることを調べる。

料理をする。

動画を見て何かを知る。

そうした小さな学びも大切にします。

そして、少しずつ心身のエネルギーが戻ってきたら、教科学習へつなげていく。

最初から学校と同じ時間割に戻す必要はありません。

学校の進度と比較し続ける必要もありません。

今できることから始めればいいのです。

家庭での学習環境づくりで最も大切なのは、

「勉強しなさい。」

と言い続けることではありません。

「やってみようかな」と思った時に、すぐ学び始められる環境を用意しておくことです。

教材がある。

質問できる人がいる。

少しやっても認めてもらえる。

できない日があっても責められない。

そんな環境があれば、子どもは少しずつ、

「もう一度やってみよう。」

と思えるようになります。

学校へ行けない時期があったとしても、学びまで失う必要はありません。

むしろこの時期に、

「自分はどんな方法なら学びやすいのか」

を知ることができれば、それはこれから先の大きな力になります。

学校へ戻るためだけの勉強ではなく、自分の未来を自分でつくっていくための学びへ。

その土台を家庭の中で少しずつつくっていくことが、「学習を止めない家庭環境づくり」なのです。

実際の例はこちらから

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