⑥ 学校へ行けない子ほど真面目な理由(実践編)
はじめに
現場で多くの子どもたちと関わってきて感じるのは、不登校になる子どもの中には、人一倍真面目で責任感が強い子どもが少なくないということです。
今まで真面目にやってきたようなので・・・。
そういう人が急に・・・。
そうなんです。
そういうパターンって実は多いんです・・・。
はじめに
「先生、この子は昔から本当に真面目な子だったんです。」
面談で保護者からそう聞くことは、決して珍しくありません。
宿題は忘れない。
時間もきちんと守る。
先生の話も真剣に聞く。
家では弟や妹の面倒もよく見てくれる。
そんな子どもが学校へ行けなくなると、保護者は戸惑います。
「真面目だったあの子が、どうして……。」
一方で、周囲からは
「甘えているだけじゃない?」
「休み癖がついたんじゃない?」
という言葉をかけられ、保護者自身も「私の育て方が悪かったのでは」と悩んでしまうことがあります。
しかし、現場で多くの子どもたちと関わってきて感じるのは、不登校になる子どもの中には、人一倍真面目で責任感が強い子どもが少なくないということです。
今回は、一人の中学生とその保護者との面談を通して、「頑張り過ぎる子ども」の心の中を一緒に見ていきましょう。
この子は一度も学校を嫌がったことがありませんでした
🔴 保護者
「先生、本当に信じられないんです。」
🔵 講師
「どんなところがですか。」
🔴 保護者
「この子は、小学生の頃から学校を休みたがったことが一度もありませんでした。」
「熱があっても『学校へ行きたい』と言うくらいでした。」
「宿題も自分からやる子でしたし、忘れ物もしません。」
「先生からも『しっかりしたお子さんですね』と言われていました。」
🔵 講師
「それだけ真面目なお子さんだったのですね。」
🔴 保護者
「だからこそ、学校へ行けなくなった時は本当に驚きました。」
「主人も『あの子が学校を休むなんて考えられない』と言っていました。」
「最初は『少し疲れているだけだろう』と思っていました。」
「でも、一週間、二週間と休みが続いて……。」
「今では朝になると部屋から出てこられません。」
🔵 講師
「その間、お子さんは何か話していましたか。」
🔴 保護者
「『ごめんね。』
『学校へ行けなくてごめん。』
そればかり言うんです。」
「私は、『謝らなくていいから理由を話して』と言っていました。」
「でも、『分からない』としか答えてくれませんでした。」
真面目な子ほど、自分を後回しにしてしまいます
🔵 講師
「お母さん、お子さんは昔から人に迷惑をかけることを嫌うタイプではありませんでしたか。」
🔴 保護者
「そうですね。」
「弟におもちゃを譲ることも多かったですし、友達とけんかをしても、自分から謝ることが多かったです。」
「私が忙しい時には、『手伝うよ』と声をかけてくれる子でした。」
🔵 講師
「それを聞いて、一つ思い当たることがあります。」
🔴 保護者
「何でしょうか。」
🔵 講師
「真面目な子どもほど、『自分が我慢すればいい』と考えてしまうことがあります。」
「友達とのことで嫌なことがあっても、『これくらい大丈夫』と思う。」
「勉強でつまずいても、『もっと頑張ればいい』と思う。」
「先生に注意されても、『自分が悪かった』と受け止める。」
「そうして、少しずつ心の疲れをため込んでしまうことがあるのです。」
🔴 保護者
「そう言われると、この子は弱音をほとんど言いませんでした。」
「『学校はどうだった?』と聞いても、『普通。』としか答えませんでした。」
🔵 講師
「実は、それも真面目な子どもによく見られる特徴です。」
「『心配をかけたくない。』
『親を困らせたくない。』
『これくらい一人で頑張らなきゃ。』
そんな思いから、自分の苦しさを言葉にしないことがあります。」
🔴 保護者
「私は、『何も話さないから大丈夫なんだ』と思っていました。」
🔵 講師
「そう思ってしまうのは自然です。」
「ですが、話さないことと、苦しんでいないことは同じではありません。」
「むしろ、真面目な子ほど『助けて』という一言が言えず、一人で抱え込んでしまうことがあります。」
🔴 保護者
「だから限界になるまで誰にも気づかれなかったんですね……。」
🔵 講師
「そういうケースは少なくありません。」
「学校へ行けなくなった日が始まりではなく、その何か月も前から、一人で頑張り続けていたのかもしれません。」
お母さんは静かにうつむきました。
「もっと早く気づいてあげられたのではないか。」
そんな思いが胸をよぎりましたが、講師は穏やかな表情で続けました。
🔵 講師
「お母さん、大切なのは『気づけなかった自分』を責めることではありません。」
「これから、お子さんの頑張りを理解してあげることです。」
「その理解が、お子さんにとって何よりの支えになります。」
その言葉を聞いたお母さんは、小さくうなずきました。
これまで「学校へ行けなくなった子」と見ていたわが子を、「誰にも言えないまま頑張り続けてきた子」として見つめ直し始めていたのでした。
「頑張ってきたね」の一言が、子どもの心をほどいていく
面談は静かに続いていました。
お母さんは、これまでの息子との生活を思い返していました。
いつも家族のことを優先し、困っている人がいれば自分から手を差し伸べる子でした。
その優しさを「この子はしっかりしている」と受け止めていましたが、その裏側にある我慢には気づけていなかったのです。
🔴 保護者
「先生……。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「私は、この子が強い子なんだと思っていました。」
「だから、多少つらいことがあっても乗り越えられると思っていたんです。」
🔵 講師
「そう思われる保護者の方は少なくありません。」
「真面目な子ほど、弱音を見せませんから。」
🔴 保護者
「でも、本当は違ったんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「強かったのではなく、『頑張り続けていた』のかもしれません。」
「そして、その頑張りが限界を超えた時、初めて『学校へ行けない』という形で表れたのです。」
🔴 保護者
「私は、『もっと頑張れば行ける』と言ってしまいました。」
🔵 講師
「その言葉を選んだのは、お子さんを信じていたからですよね。」
🔴 保護者
「そうです。」
「『この子なら大丈夫』と思っていました。」
🔵 講師
「ですが、お子さんにとっては、『まだ頑張りが足りないと言われている』ように感じたのかもしれません。」
お母さんは目を閉じ、小さく息をつきました。
「もっと頑張れ。」
その一言が、息子を励ます言葉ではなく、さらに追い込む言葉になっていたかもしれない。
そのことに初めて気づいたのです。
初めてこぼれた、本当の気持ち
🔵 講師
「以前、同じように真面目なお子さんを担当したことがありました。」
🔴 保護者
「どんなお子さんだったんですか。」
🔵 講師
「忘れ物もほとんどなく、成績も安定していました。」
「先生からの信頼も厚く、周囲からは『何も心配のない子』と思われていました。」
「ところが、不登校になってしばらくしてから、こんなことを話してくれたんです。」
『本当はずっと苦しかった。』
『でも、みんなも頑張っているから、自分だけ弱音を言っちゃいけないと思ってた。』
『お母さんにも心配をかけたくなかった。』
『だから「大丈夫」と言い続けてた。』
🔴 保護者
「……。」
🔵 講師
「その言葉を聞いたお母さんは、大きなショックを受けていました。」
『私は毎日顔を見ていたのに、何も気づいてあげられなかった。』
そう涙を流されていました。」
🔴 保護者
「私も同じです……。」
🔵 講師
「でも、その時私はこうお伝えしました。」
『今まで気づけなかったことを責めるより、今日から気づいてあげることの方が大切ですよ。』
「すると、そのお母さんは家に帰って、お子さんへこう伝えたそうです。」
『今まで一人で頑張ってきたんだね。』
『気づいてあげられなくて、ごめんね。』
『もう一人で抱え込まなくていいよ。』
🔴 保護者
「お子さんは何と言ったんですか。」
🔵 講師
「最初は何も言わなかったそうです。」
「でも、しばらくしてから涙を流しながら、こう話したそうです。」
『やっと分かってもらえた気がする。』
「頑張る子」から「安心して頼れる子」へ
🔴 保護者
「先生、私は今日から何を大切にすればいいでしょうか。」
🔵 講師
「まず、お子さんの『頑張り』を認めてあげてください。」
「学校へ行けたことだけではありません。」
「今まで我慢してきたこと。」
「責任感を持って過ごしてきたこと。」
「家族を思いやってきたこと。」
「そうした目に見えない努力も含めて認めてあげてください。」
🔴 保護者
「『よく頑張ってきたね。』と伝えればいいんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「そして、もう一つ大切なのは、『困った時は頼っていい』と伝え続けることです。」
「真面目な子ほど、『自分で何とかしなければならない』と思っています。」
「だから、『助けを求めてもいい』『話しても迷惑じゃない』という安心感を家庭の中で育てていくことが大切なのです。」
🔴 保護者
「この子には、これからは一人で頑張らなくてもいいと伝えたいです。」
🔵 講師
「その言葉は、お子さんにとって大きな支えになります。」
真面目だからこそ、支えが必要な子どもたち
面談を終える頃、お母さんの表情は来られた時とは少し違っていました。
「学校へ行けるようにすること」だけを考えていた気持ちが、「この子の心を守ること」へと変わり始めていたのです。
🔴 保護者
「先生、私は今日まで『学校へ行けない子』として息子を見ていました。」
「でも、本当は『誰にも言えないまま頑張り続けてきた子』だったんですね。」
🔵 講師
「その気づきが、お子さんにとって何より大切です。」
「真面目な子ほど、自分の苦しさを隠そうとします。」
「だからこそ、周りの大人が『頑張り過ぎていないかな』『無理をしていないかな』と気づいてあげることが必要なのです。」
🔴 保護者
「家に帰ったら、まず『今まで本当によく頑張ってきたね』と伝えます。」
🔵 講師
「きっと、その言葉はお子さんの心に届きます。」
「そして、『もう一人で頑張らなくてもいい』という安心感が、少しずつ心の緊張をほどいてくれるでしょう。」
おわりに
学校へ行けなくなる子どもの中には、真面目で責任感が強く、周囲への気遣いができる子どもが少なくありません。
だからこそ、自分の苦しさを言葉にできず、一人で抱え込み、限界まで頑張ってしまうことがあります。
不登校は、「頑張りが足りなかった結果」ではありません。
むしろ、「頑張り過ぎた結果」と考えられる場合もあります。
もし、お子さんが学校へ行けなくなった時には、「どうして行けないの?」と問いかける前に、「今まで本当によく頑張ってきたね」と伝えてみてください。
その一言が、張り詰めていた心をゆっくりとほどき、「一人で頑張らなくてもいい」という安心感につながります。
そして、その安心感こそが、子どもがもう一度自分らしく歩き始めるための、大切な土台になっていくのです。
理論編はこちらから
⑥ 学校へ行けない子ほど真面目な理由(理論編)
はじめに 「先生、この子は昔から真面目だったんです。」 不登校のお子さんを持つ保護者から、この言葉を聞くことは少なくありません。 宿題はきちんと提出する。 約束は守る。 先生の話も真面目に聞く。 友達とも大きなトラブルを […]
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