②学校へ行けなくなる子どもに起きている変化~不登校の原因は一つではないことも多い~(実践編)

はじめに

「なぜ行けないのか」を責めるのではなく、「今どんな状態なのか」を理解しようとすることが、回復への第一歩です。

急に学校に行きたくないって・・・。

どんな原因かは掴めてます?

行かないことに気を取られすぎて・・・。

まずは原因・状況を理解するところから考えていきましょう。

はじめに

「先生、あのときもっと早く気づいてあげられていたら、何か変わっていたのでしょうか。」

面談の最後、お母さんはそう言って静かに涙を流されました。

お子さんが学校へ行けなくなって半年。

最初は「少し疲れているだけだろう」と思っていたそうです。

その後も、「今日は休んでも明日は行けるだろう」「来週になれば元に戻るだろう」と考えていました。

しかし、気がつけば学校へ行けない日が続き、会話も少なくなり、親子ともにどうしていいか分からなくなっていました。

実は、このような経過をたどるご家庭は決して珍しくありません。

学校へ行けなくなる子どもは、ある日突然変わるわけではありません。

その前から、心の中では少しずつ変化が始まっています。

今回は、一人の中学生と保護者との面談をもとに、その変化を一緒に見ていきましょう。

うちの子は急に学校へ行けなくなったんです

🔴 保護者

「先生、本当に急だったんです。」

「前の日までは普通に学校へ行っていました。」

「朝も普通に起きて、ご飯も食べていました。」

「それなのに、ある朝突然『今日は行けない』と言ったんです。」

🔵 講師

「そのとき、お子さんは理由を話していましたか。」

🔴 保護者

「いえ……。」

「『分からない』としか言いませんでした。」

「熱もありませんでしたし、病院へ行っても異常はありませんでした。」

「だから最初は、少し休めば治ると思っていたんです。」

🔵 講師

「その後はいかがでしたか。」

🔴 保護者

「二日休み、三日休み、一週間休み……。」

「そのうち学校へ行く話をするだけで黙ってしまうようになりました。」

「最初は励ましていました。」

『みんな待ってるよ。』

『少しだけでも行ってみよう。』

『保健室だけでもいいよ。』

「でも、そのたびに表情が暗くなってしまって……。」

「最後には『もう学校の話はしないで』と言われました。」

そう話すお母さんの表情には、「何とかしたい」という思いと、「どう関わればよかったのか分からない」という戸惑いがにじんでいました。

🔵 講師

「少し前のことを思い出してみましょう。」

「学校へ行けなくなる一か月ほど前、お子さんに何か変化はありませんでしたか。」

🔴 保護者

「変化ですか……。」

「そう言われると、以前より朝起きるのがつらそうでした。」

「『疲れた』と言うことも増えていました。」

「休日も家で寝ていることが多くなりました。」

「でも、中学生だからそんなものかなと思っていました。」

🔵 講師

「他にはありませんでしたか。」

🔴 保護者

「学校の話をあまりしなくなりました。」

「以前は友達の話や部活の話をよくしていたんです。」

「でも、気づいたら何も話さなくなっていました。」

「私が『今日は学校どうだった?』と聞いても、『普通。』だけで終わることが増えていました。」

🔵 講師

「実は、それも一つのサインだったかもしれません。」

🔴 保護者

「そうだったんですか……。」

🔵 講師

「もちろん、すべての子どもに当てはまるわけではありません。」

「ただ、不登校になる前には、心のエネルギーが少しずつ減っていく子が多いんです。」

「元気そうに見えても、学校では無理をしていることがあります。」

「家へ帰る頃には、その日の力を使い切ってしまっていることも少なくありません。」

🔴 保護者

「私は、『ちゃんと学校へ行けているから大丈夫』と思っていました。」

🔵 講師

「そう思うのは自然なことです。」

「でも、学校へ行けていることと、心が元気であることは、必ずしも同じではありません。」

子どもは『頑張れない』のではなく、『頑張り続けてきた』こともある

🔵 講師

「私は面談で、お子さん本人からこんな言葉を聞くことがあります。」

『もう疲れました。』

『ずっと我慢していました。』

『誰にも言えませんでした。』

「その言葉を聞くたびに、『学校へ行けなくなった日』ではなく、『そこまで頑張り続けた日々』に目を向けることの大切さを感じます。」

🔴 保護者

「……。」

🔵 講師

「お子さんは、学校へ行けなくなる前まで、本当に一生懸命頑張っていたのかもしれません。」

「友達に気を遣い、授業についていこうと努力し、先生にも心配をかけまいとしていた。」

「そうした小さな頑張りが積み重なり、心のエネルギーが少しずつ減っていった可能性があります。」

🔴 保護者

「私は、その頑張りに気づいてあげられませんでした……。」

🔵 講師

「気づけなかったことを責める必要はありません。」

「大切なのは、『今から気づこう』とすることです。」

「子どもは、自分の苦しさを理解しようとしてくれる大人がいるだけで、『一人じゃない』と感じられるようになります。」

その言葉を聞いたお母さんは、小さくうなずきました。

これまで「なぜ学校へ行けないのか」と考えていた視点が、「この子は、どれだけ頑張ってきたのだろう」という視点へと少しずつ変わり始めていました。

「休むこと」は前に進むための準備かもしれない

お母さんは、しばらく黙ったまま資料に目を落としていました。

これまで自分が見ていた「学校へ行けなくなった日」だけではなく、そのずっと前から子どもの心に起きていた変化を思い返していたのです。

🔴 保護者

「先生……。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「私は、学校を休ませることが怖かったんです。」

「一日休めば二日になる。」

「二日休めば一週間になる。」

「そのまま学校へ戻れなくなるんじゃないかと思っていました。」

🔵 講師

「そう考える保護者の方は、本当にたくさんいらっしゃいます。」

🔴 保護者

「だから毎朝、『今日は行けそう?』『少しだけ頑張ってみよう』と声をかけ続けていました。」

「本人を励ましているつもりでした。」

🔵 講師

「お母さんのその言葉には、お子さんへの愛情が込められています。」

「だからこそ、お子さんも『期待に応えられない自分』を責めてしまっていたのかもしれません。」

🔴 保護者

「そうなんでしょうか……。」

🔵 講師

「以前、ある高校生がこんなことを話してくれました。」

『朝になると、今日こそ行かなきゃって思うんです。でも制服を見るだけで苦しくなるんです。玄関まで行っても足が動かないんです。お母さんが「頑張って」と言うたびに、「頑張れない自分はダメなんだ」と思っていました。』

🔴 保護者

「……。」

🔵 講師

「その子は決して頑張っていなかったわけではありません。」

「むしろ、限界まで頑張っていたからこそ、心も体も『これ以上は無理だ』というサインを出していたのです。」


安心できる毎日が、少しずつ子どもを変えていく

🔵 講師

「そこで、そのご家庭には一つだけお願いをしました。」

🔴 保護者

「どんなことですか。」

🔵 講師

「学校へ戻すことを目標にするのではなく、『安心して一日を過ごせること』を目標にしてみましょう、とお伝えしました。」

🔴 保護者

「安心して一日を過ごすこと……。」

🔵 講師

「はい。」

「朝起きられたら『おはよう』と声をかける。」

「昼食を一緒に食べられたら『おいしいね』と話す。」

「夕方に散歩へ行けたら『今日は気持ちよかったね』と笑い合う。」

「そんな何気ない時間を積み重ねてもらいました。」

🔴 保護者

「学校の話はしなかったんですか。」

🔵 講師

「こちらからは、ほとんどしませんでした。」

「すると、一か月ほど経った頃、お子さんの方から『今日は学校で何をやっているのかな』と話し始めたんです。」

🔴 保護者

「子どもの方からですか?」

🔵 講師

「そうです。」

「心に少し余裕が戻ると、自分から外の世界へ目を向けられるようになる子は少なくありません。」

「もちろん、全員が同じ経過をたどるわけではありませんが、『安心できる環境』が回復の土台になることは、多くの子どもたちを見てきて実感しています。」

🔴 保護者

「私は、結果ばかりを見ていました。」

「学校へ行けたか、行けなかったか。」

「でも、その前に『笑顔が戻った』『食事を一緒に食べられた』『少し話してくれた』という変化も、大切な一歩なんですね。」

🔵 講師

「その通りです。」

「回復は階段ではなく、坂道のようなものです。」

「今日は少し元気でも、明日は落ち込むことがあります。」

「前へ進んだと思ったら、また戻ったように感じる日もあります。」

「それでも、長い目で見ると少しずつ前へ進んでいることが多いのです。」

子どもの変化は、小さな一歩から始まる

面談も終わりに近づき、お母さんの表情には、来たときとは違う穏やかさが見られるようになっていました。

🔴 保護者

「先生、私は『学校へ行くこと』だけが回復だと思っていました。」

「でも今日のお話を聞いて、『笑えるようになること』『安心して過ごせること』も大切なんだと分かりました。」

🔵 講師

「はい。」

「学校へ戻ることは、一つの目標ではあります。」

「しかし、その前には必ず心を回復させる時間があります。」

「その時間を焦らせてしまうと、かえって遠回りになることもあります。」

🔴 保護者

「家に帰ったら、まずは息子とゆっくり話してみます。」

「学校のことではなく、好きなゲームの話でも、今日見た動画の話でもいいから、笑って話せる時間を大切にしたいです。」

🔵 講師

「それだけでも、お子さんは『自分は受け入れてもらえている』と感じられるはずです。」

「子どもは安心できる場所があるからこそ、もう一度挑戦する力を少しずつ取り戻していきます。」

🔴 保護者

「焦らず、小さな変化を大切にしていきます。」

🔵 講師

「それが、お子さんにとって何よりの支えになります。」

「『昨日より少し笑顔が増えた』『今日は自分から話しかけてくれた』そんな小さな変化を見つけながら、一歩ずつ進んでいきましょう。」


おわりに

学校へ行けなくなる子どもは、突然変わるわけではありません。

その前には、周囲には見えにくい心の疲れや、小さなSOSが積み重なっています。

そして回復もまた、突然訪れるものではありません。

安心して眠れる日が増えること。

家族と笑って話せる時間が戻ること。

自分から外へ出てみようと思えること。

そうした一つひとつの小さな変化が積み重なり、やがて「学校へ行ってみようかな」「もう一度挑戦してみようかな」という気持ちにつながっていきます。

子どもの歩みは、人それぞれです。

だからこそ、他の子と比べる必要はありません。

保護者が「結果」だけではなく「過程」を大切にし、小さな成長を一緒に喜べるようになったとき、家庭は子どもにとって最も安心できる場所になります。

その安心感こそが、未来へ踏み出す力を育てる土台となるのです。

理論編はこちらから

②学校へ行けなくなる子どもに起きている変化~不登校の原因は一つではないことも多い~(理論編)

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