⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(実践編)

はじめに

最後まで聞くとはどういうことなのか。

話を聞いてるとか言ってるけど・・・。

ちゃんと聞いてくれない・・・?

うん。

よくある話だね・・・。

はじめに

「ちゃんと話を聞いているつもりなんです。」

「でも、途中で『もういい』と言われてしまいます。」

不登校の子どもを心配する保護者ほど、子どもの話を一生懸命聞こうとします。

何があったのか。

学校の何がつらいのか。

友達との関係なのか。

先生との関係なのか。

勉強なのか。

原因が分かれば、何とかしてあげられるかもしれない。

だから質問します。

そして、子どもが何か話せば、

「それなら、こうしたら?」

と解決策を考えます。

ところが、子どもからすると、それが「話を聞いてもらった」という感覚につながらないことがあります。

むしろ、

「途中で話を取られた。」

「結局、お母さんの話になった。」

「自分の気持ちは分かってもらえなかった。」

と感じることさえあります。

今回は、「息子の話を聞いているのに、最近何も話してくれなくなった」という保護者とのやり取りを通して、最後まで聞くとはどういうことなのかを具体的に考えていきます。

最近、何を聞いても『別に』なんです

🔴 保護者

「先生、最近、息子が全然話してくれなくなったんです。」

🔵 講師

「以前は話してくれていたんですか。」

🔴 保護者

「はい。」

「もともと何でも話す子というわけではありませんでしたけど、学校であったことくらいは話していました。」

「でも、学校を休むようになってから、何を聞いても、

『別に。』

『分からない。』

『何もない。』

ばかりです。」

🔵 講師

「お母さんは、どんなふうに声をかけていますか。」

🔴 保護者

「例えば、

『学校で何かあったの?』

とか。」

「『友達とうまくいってる?』」

「『先生に何か言われた?』」

「『勉強が分からないの?』」

「いろいろ聞いています。」

🔵 講師

「その時、お子さんは?」

🔴 保護者

「最初は『別に』です。」

「それでも聞くと、最後には、

『だから何もないって言ってるじゃん。』

って怒ります。」

🔵 講師

「なるほど。」

🔴 保護者

「でも先生、私は話を聞こうとしているんですよ。」

🔵 講師

「そうですね。」

🔴 保護者

「怒っているわけでもないんです。」

「責めているつもりもありません。」

「ただ、何があったのか知りたいだけなんです。」

🔵 講師

「それは、お子さんを助けたいからですよね。」

🔴 保護者

「もちろんです。」

「何が原因か分からなかったら、何もしてあげられないじゃないですか。」

「友達なら友達の問題を考えればいい。」

「先生なら学校に相談すればいい。」

「勉強なら家庭教師とか塾とか、方法がありますよね。」

🔵 講師

「そうですね。」

「ただ、お母さん。」

「今のお話を聞いていると、お母さんは『話を聞く』ことより、『原因を見つける』ことに一生懸命になっているのかもしれません。」

🔴 保護者

「……違うんですか。」


聞いているつもりが「質問」になっていた

🔵 講師

「もちろん、原因を知ることが必要な時もあります。」

「ただ、子どもが話し始めた時には、原因を探すことより先に、その話を最後まで聞いた方がいいことがあります。」

🔴 保護者

「私は最後まで聞いているつもりなんですが……。」

🔵 講師

「最近、お子さんが何か話してくれた場面はありませんでしたか。」

お母さんは少し考えました。

🔴 保護者

「そういえば、この前ありました。」

「夕食を食べている時に、息子が突然、

『学校って疲れるんだよね。』

と言ったんです。」

🔵 講師

「その時、お母さんは何と答えましたか。」

🔴 保護者

「私、すぐに、

『何が疲れるの? 友達?』

と聞きました。」

🔵 講師

「お子さんは?」

🔴 保護者

「『別に友達じゃない。』」

「それで私が、

『じゃあ勉強? 最近数学難しくなったから?』

と聞きました。」

🔵 講師

「そのあとは?」

🔴 保護者

「『違う。』って。」

「だから、

『じゃあ先生?』

って聞いたんです。」

「そうしたら、

『もういい。』

と言って、食事の途中で部屋へ行ってしまいました。」

🔵 講師

「お母さん、その時、お子さんは最初に何と言いましたか。」

🔴 保護者

「『学校って疲れるんだよね』です。」

🔵 講師

「その続きを、お子さん自身の言葉で聞く前に、お母さんがいくつか候補を出していますよね。」

🔴 保護者

「友達、勉強、先生……。」

🔵 講師

「はい。」

「お母さんとしては、話しやすくしてあげようと思ったんですよね。」

🔴 保護者

「そうなんです。」

「『何が?』だけでは答えにくいと思ったので。」

🔵 講師

「でも、お子さんからすると、

『自分の話をする』

というより、

『お母さんの質問に答える』

会話になってしまったのかもしれません。」

🔴 保護者

「……ああ。」

お母さんは、そこで初めて何かに気づいたような表情をしました。

「学校って疲れる」に何と返せばよかったのか

🔴 保護者

「では先生、あの時は何と言えばよかったんでしょう。」

🔵 講師

「とても簡単です。」

🔴 保護者

「はい。」

🔵 講師

「『学校って疲れるんだね。』」

🔴 保護者

「……それだけですか。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「でも、それだと話が進まなくないですか。」

🔵 講師

「進めなくてもいいんです。」

🔴 保護者

「進めなくていい?」

🔵 講師

「子どもが自分で続きを話すまで待ちます。」

「例えば、

『学校って疲れるんだよね。』

と言われたら、

『そっか。学校って疲れるんだね。』

と返す。」

「そして待つ。」

🔴 保護者

「沈黙になったら?」

🔵 講師

「沈黙のままで構いません。」

🔴 保護者

「私、それが苦手です。」

「何か言わなきゃって思ってしまいます。」

🔵 講師

「多くの人がそうです。」

「でも、その沈黙の間に、お子さんは次に何を話すか考えているかもしれません。」


沈黙の十秒を待ってみる

🔵 講師

「では、少し練習してみましょうか。」

🔴 保護者

「練習ですか。」

🔵 講師

「私がお子さんの役をします。」

「お母さんは、話を聞いてみてください。」

🔴 保護者

「分かりました。」

🔵 講師・子ども役

「……学校って、疲れるんだよね。」

🔴 保護者

「何が――」

お母さんは、途中で言葉を止めました。

🔴 保護者

「……学校って疲れるんだね。」

🔵 講師・子ども役

「うん。」

講師は、それ以上何も言いませんでした。

お母さんも黙っています。

数秒が過ぎました。

🔴 保護者

「先生……すごく長く感じえます。」

🔵 講師

「まだ七秒くらいですよ。」

🔴 保護者

「そんなものですか?」

🔵 講師

「会話の沈黙って、長く感じるんです。」

「でも、その七秒を大人が待てるかどうかで、子どもが続きを話せることがあります。」

「もう一度やってみましょう。」

🔵 講師・子ども役

「学校って、疲れるんだよね。」

🔴 保護者

「そっか。学校って疲れるんだね。」

🔵 講師・子ども役

「うん。」

沈黙。

今度は、お母さんも待ちました。

しばらくして講師が続けます。

🔵 講師・子ども役

「……別に嫌な奴がいるとかじゃないんだけど。」

お母さんは思わず、

「じゃあ何が――」

と言いかけ、また止まりました。

🔴 保護者

「うん。」

🔵 講師・子ども役

「なんか、ずっと気を使うんだよね。」

🔴 保護者

「ずっと気を使ってる感じなんだ。」

🔵 講師・子ども役

「うん。」

「休み時間もさ、別に一人になりたいわけじゃないんだけど……。」

🔴 保護者

「うん。」

🔵 講師・子ども役

「みんなといると、ずっと何か話さなきゃいけない感じがして。」

「何も話さないと、『どうした?』って言われるし。」

「だから家に帰ると、もう誰とも話したくなくなる。」

講師はそこで子ども役をやめました。

🔵 講師

「どうですか。」

🔴 保護者

「全然違いますね……。」

🔵 講師

「最初に、

『友達?』

と聞いていたら、どうなっていたでしょう。」

🔴 保護者

「『別に友達じゃない』で終わっていたかもしれません。」

🔵 講師

「そうなんです。」

「でも、実際には友達が嫌なのではなく、『人と一緒にいる間ずっと気を使っている』という話だった。」

🔴 保護者

「私が答えを決めようとしていたんですね。」

🔵 講師

「子どもの言葉が出てくる前に、大人の言葉で空白を埋めてしまっていたのかもしれません。」


「それはあなたも悪い」が出そうになったら

🔴 保護者

「でも先生、話を聞いていると、どうしても言いたくなることがあります。」

🔵 講師

「どんなことですか。」

🔴 保護者

「『それはあなたにも原因があるんじゃない?』とか。」

「実際、息子にも悪いところはありますから。」

🔵 講師

「もちろん、そういうこともあるでしょう。」

🔴 保護者

「例えば以前、友達とけんかした話を聞いたことがあります。」

「息子は、

『あいつが急に怒った。』

と言ったんです。」

「でも詳しく聞いたら、息子が先にからかっていたんですよ。」

「だから私、

『それはあなたが悪いでしょう。』

と言いました。」

🔵 講師

「すると?」

🔴 保護者

「『もうお母さんには話さない。』

と言われました。」

🔵 講師

「お母さんが言ったこと自体は、間違っていないかもしれません。」

「相手をからかったのであれば、それについて考える必要はあります。」

「でも、『いつ伝えるか』が重要なんです。」

🔴 保護者

「いつ伝えるか?」

🔵 講師

「子どもがまだ、

『友達とこんなことがあって、自分はこう感じた』

と話している途中なら、まず最後まで聞く。」

「それから、

『嫌な気持ちになったんだね。』

と気持ちを受け止める。」

「そのあとで必要なら、

『相手はどう感じたと思う?』

と一緒に考えることもできます。」

🔴 保護者

「気持ちを受け止めたら、息子の行動まで認めたことになりませんか。」

🔵 講師

「なりません。」

「ここは、とても大切です。」

「気持ちを理解することと、行動を正しいと認めることは別です。」

「例えば、

『友達に怒られて腹が立ったんだね。』

と理解することはできます。」

「その一方で、

『でも、人をからかうことについては考えよう。』

とも言えます。」

🔴 保護者

「両方あっていいんですね。」

🔵 講師

「はい。」

「ただ、まずは子どもが話し終わることです。」


「お母さんには分からない」と言われた時

🔴 保護者

「もう一つあります。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「息子に、

『お母さんには分からない。』

と言われると、すごく腹が立つんです。」

🔵 講師

「そうですよね。」

🔴 保護者

「こんなに心配しているのに。」

「学校にも連絡して。」

「食事も考えて。」

「いろいろ調べて。」

「それなのに『分からない』って言われると、

『分かろうとしてるじゃない!』

って言いたくなります。」

🔵 講師

「実際に言ったことはありますか。」

🔴 保護者

「あります。」

「そうしたら、

『だから分からないんだよ。』

と言われました。」

🔵 講師

「その時、お子さんが言う『分からない』は、お母さんが何も考えていないという意味ではないかもしれません。」

🔴 保護者

「どういう意味でしょう。」

🔵 講師

「『僕と同じ経験をしているわけではないから、この苦しさを全部は分からないでしょう』という意味かもしれません。」

🔴 保護者

「それなら……確かにそうですね。」

🔵 講師

「ですから、

『そうだね。全部は分からないかもしれない。』

と認めてしまってもいいんです。」

🔴 保護者

「認めるんですか。」

🔵 講師

「はい。」

「そのあと、

『でも、分かりたいと思っているから、話せる時に聞かせてほしい。』

と伝えます。」

🔴 保護者

「それなら言えそうです。」


解決策を言わずに終わってもいい

🔴 保護者

「先生、話を最後まで聞いたとして、そのあとはどうすればいいんですか。」

🔵 講師

「何もしなくてもいいことがあります。」

🔴 保護者

「何もしない?」

🔵 講師

「例えばお子さんが三十分話して、

『学校でずっと気を使って疲れていた。』

ということが分かったとします。」

「そこで、

『じゃあ先生に相談しよう。』

『別室登校にしよう。』

『友達と距離を取ろう。』

と、すぐ解決策へ進まなくてもいいんです。」

🔴 保護者

「でも、何かしてあげた方がいいのでは?」

🔵 講師

「そこで一度、お子さんに聞いてみてもいいでしょう。」

「『今の話、一緒に何か考えた方がいい?』」

「あるいは、

『今日は聞いているだけの方がいい?』」

🔴 保護者

「子どもに選んでもらうんですね。」

🔵 講師

「そうです。」

「子どもが、

『今日は聞いてくれるだけでいい。』

と言うこともあります。」

「その場合は、

『分かった。話してくれてありがとう。』

で終わってもいいんです。」

🔴 保護者

「それだけで意味があるんでしょうか。」

🔵 講師

「あります。」

「今まで誰にも言えなかったことを、最後まで話せた。」

「途中で否定されなかった。」

「すぐに『こうしなさい』と言われなかった。」

「それだけでも、

『自分の気持ちを話しても大丈夫なんだ』

という経験になります。」


その日の夜、息子が突然話し始めた

数日後。

夕食を終えたあと、お母さんはキッチンで食器を洗っていました。

息子はリビングのソファでスマートフォンを見ていました。

特に会話はありませんでした。

以前なら、お母さんの方から、

「今日はどうだった?」

「学校のこと、何か考えた?」

と声をかけていたところです。

しかし、その日は何も聞きませんでした。

しばらくして、息子が突然言いました。

「今日さ。」

🔴 保護者

「うん。」

「学校のグループLINE来た。」

お母さんは食器を洗いながら答えました。

🔴 保護者

「そうなんだ。」

「文化祭の話してた。」

🔴 保護者

「うん。」

「みんな、普通に準備してるみたい。」

お母さんは、

「参加したいの?」

と聞きそうになりました。

しかし、少し待ちました。

「俺がいなくても、普通に進むんだなって思った。」

🔴 保護者

「……そう思ったんだね。」

「別に当たり前なんだけどさ。」

「俺一人休んだって、みんな普通なんだよ。」

お母さんは何も言わず、続きを待ちました。

「なんか……。」

長い沈黙がありました。

お母さんは振り返らず、そのまま食器を洗っていました。

そして、しばらくして息子が小さな声で言いました。

「俺、もう学校にいらないのかな。」

お母さんの手が止まりました。

すぐに、

「そんなことない!」

と言いたくなりました。

「友達だって心配しているよ。」

「先生だって待っているよ。」

そう言えば、息子を安心させられるような気がしました。

しかし、お母さんは、これまで講師と話したことを思い出しました。

そして、すぐには否定せず、静かに聞き返しました。

🔴 保護者

「……自分はいなくてもいいのかなって、思ったんだね。」

息子はしばらく黙っていました。

そして、これまでお母さんが聞いたことのなかった話を、少しずつ話し始めました。

否定せずに聞いたことで、初めて出てきた本音

「別に、みんなに嫌われてるわけじゃないと思う。」

息子は、スマートフォンを見たまま話し始めました。

🔴 保護者

「うん。」

「でも、俺がいなくても普通に進んでるのを見るとさ。」

「なんか、自分って何なんだろうって思う。」

お母さんは、すぐに励ましたくなりました。

「そんなことないよ。」

「あなたは必要な存在だよ。」

そう言えばいいような気がしました。

しかし、少し待ちました。

🔴 保護者

「自分が必要ないように感じたんだね。」

「……うん。」

「学校行ってた時も、なんかずっとそんな感じだった。」

🔴 保護者

「ずっと?」

「うん。」

「友達とは普通に話してたけど、なんか自分だけ無理してる感じがして。」

「笑わなきゃとか。」

「話合わせなきゃとか。」

「別に嫌いなわけじゃないんだけど。」

「ずっと気を使ってた。」

お母さんは、そこで初めて気づきました。

息子はこれまで、

「友達とは普通。」

と言っていました。

だから、友人関係に問題はないのだと思っていました。

しかし、

「問題がないこと」と「疲れていないこと」は同じではありません。

🔴 保護者

「友達といること自体が嫌だったわけじゃないんだね。」

「うん。」

「ただ、疲れる。」

「一人になりたい時もあるけど、一人でいると今度は『ぼっちって思われるかな』とか考えるし。」

「それで休み時間もずっと誰かといる。」

「家に帰る頃には、もう何もしたくない。」

お母さんは、ただ聞いていました。

以前なら、

「それなら一人でいればいいじゃない。」

「そんなに周りを気にしなくても大丈夫だよ。」

と言っていたかもしれません。

しかし、その日は違いました。

🔴 保護者

「毎日ずっと、周りのことを気にしてたんだね。」

息子は小さくうなずきました。


正解を言わないことで、話が深くなる

しばらくすると、息子はさらに話し始めました。

「あと、先生も苦手。」

🔴 保護者

「先生も?」

「うん。」

「別に怒鳴られるとかじゃないけど。」

「急に当てられるのが嫌。」

「答え分からないと、みんなこっち見るじゃん。」

「それがすごく嫌。」

🔴 保護者

「みんなに見られるのがつらかったんだ。」

「うん。」

「だから授業中も、いつ当てられるかずっと考えてる。」

「授業の内容より、そっちが気になってる。」

お母さんは驚きました。

これまで息子は、授業について、

「普通。」

としか言っていませんでした。

勉強についていけないわけでもありません。

成績も大きく落ちていませんでした。

それでも、教室の中ではずっと緊張していたのです。

🔴 保護者

「それは疲れるね。」

息子は、少し間を置いてから答えました。

「……うん。」

「だから朝になると、またあそこに行くのかって思う。」

「でも、こんなの理由にならないよね。」

🔴 保護者

「どうして?」

「だって、みんな普通にやってるし。」

「俺だけ無理って、おかしいじゃん。」

ここで、お母さんはまた言いたくなりました。

「おかしくないよ。」

「みんな違うんだから。」

しかし、今度もすぐには答えませんでした。

🔴 保護者

「みんなができているのに、自分だけできないように感じてるんだね。」

息子は、しばらく黙っていました。

そして、

「そう。」

とだけ答えました。


子どもが求めていたのは「答え」ではなかった

翌日、お母さんは講師にその話をしました。

🔴 保護者

「先生、昨日、初めてあんなに話してくれました。」

🔵 講師

「お母さんは、どう聞いていたんですか。」

🔴 保護者

「ほとんど何も言いませんでした。」

「息子が言ったことを繰り返すくらいで。」

「正直、何回もアドバイスしたくなりました。」

🔵 講師

「どんなアドバイスですか。」

🔴 保護者

「『先生に相談しよう。』」

「『無理に友達に合わせなくてもいいよ。』」

「『一人になりたい時は一人でいればいい。』」

「いくらでも思いつきました。」

🔵 講師

「でも、言わなかった。」

🔴 保護者

「はい。」

「不思議なんですけど、私が何も言わない方が、息子がどんどん話したんです。」

🔵 講師

「それが、『最後まで聞く』ことの大きな意味なんです。」

🔴 保護者

「私は今まで、聞いたら何か答えなきゃいけないと思っていました。」

🔵 講師

「大人はそう考えやすいですね。」

「特に保護者は、子どもを助けたいですから。」

「でも、子どもがいつも解決策を求めているとは限りません。」

「自分の中にある、まだ整理されていない気持ちを言葉にしたいだけの時もあります。」

🔴 保護者

「話しながら、自分でも分かっていく感じなんでしょうか。」

🔵 講師

「そうです。」

「『自分は友達が嫌なのではなく、周囲に合わせ続けることに疲れていたんだ。』」

「『授業が嫌なのではなく、人前で失敗する緊張がつらかったんだ。』」

「そういうことは、話しながら本人が初めて気づくこともあります。」


「話を聞く」は、原因を聞き出すことではない

🔴 保護者

「今まで私は、話を聞くというのは、原因を聞き出すことだと思っていました。」

🔵 講師

「原因を知ることが必要な時もあります。」

「ただ、それだけではないんです。」

「子どもが話している途中で、

『つまり友達が原因なのね。』

『要するに先生が嫌なのね。』

と大人がまとめてしまうと、本人の感覚とは違うところへ話が進んでしまうことがあります。」

🔴 保護者

「昨日の息子も、どれか一つが原因という感じではありませんでした。」

🔵 講師

「そうですよね。」

「友達。」

「教室。」

「先生。」

「人の目。」

「自分へのプレッシャー。」

「いろいろなものが重なっていた。」

「だからこそ、本人自身の言葉を最後まで聞く必要があったんです。」


話したあとに「どうしたい?」と聞いてみる

🔴 保護者

「では、これから具体的にどうすればいいでしょう。」

🔵 講師

「ここで初めて、一緒に考える段階に入っていけばいいと思います。」

🔴 保護者

「例えば?」

🔵 講師

「お子さんに、

『昨日話してくれたことについて、何か一緒に考えた方がいい?』

と聞いてみてもいいでしょう。」

「あるいは、

『今はまだ、話を聞くだけの方がいい?』

と聞いてもいい。」

🔴 保護者

「本人に選んでもらうんですね。」

🔵 講師

「はい。」

「話を聞いたからといって、大人がすぐ全部動かなくてもいいんです。」

「子どもが、

『先生にはまだ言わないで。』

と言うかもしれません。」

「あるいは、

『先生には言ってほしいけど、自分からは言えない。』

と言うかもしれません。」

「そこで初めて、その子に合った支援を一緒に考えることができます。」

「話せる親子関係」が次の一歩をつくる

数日後。

お母さんは、息子に尋ねました。

🔴 保護者

「この前話してくれたことなんだけど。」

息子の表情が少し硬くなりました。

お母さんは慌てずに続けました。

🔴 保護者

「何か解決しようって話じゃないよ。」

「ただ、先生とかに相談した方がいいことがあるなら、一緒に考えようかなと思って。」

息子は少し考えました。

「担任には……まだ全部言わなくていい。」

🔴 保護者

「分かった。」

「でも、朝しんどいことくらいは言ってもいい。」

🔴 保護者

「それなら大丈夫?」

「うん。」

お母さんは、その言葉を受けて、担任には必要な範囲だけを伝えることにしました。

勝手にすべてを話すのではなく、息子と確認したうえで進めました。

その後も、すぐに学校へ戻れたわけではありません。

しかし、親子の会話は少しずつ変わりました。

夕食の時。

車に乗っている時。

テレビを見ている時。

何気ない場面で、息子がぽつりと話すことが増えました。

そしてお母さんも、

「何か答えなければ。」

と思わなくなっていきました。


子どもが「また話してもいい」と思えること

🔴 保護者

「先生、最近少し分かってきました。」

🔵 講師

「何が分かってきましたか。」

🔴 保護者

「話を聞くって、全部理解することでも、全部解決することでもないんですね。」

🔵 講師

「そうですね。」

🔴 保護者

「前は、子どもが話したら親が答えを出すものだと思っていました。」

「でも今は、

『また話してもいい』

と思ってもらえる方が大事なのかなって。」

🔵 講師

「私は、とても大切な視点だと思います。」

「一度の会話ですべてが分かることは、ほとんどありません。」

「今日少し話す。」

「数日後、また少し話す。」

「以前は言えなかったことを、あとになって話す。」

「そうやって少しずつ、その子の気持ちが見えてくることがあります。」

🔴 保護者

「だから、毎回答えを出さなくてもいい。」

🔵 講師

「はい。」

「そして親が、

『最後まで聞いてくれる。』

『否定しない。』

『勝手に話を広げない。』

と分かれば、子どもは安心して話せるようになります。」


おわりに

子どもの話を最後まで聞くことは、ただ黙っていればいいということではありません。

子どもの言葉を急いで判断しない。

途中で結論を出さない。

沈黙を待つ。

正論やアドバイスを少し後ろへ置く。

そして、

「それであなたはどう感じたの?」

という気持ちを大切にする。

そうした姿勢の積み重ねです。

保護者は、子どもを助けたいからこそ、すぐ解決したくなります。

しかし、子どもが本当に必要としているのは、いつも答えではありません。

「最後まで話せた。」

「否定されなかった。」

「自分の気持ちを大切にしてもらえた。」

その経験そのものが、子どもの安心感につながることがあります。

そして、

「また話してみよう。」

と思えるようになる。

これは、不登校の子どもを支えるうえでとても大きな意味を持ちます。

子どもの中には、大人が知らない気持ちがまだたくさんあります。

その気持ちを無理に引き出すのではなく、話したくなった時に受け止められる場所をつくっておく。

「あなたの話なら、最後まで聞くよ。」

その姿勢が伝わる家庭は、子どもにとって安心して戻ってこられる場所になります。

そして、自分の気持ちを安心して言葉にできるようになった時、子どもは少しずつ、

「では、自分はこれからどうしたいのだろう。」

という次の問いを、自分自身で考え始めるようになるのです。

理論編はこちらから

⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(理論編)

はじめに 「ちゃんと話を聞いているつもりなのに、子どもが途中で話すのをやめてしまいます。」 「何があったのか聞こうとすると、『もういい』と言って部屋へ戻ってしまいます。」 不登校の子どもを持つ保護者から、このような相談を […]

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