⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(理論編)
はじめに
「ちゃんと話を聞いているつもりなのに、子どもが途中で話すのをやめてしまいます。」
「何があったのか聞こうとすると、『もういい』と言って部屋へ戻ってしまいます。」
不登校の子どもを持つ保護者から、このような相談を受けることがあります。
保護者としては、子どものことが心配だからこそ話を聞こうとしています。
何がつらいのか。
学校で何があったのか。
友達との関係はどうなのか。
これからどうしたいのか。
できるだけ早く知り、何とかしてあげたいと思うでしょう。
ところが、その「何とかしてあげたい」という気持ちが強くなるほど、知らないうちに子どもの話を途中で止めてしまうことがあります。
子どもが、
「学校でさ……」
と話し始めた瞬間、
「友達と何かあったの?」
と聞く。
「最近、授業が……」
と言えば、
「勉強が分からないなら塾を考える?」
と答える。
「先生が……」
と言えば、
「先生に何か言われたの?」
と先回りする。
どれも子どもを心配しているからこその言葉です。
しかし、子どもが求めているのは、すぐに問題を解決してもらうことではない場合があります。
まず、
「自分の話を最後まで聞いてほしい」
と思っていることがあるのです。
では、「子どもの話を聞く」とは具体的にどういうことなのでしょうか。
「聞く」と「質問する」は違う
私たちは会話をするとき、相手のことを理解しようとして質問します。
「どうして?」
「何があったの?」
「誰に言われたの?」
「いつから?」
もちろん、質問すること自体が悪いわけではありません。
必要な情報を知るためには質問も必要です。
しかし、質問が多くなると、会話の主導権が子どもから保護者へ移ってしまいます。
例えば、子どもが、
「最近、教室にいると疲れるんだ。」
と言ったとします。
そこで、
「友達関係?」
「授業についていけないの?」
「先生が嫌なの?」
「クラスで何かあった?」
と次々に聞けば、子どもは自分の気持ちを話すより、保護者から出された質問に答えることになります。
つまり、
「子どもが話す時間」が「大人が原因を調べる時間」に変わってしまうのです。
話を聞く時には、質問する前に少し待ってみることが大切です。
「教室にいると疲れるんだね。」
と返してみる。
すると子ども自身が、
「うん。別に誰かに何かされてるわけじゃないんだけど……。」
と続きを話すかもしれません。
その先に、本当に伝えたかったことが出てくる場合があります。
子どもの話は最初から整理されているとは限らない
大人はつい、
「結局、何が言いたいの?」
と考えてしまうことがあります。
しかし、子ども自身も自分の気持ちを整理できていない場合があります。
「なんか嫌。」
「分からない。」
「別に。」
「なんとなく。」
こうした言葉が出てくることもあります。
保護者からすると、
「それでは分からない。」
と思うでしょう。
しかし、その「分からない」こそが、その時の正直な気持ちなのかもしれません。
人間の気持ちは、いつも明確な言葉になるわけではありません。
特に心が疲れている時には、
「何がつらいのか分からないけれど、とにかくつらい。」
ということがあります。
そのため、
「ちゃんと説明して。」
と求めるより、
「自分でもよく分からないんだね。」
と受け止める方が、次の言葉につながることがあります。
沈黙を怖がらない
子どもとの会話で、保護者が苦手に感じやすいものがあります。
それが「沈黙」です。
子どもが話を止める。
十秒。
二十秒。
何も言わない。
すると大人は不安になります。
「話したくないのかな。」
「何か言わなければ。」
そして、
「それで?」
「何があったの?」
「誰かに何かされた?」
と質問してしまいます。
しかし、子どもはその沈黙の間に、自分の気持ちを探しているのかもしれません。
何と言えばいいのか。
どこまで話していいのか。
この言葉を言ったら親はどう思うのか。
そう考えながら、次の言葉を探していることがあります。
だから、沈黙が生まれた時に、すぐ埋める必要はありません。
少し待つ。
子どもが話し始めるまで待つ。
この「待つ時間」も、話を聞く技術の一つです。
話の途中で正論を入れない
子どもの話を聞いていると、
「それはあなたにも悪いところがあるんじゃない?」
と思うことがあります。
例えば、
「先生に怒られた。」
と言われたので理由を聞くと、
「宿題を出していなかったから。」
ということもあるでしょう。
すると、
「それは宿題を出さなかったあなたが悪いでしょう。」
と言いたくなります。
確かに、事実としてはそうかもしれません。
しかし、子どもが今話しているのは、「誰が正しいか」を決めるためではない可能性があります。
「みんなの前で怒られて恥ずかしかった。」
「怖かった。」
「そのあと教室にいるのがつらかった。」
という気持ちを伝えようとしているのかもしれません。
その途中で正論を入れると、子どもは、
「やっぱり話しても分かってもらえない。」
と感じることがあります。
正しいことを伝える必要があるとしても、まず話を最後まで聞いてからで構いません。
理解することと、すべてに賛成することは違います。
子どもの気持ちを理解したからといって、子どもの行動をすべて肯定しなければならないわけではありません。
「でも」「だって」をいったん置いておく
子どもが、
「先生は俺のこと嫌ってる。」
と言ったとします。
保護者は、
「そんなことないよ。先生は心配してくれているよ。」
と言いたくなるでしょう。
あるいは、
「学校なんて何の意味もない。」
と言われれば、
「でも、勉強は将来必要でしょう。」
と言いたくなるかもしれません。
もちろん、保護者の言っていることにも理由があります。
しかし、
「でも」
という言葉には、相手からすると「あなたの考えは違う」という響きが含まれることがあります。
まずは、
「先生に嫌われているように感じるんだね。」
「今は学校に意味を感じられないんだね。」
と受け止める。
その後で必要なら、
「どうしてそう感じるようになったの?」
と聞くことができます。
最初から考えを訂正するのではなく、まずその子から見えている世界を理解しようとすることが大切です。
アドバイスは「最後」にする
保護者は子どもより人生経験があります。
そのため、話を聞いている途中で解決策が思い浮かぶことがあります。
「先生に相談すればいい。」
「クラスを変えてもらえばいい。」
「塾へ行けば追いつける。」
「気にしなければいい。」
「一度友達に謝ればいい。」
しかし、子どもがまだ話している途中なら、アドバイスを急ぐ必要はありません。
子どもは、
「解決方法を知りたい」
のではなく、
「自分がどれだけつらかったのか分かってほしい」
と思っていることもあるからです。
最後まで聞いたあと、
「話してくれてありがとう。」
と伝える。
そのうえで、
「何か一緒に考えた方がいい?」
と尋ねてもいいでしょう。
子どもが、
「今日は聞いてくれるだけでいい。」
と言うなら、それも一つの答えです。
「分かるよ」と簡単に言わない
共感しようとして、
「分かるよ。」
と言うことがあります。
しかし、子どもから、
「お母さんには分からない。」
「学校に行っているのは自分なんだから。」
と反発されることもあります。
これは、保護者を拒絶しているとは限りません。
子どもにとっては、
「自分の苦しさを簡単に分かったと言ってほしくない」
という気持ちなのかもしれません。
そんな時は、
「全部は分からないかもしれない。」
「でも、あなたがつらいということは分かりたいと思っている。」
という姿勢でも十分です。
相手の気持ちを完全に理解することはできなくても、
理解しようとすることはできます。
その姿勢が伝わることが大切なのです。
話した内容をすぐ他の人へ伝えない
子どもが勇気を出して話してくれた内容を、すぐ学校の先生や家族へ伝えてしまうことがあります。
保護者としては問題を解決するためです。
しかし、子どもからすると、
「お母さんに話したら、すぐ先生に伝わった。」
となれば、それ以降話さなくなることがあります。
そのため、学校などへ相談する必要がある場合には、可能であれば、
「この話、先生にも相談していい?」
「どこまでなら話していい?」
と本人に確認することも大切です。
ただし、安全に関わる重大な内容など、子どもの安全を守るために大人が動かなければならない場合は別です。
その場合も、可能な範囲で、
「あなたを守るために、大人にも相談したい。」
と説明することが大切です。
子どもが話しやすいのは「正面」だけではない
大切な話だからと、
「ちょっとそこに座って。」
「ちゃんと話をしよう。」
と向かい合うことがあります。
しかし、子どもによっては、正面から見つめられると話しにくくなることがあります。
車に乗っている時。
一緒に散歩している時。
夕食の片づけをしている時。
ゲームをしている時。
テレビを見ている時。
そんな何気ない時間に、突然ぽつりと話し始めることがあります。
保護者にとっては、
「今?」
と思うタイミングかもしれません。
しかし、子どもにとっては、そのくらいの距離感だから話せることもあります。
話し合いの場を無理に作るだけでなく、普段の生活の中に話せる余白を残しておくことも大切です。
「話してくれてありがとう」で終わっていい
子どもが話し終わったあと、大人は何か立派なことを言わなければならないと思いがちです。
しかし、必ずしも必要ではありません。
「そうだったんだね。」
「それはしんどかったね。」
「話してくれてありがとう。」
それだけで終わることがあってもいいのです。
子どもにとって、
「最後まで話せた。」
「途中で否定されなかった。」
「怒られなかった。」
「すぐ解決策を押しつけられなかった。」
という経験そのものに意味があります。
そして、その経験が、
「また何かあったら話してみよう。」
という気持ちにつながります。
「聞くこと」は問題解決の前にある
不登校になると、保護者はどうしても解決を急ぎたくなります。
学校へ戻すにはどうすればいいか。
勉強の遅れをどうするか。
進路をどうするか。
生活リズムをどうするか。
どれも大切な問題です。
しかし、それらを考える前に必要なのが、
「子ども自身は今、何を感じているのか」
を知ることです。
そして、それを知るためには、大人が答えを与えるより先に、子どもの言葉を受け取る必要があります。
聞く。
待つ。
受け止める。
必要なら確認する。
そして、また聞く。
一見すると何も解決していないように見えるかもしれません。
しかし、子どもが、
「自分のことを話しても大丈夫。」
と思える関係をつくることは、その後の支援を考えるための大切な土台になります。
子どもの話を聞く時に意識したい七つのこと
実際に子どもが話し始めた時には、次の七つを意識してみてください。
- 途中で結論を決めない
「原因はこれだ」と先回りせず、まず最後まで聞きます。 - 質問を連続させない
質問する前に、「そうなんだね」と一度受け止めます。 - 沈黙を急いで埋めない
子どもが次の言葉を探す時間を待ちます。 - 正論を途中で入れない
必要な話があっても、まず気持ちを聞き終えます。 - すぐ解決しようとしない
「どうすればいいか」より先に、「どう感じているか」を理解します。 - 話したことを大切に扱う
必要もなく他人へ広げず、相談が必要な時は可能な範囲で本人にも伝えます。 - 最後に感謝する
「話してくれてありがとう」と伝えます。
すべてを完璧にできなくても構いません。
一つでも意識するだけで、親子の会話は変わっていきます。
まとめ
子どもの話を最後まで聞くことは、簡単そうに見えて、実はとても難しいことです。
特に不登校のように保護者自身も不安を抱えている状況では、
「原因を知りたい。」
「早く解決したい。」
「何とかしてあげたい。」
という気持ちが強くなります。
だからこそ、質問したくなる。
アドバイスしたくなる。
正しい方向へ導きたくなる。
それは、子どもを大切に思っているからこその反応でもあります。
しかし、時には解決することより先に、
「この子の話を最後まで聞こう」
と決めることが必要です。
「分からない。」
と言われたら、分からないまま待つ。
沈黙したら、少し待つ。
自分とは違う考えを話しても、すぐ否定しない。
そして最後に、
「話してくれてありがとう。」
と伝える。
それだけでも、子どもの中に、
「ここなら話しても大丈夫。」
という安心感が生まれることがあります。
不登校の支援では、保護者がすべての答えを持っている必要はありません。
むしろ、子ども自身の中にある言葉を、一緒に探していく姿勢が大切です。
子どもの話を最後まで聞くことは、単なる会話の技術ではありません。
「あなたの気持ちは、聞く価値がある。」
「あなたが何を感じているのかを、私は知りたい。」
そう伝える行為でもあります。
その積み重ねによって、子どもは少しずつ自分の気持ちを言葉にできるようになります。
そして、自分の気持ちを言葉にできるようになることが、次にどうしたいのかを自分自身で考えていくための土台になっていくのです。
実際の例はこちらから
⑩ 子どもの話を最後まで聞く技術(実践編)
はじめに 「ちゃんと話を聞いているつもりなんです。」 「でも、途中で『もういい』と言われてしまいます。」 不登校の子どもを心配する保護者ほど、子どもの話を一生懸命聞こうとします。 何があったのか。 学校の何がつらいのか。 […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません



