② 子どもを変えようとする前に、親ができること(実践編)
はじめに
いろいろと考えて・・・焦って・・・。
どうすればいいのかさっぱり・・・。
[/word_balloon]そうですねえ・・・。できることはいろいろと・・・。
[/word_balloon]あるんですか?
[/word_balloon]ちょっと検討してみましょう。
[/word_balloon]はじめに
「このままではいけない」
子どもが学校へ行かず、昼近くまで寝ている。
起きてきてもゲームやスマートフォンばかり。
勉強している様子もない。
そんな毎日が続けば、保護者が不安になるのは自然なことです。
「少しでも勉強したほうがいい」
「朝は決まった時間に起きたほうがいい」
「外へ出たほうがいい」
「そろそろ学校のことも考えたほうがいい」
どれも、子どもの将来を考えれば間違ったことではありません。
しかし、「正しいこと」を一つずつ子どもに求め続けた結果、親子の会話が減ってしまうことがあります。
今回登場するのは、中学生のYくんとその保護者です。
Yくんが学校へ行けなくなってしばらく経ちました。
最初は、
「少し休めば学校へ戻れるだろう」
と思っていた保護者。
しかし、休む期間が長くなるにつれて、不安は大きくなっていきました。
そしていつの間にか、家庭での会話のほとんどが、
「学校」
「勉強」
「生活リズム」
の話になっていました。
「このままではいけない」と思うほど、言葉が増えていく
相談に来た保護者は、最初にこう言いました。
🔴 保護者
「最近、何を言っても反発されるんです。」
🔵 講師
「Yくんにですか?」
🔴 保護者
「はい。学校のことを聞いても怒るし、勉強の話をしても怒ります。」
🔵 講師
「どんな話をしていますか?」
🔴 保護者
「たとえば朝ですね。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「昼近くまで寝ているので、『そろそろ起きたら?』って言います。」
🔵 講師
「そのあとは?」
🔴 保護者
「起きてきたら、ずっとスマホなんです。だから『せっかく起きたんだから、少し勉強したら?』って。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「でも全然やらないんです。」
🔵 講師
「そうすると?」
🔴 保護者
「『このままで大丈夫なの?』って言ってしまいます。」
講師は少し考えてから尋ねました。
🔵 講師
「一日の中で、Yくんに何回くらい学校や勉強の話をしていると思いますか?」
🔴 保護者
「何回……。」
保護者は考え込みました。
🔴 保護者
「分かりません。でも、かなり言っているかもしれません。」
🔵 講師
「朝は?」
🔴 保護者
「起きる時間のこと。」
🔵 講師
「昼は?」
🔴 保護者
「勉強ですね。」
🔵 講師
「夕方は?」
🔴 保護者
「学校から連絡があれば、その話をします。」
🔵 講師
「夜は?」
🔴 保護者
「明日はどうするのか聞きます。」
保護者はそこまで答えて、少し黙りました。
🔴 保護者
「……ほとんど毎日ですね。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「でも、言わなかったら本当に何もしなくなりそうで怖いんです。」
🔵 講師
「そこが一番不安なんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「言わなければ動かない」という不安
保護者は続けました。
🔴 保護者
「私が言わなかったら、昼まで寝て、起きたらゲームして、一日が終わるんです。」
🔵 講師
「それを見るのがつらい?」
🔴 保護者
「つらいです。」
🔵 講師
「どうしてでしょう。」
🔴 保護者
「同じ年の子は学校へ行っているじゃないですか。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「朝起きて、学校へ行って、授業を受けて、部活をして……。」
少し間を置いて、保護者は続けました。
🔴 保護者
「それなのにYは家でゲームをしている。」
🔵 講師
「比べてしまうんですね。」
🔴 保護者
「どうしても比べます。」
🔵 講師
「それで、『何とかしなければ』と思う。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「では、少し別の角度から考えてみましょうか。」
🔴 保護者
「別の角度?」
🔵 講師
「今、保護者の方が一番変えたいことは何ですか?」
🔴 保護者
「学校へ行ってほしいです。」
🔵 講師
「その次は?」
🔴 保護者
「生活リズムを戻してほしい。」
🔵 講師
「その次は?」
🔴 保護者
「勉強してほしいです。」
講師は紙に書きました。
「学校へ行く」
「朝起きる」
「勉強する」
そして尋ねました。
🔵 講師
「これは全部、誰の行動でしょう。」
🔴 保護者
「Yの行動です。」
🔵 講師
「そうですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「では、保護者の方が直接変えられるものは、この中にありますか?」
保護者は答えませんでした。
🔵 講師
「『学校へ行きなさい』と言えば、必ず学校へ行けるでしょうか。」
🔴 保護者
「……行けないですね。」
🔵 講師
「『朝起きなさい』と言えば?」
🔴 保護者
「起きないです。」
🔵 講師
「『勉強しなさい』と言えば?」
🔴 保護者
「やりません。」
少し沈黙がありました。
🔴 保護者
「じゃあ、私は何もできないんでしょうか。」
🔵 講師
「いいえ。逆です。」
🔴 保護者
「逆?」
🔵 講師
「Yくんそのものを変えることはできません。でも、Yくんを取り巻く環境は変えられます。」
子どもではなく、家庭の「空気」を変えてみる
🔴 保護者
「環境というと、部屋とかですか?」
🔵 講師
「それもあります。でも、もっと身近なものです。」
🔴 保護者
「何でしょう。」
🔵 講師
「会話です。」
保護者は少し意外そうな顔をしました。
🔴 保護者
「会話?」
🔵 講師
「今、Yくんとの会話は学校や勉強の話が多いと言っていましたよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「では、学校と勉強の話を全部なくしたら、どんな話が残りますか?」
🔴 保護者
「全部なくすんですか?」
🔵 講師
「仮に、です。」
保護者はしばらく考えました。
🔴 保護者
「……何を話せばいいか分からないです。」
🔵 講師
「そこなんです。」
🔴 保護者
「え?」
🔵 講師
「もしかすると、Yくんも同じように感じているかもしれません。」
🔴 保護者
「私と話すと、学校の話になると思っている?」
🔵 講師
「可能性はあります。」
保護者は思い当たることがあるようでした。
🔴 保護者
「最近、私がリビングに行くと、Yが部屋に戻ることがあります。」
🔵 講師
「以前は?」
🔴 保護者
「一緒にテレビを見たりしていました。」
🔵 講師
「学校へ行けなくなってから変わった?」
🔴 保護者
「……そうですね。」
🔵 講師
「Yくんからすると、保護者の方が嫌なのではなく、『また学校の話をされるかもしれない』と思っているのかもしれません。」
その言葉を聞いて、保護者は黙りました。
🔴 保護者
「私、Yを見るたびに何か言っていました。」
🔵 講師
「何を?」
🔴 保護者
「『今日は勉強した?』『学校からプリント来てるよ』『明日はどうする?』……。」
🔵 講師
「心配だったからですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「でもYくんからすると、家にいてもずっと『できていないこと』を確認されているように感じていた可能性があります。」
🔴 保護者
「……そうかもしれません。」
一日だけ「変えようとしない日」をつくる
講師は一つ提案しました。
🔵 講師
「では、一日だけ試してみませんか?」
🔴 保護者
「何をですか?」
🔵 講師
「Yくんを変えようとしない日です。」
🔴 保護者
「変えようとしない?」
🔵 講師
「学校へ行かせようとしない。勉強させようとしない。生活リズムを直そうとしない。」
🔴 保護者
「でも……本当に何も言わなくていいんですか?」
🔵 講師
「一日だけです。」
🔴 保護者
「一日……。」
🔵 講師
「その代わり、Yくんをよく見てください。」
🔴 保護者
「見る?」
🔵 講師
「何時に起きるのか。どんな表情をしているのか。何をしているときに楽しそうなのか。いつなら話しやすそうなのか。」
🔴 保護者
「注意するんじゃなくて、見るんですね。」
🔵 講師
「そうです。」
🔴 保護者
「できるかな……。」
🔵 講師
「言いたくなったら、一度だけ考えてみてください。」
🔴 保護者
「何をですか?」
🔵 講師
「『これは今、Yくんに必要な言葉かな。それとも私が安心したくて言おうとしているのかな』と。」
翌日。
Yくんが起きてきたのは午前11時前でした。
いつもなら、
「もう11時だよ」
と言っているところです。
しかし、その日は言いませんでした。
🟢 生徒
「おはよう。」
🔴 保護者
「おはよう。」
🟢 生徒
「何か食べるものある?」
🔴 保護者
「パンと昨日のスープならあるよ。」
🟢 生徒
「スープにする。」
🔴 保護者
「温める?」
🟢 生徒
「自分でやる。」
Yくんはスープを温め、リビングで食べ始めました。
食べ終わると、スマートフォンを触り始めました。
保護者の頭に、いつもの言葉が浮かびます。
「食べ終わったなら少し勉強したら?」
しかし、そこで止まりました。
――これは今、Yに必要な言葉だろうか。
それとも、自分が安心したいだけだろうか。
保護者は何も言いませんでした。
しばらくすると、Yくんがスマートフォンを見ながら笑いました。
🔴 保護者
「何見てるの?」
Yくんが一瞬こちらを見ました。
学校のことを聞かれると思ったのかもしれません。
🟢 生徒
「動画。」
🔴 保護者
「面白い?」
🟢 生徒
「うん。これ。」
Yくんはスマートフォンの画面を見せました。
🔴 保護者
「ああ、こういうの好きだったね。」
🟢 生徒
「これ、最近ずっと見てる。」
それだけの会話でした。
しかし、その日はYくんがすぐに自分の部屋へ戻ることはありませんでした。
しばらく同じリビングで過ごしました。
夕方になると、Yくんが冷蔵庫を開けながら尋ねました。
🟢 生徒
「今日の夜ご飯、何?」
🔴 保護者
「カレーにしようと思ってる。」
🟢 生徒
「辛いやつ?」
🔴 保護者
「どうしようかな。」
🟢 生徒
「辛いほうがいい。」
🔴 保護者
「じゃあ少し辛くしようか。」
🟢 生徒
「俺、じゃがいも切ろうか?」
保護者は驚きました。
普段なら、
「手伝って」
と言っても面倒そうな顔をすることがあります。
そのYくんが、自分から言ったのです。
🔴 保護者
「お願いしていい?」
🟢 生徒
「うん。」
二人で台所に立ちました。
学校の話はしませんでした。
勉強の話もしませんでした。
進路の話もありません。
じゃがいもを切りながら、Yくんが最近見ている動画の話をしました。
そのとき、保護者は気づきました。
今日、Yくんは学校へ行っていません。
勉強もしていません。
起きたのも11時です。
これまでの自分なら、
「今日も何もできなかった」
と思っていたでしょう。
でも本当に、何もなかったのでしょうか。
一緒に昼食を食べた。
久しぶりに笑って話した。
リビングで一緒に過ごした。
そして、自分から夕食を手伝ってくれた。
学校へ行くという大きな変化はありません。
それでも、親子の間にあった張りつめた空気が、ほんの少しだけ変わっていました。
保護者は初めて、
「Yを変えようとしなかったからこそ、Yが自分から動いたこともあったのかもしれない」
と思いました。
そして同時に、もう一つの疑問が生まれました。
このままずっと何も求めなくていいのだろうか。
子どもを変えようとしないことと、何もしないことは同じなのか。
次の相談で、保護者はその疑問を講師に尋ねることになります。
「変えようとしない」と「何もしない」は違う
次の相談の日。
保護者は、前回言われた「一日だけYくんを変えようとしない」ということを試した結果を講師に話しました。
🔴 保護者
「学校のことも、勉強のことも、一日だけ何も言わないようにしてみました。」
🔵 講師
「どうでしたか?」
🔴 保護者
「思っていたより難しかったです。」
🔵 講師
「言いたくなりました?」
🔴 保護者
「何度も。」
保護者は苦笑しました。
🔴 保護者
「11時に起きてきたときも、『もう11時だよ』って言いそうになりました。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「ご飯を食べたあとスマホを見ていたときも、『少しくらい勉強したら?』って。」
🔵 講師
「でも言わなかった。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「何か変わりましたか?」
🔴 保護者
「久しぶりに普通に話しました。」
🔵 講師
「普通に?」
🔴 保護者
「動画の話とか、夕飯の話とかです。それから、Yが自分から夕飯を手伝ってくれました。」
🔵 講師
「それはいい時間でしたね。」
🔴 保護者
「はい。最近、あんなふうに一緒に台所に立ったことがなかったので。」
少しうれしそうに話していた保護者でしたが、すぐに表情が曇りました。
🔴 保護者
「でも、一つ心配になったんです。」
🔵 講師
「何でしょう。」
🔴 保護者
「このままでいいんでしょうか。」
🔵 講師
「このままというと?」
🔴 保護者
「何も言わないでいたら、ずっと学校へ行かなくてもいい、勉強しなくてもいいって思ってしまわないでしょうか。」
講師はうなずきました。
🔵 講師
「そこは大切なところですね。」
🔴 保護者
「子どもを変えようとしないって、結局、放っておくことにならないんですか?」
🔵 講師
「いいえ。『変えようとしない』ことと『何もしない』ことは違います。」
🔴 保護者
「どう違うんでしょう。」
🔵 講師
「たとえば、Yくんが困ったときに相談できるようにしておく。学校との連絡を必要に応じて取る。勉強したくなったときに始められる環境を整える。生活の変化を見ておく。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「これは全部、保護者にできることです。」
🔴 保護者
「でも、『勉強しなさい』とは言わない。」
🔵 講師
「言葉で無理に動かそうとすることと、動きたくなったときに動ける環境を用意することは違います。」
保護者は少し考えました。
🔴 保護者
「子どもを引っ張るんじゃなくて……。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「動けるようになったときに支えられるようにしておく?」
🔵 講師
「そう考えると分かりやすいと思います。」
「勉強しなさい」ではなく、始められる場所をつくる
講師は続けました。
🔵 講師
「Yくんの勉強について、今一番心配なのは何ですか?」
🔴 保護者
「授業についていけなくなることです。」
🔵 講師
「では、これまでどんな声をかけていましたか?」
🔴 保護者
「『少しでも勉強したら?』とか、『みんな授業進んでるよ』とか……。」
🔵 講師
「Yくんはどうします?」
🔴 保護者
「嫌そうな顔をして部屋に戻ります。」
🔵 講師
「では、その方法は今のYくんにはあまり効果がないのかもしれません。」
🔴 保護者
「そうですね。」
🔵 講師
「でも、だからといって勉強を完全に諦める必要はありません。」
🔴 保護者
「どうすればいいですか?」
🔵 講師
「Yくんが『ちょっとやってみようかな』と思ったとき、すぐ始められるようにしておくことです。」
🔴 保護者
「たとえば?」
🔵 講師
「教科書や問題集を分かりやすいところに置いておく。分からないところがあれば相談できる人がいると伝えておく。最初から何時間もやらなくていいと伝える。」
🔴 保護者
「なるほど。」
🔵 講師
「『勉強しなさい』ではなく、『やってみたくなったら手伝えるよ』という状態ですね。」
🔴 保護者
「待つのって難しいですね。」
🔵 講師
「難しいと思います。」
🔴 保護者
「何かしているほうが、親としては安心します。」
🔵 講師
「だからこそ、待つことも一つの支援なんです。」
小さな変化を「次の課題」に変えない
数日後。
夕方になって、Yくんがリビングへやってきました。
テーブルの上には、学校から届いたプリントが置いてありました。
Yくんはそれを手に取りました。
🟢 生徒
「これ、学校の?」
🔴 保護者
「うん。昨日届いたよ。」
🟢 生徒
「数学、ここまで進んでるの?」
🔴 保護者
「みたいだね。」
🟢 生徒
「全然分かんない。」
以前なら保護者は、
「だから少しずつ勉強しておかないと」
と言っていたでしょう。
しかし、その日は違いました。
🔴 保護者
「どのあたりから分からない?」
Yくんはプリントを見ながら答えました。
🟢 生徒
「たぶん、もっと前から。」
🔴 保護者
「そっか。」
🟢 生徒
「今からやっても追いつけないよね。」
🔴 保護者
「全部一気に追いつかなくてもいいんじゃない?」
🟢 生徒
「でも、どこからやればいいか分かんない。」
🔴 保護者
「講師に聞いてみる?」
Yくんは少し考えました。
🟢 生徒
「聞くだけでもいい?」
🔴 保護者
「もちろん相談できると思うよ。」
🟢 生徒
「じゃあ……今度聞いてみようかな。」
🔴 保護者
「分かった。」
それ以上、保護者は言いませんでした。
「じゃあ今日から勉強しよう」
とも、
「何曜日から始める?」
とも聞きませんでした。
Yくんが自分から、
「聞いてみようかな」
と言った。
その一歩を、そのまま受け止めました。
親ができるのは「動かすこと」ではなく「動ける場所をつくること」
後日、Yくんは講師と話すことになりました。
テーブルには数学の教科書と、学校から届いたプリントがあります。
🔵 講師
「数学がちょっと気になってるって聞いたけど。」
🟢 生徒
「はい。でも、どこから分からないのかもよく分からないです。」
🔵 講師
「じゃあ、それを探すところから始めようか。」
🟢 生徒
「全部やり直さないとダメですか?」
🔵 講師
「全部を最初からやる必要はないよ。」
🟢 生徒
「でも、学校はかなり先まで進んでます。」
🔵 講師
「学校が今どこまで進んでいるかも大事だけど、まずYくんがどこまで分かっているかを見よう。」
🟢 生徒
「追いつけますか?」
🔵 講師
「今すぐ全部追いつくことを目標にしなくていいと思う。」
🟢 生徒
「じゃあ何を目標にするんですか?」
🔵 講師
「今日は一つだけ、『ここなら分かる』という場所を見つけること。」
Yくんは少し笑いました。
🟢 生徒
「それだけ?」
🔵 講師
「それだけ。」
二人で教科書を少しずつ戻っていきました。
しばらくすると、Yくんが問題を一つ解きました。
🟢 生徒
「これなら分かります。」
🔵 講師
「じゃあ、ここがスタート地点だね。」
🟢 生徒
「こんな前からでいいんですか?」
🔵 講師
「もちろん。」
🟢 生徒
「学校のところまで、かなりありますけど。」
🔵 講師
「今日は学校に追いつく日じゃないからね。」
🟢 生徒
「じゃあ、もう一問やってみます。」
🔵 講師
「やってみよう。」
少し離れたところから、保護者はその様子を見ていました。
以前なら、
「せっかくやる気になったんだから、もっとやってほしい」
と思ったかもしれません。
実際、その気持ちがまったくなかったわけではありません。
でも今は、
自分から「もう一問やってみる」と言えたことを大切にしよう
と思いました。
親が先回りしすぎると、子どもが考える機会が減る
講師との学習が終わったあと、Yくんは教科書をテーブルに置いたまま、自分の部屋へ戻りました。
保護者は講師に尋ねました。
🔴 保護者
「もっとやらせなくてよかったんでしょうか。」
🔵 講師
「今日はYくん自身が『もう一問やる』と決めましたよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「そこが大事だと思います。」
🔴 保護者
「自分で決めたこと?」
🔵 講師
「そうです。」
🔴 保護者
「でも、親がある程度決めてあげたほうが早いですよね。」
🔵 講師
「早い場合もあります。」
🔴 保護者
「だったら……。」
🔵 講師
「ただ、親が全部決めてしまうと、Yくんが『自分はどうしたいのか』を考える機会が減ります。」
保護者は黙って聞いていました。
🔵 講師
「何時に起きるか。」
「今日は何をするか。」
「勉強を始めるか。」
「学校とどう関わるか。」
「誰に相談するか。」
🔵 講師
「もちろん全部を子どもだけで決める必要はありません。でも、できるところから本人が選ぶ経験を取り戻していくことは大切です。」
🔴 保護者
「私は今まで、全部先に決めようとしていました。」
🔵 講師
「心配だからですよね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「でも、Yくんが自分で考える時間も少し残してみましょう。」
「変えようとする」から「支えようとする」へ
その日の夜。
Yくんが夕食を食べながら言いました。
🟢 生徒
「今日の数学、思ったより分かった。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
🟢 生徒
「もっと全部分かんなくなってると思ってた。」
🔴 保護者
「分かるところが見つかってよかったね。」
🟢 生徒
「うん。」
少しして、Yくんが言いました。
🟢 生徒
「明日も少しやろうかな。」
保護者は一瞬、
「何時からやる?」
と聞きそうになりました。
でも、少し待ちました。
🔴 保護者
「やってみたくなったら、教科書そのまま置いてあるよ。」
🟢 生徒
「うん。」
それで会話は終わりました。
翌日、本当に勉強するかは分かりません。
また一日ゲームをして過ごすかもしれません。
朝起きられないかもしれません。
気持ちが落ち込む日もあるでしょう。
回復は、一直線には進みません。
昨日できたことが、今日はできないこともあります。
それでも、
「昨日できたんだから今日もできるでしょう」
と急がない。
できない日に、
「また元に戻った」
と決めつけない。
子どもの状態を見ながら、その日にできることを一緒に考えていく。
それが、子どもを放っておくこととは違う「見守る」という関わり方です。
不登校になると、親はどうしても、
「学校へ行かせなければ」
「生活リズムを戻さなければ」
「勉強させなければ」
と考えます。
けれど、親が子どもの代わりに学校へ行くことはできません。
子どもの代わりに「学校へ行きたい」という気持ちをつくることもできません。
その代わり、親にできることがあります。
安心して休める家庭をつくる。
話したくなったときに話せる関係をつくる。
勉強したくなったときに始められる環境を整える。
困ったときに相談できる人につなぐ。
そして、小さな変化をすぐ次の課題に変えず、その一歩を受け止める。
子どもを変えようとすることと、子どもを支えることは同じではありません。
「どうすればこの子を動かせるだろう」
と考えるところから、
「この子が自分で動こうと思ったとき、私は何ができるだろう」
と考えるところへ。
その変化が、家庭の空気を少しずつ変えていきます。
そして安心できる場所の中で、子どもは少しずつ、
「自分はどうしたいのか」
を考えられるようになります。
親が先に答えを決めるのではなく、子どもが自分で答えを見つけていくための場所を守ること。
それが、子どもを変えようとする前に、親ができる大切なことなのです。
理論編はこちらから
② 子どもを変えようとする前に、親ができること(理論編)
はじめに 子どもが学校へ行けなくなると、保護者はどうしても、 「何とか学校へ行けるようにしなければ」 「生活リズムを戻さなければ」 「勉強をさせなければ」 と考えます。 それは、子どもの将来を心配しているからこそ生まれる […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません


