⑨ 「学校へ行きたくない」と言われた最初の日の対応(実践編)
はじめに
最初の日こそ、すぐに答えを出そうとするのではなく、子どもの状態を見ることが大切です
学校行きたくない・・・。
ほう。そういう日もあるか・・・。
いいの?
できれば行ったほうがいいんだろうけどね・・・。
- 1. はじめに
- 2. 突然の「学校へ行きたくない」
- 2.1. 「どうして?」を繰り返してしまった朝
- 3. 最初に必要だった言葉は何だったのか
- 3.1. 「一日休んだら不登校になる」という不安
- 3.2. 休むと決めた後の言葉
- 3.3. 午後になったら元気になった
- 3.4. 「明日は行ける?」と聞きたくなる夜
- 4. 二日目も「行きたくない」と言われたら
- 4.1. 「学校へ行かせる」より先に「何が起きているか」を見る
- 4.2. 学校にはどこまで話せばいいのか
- 4.3. 学校とのつながりを切る必要もない
- 4.4. その夜、母親から息子へ伝えたこと
- 4.5. 「聞かない」ことで話し始めることもある
- 5. 最初の日にすべてを解決しなくていい
- 5.1. 保護者にとっても「分からないまま待つ」勇気が必要
- 6. おわりに
- 6.1.1. 理論編はこちらから
はじめに
「お母さん、今日、学校行きたくない。」
朝の忙しい時間に、突然子どもからそう言われたら、保護者は戸惑うでしょう。
昨日までは普通に学校へ行っていた。
夕食もいつも通り食べていた。
特に変わった様子もなかった。
それなのに、朝になって突然「行きたくない」と言う。
時計を見ると、登校時間は迫っています。
「何かあったの?」
「友達とけんかした?」
「先生に何か言われた?」
理由を知りたくなります。
そして同時に、
「ここで休ませていいのだろうか。」
「一度休ませたら、明日も休むのではないか。」
という不安も出てきます。
しかし、この最初の日こそ、すぐに答えを出そうとするのではなく、子どもの状態を見ることが大切です。
今回は、中学一年生の子どもから突然「学校へ行きたくない」と言われた保護者のケースを通して、最初の日にどのように対応すればよいのかを考えていきます。
突然の「学校へ行きたくない」
午前七時。
いつものように、お母さんは息子の部屋のドアを開けました。
🔴 保護者
「おはよう。もう七時だよ。」
布団の中から返事がありません。
🔴 保護者
「そろそろ起きないと遅れるよ。」
しばらくすると、小さな声が返ってきました。
「……分かってる。」
いつもなら、そのあとしばらくすると起きてきます。
ところが、その日は七時十五分になっても部屋から出てきませんでした。
🔴 保護者
「もう七時十五分だよ。朝ごはんできてるよ。」
すると、布団の中から今まで聞いたことのない言葉が返ってきました。
「……今日、学校行きたくない。」
🔴 保護者
「え?」
お母さんは思わず聞き返しました。
「学校行きたくない。」
🔴 保護者
「どうしたの?」
「何かあった?」
返事はありません。
🔴 保護者
「友達と何かあった?」
「先生に何か言われた?」
それでも返事はありません。
🔴 保護者
「昨日は普通だったじゃない。」
「何があったの?」
息子は布団を頭までかぶりました。
「……分からない。」
🔴 保護者
「分からないって……。」
お母さんは時計を見ました。
七時二十分。
あと二十分ほどで家を出なければなりません。
「理由もないのに休ませていいのだろうか。」
そんな考えが頭をよぎりました。
🔴 保護者
「とりあえず起きよう。」
「朝ごはん食べてから考えよう。」
「学校へ行ったら、意外と大丈夫かもしれないよ。」
しかし、息子は動きません。
「行きたくない。」
🔴 保護者
「でも、理由が分からないんでしょう?」
「だったら、とりあえず行ってみたら?」
息子は何も答えませんでした。
「どうして?」を繰り返してしまった朝
その日の午後、お母さんは相談の電話をしました。
🔴 保護者
「先生、今朝、息子から初めて『学校へ行きたくない』と言われたんです。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
「今日は学校を休んだのですか。」
🔴 保護者
「はい。」
「結局、休ませました。」
「でも、これでよかったのか分からなくて……。」
🔵 講師
「朝はどんな様子でしたか。」
お母さんは、朝のやり取りを説明しました。
🔴 保護者
「私、ずっと理由を聞いてしまったんです。」
「『何があったの?』」
「『友達?』」
「『先生?』」
「『勉強?』」
「でも全部『分からない』でした。」
🔵 講師
「お子さん、本当に分からなかったのかもしれませんね。」
🔴 保護者
「でも、理由がないのに学校へ行きたくなくなることなんてあるんでしょうか。」
🔵 講師
「『理由がない』のと『理由を説明できない』のは違います。」
🔴 保護者
「説明できない?」
🔵 講師
「例えば、一つの大きな出来事があったのなら説明しやすいですよね。」
「友達とけんかした。」
「先生に叱られた。」
「テストが嫌だ。」
「そういうことであれば、本人も『これが原因』と言えるかもしれません。」
「でも、小さな疲れがいくつも積み重なっている場合はどうでしょう。」
🔴 保護者
「本人にも分からない?」
🔵 講師
「そうです。」
「授業についていくのが少し大変だった。」
「友達に少し気を遣っていた。」
「部活動でも疲れていた。」
「朝早く起きるのもしんどかった。」
「先生に注意されたことも少し気になっていた。」
「でも、どれか一つが決定的な原因ではない。」
「そういう時、子ども自身も『なぜ行きたくないのか』をうまく説明できないことがあります。」
🔴 保護者
「だから『分からない』だったんですね。」
🔵 講師
「可能性の一つとしては、そう考えられます。」
「ですから、最初から理由を聞き出すことだけに集中しなくてもいいんです。」
最初に必要だった言葉は何だったのか
🔴 保護者
「では、今朝は何と言えばよかったんでしょう。」
🔵 講師
「例えば最初に、
『今日は学校へ行くのがつらいんだね。』
と返すだけでもよかったと思います。」
🔴 保護者
「それだけですか。」
🔵 講師
「はい。」
「すぐに解決しようとしなくていいんです。」
「子どもが、
『学校へ行きたくない。』
と言った。」
「まず、その言葉をそのまま受け止める。」
「それから、
『何か話したくなったら聞くよ。』
でもいいんです。」
🔴 保護者
「私は逆でした。」
「言われた瞬間に『原因を見つけなきゃ』と思いました。」
🔵 講師
「保護者としては当然だと思います。」
「原因が分かれば解決できると思いますから。」
🔴 保護者
「そうなんです。」
「もし友達なら学校に相談しよう。」
「勉強なら一緒に考えよう。」
「先生なら話を聞こう。」
「そう思っていました。」
🔵 講師
「それは、お子さんを助けたいからですよね。」
「ただ、子どもがまだ自分の気持ちを整理できていない時に質問が続くと、
『理由を説明できないと休んではいけない』
と感じることがあります。」
🔴 保護者
「あ……。」
🔵 講師
「お子さんは最後まで『分からない』と言っていたんですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「もしかすると、
『自分でも分からない。でも、とにかく今日は行けない。』
という状態だったのかもしれません。」
「一日休んだら不登校になる」という不安
🔴 保護者
「先生、正直に言うと、一番怖かったのは不登校になることなんです。」
🔵 講師
「そうですよね。」
🔴 保護者
「ニュースやインターネットでも、不登校が増えているという話を見ます。」
「だから『ここで休ませたら、このままずっと行かなくなるんじゃないか』と思ってしまいました。」
🔵 講師
「でも、一日休んだから、その一日だけで将来が決まるわけではありません。」
🔴 保護者
「そうですよね……。」
🔵 講師
「大切なのは、今日一日の欠席だけを見ることではなく、お子さんが今どんな状態なのかを見ることです。」
「昨夜は眠れていましたか。」
🔴 保護者
「そういえば最近、寝るのが遅くなっていました。」
🔵 講師
「食欲はどうでしょう。」
🔴 保護者
「少し減っています。」
「以前は朝ごはんをかなり食べる子だったんですが、最近はパンを半分くらい残すことがあります。」
🔵 講師
「家に帰ってきた時の様子は?」
🔴 保護者
「疲れていることが増えました。」
「前は帰ってきたらゲームをしたり、弟と話したりしていたんです。」
「最近は『疲れた』と言って部屋へ行くことがあります。」
お母さんは、そこまで話してから黙りました。
🔴 保護者
「……もしかして、前から何かサインがあったんでしょうか。」
🔵 講師
「今のお話だけで断定することはできません。」
「ただ、少なくとも『今朝突然すべてが始まった』とは限らないですよね。」
「少し前から疲れがたまっていて、今日初めて『学校へ行きたくない』という言葉になった可能性もあります。」
🔴 保護者
「私は、その一言しか見ていませんでした。」
「『学校へ行きたくないと言い出した。大変だ。』って。」
🔵 講師
「その一言だけではなく、その前後の生活を見ることが大切なんです。」
休むと決めた後の言葉
🔴 保護者
「結局、今朝は八時過ぎに『もう今日は休みなさい』と言いました。」
🔵 講師
「その時、お子さんはどうしましたか。」
🔴 保護者
「布団から出てきました。」
「そして『ごめん』と言いました。」
🔵 講師
「謝ったんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「私も少しイライラしていたので、
『もう休むって決めたんだから、そんな顔しないの。』
と言ってしまいました。」
🔵 講師
「お母さんも朝から緊張していたんですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
「仕事にも連絡しなければいけなかったし、学校にも電話しなければいけないし……。」
「正直、『どうして今日なの』という気持ちもありました。」
🔵 講師
「それも自然な感情だと思います。」
「保護者にも生活がありますから。」
「大切なのは、そう思ってしまった自分を責めることではなく、今からどう関わるかです。」
🔴 保護者
「今からでも大丈夫でしょうか。」
🔵 講師
「もちろんです。」
「例えば今日の夜、
『今朝はお母さんも焦って、いろいろ聞き過ぎたね。』
『ごめんね。』
『話したくなった時でいいから、何かあったら聞かせてね。』
と伝えることもできます。」
🔴 保護者
「親から謝ってもいいんですね。」
🔵 講師
「もちろんです。」
「大人だから、いつも完璧に対応できるわけではありません。」
「むしろ、
『間違えた時には謝っていい。』
『もう一度話し直していい。』
という姿を見せることも、親子関係では大切です。」
午後になったら元気になった
🔴 保護者
「ただ先生、少し気になることがあります。」
🔵 講師
「何でしょう。」
🔴 保護者
「朝はあんなに動けなかったのに、お昼くらいから元気になったんです。」
「昼ごはんも普通に食べました。」
「午後にはゲームもしています。」
🔵 講師
「それを見て、どう感じましたか。」
🔴 保護者
「正直……。」
「『学校へ行きたくなかっただけじゃないの?』と思いました。」
「朝は『お腹が痛い』とも言っていたのに、今は全然痛くないそうです。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「だったら、少し頑張れば行けたんじゃないでしょうか。」
🔵 講師
「ここは、保護者の方がとても迷いやすいところです。」
「朝はつらそうだった。」
「でも学校を休むと決まったら、少しずつ元気になった。」
「すると『仮病だったのでは』と思ってしまう。」
🔴 保護者
「はい。まさにそうです。」
🔵 講師
「でも、『学校へ行かなければならない』という緊張がなくなったことで、心や体が楽になることもあります。」
「ですから、午後に元気になったという事実だけで、朝のつらさまで嘘だったと決めつける必要はありません。」
🔴 保護者
「では、ゲームをしていても何も言わない方がいいんでしょうか。」
🔵 講師
「家庭としてのルールはあっていいと思います。」
「ただ、
『ゲームできるなら学校へ行けたでしょう。』
と結びつけるのは避けた方がいいでしょう。」
「学校へ行くことと、自宅で自分のペースでゲームをすることでは、必要な負担が違いますから。」
🔴 保護者
「なるほど……。」
🔵 講師
「そして、今日の午後に元気が戻ってきたのであれば、
『少し楽になったみたいでよかった。』
くらいでもいいと思います。」
「明日は行ける?」と聞きたくなる夜
🔴 保護者
「先生、たぶん今日の夜、私は聞きたくなると思います。」
🔵 講師
「何をでしょう。」
🔴 保護者
「『明日は学校へ行ける?』って。」
🔵 講師
「そうですよね。」
「明日のことが心配ですから。」
🔴 保護者
「聞かない方がいいんでしょうか。」
🔵 講師
「必ずしも聞いてはいけないわけではありません。」
「ただ、『明日は絶対に行く』という約束をさせる必要はないと思います。」
🔴 保護者
「息子の方から『明日は行く』と言うかもしれません。」
🔵 講師
「その時も、
『そう思っているんだね。明日の朝の様子を見て決めよう。』
くらいでいいと思います。」
🔴 保護者
「『じゃあ絶対行こうね』とは言わない。」
🔵 講師
「はい。」
「夜は少し元気でも、朝になるとまた状態が変わることがあります。」
「そこで行けなかった時、
『昨日、行くって約束したのに。』
と言われると、子どもは『また約束を守れなかった』と自分を責めてしまうことがあります。」
🔴 保護者
「今日一日だけでも、息子はかなり自分を責めているのかもしれませんね。」
🔵 講師
「だからこそ、今日は今日で終わらせてもいいんです。」
「明日のことは、明日考える。」
お母さんは少し安心したようにうなずきました。
しかし、しばらくして、もう一つ大きな不安を口にしました。
🔴 保護者
「先生……もし明日の朝も『行きたくない』と言ったら、その時はどうすればいいんでしょうか。」
講師は、その質問にすぐ答えるのではなく、まずお母さんに一つ尋ねました。
二日目も「行きたくない」と言われたら
🔵 講師
「お母さんは、もし明日の朝も『行きたくない』と言われたら、一番何が怖いですか。」
🔴 保護者
「やっぱり……このまま学校へ行けなくなることです。」
「今日一日だけなら『疲れていたのかな』と思えます。」
「でも二日続いたら、不登校が始まったような気がしてしまいます。」
🔵 講師
「そうですよね。」
「では、もし明日も行けなかったとして、お母さんはどうしたいですか。」
🔴 保護者
「できれば学校へ行かせたいです。」
「でも、今日みたいに布団の中で苦しそうにしていたら、無理に連れて行くこともできません。」
「だから、どうしたらいいのか分からなくて……。」
🔵 講師
「そこで大切なのは、『二日休んだ』という数字だけで判断しないことです。」
🔴 保護者
「日数ではないんですか。」
🔵 講師
「はい。」
「例えば、昨日まで元気だった子が、たまたま二日間体調を崩すこともあります。」
「反対に、学校には行っていても、何週間も前から無理を重ねている子もいます。」
「ですから、
『何日休んだか』
だけではなく、
『その子にどんな変化が起きているか』
を見ていくことが大切です。」
🔴 保護者
「今日話した、睡眠や食欲のようなことですね。」
🔵 講師
「そうです。」
「朝だけつらいのか。」
「一日中元気がないのか。」
「眠れているのか。」
「食事は取れているのか。」
「家族とは話せているのか。」
「学校について話すと、どんな反応をするのか。」
「そうした変化を少しずつ見ていきます。」
「学校へ行かせる」より先に「何が起きているか」を見る
🔴 保護者
「私は今日、『どうやったら学校へ行かせられるか』しか考えていませんでした。」
🔵 講師
「最初はそうなりやすいと思います。」
「朝ですから時間もありません。」
「登校時間までに結論を出さなければならないと思ってしまいます。」
🔴 保護者
「本当にそうでした。」
「七時二十分。」
「七時半。」
「あと十五分。」
「あと十分。」
「時計を見るたびに焦っていました。」
🔵 講師
「すると、お母さんの中でも、
『原因を聞く』
というより、
『何とか間に合わせる』
ことが目的になってしまいますよね。」
🔴 保護者
「はい。」
「『とりあえず制服を着よう』」
「『車で送るから』」
「『遅刻してもいいから』」
「次々と言っていました。」
🔵 講師
「もちろん、それで動ける子もいます。」
「少し背中を押してもらったことで学校へ行ける場合もあります。」
「だから、すべての声かけが間違いということではありません。」
「ただ、何を言っても動けず、明らかにつらそうな状態なら、そこで一度立ち止まって、
『今日は行かせることより、この子の状態を見よう』
と切り替えることも必要です。」
🔴 保護者
「同じ『学校へ行きたくない』でも、その子の状態によって対応が違うんですね。」
🔵 講師
「そうです。」
「だからこそ、一つの正解に当てはめないことが大切です。」
学校にはどこまで話せばいいのか
🔴 保護者
「学校への連絡も迷っています。」
「今朝は『体調が悪いので休ませます』とだけ言いました。」
「でも、本当は『学校へ行きたくないと言っています』と伝えた方がよかったのでしょうか。」
🔵 講師
「今日の段階では、無理にすべて説明しなくてもいいと思います。」
🔴 保護者
「そうなんですか。」
🔵 講師
「まだお子さん自身も理由が分かっていませんよね。」
「それなのに、お母さんが推測で、
『友達関係かもしれません。』
『先生との関係かもしれません。』
と話してしまうと、話が先に進み過ぎてしまうことがあります。」
🔴 保護者
「確かに、私もまだ何も分かっていません。」
🔵 講師
「まずは事実を伝えればいいんです。」
「『今朝、本人から学校へ行きたくないという言葉があり、今日は休ませました。少し様子を見たいと思います。』」
「それくらいでも構いません。」
🔴 保護者
「先生から理由を聞かれたら?」
🔵 講師
「『本人もまだうまく説明できないようです』と伝えればいいでしょう。」
「分からないことを、無理に分かったことにしなくてもいいんです。」
学校とのつながりを切る必要もない
🔴 保護者
「逆に、学校から電話が来たら息子に代わった方がいいですか。」
🔵 講師
「それも、お子さんの状態によります。」
「先生と話したいというのであれば話してもいいでしょう。」
「でも、電話が負担になっているなら、
『今日は私が聞いておくね。』
と保護者が間に入っても構いません。」
🔴 保護者
「学校から離した方がいいのか、つないでおいた方がいいのか……難しいですね。」
🔵 講師
「ゼロか百かで考えなくていいんです。」
「毎日教室へ行くことだけが、学校とのつながりではありません。」
「保護者が担任と連絡を取る。」
「学校からのお便りを受け取る。」
「本人が見たい時だけクラスの予定を見る。」
「その子に負担の少ない形で、つながりを残す方法もあります。」
🔴 保護者
「今すぐ全部決める必要はないんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「今日が最初の日なら、なおさらです。」
その夜、母親から息子へ伝えたこと
その日の夜。
お母さんは、相談で話したことを思い出しながら息子の様子を見ていました。
息子はリビングでテレビを見ていました。
朝の苦しそうな表情とは違い、少し落ち着いているように見えます。
お母さんは隣に座りました。
🔴 保護者
「ちょっといい?」
息子はテレビを見たまま、
「何?」
と答えました。
🔴 保護者
「朝のことなんだけど。」
息子の表情が少し硬くなりました。
お母さんは、それに気づきました。
以前なら、
「明日はどうする?」
と聞いていたかもしれません。
しかし、その日は違いました。
🔴 保護者
「朝、お母さん焦っちゃって、いろいろ聞き過ぎたね。」
息子は黙っています。
🔴 保護者
「『何があったの?』って何回も聞いたけど、自分でも分からなかったんだよね。」
しばらくして、息子が小さく答えました。
「……うん。」
🔴 保護者
「ごめんね。」
「今すぐ理由を話さなくてもいいから。」
「もし何か話したくなったら、その時に聞くよ。」
息子は何も言いませんでした。
しかし、部屋へ戻ろうとはしませんでした。
そのままテレビを見続けています。
お母さんも、それ以上は質問しませんでした。
しばらくして、息子の方から口を開きました。
「別に、誰かにいじめられてるとかじゃないよ。」
🔴 保護者
「うん。」
「でも……なんか疲れる。」
🔴 保護者
「学校が?」
「……分かんない。」
お母さんは、そこで質問を重ねるのをやめました。
🔴 保護者
「そっか。疲れてるんだね。」
息子は小さくうなずきました。
「聞かない」ことで話し始めることもある
後日、お母さんはその時のことを講師に話しました。
🔴 保護者
「先生、不思議でした。」
「朝はあれだけ質問しても『分からない』しか言わなかったのに、夜は自分から少し話したんです。」
🔵 講師
「話さなければならない状況ではなくなったからかもしれませんね。」
🔴 保護者
「どういうことですか。」
🔵 講師
「朝は、お子さんにとって、
『理由を説明しなければ学校を休めない』
ような感覚があったのかもしれません。」
「そうなると、質問されるたびに答えを探さなければなりません。」
「でも夜は、
『今すぐ話さなくていい』
と言ってもらえた。」
「だから、自分のペースで気持ちを探せたのかもしれません。」
🔴 保護者
「聞かない方が話してくれることもあるんですね。」
🔵 講師
「あります。」
「大切なのは、『聞かない』ことそのものではありません。」
「『話したくなったら聞いてもらえる』という状態をつくっておくことです。」
最初の日にすべてを解決しなくていい
翌朝。
お母さんは、昨日より少し早く目を覚ましました。
「今日はどうなるだろう。」
やはり不安はあります。
息子の部屋へ行き、声をかけました。
🔴 保護者
「おはよう。」
しばらくして返事がありました。
「……おはよう。」
🔴 保護者
「体調どう?」
「昨日よりはいい。」
お母さんは、一瞬、
「じゃあ学校へ行ける?」
と言いそうになりました。
しかし、言葉を変えました。
🔴 保護者
「そっか。昨日より楽なんだね。」
息子はしばらく黙ったあと、
「今日も……休みたい。」
と言いました。
お母さんの胸には、やはり不安が広がりました。
二日目。
「本当にこれでいいのだろうか。」
その思いがなくなったわけではありません。
それでも、昨日のようにすぐ質問を重ねることはしませんでした。
🔴 保護者
「分かった。」
「今日は少し様子を見よう。」
息子は驚いたようにお母さんを見ました。
そして、
「……ごめん。」
と小さく言いました。
🔴 保護者
「謝らなくていいよ。」
「学校のことは、お母さんから連絡しておくから。」
その言葉を聞いて、息子は少しだけ肩の力を抜いたように見えました。
保護者にとっても「分からないまま待つ」勇気が必要
🔴 保護者
「先生、二日目も休みました。」
🔵 講師
「お母さんは、どんな気持ちでしたか。」
🔴 保護者
「不安です。」
「今も不安です。」
「でも、昨日とは少し違います。」
🔵 講師
「何が違いますか。」
🔴 保護者
「昨日は、
『学校へ行かせなきゃ。』
『原因を見つけなきゃ。』
『今日中に何とかしなきゃ。』
と思っていました。」
「今日は、
『まだ分からないこともある。』
と思えるようになりました。」
🔵 講師
「それは、とても大切な変化だと思います。」
🔴 保護者
「親としては、答えが欲しくなるんですよね。」
「何が原因なのか。」
「いつ学校へ戻れるのか。」
「何をすればいいのか。」
🔵 講師
「そうですね。」
「でも、不登校の始まりでは、すぐには分からないことがたくさんあります。」
「だから、
『分からないから何もできない』
ではなく、
『分からないからこそ、まず状態を見る』
という考え方が大切です。」
🔴 保護者
「今日休んだことが正解だったのかも、まだ分かりません。」
🔵 講師
「それでいいんです。」
「今日の時点ですべてを正解・不正解に分ける必要はありません。」
「お子さんの状態を見ながら、必要なら学校とも相談する。」
「状態が続いたり心配な変化があったりすれば、適切な相談先につなぐ。」
「そして家庭では、話せる関係を守っていく。」
「そうやって、一つずつ考えていけばいいんです。」
おわりに
「学校へ行きたくない。」
子どもから初めてその言葉を聞いた時、保護者が動揺するのは当然です。
原因を知りたい。
学校へ行かせたい。
このまま不登校になったらどうしよう。
さまざまな不安が一気に押し寄せます。
しかし、最初の日にすべての答えを出す必要はありません。
まず必要なのは、
「学校へ行きたくないほど、今はつらいんだね。」
と、その子の現在の状態を見ることです。
理由が分からなくても構いません。
本人にも説明できないことがあります。
そして保護者が朝の対応で焦ってしまったとしても、それですべてが決まるわけではありません。
あとから、
「朝は焦って聞き過ぎたね。」
「話したくなった時に聞くよ。」
と伝え直すことができます。
子どもが「学校へ行きたくない」と言った最初の日は、将来を決める日ではありません。
学校へ戻る日を決める日でもありません。
「困った時には、この人に話しても大丈夫なんだ」と子どもが感じられる関係を守る日です。
その安心感があれば、子どもは自分でも整理できなかった気持ちを、少しずつ言葉にできるようになることがあります。
今日分からないことは、明日分かるかもしれません。
明日分からなくても、少し時間がたってから見えてくることもあります。
焦って答えを出すのではなく、子どもの状態を見ながら一つずつ考えていく。
それが、「学校へ行きたくない」と言われた最初の日から始められる、大切な対応なのです。
理論編はこちらから
⑨ 「学校へ行きたくない」と言われた最初の日の対応(理論編)
はじめに 朝、いつものように子どもを起こした時、 「今日、学校へ行きたくない。」 突然そう言われたら、保護者はどうすればいいのでしょうか。 「何があったの?」 「昨日までは普通だったのに。」 「とりあえず学校へ行けば何と […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
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② 現在の状況をヒアリング
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