⑬ 学校との距離感の作り方(実践編)
はじめに
学校とのつながりを大切にしようとするあまり、子どもにとってその関係が大きなプレッシャーになってしまうこともあります・・・。
心配してくれるのはありがたいけど・・・。
まあ、そうだよね。
頻繁に・・・ってなるとね。
難しいところだよね・・・。
- 1. はじめに
- 2. 「先生から電話が来ると、そのあと部屋から出てこないんです」
- 2.1. 「先生は心配してくれているんだから」
- 2.2. 大切なのは「電話できたか」より「電話のあと」
- 2.3. 「学校から離したら戻れなくなる」が怖い
- 3. 「しばらく私だけが先生と話してもいいですか?」
- 3.1. 学校からの情報を全部伝えていた
- 3.2. 「先生が待っているよ」がプレッシャーになることもある
- 3.3. 一度できたことを「次の一歩」にしない
- 3.4. 「できた」で終わらせてもよかった
- 3.5. 学校への興味と「行きたい」は同じではない
- 4. 「話してもいい」を急いで予定に変えない
- 4.1. 「今すぐ決めなくていい」が安心につながる
- 4.2. 学校にも「今の距離」を伝えてみる
- 4.3. 学校と家庭が同じ方向を見る
- 4.4. 子どもに学校とのやり取りを報告する
- 4.5. 子どもが自分で「距離」を決め始める
- 5. 「学校へ行く」ではなく「先生に会う」
- 5.1. 「次は校舎に入ろう」と言わなかった
- 5.2. 一歩進んだあとに、一歩戻ってもいい
- 5.3. 学校とのつながりは「登校」だけではない
- 6. おわりに
- 6.1.1. 理論編はこちらから
はじめに
「学校とのつながりは切らない方がいいですよ。」
不登校になると、保護者がこう言われることがあります。
確かに、学校とのつながりを残しておくことには意味があります。
担任の先生から情報を受け取る。
教材やプリントを受け取る。
進路について相談する。
子どもが学校へ関心を持った時に、戻れる関係を残しておく。
しかし、学校とのつながりを大切にしようとするあまり、子どもにとってその関係が大きなプレッシャーになってしまうこともあります。
先生から電話が来るたびに表情が曇る。
「明日は来られそう?」と聞かれるたびに黙り込む。
先生が家庭訪問に来ると、その日一日部屋から出てこなくなる。
それでも保護者は、
「学校とのつながりを切ってはいけない。」
と思い、関わりを続けようとします。
今回登場するのは、中学二年生の息子が学校へ行けなくなって二か月ほどたったお母さんです。
家庭の中では少しずつ会話が戻ってきました。
「先生から電話が来ると、そのあと部屋から出てこないんです」
🔴 保護者
「先生、最近一つ気になることがあるんです。」
🔵 講師
「どんなことですか。」
🔴 保護者
「学校からの連絡です。」
「担任の先生が、とても心配してくださっているんです。」
🔵 講師
「よく連絡がありますか。」
🔴 保護者
「週に二、三回くらい電話があります。」
「プリントを持ってきてくださることもあります。」
「先生は本当に一生懸命なんです。」
「だから私もありがたいと思っています。」
🔵 講師
「でも、何か気になるんですね。」
🔴 保護者
「息子です。」
「学校から電話が来ると、急に表情が変わるんです。」
🔵 講師
「どんな様子になりますか。」
🔴 保護者
「電話が鳴って、私が学校と話しているだけならまだいいんです。」
「でも先生が、
『本人と少し話せますか?』
と言われることがあって。」
「私も、
『先生が話したいって。』
と言って電話を渡します。」
🔵 講師
「お子さんは話しますか。」
🔴 保護者
「一応話します。」
「『はい。』」
「『分かりません。』」
「『はい。』」
「それくらいです。」
「でも電話が終わると、すぐ部屋に戻ります。」
🔵 講師
「その後は?」
🔴 保護者
「夕食にもなかなか出てきません。」
「この前なんて、せっかく最近少し元気だったのに、先生と電話した日は夜までずっと寝ていました。」
「先生は心配してくれているんだから」
🔵 講師
「そのことを、お子さんと話したことはありますか。」
🔴 保護者
「あります。」
「『先生と話すの嫌なの?』って聞きました。」
🔵 講師
「何と答えましたか。」
🔴 保護者
「『嫌。』って。」
🔵 講師
「理由は?」
🔴 保護者
「『学校のこと聞かれるから。』」
「だから私、
『でも先生は心配してくれてるんだよ。』
って言いました。」
🔵 講師
「お子さんは?」
🔴 保護者
「『分かってるよ。』って。」
「それで私、
『だったら少しくらい話してあげたら?』
と言ってしまいました。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「先生、これって間違っていたんでしょうか。」
「担任の先生は本当に悪くないんです。」
「むしろ、こんなに気にしてくださってありがたいと思っています。」
🔵 講師
「先生が悪いかどうかと、お子さんが今その関わりを受け止められるかどうかは、別の問題として考えていいと思います。」
🔴 保護者
「別ですか。」
🔵 講師
「はい。」
「先生が善意で連絡してくださっていても、今のお子さんには負担になることがあります。」
「逆に、同じ電話でも、
『先生から連絡が来てうれしかった。』
と思う子もいます。」
🔴 保護者
「その子によって違うんですね。」
🔵 講師
「そうです。」
大切なのは「電話できたか」より「電話のあと」
🔵 講師
「お母さん、一つ見てほしいことがあります。」
🔴 保護者
「何でしょう。」
🔵 講師
「学校と関わったあと、お子さんがどうなっているかです。」
🔴 保護者
「あと?」
🔵 講師
「例えば先生と電話で五分話せたとします。」
「大人からすると、
『今日は先生と話せた。』
という成果に見えます。」
「でも、そのあと本人が何時間も部屋から出られなくなるなら、今の本人にとっては負担が大き過ぎる可能性があります。」
🔴 保護者
「確かに……。」
🔵 講師
「逆に、先生と話したあと、
『先生、こんなこと言ってた。』
と普通に話せる。」
「少し表情が明るくなる。」
「そんな様子なら、その接点は比較的受け止められているのかもしれません。」
🔴 保護者
「今の息子は明らかに前者ですね。」
🔵 講師
「それなら、少し距離を調整してもいいと思います。」
「学校から離したら戻れなくなる」が怖い
🔴 保護者
「でも先生、それが怖いんです。」
🔵 講師
「何が怖いですか。」
🔴 保護者
「学校との連絡まで減らしてしまったら、本当に学校から離れてしまう気がします。」
「先生とも話さない。」
「友達にも会わない。」
「学校にも行かない。」
「そうなったら、どんどん戻りにくくなりませんか。」
🔵 講師
「お母さんの中では、
『距離を取る=学校との関係が切れる』
という感じでしょうか。」
🔴 保護者
「はい。」
「だから多少嫌がっても、つながりだけは残した方がいいと思っていました。」
🔵 講師
「では、今の状態を考えてみましょう。」
「電話が来る。」
「嫌だけれど話す。」
「そのあと何時間も部屋にいる。」
「また数日後に電話が来る。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「この状態を続けた時、お子さんにとって『学校』はどんな存在になっていくでしょう。」
お母さんは少し考えました。
🔴 保護者
「……怖いものになるかもしれません。」
🔵 講師
「そういう可能性があります。」
「つながりを残そうとしているのに、接触するたびに学校への緊張が強くなる。」
「それでは、つながっていることが必ずしもプラスになっているとは言えませんよね。」
「しばらく私だけが先生と話してもいいですか?」
🔴 保護者
「では、学校にはどう伝えればいいでしょう。」
🔵 講師
「今の様子を、そのまま伝えていいと思います。」
🔴 保護者
「『電話しないでください』って言うんですか。」
🔵 講師
「そこまで強く言う必要はありません。」
「例えば、
『先生とお話ししたあと、本人の緊張がかなり強くなり、その日は部屋から出られないことがあります。』
と伝えます。」
「そして、
『しばらく本人への直接の電話は減らして、連絡は私を通していただけませんか。』
と相談する。」
🔴 保護者
「それなら言えそうです。」
🔵 講師
「学校との関係を切るわけではありません。」
「お母さんは学校とつながっている。」
「必要な情報も受け取る。」
「ただ、本人への直接の刺激を少し減らすんです。」
🔴 保護者
「なるほど。」
「私と息子を分けて考えればいいんですね。」
🔵 講師
「そうです。」
学校からの情報を全部伝えていた
🔴 保護者
「私、学校から聞いたことを全部息子に伝えています。」
🔵 講師
「例えば?」
🔴 保護者
「『来週テストだって。』」
「『体育祭の練習始まったって。』」
「『先生が待ってるって。』」
「『クラスのみんなも気にしてるって。』」
「『提出物がまだだって。』」
🔵 講師
「それを聞くと、お子さんは?」
🔴 保護者
「だいたい黙ります。」
🔵 講師
「お母さんは、どうして全部伝えているんでしょう。」
🔴 保護者
「本人のことだから、本人に伝えなきゃいけないと思っていました。」
🔵 講師
「もちろん、本人が判断しなければならない大切なことは伝える必要があります。」
「でも、今すぐ伝えなくてもいい情報もありますよね。」
🔴 保護者
「例えば体育祭の練習とか?」
🔵 講師
「そうですね。」
「本人が知りたいと言っているなら別ですが、今それを聞くことで苦しくなるだけなら、タイミングを考えてもいいでしょう。」
🔴 保護者
「私、学校から言われたことを、そのまま息子に渡していました。」
🔵 講師
「お母さんが間に入って整理してもいいんです。」
「先生が待っているよ」がプレッシャーになることもある
🔴 保護者
「私、よく言っていました。」
🔵 講師
「何をですか。」
🔴 保護者
「『先生、待ってるって。』」
「『みんな心配してるって。』」
「励ますつもりでした。」
🔵 講師
「お子さんは何と言っていましたか。」
🔴 保護者
「何も言いません。」
「一度だけ、
『そういうの言わなくていい。』
と言われました。」
🔵 講師
「その言葉を聞いた時、どう思いましたか。」
🔴 保護者
「せっかく先生たちが心配してくれているのに、と思いました。」
「正直、少し腹も立ちました。」
🔵 講師
「でも、お子さんにとって、
『待っている』
という言葉が、
『早く戻らなければいけない』
と聞こえていた可能性もあります。」
🔴 保護者
「ああ……。」
🔵 講師
「先生は、
『いつでも戻ってきていいよ。』
という意味で言っているかもしれません。」
「でも、受け取る側の子どもは、
『みんなが待っているのに、自分は行けない。』
と感じることがあります。」
🔴 保護者
「同じ言葉でも全然違いますね。」
一度できたことを「次の一歩」にしない
🔴 保護者
「そういえば、一度だけ学校の近くまで行ったことがあります。」
🔵 講師
「どんな時ですか。」
🔴 保護者
「夕方です。」
「息子が、
『教科書取りに行ってもいい。』
と言ったので、車で連れていきました。」
🔵 講師
「学校には入れましたか。」
🔴 保護者
「校門のところで、
『やっぱり無理。』
と言いました。」
「でも、ちょうど担任の先生が出てきてくださって。」
「車のところまで来て、少し話してくれました。」
🔵 講師
「お子さんはどうでしたか。」
🔴 保護者
「緊張していましたけど、五分くらい話せました。」
「それで私、すごくうれしくなってしまって。」
🔵 講師
「何か言いましたか。」
🔴 保護者
「帰りの車で、
『先生と話せたじゃん。』
『次は校門の中まで行ってみようよ。』
って。」
🔵 講師
「お子さんは?」
🔴 保護者
「黙りました。」
「それから学校へ行く話をすると、
『もう行かない。』
と言うようになりました。」
「できた」で終わらせてもよかった
🔵 講師
「その時は、
『今日は先生と話せたね。』
で終わってもよかったのかもしれません。」
🔴 保護者
「次につなげなくても?」
🔵 講師
「はい。」
「大人は一歩進むと、すぐ次の一歩を考えます。」
「校門まで行けた。」
「では次は校内へ。」
「先生と話せた。」
「では次は教室へ。」
「一時間行けた。」
「では次は午前中。」
🔴 保護者
「確かに、そう考えます。」
🔵 講師
「でも子どもからすると、
『一度できたら、次を求められる。』
という経験になります。」
「そうすると、一歩踏み出すこと自体が怖くなることがあります。」
🔴 保護者
「何かやったら、また期待されるから。」
🔵 講師
「そうです。」
「だから、小さな一歩は小さな一歩のまま終わらせてもいいんです。」
学校への興味と「行きたい」は同じではない
数日後。
お母さんは、学校から届いたプリントを机の上に置いていました。
息子がリビングへ来て、それを見つけました。
「これ何?」
🔴 保護者
「学校からのプリント。」
「何の?」
🔴 保護者
「文化祭のやつみたい。」
息子は少し迷ってから、プリントを手に取りました。
「今年、何やるんだろ。」
以前のお母さんなら、
「気になるなら行ってみる?」
と言っていたかもしれません。
しかし、その日は言いませんでした。
🔴 保護者
「クラスごとに何かやるみたいだよ。」
「うちのクラス何やるか書いてある?」
🔴 保護者
「ちょっと待ってね。」
お母さんはプリントを見ました。
🔴 保護者
「展示みたい。」
「へえ。」
息子はしばらくプリントを見ていました。
「○○たち、準備してるのかな。」
🔴 保護者
「たぶんね。」
「……そっか。」
それだけ言って、息子はプリントを机へ戻しました。
お母さんは、
「行ってみたい?」
とは聞きませんでした。
その日の夜。
息子がまた、お母さんのところへやってきました。
「母さん。」
🔴 保護者
「ん?」
「先生って最近、何か言ってた?」
🔴 保護者
「先生?」
「うん。」
お母さんは少し驚きました。
これまでは先生の話をするだけで嫌がっていた息子が、自分から先生のことを聞いたのです。
しかし、お母さんは先を急がないようにしました。
🔴 保護者
「この前電話で話したよ。」
「何て?」
🔴 保護者
「あなたの様子はどうですかって聞かれた。」
「それだけ?」
🔴 保護者
「うん。それと、『無理しなくていいから』って言ってたよ。」
息子は少し黙りました。
そして、思いがけないことを言いました。
「先生とさ……。」
🔴 保護者
「うん。」
「今度、ちょっとだけなら話してもいいかも。」
お母さんは、すぐに、
「じゃあ明日電話してもらおう!」
と言いそうになりました。
しかし、一度言葉を止めました。
そして、息子が自分から続きを話すのを待ちました。
「話してもいい」を急いで予定に変えない
少し沈黙したあと、息子が言いました。
「でも、電話は嫌。」
🔴 保護者
「電話は嫌なんだね。」
「うん。」
「なんか電話だと、逃げられない感じする。」
🔴 保護者
「じゃあ、どういう形ならいい?」
息子は少し考えました。
「分かんない。」
以前のお母さんなら、
「じゃあ放課後に学校へ行ってみる?」
「先生に家へ来てもらう?」
と、すぐに選択肢を出していたかもしれません。
しかし、その日は違いました。
🔴 保護者
「そっか。今すぐ決めなくてもいいよ。」
息子は少し意外そうな顔をしました。
「いいの?」
🔴 保護者
「うん。」
「話してもいいかなって思っただけでも、今はそれでいいんじゃない?」
息子は何も答えませんでした。
でも、その表情は少し柔らかくなっていました。
「今すぐ決めなくていい」が安心につながる
数日後、お母さんは講師にこの出来事を話しました。
🔴 保護者
「先生、前の私だったら絶対に、
『じゃあいつ話す?』
って聞いていました。」
🔵 講師
「今回は聞かなかったんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「息子が『先生と話してもいい』と言った瞬間、正直ものすごくうれしかったです。」
「やっと学校へ近づいた、と思いました。」
🔵 講師
「そう思いますよね。」
🔴 保護者
「でも、その瞬間に前の話を思い出しました。」
「一つできたからって、すぐ次を求めないって。」
🔵 講師
「大切なところですね。」
🔴 保護者
「だから止まりました。」
「でも、何もしなかったら気持ちが消えてしまうんじゃないかとも思います。」
🔵 講師
「消えてもいいんです。」
🔴 保護者
「いいんですか?」
🔵 講師
「今日、
『先生と話してみようかな。』
と思った。」
「でも明日は、
『やっぱり嫌だ。』
と思うかもしれない。」
「それで構いません。」
「大切なのは、
『一度言ったんだからやりなさい』
にしないことです。」
🔴 保護者
「気持ちが変わってもいい。」
🔵 講師
「はい。」
「学校との距離は、その日の状態によって近づいたり離れたりしていいんです。」
学校にも「今の距離」を伝えてみる
その日の午後、お母さんは担任の先生に電話をしました。
🔴 保護者
「先生、少しご相談してもいいでしょうか。」
担任は、
「もちろんです。」
と答えました。
🔴 保護者
「最近、家では少しずつ普通の会話が増えてきました。」
「それはよかったです。」
🔴 保護者
「ただ、学校から直接電話があった日は、かなり緊張してしまうことがあります。」
「以前先生とお話ししたあとも、その日はずっと部屋から出られなくて……。」
担任は少し黙りました。
「そうだったんですね。」
「私は、少しでもつながりを残した方がいいと思って電話していました。」
🔴 保護者
「はい。私もありがたいと思っています。」
「本人も、先生が嫌いということではないと思います。」
「ただ今は、直接電話で話すことが負担みたいなんです。」
「分かりました。」
🔴 保護者
「しばらく学校からの連絡は、私が受けてもいいでしょうか。」
「もちろんです。」
「本人に伝えてほしいことがある時も、お母さんにお話しする形にしましょう。」
お母さんは少し安心しました。
学校と家庭が同じ方向を見る
担任は続けました。
「私たちも、できれば学校へ戻ってきてほしいという気持ちはあります。」
「ただ、無理をさせたいわけではありません。」
🔴 保護者
「ありがとうございます。」
「私も最初は、
『何とか学校へ戻さなきゃ。』
ということばかり考えていました。」
「でも今は、まず家で少し安心して過ごせるようになってきたところなんです。」
「それなら、そこを大切にしましょう。」
🔴 保護者
「先生、一つお願いがあります。」
「はい。」
🔴 保護者
「『みんな待ってるよ』とか『いつ来られそう?』という言葉が、今は本人には少し重いみたいです。」
「なるほど。」
🔴 保護者
「先生が励ましてくださっていることは分かっています。」
「ただ本人は、
『早く行かなきゃいけない。』
と受け取ってしまうみたいで。」
「教えていただいてありがとうございます。」
「では、こちらから登校を急かすような声かけは控えます。」
お母さんは、ほっとしました。
学校と対立する必要はなかったのです。
子どもの状態を具体的に伝えれば、学校と一緒に距離を調整することもできます。
子どもに学校とのやり取りを報告する
その日の夕方。
🔴 保護者
「今日、先生と少し話したよ。」
息子の表情が、一瞬固くなりました。
「何て?」
🔴 保護者
「今は電話がちょっとしんどいみたいだから、しばらく連絡はお母さんが受けるねって話した。」
「先生、何て言ってた?」
🔴 保護者
「分かりましたって。」
「……怒ってなかった?」
🔴 保護者
「全然。」
「今は無理しなくていいって。」
息子は少し安心したようでした。
「そっか。」
🔴 保護者
「それと、先生と話したくなった時は、その時に方法を考えればいいって。」
「うん。」
お母さんは、それ以上言いませんでした。
「いつ話す?」
とも、
「先生も待ってるよ。」
とも言いませんでした。
その話は、そこで終わりました。
子どもが自分で「距離」を決め始める
さらに数日が過ぎました。
ある日の夕方。
息子が突然言いました。
「先生って、放課後ならいる?」
🔴 保護者
「いると思うよ。」
「何時くらい?」
🔴 保護者
「日によると思うけど、どうしたの?」
「……別に。」
お母さんは、それ以上聞きませんでした。
翌日。
また息子から言いました。
「学校って、五時くらいなら生徒あんまりいない?」
🔴 保護者
「部活の子はいると思うけど、昼間よりは少ないんじゃないかな。」
「ふーん。」
そして、またその話は終わりました。
お母さんは気になりました。
「学校へ行きたいの?」
と聞きたい。
でも、待ちました。
さらに二日後。
息子が言いました。
「母さん。」
🔴 保護者
「ん?」
「先生にさ。」
「今度、放課後だったら会ってもいいって言っといて。」
お母さんは驚きました。
でも、できるだけ普通に答えました。
🔴 保護者
「分かった。聞いてみるね。」
「学校へ行く」ではなく「先生に会う」
担任の先生と相談し、生徒が少なくなる時間に短時間だけ会うことになりました。
当日。
車で学校へ向かう途中、息子はほとんど話しませんでした。
学校が近づくにつれて、表情が硬くなっていきます。
そして校門が見えた時、息子が言いました。
「やっぱ無理かも。」
以前のお母さんなら、
「ここまで来たんだから。」
と言っていたかもしれません。
🔴 保護者
「そっか。」
「どうする?」
「……ちょっと待って。」
🔴 保護者
「うん。」
駐車場に車を止めました。
五分ほど、二人とも何も話しませんでした。
息子は学校を見ています。
やがて言いました。
「先生、外まで来てもらえる?」
🔴 保護者
「聞いてみようか。」
お母さんが連絡すると、担任の先生が校舎から出てきました。
先生は車の近くまで来ると、
「久しぶり。」
とだけ言いました。
息子も小さな声で、
「こんにちは。」
と答えました。
先生は、
「学校に入ろう。」
とは言いませんでした。
「いつ戻ってくる?」
とも聞きませんでした。
しばらく、好きなゲームや最近見た動画の話をしました。
十分ほどして、息子が自分から言いました。
「先生。」
「ん?」
「数学、どこまで進んでる?」
先生は、
「今はこのあたりだよ。」
と簡単に教えてくれました。
「プリントいる?」
息子は少し考えて、
「……あったら欲しい。」
「分かった。持ってくるね。」
先生は校舎へ戻り、数枚のプリントを持ってきました。
それを受け取って、その日は帰りました。
校舎には入りませんでした。
教室にも行きませんでした。
でも、それで終わりにしました。
「次は校舎に入ろう」と言わなかった
帰りの車の中。
🔴 保護者
「疲れた?」
「ちょっと。」
🔴 保護者
「そっか。」
しばらくして息子が言いました。
「先生、普通だった。」
🔴 保護者
「うん。」
「もっと学校来いって言われるかと思ってた。」
🔴 保護者
「言われなかったね。」
「うん。」
それだけでした。
お母さんは、
「今日は先生と話せたね。」
とも、
「次は校舎まで行ってみよう。」
とも言いませんでした。
今日できたことを、明日の課題に変えなかったのです。
一歩進んだあとに、一歩戻ってもいい
翌週。
担任から、
「また都合のいい時に会えますよ。」
という連絡がありました。
お母さんが息子に伝えると、
「今週はいい。」
と言いました。
🔴 保護者
「分かった。」
それだけでした。
前回会えたのに。
せっかく少し前進したのに。
このまま続ければ学校へ戻れるかもしれないのに。
そんな気持ちが、お母さんの中にまったくなかったわけではありません。
それでも、
「この前はできたでしょう。」
とは言いませんでした。
数日後、講師にその話をしました。
🔴 保護者
「先生、以前だったら絶対、
『先週できたんだから今週も行こうよ。』
って言っていたと思います。」
🔵 講師
「今回は言わなかったんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「少し分かってきました。」
🔵 講師
「何がですか。」
🔴 保護者
「学校との距離って、一方向じゃないんですね。」
「近づいたり、また離れたりしていい。」
🔵 講師
「そうですね。」
「大切なのは、常に前へ進み続けることではありません。」
「その時の本人が受け止められる距離に調整することです。」
学校とのつながりは「登校」だけではない
それから息子は、学校へ毎日通うようになったわけではありません。
家で過ごす日が続きました。
しかし以前とは、学校との関係が少し変わっていました。
数学のプリントを時々見るようになりました。
自分から、
「今、クラスどこまで進んでる?」
と聞くことがありました。
担任の先生とは、時々短時間だけ会いました。
会いたくない週は会いませんでした。
学校へ行くことはできなくても、
「学校について考えること」
そのものを避けなくなっていきました。
ある日、息子が言いました。
「今度さ。」
🔴 保護者
「うん。」
「人いない時だったら、教室ちょっと見てもいいかも。」
お母さんは、以前のように大きく反応しませんでした。
🔴 保護者
「そう思ったんだね。」
「うん。」
🔴 保護者
「じゃあ、本当に行ってみたくなったら、その時に先生に相談しようか。」
「うん。」
それで会話を終えました。
「いつ行く?」
とは聞きませんでした。
おわりに
不登校になると、保護者は学校との距離に迷います。
学校とのつながりを切ったら、このまま戻れなくなるのではないか。
先生から連絡してもらった方がいいのではないか。
友達との関係を残した方がいいのではないか。
少しでも学校へ行けたなら、次につなげた方がいいのではないか。
そう考えるのは自然なことです。
しかし、学校との距離に一つの正解があるわけではありません。
先生からの電話が安心につながる子もいます。
今は電話そのものが大きな負担になる子もいます。
学校へ少し行くことで自信がつく子もいます。
一度行ったことで、しばらく距離を取りたくなる子もいます。
だから見るべきなのは、
「学校とどれだけつながっているか」だけではありません。
その関わりのあと、子どもがどうなったのか。
少し安心できたのか。
それとも、強く疲れてしまったのか。
そこを見ることが大切です。
そして、学校との距離を調整することは、学校との関係を切ることではありません。
今は保護者だけが連絡を取る。
本人への電話は少し休む。
必要な情報だけ受け取る。
本人から気持ちが出てきたら、先生と短く話してみる。
校舎へ入らなくても、学校の外で会う。
できたとしても、次を急がない。
また難しくなれば、少し離れる。
そのように、距離は何度でも調整できます。
学校との関係で大切なのは、
「どうすれば早く学校へ戻せるか」ではなく、「今、この子ならどこまで安心して学校とつながれるか」
という視点です。
そして家庭と学校が、
「次はどこまで行かせるか」
ではなく、
「今、この子にはどのくらいの関わり方が合っているか」
を一緒に考えられるようになること。
その関係ができれば、学校は子どもを追い立てる存在ではなくなります。
近づく日があっていい。
離れる日があっていい。
立ち止まる時期があってもいい。
子ども自身が「今日はここまでなら大丈夫」と思える距離を尊重する。
その積み重ねによって、学校とのつながりは「行かなければならない場所との関係」から、「必要な時に自分から関わることのできる関係」へ少しずつ変わっていくのです。
理論編はこちらから
⑬ 学校との距離感の作り方(理論編)
はじめに 子どもが学校へ行けなくなると、保護者は「学校とどう関わればいいのか」という新しい問題に直面します。 担任の先生から電話が来る。 プリントが届く。 クラスメートから連絡が来る。 学校から、 「一度、顔だけでも出し […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません



