⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(実践編)
はじめに
最後まで聞くとはどういうことなのか。
話を聞いてるとか言ってるけど・・・。
ちゃんと聞いてくれない・・・?
うん。
よくある話だね・・・。
- 1. はじめに
- 2. 最近、何を聞いても『別に』なんです
- 2.1. 聞いているつもりが「質問」になっていた
- 3. 「学校って疲れる」に何と返せばよかったのか
- 3.1. 沈黙の十秒を待ってみる
- 3.2. 「それはあなたも悪い」が出そうになったら
- 3.3. 「お母さんには分からない」と言われた時
- 3.4. 解決策を言わずに終わってもいい
- 3.5. その日の夜、息子が突然話し始めた
- 4. 否定せずに聞いたことで、初めて出てきた本音
- 4.1. 正解を言わないことで、話が深くなる
- 4.2. 子どもが求めていたのは「答え」ではなかった
- 4.3. 「話を聞く」は、原因を聞き出すことではない
- 4.4. 話したあとに「どうしたい?」と聞いてみる
- 5. 「話せる親子関係」が次の一歩をつくる
- 5.1. 子どもが「また話してもいい」と思えること
- 6. おわりに
- 6.1.1. 理論編はこちらから
はじめに
「ちゃんと話を聞いているつもりなんです。」
「でも、途中で『もういい』と言われてしまいます。」
不登校の子どもを心配する保護者ほど、子どもの話を一生懸命聞こうとします。
何があったのか。
学校の何がつらいのか。
友達との関係なのか。
先生との関係なのか。
勉強なのか。
原因が分かれば、何とかしてあげられるかもしれない。
だから質問します。
そして、子どもが何か話せば、
「それなら、こうしたら?」
と解決策を考えます。
ところが、子どもからすると、それが「話を聞いてもらった」という感覚につながらないことがあります。
むしろ、
「途中で話を取られた。」
「結局、お母さんの話になった。」
「自分の気持ちは分かってもらえなかった。」
と感じることさえあります。
今回は、「息子の話を聞いているのに、最近何も話してくれなくなった」という保護者とのやり取りを通して、最後まで聞くとはどういうことなのかを具体的に考えていきます。
最近、何を聞いても『別に』なんです
🔴 保護者
「先生、最近、息子が全然話してくれなくなったんです。」
🔵 講師
「以前は話してくれていたんですか。」
🔴 保護者
「はい。」
「もともと何でも話す子というわけではありませんでしたけど、学校であったことくらいは話していました。」
「でも、学校を休むようになってから、何を聞いても、
『別に。』
『分からない。』
『何もない。』
ばかりです。」
🔵 講師
「お母さんは、どんなふうに声をかけていますか。」
🔴 保護者
「例えば、
『学校で何かあったの?』
とか。」
「『友達とうまくいってる?』」
「『先生に何か言われた?』」
「『勉強が分からないの?』」
「いろいろ聞いています。」
🔵 講師
「その時、お子さんは?」
🔴 保護者
「最初は『別に』です。」
「それでも聞くと、最後には、
『だから何もないって言ってるじゃん。』
って怒ります。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「でも先生、私は話を聞こうとしているんですよ。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「怒っているわけでもないんです。」
「責めているつもりもありません。」
「ただ、何があったのか知りたいだけなんです。」
🔵 講師
「それは、お子さんを助けたいからですよね。」
🔴 保護者
「もちろんです。」
「何が原因か分からなかったら、何もしてあげられないじゃないですか。」
「友達なら友達の問題を考えればいい。」
「先生なら学校に相談すればいい。」
「勉強なら家庭教師とか塾とか、方法がありますよね。」
🔵 講師
「そうですね。」
「ただ、お母さん。」
「今のお話を聞いていると、お母さんは『話を聞く』ことより、『原因を見つける』ことに一生懸命になっているのかもしれません。」
🔴 保護者
「……違うんですか。」
聞いているつもりが「質問」になっていた
🔵 講師
「もちろん、原因を知ることが必要な時もあります。」
「ただ、子どもが話し始めた時には、原因を探すことより先に、その話を最後まで聞いた方がいいことがあります。」
🔴 保護者
「私は最後まで聞いているつもりなんですが……。」
🔵 講師
「最近、お子さんが何か話してくれた場面はありませんでしたか。」
お母さんは少し考えました。
🔴 保護者
「そういえば、この前ありました。」
「夕食を食べている時に、息子が突然、
『学校って疲れるんだよね。』
と言ったんです。」
🔵 講師
「その時、お母さんは何と答えましたか。」
🔴 保護者
「私、すぐに、
『何が疲れるの? 友達?』
と聞きました。」
🔵 講師
「お子さんは?」
🔴 保護者
「『別に友達じゃない。』」
「それで私が、
『じゃあ勉強? 最近数学難しくなったから?』
と聞きました。」
🔵 講師
「そのあとは?」
🔴 保護者
「『違う。』って。」
「だから、
『じゃあ先生?』
って聞いたんです。」
「そうしたら、
『もういい。』
と言って、食事の途中で部屋へ行ってしまいました。」
🔵 講師
「お母さん、その時、お子さんは最初に何と言いましたか。」
🔴 保護者
「『学校って疲れるんだよね』です。」
🔵 講師
「その続きを、お子さん自身の言葉で聞く前に、お母さんがいくつか候補を出していますよね。」
🔴 保護者
「友達、勉強、先生……。」
🔵 講師
「はい。」
「お母さんとしては、話しやすくしてあげようと思ったんですよね。」
🔴 保護者
「そうなんです。」
「『何が?』だけでは答えにくいと思ったので。」
🔵 講師
「でも、お子さんからすると、
『自分の話をする』
というより、
『お母さんの質問に答える』
会話になってしまったのかもしれません。」
🔴 保護者
「……ああ。」
お母さんは、そこで初めて何かに気づいたような表情をしました。
「学校って疲れる」に何と返せばよかったのか
🔴 保護者
「では先生、あの時は何と言えばよかったんでしょう。」
🔵 講師
「とても簡単です。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「『学校って疲れるんだね。』」
🔴 保護者
「……それだけですか。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「でも、それだと話が進まなくないですか。」
🔵 講師
「進めなくてもいいんです。」
🔴 保護者
「進めなくていい?」
🔵 講師
「子どもが自分で続きを話すまで待ちます。」
「例えば、
『学校って疲れるんだよね。』
と言われたら、
『そっか。学校って疲れるんだね。』
と返す。」
「そして待つ。」
🔴 保護者
「沈黙になったら?」
🔵 講師
「沈黙のままで構いません。」
🔴 保護者
「私、それが苦手です。」
「何か言わなきゃって思ってしまいます。」
🔵 講師
「多くの人がそうです。」
「でも、その沈黙の間に、お子さんは次に何を話すか考えているかもしれません。」
沈黙の十秒を待ってみる
🔵 講師
「では、少し練習してみましょうか。」
🔴 保護者
「練習ですか。」
🔵 講師
「私がお子さんの役をします。」
「お母さんは、話を聞いてみてください。」
🔴 保護者
「分かりました。」
🔵 講師・子ども役
「……学校って、疲れるんだよね。」
🔴 保護者
「何が――」
お母さんは、途中で言葉を止めました。
🔴 保護者
「……学校って疲れるんだね。」
🔵 講師・子ども役
「うん。」
講師は、それ以上何も言いませんでした。
お母さんも黙っています。
数秒が過ぎました。
🔴 保護者
「先生……すごく長く感じえます。」
🔵 講師
「まだ七秒くらいですよ。」
🔴 保護者
「そんなものですか?」
🔵 講師
「会話の沈黙って、長く感じるんです。」
「でも、その七秒を大人が待てるかどうかで、子どもが続きを話せることがあります。」
「もう一度やってみましょう。」
🔵 講師・子ども役
「学校って、疲れるんだよね。」
🔴 保護者
「そっか。学校って疲れるんだね。」
🔵 講師・子ども役
「うん。」
沈黙。
今度は、お母さんも待ちました。
しばらくして講師が続けます。
🔵 講師・子ども役
「……別に嫌な奴がいるとかじゃないんだけど。」
お母さんは思わず、
「じゃあ何が――」
と言いかけ、また止まりました。
🔴 保護者
「うん。」
🔵 講師・子ども役
「なんか、ずっと気を使うんだよね。」
🔴 保護者
「ずっと気を使ってる感じなんだ。」
🔵 講師・子ども役
「うん。」
「休み時間もさ、別に一人になりたいわけじゃないんだけど……。」
🔴 保護者
「うん。」
🔵 講師・子ども役
「みんなといると、ずっと何か話さなきゃいけない感じがして。」
「何も話さないと、『どうした?』って言われるし。」
「だから家に帰ると、もう誰とも話したくなくなる。」
講師はそこで子ども役をやめました。
🔵 講師
「どうですか。」
🔴 保護者
「全然違いますね……。」
🔵 講師
「最初に、
『友達?』
と聞いていたら、どうなっていたでしょう。」
🔴 保護者
「『別に友達じゃない』で終わっていたかもしれません。」
🔵 講師
「そうなんです。」
「でも、実際には友達が嫌なのではなく、『人と一緒にいる間ずっと気を使っている』という話だった。」
🔴 保護者
「私が答えを決めようとしていたんですね。」
🔵 講師
「子どもの言葉が出てくる前に、大人の言葉で空白を埋めてしまっていたのかもしれません。」
「それはあなたも悪い」が出そうになったら
🔴 保護者
「でも先生、話を聞いていると、どうしても言いたくなることがあります。」
🔵 講師
「どんなことですか。」
🔴 保護者
「『それはあなたにも原因があるんじゃない?』とか。」
「実際、息子にも悪いところはありますから。」
🔵 講師
「もちろん、そういうこともあるでしょう。」
🔴 保護者
「例えば以前、友達とけんかした話を聞いたことがあります。」
「息子は、
『あいつが急に怒った。』
と言ったんです。」
「でも詳しく聞いたら、息子が先にからかっていたんですよ。」
「だから私、
『それはあなたが悪いでしょう。』
と言いました。」
🔵 講師
「すると?」
🔴 保護者
「『もうお母さんには話さない。』
と言われました。」
🔵 講師
「お母さんが言ったこと自体は、間違っていないかもしれません。」
「相手をからかったのであれば、それについて考える必要はあります。」
「でも、『いつ伝えるか』が重要なんです。」
🔴 保護者
「いつ伝えるか?」
🔵 講師
「子どもがまだ、
『友達とこんなことがあって、自分はこう感じた』
と話している途中なら、まず最後まで聞く。」
「それから、
『嫌な気持ちになったんだね。』
と気持ちを受け止める。」
「そのあとで必要なら、
『相手はどう感じたと思う?』
と一緒に考えることもできます。」
🔴 保護者
「気持ちを受け止めたら、息子の行動まで認めたことになりませんか。」
🔵 講師
「なりません。」
「ここは、とても大切です。」
「気持ちを理解することと、行動を正しいと認めることは別です。」
「例えば、
『友達に怒られて腹が立ったんだね。』
と理解することはできます。」
「その一方で、
『でも、人をからかうことについては考えよう。』
とも言えます。」
🔴 保護者
「両方あっていいんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「ただ、まずは子どもが話し終わることです。」
「お母さんには分からない」と言われた時
🔴 保護者
「もう一つあります。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「息子に、
『お母さんには分からない。』
と言われると、すごく腹が立つんです。」
🔵 講師
「そうですよね。」
🔴 保護者
「こんなに心配しているのに。」
「学校にも連絡して。」
「食事も考えて。」
「いろいろ調べて。」
「それなのに『分からない』って言われると、
『分かろうとしてるじゃない!』
って言いたくなります。」
🔵 講師
「実際に言ったことはありますか。」
🔴 保護者
「あります。」
「そうしたら、
『だから分からないんだよ。』
と言われました。」
🔵 講師
「その時、お子さんが言う『分からない』は、お母さんが何も考えていないという意味ではないかもしれません。」
🔴 保護者
「どういう意味でしょう。」
🔵 講師
「『僕と同じ経験をしているわけではないから、この苦しさを全部は分からないでしょう』という意味かもしれません。」
🔴 保護者
「それなら……確かにそうですね。」
🔵 講師
「ですから、
『そうだね。全部は分からないかもしれない。』
と認めてしまってもいいんです。」
🔴 保護者
「認めるんですか。」
🔵 講師
「はい。」
「そのあと、
『でも、分かりたいと思っているから、話せる時に聞かせてほしい。』
と伝えます。」
🔴 保護者
「それなら言えそうです。」
解決策を言わずに終わってもいい
🔴 保護者
「先生、話を最後まで聞いたとして、そのあとはどうすればいいんですか。」
🔵 講師
「何もしなくてもいいことがあります。」
🔴 保護者
「何もしない?」
🔵 講師
「例えばお子さんが三十分話して、
『学校でずっと気を使って疲れていた。』
ということが分かったとします。」
「そこで、
『じゃあ先生に相談しよう。』
『別室登校にしよう。』
『友達と距離を取ろう。』
と、すぐ解決策へ進まなくてもいいんです。」
🔴 保護者
「でも、何かしてあげた方がいいのでは?」
🔵 講師
「そこで一度、お子さんに聞いてみてもいいでしょう。」
「『今の話、一緒に何か考えた方がいい?』」
「あるいは、
『今日は聞いているだけの方がいい?』」
🔴 保護者
「子どもに選んでもらうんですね。」
🔵 講師
「そうです。」
「子どもが、
『今日は聞いてくれるだけでいい。』
と言うこともあります。」
「その場合は、
『分かった。話してくれてありがとう。』
で終わってもいいんです。」
🔴 保護者
「それだけで意味があるんでしょうか。」
🔵 講師
「あります。」
「今まで誰にも言えなかったことを、最後まで話せた。」
「途中で否定されなかった。」
「すぐに『こうしなさい』と言われなかった。」
「それだけでも、
『自分の気持ちを話しても大丈夫なんだ』
という経験になります。」
その日の夜、息子が突然話し始めた
数日後。
夕食を終えたあと、お母さんはキッチンで食器を洗っていました。
息子はリビングのソファでスマートフォンを見ていました。
特に会話はありませんでした。
以前なら、お母さんの方から、
「今日はどうだった?」
「学校のこと、何か考えた?」
と声をかけていたところです。
しかし、その日は何も聞きませんでした。
しばらくして、息子が突然言いました。
「今日さ。」
🔴 保護者
「うん。」
「学校のグループLINE来た。」
お母さんは食器を洗いながら答えました。
🔴 保護者
「そうなんだ。」
「文化祭の話してた。」
🔴 保護者
「うん。」
「みんな、普通に準備してるみたい。」
お母さんは、
「参加したいの?」
と聞きそうになりました。
しかし、少し待ちました。
「俺がいなくても、普通に進むんだなって思った。」
🔴 保護者
「……そう思ったんだね。」
「別に当たり前なんだけどさ。」
「俺一人休んだって、みんな普通なんだよ。」
お母さんは何も言わず、続きを待ちました。
「なんか……。」
長い沈黙がありました。
お母さんは振り返らず、そのまま食器を洗っていました。
そして、しばらくして息子が小さな声で言いました。
「俺、もう学校にいらないのかな。」
お母さんの手が止まりました。
すぐに、
「そんなことない!」
と言いたくなりました。
「友達だって心配しているよ。」
「先生だって待っているよ。」
そう言えば、息子を安心させられるような気がしました。
しかし、お母さんは、これまで講師と話したことを思い出しました。
そして、すぐには否定せず、静かに聞き返しました。
🔴 保護者
「……自分はいなくてもいいのかなって、思ったんだね。」
息子はしばらく黙っていました。
そして、これまでお母さんが聞いたことのなかった話を、少しずつ話し始めました。
否定せずに聞いたことで、初めて出てきた本音
「別に、みんなに嫌われてるわけじゃないと思う。」
息子は、スマートフォンを見たまま話し始めました。
🔴 保護者
「うん。」
「でも、俺がいなくても普通に進んでるのを見るとさ。」
「なんか、自分って何なんだろうって思う。」
お母さんは、すぐに励ましたくなりました。
「そんなことないよ。」
「あなたは必要な存在だよ。」
そう言えばいいような気がしました。
しかし、少し待ちました。
🔴 保護者
「自分が必要ないように感じたんだね。」
「……うん。」
「学校行ってた時も、なんかずっとそんな感じだった。」
🔴 保護者
「ずっと?」
「うん。」
「友達とは普通に話してたけど、なんか自分だけ無理してる感じがして。」
「笑わなきゃとか。」
「話合わせなきゃとか。」
「別に嫌いなわけじゃないんだけど。」
「ずっと気を使ってた。」
お母さんは、そこで初めて気づきました。
息子はこれまで、
「友達とは普通。」
と言っていました。
だから、友人関係に問題はないのだと思っていました。
しかし、
「問題がないこと」と「疲れていないこと」は同じではありません。
🔴 保護者
「友達といること自体が嫌だったわけじゃないんだね。」
「うん。」
「ただ、疲れる。」
「一人になりたい時もあるけど、一人でいると今度は『ぼっちって思われるかな』とか考えるし。」
「それで休み時間もずっと誰かといる。」
「家に帰る頃には、もう何もしたくない。」
お母さんは、ただ聞いていました。
以前なら、
「それなら一人でいればいいじゃない。」
「そんなに周りを気にしなくても大丈夫だよ。」
と言っていたかもしれません。
しかし、その日は違いました。
🔴 保護者
「毎日ずっと、周りのことを気にしてたんだね。」
息子は小さくうなずきました。
正解を言わないことで、話が深くなる
しばらくすると、息子はさらに話し始めました。
「あと、先生も苦手。」
🔴 保護者
「先生も?」
「うん。」
「別に怒鳴られるとかじゃないけど。」
「急に当てられるのが嫌。」
「答え分からないと、みんなこっち見るじゃん。」
「それがすごく嫌。」
🔴 保護者
「みんなに見られるのがつらかったんだ。」
「うん。」
「だから授業中も、いつ当てられるかずっと考えてる。」
「授業の内容より、そっちが気になってる。」
お母さんは驚きました。
これまで息子は、授業について、
「普通。」
としか言っていませんでした。
勉強についていけないわけでもありません。
成績も大きく落ちていませんでした。
それでも、教室の中ではずっと緊張していたのです。
🔴 保護者
「それは疲れるね。」
息子は、少し間を置いてから答えました。
「……うん。」
「だから朝になると、またあそこに行くのかって思う。」
「でも、こんなの理由にならないよね。」
🔴 保護者
「どうして?」
「だって、みんな普通にやってるし。」
「俺だけ無理って、おかしいじゃん。」
ここで、お母さんはまた言いたくなりました。
「おかしくないよ。」
「みんな違うんだから。」
しかし、今度もすぐには答えませんでした。
🔴 保護者
「みんなができているのに、自分だけできないように感じてるんだね。」
息子は、しばらく黙っていました。
そして、
「そう。」
とだけ答えました。
子どもが求めていたのは「答え」ではなかった
翌日、お母さんは講師にその話をしました。
🔴 保護者
「先生、昨日、初めてあんなに話してくれました。」
🔵 講師
「お母さんは、どう聞いていたんですか。」
🔴 保護者
「ほとんど何も言いませんでした。」
「息子が言ったことを繰り返すくらいで。」
「正直、何回もアドバイスしたくなりました。」
🔵 講師
「どんなアドバイスですか。」
🔴 保護者
「『先生に相談しよう。』」
「『無理に友達に合わせなくてもいいよ。』」
「『一人になりたい時は一人でいればいい。』」
「いくらでも思いつきました。」
🔵 講師
「でも、言わなかった。」
🔴 保護者
「はい。」
「不思議なんですけど、私が何も言わない方が、息子がどんどん話したんです。」
🔵 講師
「それが、『最後まで聞く』ことの大きな意味なんです。」
🔴 保護者
「私は今まで、聞いたら何か答えなきゃいけないと思っていました。」
🔵 講師
「大人はそう考えやすいですね。」
「特に保護者は、子どもを助けたいですから。」
「でも、子どもがいつも解決策を求めているとは限りません。」
「自分の中にある、まだ整理されていない気持ちを言葉にしたいだけの時もあります。」
🔴 保護者
「話しながら、自分でも分かっていく感じなんでしょうか。」
🔵 講師
「そうです。」
「『自分は友達が嫌なのではなく、周囲に合わせ続けることに疲れていたんだ。』」
「『授業が嫌なのではなく、人前で失敗する緊張がつらかったんだ。』」
「そういうことは、話しながら本人が初めて気づくこともあります。」
「話を聞く」は、原因を聞き出すことではない
🔴 保護者
「今まで私は、話を聞くというのは、原因を聞き出すことだと思っていました。」
🔵 講師
「原因を知ることが必要な時もあります。」
「ただ、それだけではないんです。」
「子どもが話している途中で、
『つまり友達が原因なのね。』
『要するに先生が嫌なのね。』
と大人がまとめてしまうと、本人の感覚とは違うところへ話が進んでしまうことがあります。」
🔴 保護者
「昨日の息子も、どれか一つが原因という感じではありませんでした。」
🔵 講師
「そうですよね。」
「友達。」
「教室。」
「先生。」
「人の目。」
「自分へのプレッシャー。」
「いろいろなものが重なっていた。」
「だからこそ、本人自身の言葉を最後まで聞く必要があったんです。」
話したあとに「どうしたい?」と聞いてみる
🔴 保護者
「では、これから具体的にどうすればいいでしょう。」
🔵 講師
「ここで初めて、一緒に考える段階に入っていけばいいと思います。」
🔴 保護者
「例えば?」
🔵 講師
「お子さんに、
『昨日話してくれたことについて、何か一緒に考えた方がいい?』
と聞いてみてもいいでしょう。」
「あるいは、
『今はまだ、話を聞くだけの方がいい?』
と聞いてもいい。」
🔴 保護者
「本人に選んでもらうんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「話を聞いたからといって、大人がすぐ全部動かなくてもいいんです。」
「子どもが、
『先生にはまだ言わないで。』
と言うかもしれません。」
「あるいは、
『先生には言ってほしいけど、自分からは言えない。』
と言うかもしれません。」
「そこで初めて、その子に合った支援を一緒に考えることができます。」
「話せる親子関係」が次の一歩をつくる
数日後。
お母さんは、息子に尋ねました。
🔴 保護者
「この前話してくれたことなんだけど。」
息子の表情が少し硬くなりました。
お母さんは慌てずに続けました。
🔴 保護者
「何か解決しようって話じゃないよ。」
「ただ、先生とかに相談した方がいいことがあるなら、一緒に考えようかなと思って。」
息子は少し考えました。
「担任には……まだ全部言わなくていい。」
🔴 保護者
「分かった。」
「でも、朝しんどいことくらいは言ってもいい。」
🔴 保護者
「それなら大丈夫?」
「うん。」
お母さんは、その言葉を受けて、担任には必要な範囲だけを伝えることにしました。
勝手にすべてを話すのではなく、息子と確認したうえで進めました。
その後も、すぐに学校へ戻れたわけではありません。
しかし、親子の会話は少しずつ変わりました。
夕食の時。
車に乗っている時。
テレビを見ている時。
何気ない場面で、息子がぽつりと話すことが増えました。
そしてお母さんも、
「何か答えなければ。」
と思わなくなっていきました。
子どもが「また話してもいい」と思えること
🔴 保護者
「先生、最近少し分かってきました。」
🔵 講師
「何が分かってきましたか。」
🔴 保護者
「話を聞くって、全部理解することでも、全部解決することでもないんですね。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「前は、子どもが話したら親が答えを出すものだと思っていました。」
「でも今は、
『また話してもいい』
と思ってもらえる方が大事なのかなって。」
🔵 講師
「私は、とても大切な視点だと思います。」
「一度の会話ですべてが分かることは、ほとんどありません。」
「今日少し話す。」
「数日後、また少し話す。」
「以前は言えなかったことを、あとになって話す。」
「そうやって少しずつ、その子の気持ちが見えてくることがあります。」
🔴 保護者
「だから、毎回答えを出さなくてもいい。」
🔵 講師
「はい。」
「そして親が、
『最後まで聞いてくれる。』
『否定しない。』
『勝手に話を広げない。』
と分かれば、子どもは安心して話せるようになります。」
おわりに
子どもの話を最後まで聞くことは、ただ黙っていればいいということではありません。
子どもの言葉を急いで判断しない。
途中で結論を出さない。
沈黙を待つ。
正論やアドバイスを少し後ろへ置く。
そして、
「それであなたはどう感じたの?」
という気持ちを大切にする。
そうした姿勢の積み重ねです。
保護者は、子どもを助けたいからこそ、すぐ解決したくなります。
しかし、子どもが本当に必要としているのは、いつも答えではありません。
「最後まで話せた。」
「否定されなかった。」
「自分の気持ちを大切にしてもらえた。」
その経験そのものが、子どもの安心感につながることがあります。
そして、
「また話してみよう。」
と思えるようになる。
これは、不登校の子どもを支えるうえでとても大きな意味を持ちます。
子どもの中には、大人が知らない気持ちがまだたくさんあります。
その気持ちを無理に引き出すのではなく、話したくなった時に受け止められる場所をつくっておく。
「あなたの話なら、最後まで聞くよ。」
その姿勢が伝わる家庭は、子どもにとって安心して戻ってこられる場所になります。
そして、自分の気持ちを安心して言葉にできるようになった時、子どもは少しずつ、
「では、自分はこれからどうしたいのだろう。」
という次の問いを、自分自身で考え始めるようになるのです。
理論編はこちらから
⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(理論編)
はじめに 「ちゃんと話を聞いているつもりなのに、子どもが途中で話すのをやめてしまいます。」 「何があったのか聞こうとすると、『もういい』と言って部屋へ戻ってしまいます。」 不登校の子どもを持つ保護者から、このような相談を […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません



