⑯ 家庭教師ができる最初のサポート(理論編)

はじめに

不登校の子どもに家庭教師をつけようと考えた時、多くの保護者が最初に期待するのは「勉強を教えてもらうこと」です。

「遅れている数学を見てもらいたい。」

「英語を基礎からやり直したい。」

「高校受験に向けて少しでも準備したい。」

もちろん、家庭教師には学習支援という大切な役割があります。

しかし、不登校の子どもに対しては、最初から勉強だけを始めればよいとは限りません。

学校へ行けなくなったことで、子どもはさまざまな不安を抱えていることがあります。

人と話すこと自体がしんどい。

勉強の話をされると緊張する。

「できない自分」を見られるのが怖い。

知らない大人が家に来ることにも抵抗がある。

そんな状態で、初対面の家庭教師がいきなり、

「では数学をやりましょう。」

と始めても、子どもは安心して学べないことがあります。

家庭教師が最初にするべきことは、必ずしも問題集を開くことではありません。

「この人なら一緒にいても大丈夫そうだ」と感じてもらうこと。

そこから支援が始まります。

最初の目的は「勉強させること」ではなく関係をつくること

不登校の子どもに家庭教師が入る時、最初に大切なのは信頼関係です。

初回から勉強量を求めない

保護者は、

「せっかく家庭教師をお願いしたのだから、少しでも勉強してほしい。」

と思うでしょう。

しかし、初回から一時間、二時間と勉強することを目標にすると、子どもにとって大きな負担になることがあります。

最初は、

雑談をする。

好きなことを聞く。

最近見た動画の話をする。

ゲームや本の話をする。

それだけで時間が終わることもあります。

一見すると、

「勉強していない。」

ように見えるかもしれません。

しかし、

「家庭教師が来ても怒られなかった。」

「勉強を強制されなかった。」

「話を聞いてもらえた。」

という経験は、その後の学習につながる大切な土台になります。

「何を教えるか」より「どう関わるか」

不登校の子どもへの最初の支援では、

「今日は何ページ進めるか。」

より、

「今日はどのくらい話せそうか。」

「どんな話題なら安心できるか。」

「どの距離なら負担が少ないか。」

を見ることが大切です。

子どもが机に座れないなら、最初から机で授業をしなくてもいい場合があります。

リビングで話す。

ソファに座る。

少し離れた位置で話す。

その子が安心できる場所から始めます。

信頼関係ができると、学習への入り口が見えてくる

子どもは、信頼できない相手の前では、

「分からない。」

と言いにくいものです。

間違えることも怖い。

しかし、

「この人なら分からないと言っても大丈夫。」

と思えるようになると、質問できるようになります。

家庭教師にとって、これは大きな変化です。

学習支援は、分からないことを安心して言える関係があってこそ進みやすくなります。

子どもの「今の状態」を知ることから始める

家庭教師が最初に確認したいのは、学校の成績だけではありません。

生活の状態を見る

今、何時頃起きているのか。

昼間はどんなふうに過ごしているのか。

食事は取れているか。

外へ出ることはあるか。

ゲームや動画はどのくらい見ているか。

本人が話せる範囲で、生活全体を見ます。

もちろん、尋問のように質問する必要はありません。

何気ない会話の中から、少しずつ今の状態を知っていきます。

学習状況は「どこまで遅れているか」だけで見ない

学校を休んでいる期間が長いと、

「何か月分遅れている。」

と考えがちです。

しかし、実際には理解度は教科ごとに違います。

数学は少しつまずいている。

英語は基礎から不安。

社会は好きで自分でも調べている。

国語は比較的読める。

このように、一人の子どもの中でも差があります。

家庭教師は、

「学校はここまで進んでいる。」

から始めるのではなく、

「今この子がどこまでなら無理なく分かるか」

を見ることが大切です。

苦手だけでなく「得意」と「好き」を探す

最初から苦手教科だけを扱う必要はありません。

むしろ、好きな分野から始めることで、

「学ぶことは全部つらいわけではない。」

と感じられることがあります。

歴史が好き。

計算は得意。

英語の歌は好き。

理科の実験動画は見る。

そうした興味は、学習を再開する入口になります。

家庭教師は「親でも先生でもない第三者」になれる

家庭教師の大きな特徴の一つは、家庭の中にいながら、親とは違う立場で関われることです。

親には言えないことを話せる場合がある

子どもは、親を心配させたくないと思うことがあります。

「学校が怖い。」

「勉強が分からない。」

「将来が不安。」

「本当は何もしたくない。」

こうした気持ちを、親には言えないことがあります。

一方で、少し距離のある家庭教師には話せる場合があります。

もちろん、すべての子どもがそうとは限りません。

しかし、

「家族ではないけれど、自分の味方になってくれる大人」

がいることは、子どもにとって支えになることがあります。

学校の先生とも違う立場

学校の先生には、どうしても「学校へ戻らなければ」というイメージがついていることがあります。

家庭教師には、その役割がありません。

毎日登校させることが目的ではない。

出席を管理するわけでもない。

そのため、

「学校へ行けないことを責められない場所」

として関係を作りやすい場合があります。

親子の間を調整する役割もある

保護者が、

「勉強してほしい。」

と思っている。

子どもは、

「今は勉強がしんどい。」

と感じている。

その間で家庭教師が、

「今は五分だけならできそうです。」

「数学ではなく、まず好きな社会から始めましょう。」

と調整することがあります。

第三者が入ることで、親子が直接ぶつからずに済むこともあります。

学習支援は「できるところ」から小さく始める

信頼関係が少しできてきたら、いよいよ学習へつなげていきます。

一問でもいい

最初の学習は、

数学一問。

英単語三つ。

教科書一ページ。

それでも構いません。

「家庭教師が来たから一時間勉強する。」

という考え方ではなく、

「今日は一問やってみる。」

から始める。

その一問ができれば、

「自分にもまだできる。」

という感覚につながります。

間違えても安心できる雰囲気をつくる

不登校の子どもの中には、失敗を強く怖がる子がいます。

そのため、家庭教師が、

「違う。」

「前にもやったでしょう。」

と強く指摘すると、すぐ学習から離れてしまうことがあります。

必要なのは、

「ここまでは合ってるよ。」

「どこで分からなくなったか一緒に見よう。」

という関わりです。

間違いを、

「できない証拠」

ではなく、

「どこを学べばいいか分かる材料」

として扱います。

調子がよくても増やし過ぎない

今日は五分できた。

すると大人は、

「明日は十分。」

「次は二十分。」

と増やしたくなります。

しかし、毎回増やす必要はありません。

五分できた日があっても、次はまた五分でいい。

調子の悪い日は雑談だけでもいい。

無理に右肩上がりにしないことが、長く続けるうえで大切です。

家庭教師の役割は「勉強」から少しずつ未来へつなぐこと

家庭教師の支援は、教科を教えることだけではありません。

子どもが少しずつ元気を取り戻してきたら、その先を一緒に考えることもできます。

「何になりたい?」を急いで聞かない

不登校になったばかりの子どもに、

「将来何になりたい?」

「高校はどうする?」

と聞いても、考える余裕がないことがあります。

まずは、

「最近何が好き?」

「どんなことなら少しやってみたい?」

というところから始めます。

興味が出てきたら、そこから進路や学習につなげていきます。

学習を「学校へ戻るため」だけにしない

家庭教師との勉強が、

「学校へ戻るための訓練」

になってしまうと、子どもにとってまたプレッシャーになることがあります。

大切なのは、

「分かることが増えた。」

「自分で調べられた。」

「できることが増えた。」

という感覚です。

学ぶことそのものに自信が戻れば、その先の選択肢も広がります。

小さな成功体験を積み重ねる

一問解けた。

昨日より少し話せた。

家庭教師に質問できた。

自分から教材を出した。

こうした小さな変化を大切にします。

家庭教師ができる支援の大きな意味は、

「自分にもまだできることがある」と子どもが感じられる経験を一緒につくること

にあります。

まとめ

不登校の子どもに家庭教師が関わる時、最初から勉強だけを目的にすると、うまくいかないことがあります。

子どもにとって家庭教師は、最初は「知らない大人」です。

その人が家に来る。

自分の勉強を見る。

できないところを知られる。

それだけでも大きな緊張になることがあります。

だからこそ、最初に必要なのは、

勉強を進めることではなく、

「この人なら大丈夫」と思える関係をつくることです。

話をする。

好きなことを聞く。

無理に勉強させない。

分からないと言っても責めない。

それを積み重ねる。

そして、子どもに少し余裕が出てきたら、一問から学習を始める。

好きな教科から始める。

分かるところへ戻る。

調子が悪い日は無理をしない。

そのように、その子の状態に合わせて進めます。

家庭教師は、学校の代わりではありません。

親の代わりでもありません。

家庭と学校の間にいる、少し距離のある第三者だからこそできる支援があります。

親には言いにくいことを聞く。

勉強への入り口をつくる。

「分からない」を一緒に整理する。

小さな「できた」を積み重ねる。

そして、少しずつ子ども自身が、

「これならやれそう。」

「もう少しやってみようかな。」

と感じられるようにする。

それが、不登校の子どもに対して家庭教師ができる最初のサポートです。

いきなり成績を上げることから始めなくてもいいのです。

まずは、人と一緒に過ごすこと。

話すこと。

学ぶこと。

そして自分の未来について、もう一度考えてみること。

その一つひとつに安心して近づけるようにすること。

そこから、本当の意味での学習支援が始まっていくのです。

実際の例はこちらから

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