⑪ 親がやってしまいがちなNG対応(実践編)
はじめに
子どもを何とか助けたいという気持ちが強いからこそ、結果として子どもを追い詰めてしまうことがあります。
分かってはいるんだけどね・・・。
プレッシャーになってる?
まあね・・・。
こういった場合には親御さんのほうにも協力を・・・。
- 1. はじめに
- 2. 学校へ行かないなら勉強くらいしなさい
- 2.1. 「言わなければ、このままになる」という怖さ
- 2.2. 正しいことを言えば動けるとは限らない
- 3. 「ゲームできるなら学校へ行ける」は本当なのか
- 3.1. 「ゲームは禁止」にすれば学校へ戻るのか
- 3.2. 「みんな頑張っている」が刺さってしまう理由
- 3.3. 子どもも「このままでいい」と思っているとは限らない
- 3.4. 「いつ学校へ戻るの?」を毎日聞いていた
- 3.5. 親の不安が、子どもへの質問になる
- 3.6. 家が「学校へ行かせる場所」になっていた
- 3.7. 「じゃあ、何も言わない親になればいいんですか?」
- 3.8. 一日だけ「学校へ行かせるための言葉」をやめてみる
- 4. 「何も言わない」ことと「見放す」ことは違う
- 4.1. 「家にいるのに、ずっと学校にいるみたいだった」
- 4.2. 子ども自身も「このままでいい」と思っていなかった
- 4.3. NG対応の裏側には、親の不安がある
- 4.4. 「言ってはいけない」ではなく「言う前に考える」
- 5. 生活のルールは「罰」ではなく一緒に考える
- 5.1. 「今日は何をできた?」を見るようになった
- 5.2. 一週間後、息子から出てきた小さな言葉
- 5.3. 親が変わると、子どもがすぐ変わるわけではない
- 5.4. NG対応をしてしまった日も、やり直せる
- 6. おわりに
- 6.1.1. 理論編はこちらから
はじめに
「学校へ行かないなら、せめて勉強くらいしなさい。」
「ゲームができるなら、学校にも行けるでしょう。」
「いつまでこうしているつもりなの?」
不登校の子どもに対して、こんな言葉を言ってしまった経験がある保護者は少なくありません。
言ったあとで、
「また言ってしまった……。」
と後悔することもあります。
けれど、その瞬間には止められない。
なぜなら、その言葉の奥には、
「このままで大丈夫なのだろうか。」
「将来、この子が困るのではないか。」
「親として何かしなければならないのではないか。」
という強い不安があるからです。
不登校へのNG対応の多くは、子どもを苦しめようとして行われるものではありません。
むしろ逆です。
子どもを何とか助けたいという気持ちが強いからこそ、結果として子どもを追い詰めてしまうことがあります。
今回は、中学二年生の息子が学校へ行けなくなって一か月ほどたった家庭を例に、保護者がやってしまいがちな対応と、それをどう変えていけばよいのかを考えていきます。
学校へ行かないなら勉強くらいしなさい
🔴 保護者
「先生、最近、息子を見るとイライラしてしまうんです。」
🔵 講師
「どんな時にイライラしますか。」
🔴 保護者
「一番は、昼間にゲームをしている時です。」
「学校へ行けなくなって、もう一か月くらいになります。」
「最初の頃は、本当にしんどそうだったんです。」
「朝も起きられないし、食欲もないし、ずっと部屋にいました。」
「だから私も、
『今は休ませよう。』
と思っていました。」
🔵 講師
「最近は少し変わってきたんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「朝はまだ遅いんですけど、十時くらいには起きてきます。」
「ご飯も食べるようになりました。」
「ゲームもするし、YouTubeも見ています。」
「弟とは普通に笑って話しているんです。」
🔵 講師
「それを見て、どう感じますか。」
🔴 保護者
「最初は『少し元気になってよかった』と思いました。」
「でも、それが毎日続くと……。」
お母さんは少し言葉を止めました。
🔴 保護者
「だったら学校へ行けるんじゃないの、って思ってしまうんです。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「昨日も、昼からずっとゲームをしていました。」
「私が仕事から帰ってきたら、楽しそうに友達とオンラインで話していたんです。」
「その瞬間、なんだか腹が立ってしまって。」
🔵 講師
「何と言ったんですか。」
🔴 保護者
「『そんなに元気なら学校行けるんじゃないの?』って。」
「息子は黙りました。」
「それでも私、止まらなくなってしまって……。」
🔵 講師
「そのあとも話したんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「『学校へ行かない。勉強もしない。それでゲームだけするっておかしくない?』」
「『みんな学校で勉強してるんだよ。』」
「『学校へ行かないなら、せめて家で勉強くらいしなさい。』」
「そう言いました。」
🔵 講師
「お子さんは?」
🔴 保護者
「ゲームをやめて、部屋へ行きました。」
「言わなければ、このままになる」という怖さ
🔴 保護者
「先生、私だって言いたくないんです。」
「できれば穏やかにしたいです。」
「でも、何も言わなかったら、この生活を本人が『これでいいんだ』と思ってしまいませんか。」
🔵 講師
「そこが一番不安なんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「朝はゆっくり起きる。」
「学校には行かない。」
「昼からゲーム。」
「夜はYouTube。」
「私が何も言わなかったら、このまま何か月も、何年も続くような気がするんです。」
🔵 講師
「だから、何とか動かそうとしている。」
🔴 保護者
「そうです。」
「私が言わなかったら誰が言うんですか。」
「親ですよね。」
「嫌われても、言うべきことは言わないといけないと思っています。」
🔵 講師
「その考え自体が間違っているわけではありません。」
「親として伝えなければならないこともあります。」
お母さんは少し安心したような表情をしました。
しかし、講師は続けました。
🔵 講師
「ただ、一つ考えてみたいことがあります。」
🔴 保護者
「何でしょう。」
🔵 講師
「昨日、お母さんが言ったことを聞いたあと、お子さんはどう変わりましたか。」
🔴 保護者
「……部屋へ行きました。」
🔵 講師
「そのあと勉強しましたか。」
🔴 保護者
「していないと思います。」
🔵 講師
「学校へ行こうという気持ちが強くなったように見えましたか。」
🔴 保護者
「それも……ないと思います。」
🔵 講師
「では、お母さんの言っていることが正しいかどうかとは別に、今のお子さんを動かす方法として効果があったでしょうか。」
お母さんは黙りました。
🔴 保護者
「……なかったですね。」
正しいことを言えば動けるとは限らない
🔵 講師
「ここが、不登校への対応で難しいところなんです。」
「お母さんが言った、
『学校へ行かないなら勉強した方がいい。』
という考え自体は理解できます。」
「勉強が遅れれば困ることもあるでしょう。」
「生活リズムも整えた方がいい。」
「昼間ずっとゲームだけという状態が長く続くなら、家庭として考える必要もあります。」
「でも、
正しいことを言うことと、今その言葉が子どもを動かすことは別なんです。」
🔴 保護者
「正しいことでも、今は届かない?」
🔵 講師
「そうです。」
「例えば、足をけがして歩けない人に、
『歩かないと筋力が落ちますよ。』
と言ったとします。」
「それは間違いではありません。」
「でも、まだ痛みが強い時には、まず治すことが必要ですよね。」
🔴 保護者
「心も同じということですか。」
🔵 講師
「まったく同じとは言えませんが、考え方として似ているところはあります。」
「まず、
『今どのくらい動ける状態なのか』
を見る必要があります。」
「ゲームできるなら学校へ行ける」は本当なのか
🔴 保護者
「でも先生、どうしても分からないんです。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「ゲームは三時間でもできます。」
「友達とも笑って話しています。」
「なのに学校は無理。」
「これって、本人が楽な方を選んでいるだけではないんでしょうか。」
🔵 講師
「そう見えてしまいますよね。」
🔴 保護者
「そうなんです。」
「ゲームする元気があるなら、その元気を学校に使ってほしいんです。」
🔵 講師
「では、ゲームと学校で必要になるものを少し分けて考えてみましょう。」
🔴 保護者
「必要になるもの?」
🔵 講師
「自宅でゲームをする場合、自分の安全な場所にいられます。」
「服装も自由です。」
「嫌になったらやめられます。」
「誰かに当てられることもありません。」
「教室で何十人もの視線を気にする必要もありません。」
「休みたくなったら休めます。」
🔴 保護者
「学校は違いますね。」
🔵 講師
「朝決まった時間に起きる。」
「身支度をする。」
「家を出る。」
「学校へ着く。」
「教室に入る。」
「授業を受ける。」
「先生の指示を聞く。」
「友達と関わる。」
「休み時間を過ごす。」
「また授業を受ける。」
「それを何時間も続ける。」
「必要になるエネルギーはかなり違います。」
🔴 保護者
「だから、ゲームができることと学校へ行けることは別なんですね。」
🔵 講師
「少なくとも、『ゲームができる=学校へ行ける』と単純には判断できません。」
「ゲームは禁止」にすれば学校へ戻るのか
🔴 保護者
「実は主人から、
『学校を休んでゲームなんておかしい。ゲームを取り上げろ。』
と言われています。」
🔵 講師
「お母さんはどう思っていますか。」
🔴 保護者
「私も半分はそう思います。」
「学校へ行かなくても好きなことができるなら、学校へ行く理由がなくなるんじゃないかって。」
🔵 講師
「では、もし今日ゲームを全部取り上げたら、お子さんは明日学校へ行けそうでしょうか。」
🔴 保護者
「……たぶん行かないと思います。」
🔵 講師
「その場合、何が残るでしょう。」
🔴 保護者
「学校にも行かない。」
「ゲームもできない。」
「部屋にいるだけ……。」
🔵 講師
「そうなる可能性もあります。」
「もちろん、ゲーム時間について家庭のルールを考えることは必要です。」
「昼夜逆転するほど遊んでいるなら調整することもあります。」
「でも、
『学校へ行かなかった罰としてゲームを取り上げる』
という形にしてしまうと、別の問題が生まれることがあります。」
🔴 保護者
「どんな問題ですか。」
🔵 講師
「子どもが、
『学校へ行けない自分は罰を受ける存在なんだ。』
と感じることです。」
「みんな頑張っている」が刺さってしまう理由
🔴 保護者
「私、もう一つよく言っています。」
🔵 講師
「どんな言葉でしょう。」
🔴 保護者
「『みんな嫌なことがあっても学校へ行っているんだよ。』です。」
🔵 講師
「それを聞いた時、お子さんは何と言いますか。」
🔴 保護者
「何も言いません。」
「でも、嫌そうな顔をします。」
🔵 講師
「お母さんは、どんな意味で言っていますか。」
🔴 保護者
「息子だけが大変なわけじゃないって伝えたいんです。」
「学校が楽しい子ばかりじゃないでしょう。」
「嫌な授業もある。」
「嫌な先生もいる。」
「友達関係で悩む子だっています。」
「それでも、みんな頑張っている。」
「だから息子にも、
『少しだけ頑張ってみよう』
と思ってほしいんです。」
🔵 講師
「お母さんが伝えたいのは、
『あなたにもできるよ』
という励ましなんですよね。」
🔴 保護者
「そうです。」
🔵 講師
「でも、お子さんには、
『みんなはできているのに、お前だけできていない』
と聞こえている可能性があります。」
🔴 保護者
「……そんなつもりはありません。」
🔵 講師
「もちろん、そうだと思います。」
「でも、すでに本人が、
『みんなは学校へ行けている。』
『自分だけ行けない。』
と感じている場合があります。」
「そこへ『みんな頑張っている』と言われると、その比較がさらに強くなることがあります。」
お母さんは少し考え込みました。
🔴 保護者
「この前、息子が言ったんです。」
🔵 講師
「何と?」
🔴 保護者
「『俺だって行けるなら行ってるよ。』って。」
🔵 講師
「その言葉は大切かもしれませんね。」
子どもも「このままでいい」と思っているとは限らない
🔴 保護者
「でも、本人が焦っているようには見えないんです。」
「ゲームをして笑っていますから。」
🔵 講師
「では、学校の話をするとどうですか。」
🔴 保護者
「急に黙ります。」
🔵 講師
「同級生の話は?」
🔴 保護者
「嫌がります。」
「特にテストや部活動の話をすると、部屋へ行くことがあります。」
🔵 講師
「それなら、学校のことを何も考えていないとは限りませんよね。」
🔴 保護者
「……そうですね。」
🔵 講師
「不登校の子どもがゲームをして笑っていると、大人からは、
『何も考えていない。』
『この生活を楽しんでいる。』
ように見えることがあります。」
「でも、その子の頭の中では、
『みんな今頃授業を受けている。』
『勉強が遅れている。』
『次に学校へ行ったら何と言われるだろう。』
『このまま戻れなかったらどうしよう。』
と考えていることもあります。」
🔴 保護者
「それを考えないためにゲームをしていることもあるんでしょうか。」
🔵 講師
「そういう場合もあります。」
「もちろん、すべてのゲーム利用をそう解釈する必要はありません。」
「ただ、見えている行動だけで、
『何も考えていない。』
と決めないことは大切です。」
「いつ学校へ戻るの?」を毎日聞いていた
お母さんは、しばらく黙っていました。
そして、少し申し訳なさそうに話し始めました。
🔴 保護者
「先生、私……。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「毎日のように聞いていました。」
🔵 講師
「何をですか。」
🔴 保護者
「『明日は行けそう?』」
「『来週から行く?』」
「『テストまでには戻れる?』」
「『いつくらいなら行けそう?』」
🔵 講師
「お子さんは何と答えていますか。」
🔴 保護者
「最初は、
『分からない。』
でした。」
「最近は、
『その話やめて。』
です。」
🔵 講師
「お母さんは、どうして毎日確認していたんでしょう。」
🔴 保護者
「先が見えないのが怖いからです。」
「例えば、
『来週から行く』
と言ってくれれば、私も安心できます。」
「『今月は休む』
でもいいんです。」
「何か予定が欲しいんです。」
🔵 講師
「つまり、お子さんの答えが必要というより、お母さん自身が安心したかった部分もありますか。」
お母さんは、少し驚いたような顔をしました。
そして、しばらくして答えました。
🔴 保護者
「……あると思います。」
親の不安が、子どもへの質問になる
🔵 講師
「これは、保護者の方を責める話ではありません。」
「先が分からない状態は、とても不安です。」
「だから人は、予定を決めたくなります。」
「いつ学校へ戻るのか。」
「いつ勉強を始めるのか。」
「いつ生活を戻すのか。」
「答えが決まれば安心できるように感じます。」
🔴 保護者
「まさにそうです。」
🔵 講師
「でも、本人にもまだ分からない時があります。」
「そこで毎日答えを求められると、
『今日も何か答えなければいけない。』
というプレッシャーになります。」
🔴 保護者
「では、聞かない方がいいんでしょうか。」
🔵 講師
「毎日確認する必要はないと思います。」
「学校について話す必要がある時には話す。」
「でも、朝起きるたび、食事をするたび、
『いつ行く?』
と確認しない。」
「学校とは関係のない会話も残しておくことが大切です。」
🔴 保護者
「そういえば最近、息子との会話が全部学校の話になっています。」
🔵 講師
「以前はどんな話をしていましたか。」
🔴 保護者
「ゲームの話とか。」
「テレビとか。」
「晩ご飯とか。」
「弟の話とか。」
「本当に普通の話です。」
🔵 講師
「その普通の会話がなくなっていませんか。」
🔴 保護者
「……なくなっています。」
家が「学校へ行かせる場所」になっていた
🔴 保護者
「朝は『今日は行ける?』。」
「昼は『勉強した?』。」
「夕方は『ゲーム何時間したの?』。」
「夜は『明日はどうする?』。」
お母さんは、自分で口にしながら黙ってしまいました。
🔴 保護者
「これ……息子からしたら嫌ですよね。」
🔵 講師
「お子さんの立場で想像すると、どうでしょう。」
🔴 保護者
「家にいてもずっと学校のことを言われる。」
「何をしてもチェックされる。」
「ゲームをしていたら怒られる。」
「寝ていたら『いつまで寝てるの』と言われる。」
「ご飯を食べていたら『元気なら学校行けるでしょう』と言われる……。」
しばらく沈黙がありました。
🔴 保護者
「休めないですね。」
🔵 講師
「そうかもしれません。」
🔴 保護者
「私は休ませているつもりでした。」
「でも、家の中でずっと追いかけていたのかもしれません。」
🔵 講師
「学校へ行ってほしいという気持ちがあること自体は、悪いことではありません。」
「問題は、その気持ちがお子さんとのすべての会話を支配してしまうことなんです。」
「じゃあ、何も言わない親になればいいんですか?」
🔴 保護者
「でも先生。」
「ここまで聞くと、逆に怖くなります。」
🔵 講師
「何が怖いですか。」
🔴 保護者
「学校のことを言わない。」
「勉強のことも言わない。」
「ゲームも注意しない。」
「朝起きなくても言わない。」
「それでは、ただ放っておくことになりませんか。」
🔵 講師
「そこは大切なところですね。」
🔴 保護者
「私は息子を追い詰めたいわけではありません。」
「でも、親として何もしないのも違うと思います。」
🔵 講師
「その通りです。」
「不登校への対応は、
『厳しくするか、何も言わないか』
の二択ではありません。」
🔴 保護者
「では、その間はどうすればいいんでしょう。」
🔵 講師
「まず考えてほしいのは、
『この言葉は、今この子のために言おうとしているのか。』
それとも、
『自分の不安を減らすために言おうとしているのか。』
ということです。」
🔴 保護者
「自分の不安……。」
🔵 講師
「例えば、
『明日は学校へ行ける?』
と聞きたくなった時。」
「本当に今日確認する必要があるでしょうか。」
「それとも、
『このまま学校へ戻れなかったらどうしよう』
というお母さんの不安から聞きたくなっているのでしょうか。」
🔴 保護者
「……たぶん、後者の方が多いです。」
🔵 講師
「そこに気づくだけでも、声かけは変わります。」
一日だけ「学校へ行かせるための言葉」をやめてみる
🔵 講師
「明日、一つ試してみませんか。」
🔴 保護者
「何をですか。」
🔵 講師
「一日だけ、
『学校へ行かせるための声かけ』をやめてみるんです。」
🔴 保護者
「学校の話を一切しないんですか。」
🔵 講師
「必要な連絡があれば話して構いません。」
「でも、
『いつ行く?』
『勉強しないの?』
『ゲームばかりでいいの?』
『みんなは学校に行っているよ。』
というような、本人を動かすための言葉を一日だけ止めてみる。」
🔴 保護者
「代わりに何を話せばいいでしょう。」
🔵 講師
「以前していた普通の会話でいいんです。」
「『お昼何食べる?』」
「『そのゲーム面白い?』」
「『今日暑いね。』」
「そんな会話です。」
🔴 保護者
「それで何か変わるんでしょうか。」
🔵 講師
「すぐに学校へ行くようになる、という話ではありません。」
「まず確認したいのは、お母さんの声かけが減った時に、お子さんの様子がどう変わるかです。」
🔴 保護者
「分かりました。」
「一日だけなら、やってみます。」
そして翌日。
お母さんは朝、息子が十時過ぎに起きてきても、
「もう十時だよ。」
とは言いませんでした。
昼食のあとゲームを始めても、
「勉強は?」
とは聞きませんでした。
夕方になっても、
「明日は学校へ行くの?」
とは聞きませんでした。
何度も言葉が喉まで出てきました。
それでも、一度飲み込みました。
そして夜。
お母さんが夕食の片づけをしていると、息子が珍しくキッチンへやってきました。
「母さん。」
🔴 保護者
「ん?」
息子は少し言いにくそうに立っていました。
「今日さ……。」
🔴 保護者
「うん。」
「なんで学校のこと、何も言わなかったの?」
お母さんは、一瞬どう答えればいいのか迷いました。
そして、ゆっくり息子の方を向きました。
「何も言わない」ことと「見放す」ことは違う
🔴 保護者
「今日はね、学校のことを言うのを少しやめてみようと思ったの。」
息子は、不思議そうな顔をしました。
「なんで?」
🔴 保護者
「最近、お母さん、学校のことばっかり言ってたでしょう。」
「朝起きたら『今日は行ける?』。」
「ゲームしてたら『勉強は?』。」
「夜になったら『明日はどうする?』。」
「それで、ちょっと言い過ぎてたかなって思って。」
息子は黙っています。
お母さんは続けました。
🔴 保護者
「別に、学校のことをどうでもいいと思ったわけじゃないよ。」
「勉強だって心配してる。」
「ゲームのことも、生活のことも心配してる。」
「でも、お母さんが毎日言ったからって、あなたが学校へ行けるようになるわけじゃないのかなって。」
息子はしばらく黙っていました。
そして、小さな声で言いました。
「……うん。」
🔴 保護者
「やっぱり嫌だった?」
「嫌っていうか……。」
息子は少し考えました。
「ずっと見られてる感じがしてた。」
🔴 保護者
「見られてる感じ?」
「うん。」
「朝起きても、遅いって思われてるんだろうなとか。」
「ゲームしてても、また怒られるんだろうなとか。」
「ご飯食べてても、元気なら学校行けって思ってるんだろうなとか。」
お母さんは何も言えませんでした。
自分では口に出していない時でも、息子はそう感じていたのです。
「家にいるのに、ずっと学校にいるみたいだった」
「だから家にいても、なんか落ち着かなかった。」
🔴 保護者
「そうだったんだ……。」
「学校休んでるのにさ。」
「ずっと学校のこと考えてた。」
「母さんに何か言われるたびに、
『また学校行けてないって言われてる』
みたいな感じになって。」
お母さんは胸が苦しくなりました。
🔴 保護者
「ごめんね。」
「お母さん、休ませているつもりだった。」
「でも、全然休ませてなかったのかもしれないね。」
息子は何も答えませんでした。
🔴 保護者
「ただね。」
「お母さんも、ずっと怖かったんだ。」
息子が顔を上げました。
「何が?」
🔴 保護者
「このまま学校へ戻れなかったらどうしようって。」
「勉強が遅れたらどうしよう。」
「高校はどうなるんだろう。」
「大人になった時に困らないかな。」
「そんなことばっかり考えてた。」
「だから、あなたを何とか動かさなきゃって思ってた。」
息子は黙って聞いていました。
そして、ぽつりと言いました。
「俺も怖いよ。」
お母さんは息子を見ました。
🔴 保護者
「何が怖い?」
「分かんない。」
少し間がありました。
「このままずっと学校行けなかったらどうしようって。」
その言葉を聞いて、お母さんは初めて気づきました。
自分だけが将来を心配していると思っていた。
息子は何も考えずゲームをしているように見えていた。
しかし、そうではありませんでした。
子ども自身も「このままでいい」と思っていなかった
「学校のこと考えると嫌になるから、ゲームしてる。」
息子は続けました。
「ゲームしてる間は考えなくていいから。」
🔴 保護者
「そうだったんだね。」
「でもゲーム終わると考える。」
「みんな授業進んでるんだろうなとか。」
「部活どうなってるんだろうとか。」
「テストどうしようとか。」
「でも考えても、学校行こうとすると怖くなる。」
🔴 保護者
「怖くなるんだ。」
「うん。」
「だから考えたくない。」
お母さんは、そこでようやく理解しました。
ゲームをしている息子を見て、
「楽な生活を楽しんでいる。」
と思っていました。
しかし、息子にとってゲームは、学校のことを考えないための時間でもあったのです。
もちろん、だから何時間でもゲームをしていいということではありません。
生活が大きく崩れていくのであれば、家庭でルールを考える必要もあります。
ただ、
「ゲームをしている=学校へ行く気がない」
と単純に決めつけることはできません。
🔴 保護者
「お母さん、あなたが何も考えてないと思ってた。」
「ゲームして笑ってるから。」
息子は少し苦笑しました。
「そんなわけないじゃん。」
その一言が、お母さんの胸に残りました。
NG対応の裏側には、親の不安がある
数日後、お母さんは講師にその出来事を話しました。
🔴 保護者
「先生、息子も怖かったみたいです。」
🔵 講師
「話してくれたんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「私はずっと、
『この子は何も考えていない。』
と思っていました。」
「だから私が言わなきゃって。」
🔵 講師
「でも、実際には違った。」
🔴 保護者
「はい。」
「むしろ私が言うたびに、息子が一番考えたくないことを思い出させていたのかもしれません。」
🔵 講師
「ここで大切なのは、お母さんが悪かったと自分を責めることではありません。」
🔴 保護者
「でも、かなり言ってしまいました。」
🔵 講師
「なぜ言ったんでしょう。」
🔴 保護者
「心配だったからです。」
🔵 講師
「そうですよね。」
「不登校へのNG対応の多くは、
『子どもを困らせたい』
から起こるわけではありません。」
「むしろ、
『この子を何とかしなければ。』
『将来困らないようにしなければ。』
という強い心配から生まれます。」
🔴 保護者
「だから難しいんですね。」
🔵 講師
「そうなんです。」
「愛情から出た言葉でも、子どもの状態によってはプレッシャーになることがあります。」
「言ってはいけない」ではなく「言う前に考える」
🔴 保護者
「では先生、これからは何も言わない方がいいんでしょうか。」
🔵 講師
「そうではありません。」
「家庭には家庭のルールがあります。」
「ゲームの時間について話し合うこともあるでしょう。」
「生活リズムについて考える必要もあります。」
「勉強について話す時期も来るでしょう。」
「大切なのは、
『言うか、言わないか』だけで考えないことです。」
🔴 保護者
「では、どう考えればいいですか。」
🔵 講師
「言う前に三つ確認してみるといいと思います。」
🔴 保護者
「三つ?」
🔵 講師
「一つ目は、
『今、この話をする必要があるか。』」
「二つ目は、
『今、この子に受け止める余裕があるか。』」
「三つ目は、
『これは子どものための言葉か、それとも自分の不安を減らすための言葉か。』」
お母さんは、その三つをゆっくり繰り返しました。
🔴 保護者
「今、必要なのか。」
「今、受け止められるのか。」
「誰の不安のためなのか。」
🔵 講師
「はい。」
「それだけでも、かなり変わります。」
生活のルールは「罰」ではなく一緒に考える
それから、お母さんはゲームについても息子と話すことにしました。
以前なら、
「学校へ行かないならゲームは二時間まで。」
と一方的に決めていたかもしれません。
しかし、今回は違いました。
🔴 保護者
「ゲームのことで、ちょっと相談していい?」
息子は警戒したような表情をしました。
「何?」
🔴 保護者
「取り上げる話じゃないよ。」
息子の表情が少し緩みました。
🔴 保護者
「ゲームすること自体はいいと思ってる。」
「友達と話せる時間にもなってるでしょう。」
「ただ、夜遅くまでやって朝起きられなくなるのは、お母さんとしては心配。」
「だから、そこだけ一緒に考えたい。」
息子は少し考えました。
「何時まで?」
🔴 保護者
「お母さんが全部決めるより、どうしたらいいと思う?」
「……十二時は遅い?」
🔴 保護者
「今は朝も整えていきたいから、できればもう少し早い方が安心かな。」
二人で話し合い、夜のゲームについて一つのルールを決めました。
学校へ行かなかった罰ではありません。
生活を少し整えるためのルールです。
その違いは、小さく見えて大きなものでした。
「今日は何をできた?」を見るようになった
お母さんは、息子を見る視点も少し変えてみました。
以前は、
「学校へ行ったか。」
「勉強したか。」
ばかりを見ていました。
しかし、それだけで一日を評価するのをやめました。
朝、昨日より少し早く起きた。
家族と一緒に昼食を食べた。
弟と話した。
自分から風呂に入った。
久しぶりに外へ出た。
夕食の時に少し笑った。
そうした小さな変化を見るようにしました。
もちろん、それだけで学校へ戻れるわけではありません。
しかし、
「今日も学校へ行けなかった。」
だけで一日を終わらせなくなりました。
一週間後、息子から出てきた小さな言葉
一週間ほどたったある日の夕方。
息子が突然言いました。
「教科書って、学校に置いたままだよね。」
🔴 保護者
「たぶんそうだね。」
以前のお母さんなら、
「勉強するの?」
と聞いていたでしょう。
あるいは、
「じゃあ学校へ取りに行こう。」
とすぐ動こうとしていたかもしれません。
しかし、今回は待ちました。
「数学だけ、ちょっと見ようかなと思って。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
「学校には行きたくないけど。」
🔴 保護者
「うん。」
「教科書だけ欲しい。」
🔴 保護者
「じゃあ、どうしたら負担が少ないか考えようか。」
息子はうなずきました。
「母さんが取ってきてもらうのってできる?」
🔴 保護者
「学校に聞いてみるね。」
それだけの会話でした。
学校へ戻るという話ではありません。
勉強を本格的に再開するという話でもありません。
ただ、
「数学の教科書を見てみようかな。」
という小さな気持ちが出てきた。
お母さんは、それを急いで大きな一歩に変えようとはしませんでした。
親が変わると、子どもがすぐ変わるわけではない
🔴 保護者
「先生、前より会話は増えました。」
🔵 講師
「それはよかったですね。」
🔴 保護者
「でも、まだ学校には行っていません。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「正直、焦る気持ちはあります。」
「本当にこの対応でいいのかなって。」
🔵 講師
「その不安が完全になくなることは、なかなかないと思います。」
「そして、親の声かけを変えたからといって、子どもが翌日から学校へ行くわけでもありません。」
🔴 保護者
「そうですよね。」
🔵 講師
「だから、
『私がこんなに気をつけているのに、なぜ学校へ行かないの?』
とならないことも大切です。」
🔴 保護者
「それも、またプレッシャーになりますね。」
🔵 講師
「はい。」
「親が関わり方を変える目的は、子どもを思い通りに動かすことではありません。」
「まず、子どもが安心して自分の状態を立て直せる環境をつくることです。」
NG対応をしてしまった日も、やり直せる
🔴 保護者
「でも先生、今でも時々言ってしまいます。」
「昨日もゲームが長くて、
『いつまでやってるの!』
って怒ってしまいました。」
🔵 講師
「それでいいんですよ。」
🔴 保護者
「いいんですか?」
🔵 講師
「毎日完璧な対応ができる親はいません。」
「大切なのは、
『もう言ってしまったから全部だめだ。』
と思わないことです。」
🔴 保護者
「では、どうすれば?」
🔵 講師
「あとから、
『さっきは言い方がきつかったね。』
『ゲームの時間が心配なのは本当だけど、怒鳴る必要はなかった。』
と伝えればいいんです。」
🔴 保護者
「親が謝ってもいい。」
🔵 講師
「もちろんです。」
「むしろ、間違えた時に修正する姿を子どもに見せることにも意味があります。」
おわりに
不登校の子どもを前にすると、保護者は焦ります。
「学校へ行きなさい。」
「勉強しなさい。」
「ゲームばかりしていてはいけない。」
「みんな頑張っている。」
「いつまで休むの?」
こうした言葉の多くは、子どもを傷つけようとして出てくるものではありません。
その奥にあるのは、
「この子の将来を守りたい。」
という親の思いです。
しかし、その思いが強くなり過ぎると、知らないうちに、
「早く元に戻ってほしい。」
という親の願いを、子どもに背負わせてしまうことがあります。
だからこそ、言葉を発する前に一度考えてみてください。
今、この話をする必要があるだろうか。
今、この子には受け止める余裕があるだろうか。
そして、この言葉は子どものためなのか。それとも、自分の不安を少しでも軽くしたくて言おうとしているのか。
もちろん、毎回冷静に考えられるわけではありません。
言い過ぎる日もあります。
怒ってしまう日もあります。
あとになって、
「言わなければよかった。」
と思うこともあるでしょう。
それでも大丈夫です。
「さっきは言い過ぎたね。」
「お母さんも心配で焦っていた。」
「もう一度、一緒に考えよう。」
そう伝え直すことができます。
不登校への対応で大切なのは、一度もNG対応をしない完璧な親になることではありません。
子どもの様子を見ながら、
「今の関わり方は、この子を安心させているだろうか。」
と振り返り、必要なら少しずつ修正していくことです。
そして家庭が、
「学校へ行けているかどうかで評価される場所」
ではなく、
「うまくいかない時でも、自分を立て直すことができる場所」
になっていくこと。
その安心できる土台があってこそ、子どもは自分のペースで、次の一歩を考えられるようになっていくのです。
理論編はこちらから
⑪ 親がやってしまいがちなNG対応(理論編)
はじめに 子どもが学校へ行けなくなると、保護者は強い不安を感じます。 「このままで大丈夫なのだろうか。」 「早く何とかしなければ。」 「今ここで休ませたら、もっと行けなくなるのではないか。」 そう思うのは自然なことです。 […]
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