③ なぜ親の焦りは子どもに伝わってしまうのか(実践編)

はじめに

親の不安・・・予想以上に伝わってることが多いようです・・・。

自分のことで親が不安そうにしてるんだよな・・・。

どっちの気持ちも分からんでもない・・・。

ほっといてくれればいいのに。

ま、そうなるよね。

プロフィール

  • 対象者: Yくん(中学2年生)
  • 地域: 福井市
  • 性格・特徴: 真面目で周囲の反応を気にしやすく、自分の気持ちを言葉にするのが苦手
  • 当初の状況: 学校を休み始めて約3週間。家庭ではゲームや動画を見て過ごす時間が増えている
  • 保護者の悩み: 登校を促す言葉を控えているのに、子どもが自分を避けるようになった

はじめに

「最近は、学校へ行きなさいとは言っていないんです」

不登校の子どもへの接し方を考え、登校を無理に促さないようにしている保護者は少なくありません。

朝、子どもが起きてこなくても叱らない。

勉強していなくても、なるべく口を出さない。

学校の話も、子どもが自分から話すまで待つ。

それでも、子どもが親を避けたり、突然イライラしたりすることがあります。

「何も言っていないのに、どうして?」

そう感じるかもしれません。

しかし、子どもが感じ取っているのは、親の言葉だけではありません。

時計を見る仕草。

学校からの電話に出るときの声。

深いため息。

子どもが部屋から出てきたときの表情。

保護者が意識していない小さな反応が、子どもに伝わることもあるのです。

今回の実践編では、学校へ行けなくなった中学生と、その保護者の関わりを通して、親の焦りがどのように子どもに伝わるのかを考えていきます。

大切なのは、親が不安を感じなくなることではありません。

不安を抱えながらも、子どもが安心して過ごせる関係をどうつくっていくか。

その過程を見ていきましょう。

「何も言っていないのに、避けられるんです」

相談の席に着いた保護者は、困ったような表情で話し始めました。

🔴 保護者

「最近、Yが私を避けるようになったんです。」

🔵 講師

「避けるというと、どんな様子ですか?」

🔴 保護者

「私がリビングに行くと、自分の部屋へ戻ってしまうんです。」

🔵 講師

「いつごろからでしょう。」

🔴 保護者

「学校を休み始めて、2週間くらい経ったころからです。」

🔵 講師

「そのころ、何か変わったことはありましたか?」

🔴 保護者

「最初は毎朝、学校へ行けるか聞いていたんです。でも、あまり聞かないほうがいいと知って、それからは言わないようにしています。」

🔵 講師

「学校の話を控えるようにしたんですね。」

🔴 保護者

「はい。なのに、前より話さなくなってしまって……。」

保護者は少しうつむきました。

🔴 保護者

「私なりに気をつけているつもりなんです。」

🔵 講師

「そうですよね。Yくんの負担を減らそうと考えているんですね。」

🔴 保護者

「でも、何がいけないのか分からなくて。」

講師は少し考えてから尋ねました。

🔵 講師

「学校のことを言わないようにしているとき、保護者の方はどんな気持ちで過ごしていますか?」

🔴 保護者

「どんな気持ち……ですか?」

🔵 講師

「はい。たとえば、朝Yくんが起きてこないときです。」

🔴 保護者

「心配です。」

🔵 講師

「どんなことが心配になりますか?」

🔴 保護者

「今日も学校へ行けないんだろうなって。」

🔵 講師

「そのほかには?」

🔴 保護者

「このまま昼夜逆転したらどうしようとか、勉強がどんどん遅れてしまうとか……。」

🔵 講師

「なるほど。」

🔴 保護者

「でも、それは口には出していません。」

🔵 講師

「そのとき、表情はどうでしょう。」

保護者は少し驚いたようでした。

🔴 保護者

「表情ですか?」

🔵 講師

「はい。Yくんが起きてきたとき、どんな顔で迎えていると思いますか?」

しばらく沈黙がありました。

🔴 保護者

「……たぶん、明るい顔ではないと思います。」

言葉を我慢しても、焦りは残っている

保護者は、ある朝の出来事を思い出しました。

Yくんが起きてきたのは午前11時を過ぎたころでした。

🟢 生徒

「おはよう。」

🔴 保護者

「……おはよう。」

保護者は壁の時計を見ました。

そして何も言わずに、朝食の食器を片づけ始めました。

🟢 生徒

「何か食べるものある?」

🔴 保護者

「パンならあるよ。」

🟢 生徒

「……分かった。」

Yくんはパンを持って自分の部屋へ戻りました。

そのとき保護者は、

「また部屋に戻っちゃった」

と思ったそうです。

しかし、講師と話すうちに、別の可能性に気づき始めました。

🔵 講師

「時計を見たとき、どんな気持ちでしたか?」

🔴 保護者

「もう11時なのに、って思いました。」

🔵 講師

「その気持ちは、Yくんにも伝わったかもしれませんね。」

🔴 保護者

「何も言っていないのに?」

🔵 講師

「言葉がなくても、表情や仕草から感じ取ることはあります。」

🔴 保護者

「そういえば、時計を見たあと、Yが黙ったんです。」

🔵 講師

「その場面だけで理由は断定できませんが、気になった可能性はありますね。」

🔴 保護者

「私、言葉さえ我慢すればいいと思っていました。」

🔵 講師

「言葉を控えることも大切です。ただ、心の中の焦りがなくなるわけではありませんからね。」

保護者は静かにうなずきました。

「学校へ行きなさい」と言わなくなった。

けれど、学校へ行ってほしいという気持ちは、むしろ日に日に強くなっていたのです。

「また私のせいで困ってるんでしょ」

その数日後、家庭で小さな出来事がありました。

午後3時ごろ、学校から電話がかかってきたのです。

担任の先生から、Yくんの様子を確認する連絡でした。

🔴 保護者

「はい。まだ登校は難しそうで……。」

保護者は電話口で答えました。

「そうですね。プリントは受け取れます。」

「はい。またこちらから連絡します。」

電話を切ったあと、保護者は大きく息を吐きました。

そして、何気なくつぶやきました。

「どうしたらいいんだろう……。」

そのとき、リビングの入り口にYくんが立っていました。

🟢 生徒

「学校?」

🔴 保護者

「うん。先生から。」

🟢 生徒

「何て?」

🔴 保護者

「最近どうしてるかって。」

🟢 生徒

「……ふうん。」

Yくんはそのまま部屋へ戻ろうとしました。

保護者は思わず声をかけました。

🔴 保護者

「Y、別に怒られたわけじゃないよ。」

Yくんは振り返りました。

🟢 生徒

「分かってるよ。」

🔴 保護者

「先生も心配してくれてるだけだから。」

🟢 生徒

「分かってるって。」

声が少し強くなりました。

🔴 保護者

「そんな言い方しなくても……。」

すると、Yくんは言いました。

🟢 生徒

「また俺のせいで困ってるんでしょ。」

保護者は言葉を失いました。

🔴 保護者

「そんなこと言ってないでしょう。」

🟢 生徒

「言ってなくても分かるよ。」

🔴 保護者

「何が?」

🟢 生徒

「電話切ったあと、いつもため息ついてるじゃん。」

そのままYくんは部屋へ戻り、ドアを閉めました。

保護者はリビングに立ったまま、しばらく動けませんでした。

自分では、学校のことを責めないようにしていたつもりでした。

それでもYくんは、親のため息を覚えていたのです。

子どもは親の不安を自分の責任だと感じることがある

次の相談で、保護者はこの出来事を講師に話しました。

🔴 保護者

「『俺のせいで困ってるんでしょ』って言われたんです。」

🔵 講師

「そうだったんですね。」

🔴 保護者

「私は、Yを責めたつもりなんてなかったんです。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「でも、Yにはそう見えていたんですね。」

🔵 講師

「少なくとも、Yくんは保護者の方が困っていることを感じていたようですね。」

🔴 保護者

「どうしたらいいんでしょう。私だって不安なんです。」

🔵 講師

「不安になってはいけないわけではありませんよ。」

🔴 保護者

「でも、不安な顔をしたらYが傷つくんですよね。」

🔵 講師

「いつも笑顔でいなければいけない、ということでもありません。」

🔴 保護者

「じゃあ、どうすれば……。」

🔵 講師

「まず、保護者の方の不安と、Yくんが背負うべきことを分けて考えてみませんか。」

🔴 保護者

「分ける?」

🔵 講師

「学校から連絡が来て不安になったことは、保護者の方の気持ちですよね。」

🔴 保護者

「はい。」

🔵 講師

「でも、その不安を解消する責任が、全部Yくんにあるわけではありません。」

保護者は黙って聞いていました。

🔵 講師

「保護者の方は学校と相談することができます。今後の学習について情報を集めることもできます。自分自身の不安を、別の大人に相談することもできます。」

🔴 保護者

「そうですね。」

🔵 講師

「Yくんが今すぐ学校へ行くことだけが、不安を小さくする唯一の方法ではないんです。」

🔴 保護者

「私は、Yが学校へ行けば安心できると思っていました。」

🔵 講師

「その気持ちは自然だと思います。ただ、今は保護者の方が安心する方法も、Yくんの登校とは別に考えてみましょう。」

「心配している」と「あなたのせい」は違う

講師は、もう一つ提案しました。

🔵 講師

「Yくんが落ち着いているときに、短く伝えてみませんか。」

🔴 保護者

「何をですか?」

🔵 講師

「学校から電話があって不安になったこと。そして、その不安をYくんの責任にしたいわけではないことです。」

🔴 保護者

「謝ったほうがいいでしょうか。」

🔵 講師

「謝りたいと思うことがあるなら、伝えていいと思います。ただし、Yくんに許してもらうことや、すぐ話してもらうことを求めないようにしましょう。」

その日の夕方。

Yくんがリビングで飲み物を飲んでいるとき、保護者は声をかけました。

🔴 保護者

「Y、ちょっとだけいい?」

🟢 生徒

「何?」

🔴 保護者

「この前、学校から電話があったときのことなんだけど。」

Yくんの表情が少し硬くなりました。

🔴 保護者

「学校へ行く話をしたいわけじゃないよ。」

🟢 生徒

「……うん。」

🔴 保護者

「私、電話のあとにため息ついてたよね。」

🟢 生徒

「ついてた。」

🔴 保護者

「心配で、どうしたらいいか分からなくなってたんだと思う。」

🟢 生徒

「……。」

🔴 保護者

「でも、それをYに何とかしてもらおうと思っていたわけじゃないんだよ。」

Yくんは何も言いませんでした。

🔴 保護者

「私の不安を、Yのせいみたいに感じさせてたなら、ごめんね。」

少し長い沈黙がありました。

🟢 生徒

「……いつも怒ってるのかと思ってた。」

🔴 保護者

「怒ってるように見えた?」

🟢 生徒

「うん。朝とか。」

🔴 保護者

「そうだったんだね。」

🟢 生徒

「学校行けないから、イライラしてるんだと思ってた。」

保護者は胸が苦しくなりました。

しかし、そこで、

「そんなことないよ」

と急いで否定することはしませんでした。

🔴 保護者

「心配で、イライラしてしまった日もあったと思う。」

🟢 生徒

「……うん。」

🔴 保護者

「でも、Yを嫌だと思ってるわけじゃないよ。」

Yくんは小さくうなずきました。

🟢 生徒

「分かった。」

それだけ言うと、Yくんは自分の部屋へ戻っていきました。

劇的な変化はありませんでした。

Yくんが笑顔になったわけでも、学校へ行くと言ったわけでもありません。

けれど、保護者は初めて、Yくんが何を感じていたのかを少し知ることができました。

自分は何も言っていないつもりでも、Yくんは毎日、親の不安を感じ取っていた。

そして、もう一つ気づいたことがありました。

これまで自分は、Yくんの不安を減らそうとしながら、自分自身の不安を整理することはほとんどしてこなかったのです。

親の不安を、子どもに背負わせないために

翌週、保護者は再び講師に相談しました。

前回、Yくんに自分の気持ちを伝えたことを報告すると、講師は静かに尋ねました。

🔵 講師

「Yくんと話してみて、どうでしたか?」

🔴 保護者

「少しだけ、気持ちが軽くなりました。」

🔵 講師

「どんなところが?」

🔴 保護者

「今まで、Yが私を避けるのは、私のことが嫌いになったからだと思っていたんです。」

🔵 講師

「そう感じていたんですね。」

🔴 保護者

「でも、そうじゃなくて……私といると、学校へ行けない自分を責められているように感じていたのかもしれません。」

🔵 講師

「Yくんが話してくれたことで、少し見え方が変わったんですね。」

🔴 保護者

「はい。でも、これからどうすればいいのか、まだ分からなくて。」

🔵 講師

「では、今度は保護者の方の不安について考えてみましょう。」

🔴 保護者

「私の不安ですか?」

🔵 講師

「はい。Yくんのことを心配する気持ちは、これからもなくならないと思います。」

🔴 保護者

「そうですね。毎日心配です。」

🔵 講師

「その心配を、どこで整理できるかが大切なんです。」

「子どもが学校へ行くこと」だけを安心の条件にしない

講師は一枚の紙を取り出しました。

🔵 講師

「今、一番心配なことを三つ挙げてもらえますか?」

🔴 保護者

「三つですか……。」

少し考えてから、保護者は答えました。

🔴 保護者

「一つ目は、学校へ戻れるのかどうか。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「二つ目は、勉強の遅れです。」

🔵 講師

「三つ目は?」

🔴 保護者

「将来ですね。高校へ進学できるのか、その先はどうなるのか……。」

講師は三つの不安を書き出しました。

そして、それぞれについて尋ねました。

🔵 講師

「学校へ戻れるかどうか、今日答えを出せますか?」

🔴 保護者

「いいえ。」

🔵 講師

「勉強の遅れについて、今日できることはありますか?」

🔴 保護者

「学校に、今どこまで進んでいるか聞くことならできます。」

🔵 講師

「そうですね。高校進学については?」

🔴 保護者

「進路の選択肢を調べることはできます。」

🔵 講師

「では、全部が『Yくんが今すぐ学校へ行かなければ解決できない問題』ではありませんよね。」

保護者は紙を見つめました。

🔴 保護者

「……そうですね。」

🔵 講師

「学校へ戻るかどうかは、Yくんの状態や学校との相談も関係します。でも、学習状況を確認したり、進路の情報を集めたりすることは、保護者の方が進められます。」

🔴 保護者

「私は、Yが学校へ行かない限り、何も進まないと思っていました。」

🔵 講師

「だから、毎日焦ってしまっていたのかもしれませんね。」

🔴 保護者

「そうかもしれません。」

🔵 講師

「Yくんを急がせなくても、大人ができる準備はあります。」

その言葉に、保護者は少し安心した表情を見せました。

学校との連絡を「親子の負担」にしない

その後、保護者は担任の先生に連絡しました。

これまでは、学校から電話が来るたびに、

「今日も登校できませんでした」

と報告するだけで精いっぱいでした。

しかし今回は、事前に相談したいことを整理していました。

「学校からの連絡を、どのような頻度にするか」

「授業の進み具合や教材を、どう受け取るか」

「Yくんが学校との関わりを希望したとき、どんな方法があるか」

担任の先生と話し合い、連絡の取り方を整理しました。

その日の夕方、保護者はYくんに伝えました。

🔴 保護者

「今日、先生と少し話したよ。」

🟢 生徒

「……何て?」

🔴 保護者

「学校からの連絡の仕方とか、プリントの受け取り方を相談したんだ。」

🟢 生徒

「俺、何かしないといけない?」

🔴 保護者

「今すぐ何か決めてほしいという話ではないよ。」

🟢 生徒

「……そうなの?」

🔴 保護者

「うん。学校のことは、必要な連絡を私のほうでもしておくから。」

Yくんは少し黙っていました。

🟢 生徒

「じゃあ、毎日先生から電話来るの?」

🔴 保護者

「連絡の取り方は相談したよ。必要なことがあったら、私からも確認できるようにした。」

🟢 生徒

「……分かった。」

それだけの会話でした。

しかし、以前のように、

「先生が心配しているから、そろそろ学校へ行こう」

と話を進めることはありませんでした。

保護者は、学校との連絡をYくんへの説得材料にするのではなく、必要な支援を準備するためのものとして考えるようになっていました。

親にも「不安を話せる場所」が必要

さらに保護者は、講師との相談に加えて、学校のスクールカウンセラーにも相談することにしました。

これまでは、

「子ども本人が相談する場所」

という印象を持っていました。

しかし、保護者だけで相談できる場合もあると知り、利用を検討したのです。

相談では、Yくんの様子だけでなく、自分自身の気持ちも話しました。

学校から電話が来ると緊張すること。

同級生の話を聞くと落ち込むこと。

夜になると、将来のことばかり考えてしまうこと。

そうした気持ちを、Yくんではない相手に話せるようになりました。

不安がすべて消えたわけではありません。

それでも、家庭の中で一人で抱え続ける必要はなくなりました。

そして、その変化は日常の小さな場面にも現れ始めました。

親が焦りに気づくと、子どもとの会話が変わり始める

自分の気持ちと向き合うための、大切ある日の朝。

Yくんがリビングへやってきたのは、午前10時半ごろでした。

🟢 生徒

「おはよう。」

🔴 保護者

「おはよう。」

以前なら、保護者は時計を見ていたでしょう。

「もう10時半だ」

「今日も学校へ行けなかった」

そんな思いが顔に出ていたかもしれません。

しかし、その日は違いました。

もちろん、時間が気にならなかったわけではありません。

ただ、時計を見る前に、

「今、私は焦っているな」

と気づいたのです。

🔴 保護者

「何か食べる?」

🟢 生徒

「パンある?」

🔴 保護者

「あるよ。」

🟢 生徒

「じゃあ、パンにする。」

Yくんはパンを持って、リビングのテーブルに座りました。

しばらくして、自分から話しかけてきました。

🟢 生徒

「今日、学校から電話来る?」

🔴 保護者

「今日は特に予定はないよ。」

🟢 生徒

「そっか。」

少し間がありました。

🟢 生徒

「前は、電話が来ると嫌だった。」

🔴 保護者

「そうだったんだね。」

🟢 生徒

「電話のあと、いつも空気が重くなるから。」

保護者は胸が少し痛みました。

しかし、そこで言い訳をすることはしませんでした。

🔴 保護者

「そう感じてたんだね。」

🟢 生徒

「うん。」

🔴 保護者

「私も心配で、どうしたらいいか分からなくなってた。」

🟢 生徒

「……。」

🔴 保護者

「でも、学校のことは先生とも相談してるし、私も相談できる人がいるからね。」

Yくんは少し顔を上げました。

🟢 生徒

「相談してるの?」

🔴 保護者

「うん。どうやって支えたらいいか、私も教えてもらってる。」

🟢 生徒

「……ふうん。」

それからYくんは、パンを食べながらテレビを見始めました。

会話はそこで終わりました。

けれど、以前のように部屋へ戻ることはありませんでした。

「本当は学校のこと、考えてる」

数日後の夜。

Yくんは夕食のあともリビングに残っていました。

テレビを見ていた保護者に、突然話しかけました。

🟢 生徒

「俺さ、学校のこと何も考えてないわけじゃないから。」

保護者は驚きました。

しかし、すぐに質問を重ねることはしませんでした。

🔴 保護者

「うん。」

🟢 生徒

「毎日、明日はどうしようって思ってる。」

🔴 保護者

「そうなんだね。」

🟢 生徒

「でも朝になると、やっぱり無理ってなる。」

🔴 保護者

「朝になるとつらくなるんだね。」

🟢 生徒

「うん。」

Yくんは少し考えてから続けました。

🟢 生徒

「だから、朝に何か言われるのが嫌だった。」

🔴 保護者

「そうだったんだね。」

🟢 生徒

「自分でも分かってるのに、また言われるから。」

保護者は静かにうなずきました。

🔴 保護者

「今まで、何度も言ってしまったね。」

🟢 生徒

「うん。」

🔴 保護者

「心配だったんだけど、Yにはつらかったんだね。」

🟢 生徒

「……うん。」

少し長い沈黙がありました。

保護者は、何か励ましの言葉をかけようか迷いました。

「大丈夫だよ」

「いつか行けるようになるよ」

「少しずつ頑張ろう」

しかし、そのどれも口にはしませんでした。

今は、Yくんが話してくれたことを受け止めようと思ったのです。

するとYくんが、もう一つ話しました。

🟢 生徒

「学校、嫌いになったわけじゃないんだよ。」

🔴 保護者

「うん。」

🟢 生徒

「友達にも会いたいときあるし。」

🔴 保護者

「そうなんだね。」

🟢 生徒

「でも、今さらどうやって行けばいいか分かんない。」

保護者は少し考えてから答えました。

🔴 保護者

「それは、先生とも相談できると思うよ。」

🟢 生徒

「……そうなの?」

🔴 保護者

「うん。すぐ決めなくてもいいし、どんな方法があるか聞いてみることもできるよ。」

Yくんはしばらく黙っていました。

🟢 生徒

「じゃあ……今度、聞いてみてもいいかも。」

🔴 保護者

「分かった。聞きたくなったら教えてね。」

Yくんは小さくうなずきました。

その日は、それ以上学校の話をしませんでした。

「学校へ行けたか」だけでは分からない変化

次の相談で、保護者はその出来事を講師に話しました。

🔴 保護者

「Yが、自分から学校のことを話してくれたんです。」

🔵 講師

「そうだったんですね。」

🔴 保護者

「以前は、私が聞いても『分からない』ばかりだったのに。」

🔵 講師

「何か変えたことはありますか?」

🔴 保護者

「学校の話を無理に聞かないようにしたこともあります。でも、それだけじゃないと思います。」

🔵 講師

「というと?」

🔴 保護者

「私自身が、少し落ち着いてきたんです。」

🔵 講師

「どんなところが変わりましたか?」

🔴 保護者

「前は、Yが学校へ行かない限り、私は安心できないと思っていました。」

🔵 講師

「はい。」

🔴 保護者

「でも今は、学校との連絡もできますし、勉強のことも相談できます。私自身の不安を話せる場所もあります。」

🔵 講師

「それは大切な変化ですね。」

🔴 保護者

「Yが学校へ行けなくても、私にできることはあるんだと思えるようになりました。」

講師はうなずきました。

🔵 講師

「Yくんの状態はどうですか?」

🔴 保護者

「まだ学校へは行けていません。」

少し間を置いて、保護者は続けました。

🔴 保護者

「でも、以前よりリビングにいる時間が増えました。自分から話してくれることもあります。」

🔵 講師

「それも変化ですね。」

🔴 保護者

「はい。前なら『まだ学校へ行けない』というところで、話が終わっていたと思います。」

🔵 講師

「今は、学校以外の変化も見えるようになったんですね。」

🔴 保護者

「そうですね。」

保護者は少し笑いました。

🔴 保護者

「でも、まだ焦る日はあります。」

🔵 講師

「それでいいと思います。」

🔴 保護者

「いいんですか?」

🔵 講師

「焦らない人になる必要はありません。焦ったときに、自分で気づけることが大切なんです。」

🔴 保護者

「気づいて、一度考える。」

🔵 講師

「そうです。その不安を今、Yくんに伝える必要があるのか。それとも、別の場所で相談できることなのか。」

🔴 保護者

「少しずつなら、できそうです。」

親の焦りをなくすことより、焦りを子どもに背負わせないこと

不登校の子どもを支える保護者が、将来を心配するのは自然なことです。

学校へ戻れるのだろうか。

勉強はどうなるのだろうか。

高校へ進学できるのだろうか。

これから先、どんな人生を歩んでいくのだろうか。

こうした不安を、無理になくす必要はありません。

しかし、その不安を解消するために、子どもを急いで変えようとすると、親子の関係が苦しくなる場合があります。

親が不安だから、子どもに学校へ行ってほしい。

親が安心したいから、勉強を始めてほしい。

親が将来を心配しているから、今すぐ答えを出してほしい。

その気持ちが強くなるほど、子どもは自分自身の苦しさに加えて、親の不安まで背負ってしまうことがあります。

だからこそ、保護者自身にも支えが必要です。

学校と相談する。

学習の遅れについて情報を集める。

必要に応じて専門機関につながる。

自分の不安を話せる相手を持つ。

そして、子どもの前で焦りを感じたときには、一度立ち止まって考えてみる。

「今、私は自分の不安を、この子に解決してもらおうとしていないだろうか」

その問いかけが、親子の会話を変えるきっかけになることがあります。

もちろん、親が落ち着いて接したからといって、必ずすぐに登校できるようになるわけではありません。

不登校の背景や必要な支援は、一人ひとり異なります。

それでも、子どもが、

「自分のせいで親が困っている」

という思いを少しずつ手放し、

「今の気持ちを話しても大丈夫」

と思える家庭環境をつくることはできます。

親が目指すのは、一度も焦らない完璧な保護者になることではありません。

焦ってしまったら、その気持ちに気づく。

言いすぎてしまったら、伝え直す。

一人で抱えきれなくなったら、誰かに相談する。

そして、目の前の子どもの小さな変化を見つける。

子どもの未来を心配するからこそ、今の子どもを急がせすぎない。

親の不安を親自身が整理できるようになることは、子どもが安心しな支援の一つなのです。

理論編はこちらから

③ なぜ親の焦りは子どもに伝わってしまうのか(理論編)

はじめに 「学校へ行けるようになってほしい」 「勉強が遅れないようにしてほしい」 「このまま不登校が続いたら、将来どうなるのだろう」 子どもが学校へ行けなくなると、保護者はさまざまな不安を抱えるようになります。 最初は数 […]

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