⑦ 自己肯定感が下がるメカニズム(理論編)
はじめに
「学校へ行けなくなってから、子どもが『どうせ自分なんて』と言うようになりました」
「以前はもっと自信があったのに、何をするにも『無理』『できない』と言います」
不登校の相談では、このようなお話を聞くことがあります。
学校へ行けなくなったことで、急に性格が変わってしまったように感じる保護者もいるでしょう。
しかし、子どもが突然「自信のない子」になったわけではありません。
学校へ行けない日が続く中で、
「みんなはできているのに、自分にはできない」
「親に迷惑をかけている」
「このままでは将来もダメになる」
といった思いが少しずつ積み重なり、自分自身を見る目が厳しくなっていくことがあります。
自己肯定感は、一日で下がるものではありません。
小さな自己否定が何度も繰り返されることで、少しずつ「自分には価値がない」という感覚へつながってしまうことがあります。
だからこそ、その仕組みを知ることが大切です。
自己肯定感とは「何でもできると思うこと」ではない
まず、自己肯定感について一つ整理しておきましょう。
自己肯定感が高いということは、
「自分は何でもできる」
「自分は誰よりも優れている」
と思うことではありません。
失敗する自分も、できない自分も含めて、
「それでも自分には価値がある」
「失敗しても、自分のすべてが否定されるわけではない」
と思える感覚です。
つまり、
「できる自分だから価値がある」のではなく、「できないことがあっても、自分の価値そのものは変わらない」と思えること。
これがとても重要です。
ところが、不登校になると、この感覚が揺らぎやすくなることがあります。
「学校へ行けない」が「自分はダメ」に変わっていく
最初は、
「今日は学校へ行けなかった」
という一つの出来事だったはずです。
しかし、それが何日も続くと、子どもの中で意味が変わっていくことがあります。
「今日も学校へ行けなかった」
↓
「みんなは行っているのに、自分だけ行けない」
↓
「自分は普通のこともできない」
↓
「自分はダメなのかもしれない」
というように、一つの「できなかったこと」が、自分自身への評価にまで広がってしまうのです。
本来なら、
「学校へ行けないこと」
と、
「その子自身の価値」
はまったく別の問題です。
ところが、心が疲れていると、その二つを切り離して考えることが難しくなる場合があります。
「学校へ行けない自分=ダメな自分」
という考え方になってしまうのです。
周りと比べることで「自分だけ」が強くなる
さらに大きな影響を与えるのが、同年代との比較です。
平日の朝、窓の外を見ると、同じ制服を着た子どもたちが学校へ向かっています。
SNSを開けば、
「部活の大会に出た」
「文化祭が楽しかった」
「テストが終わった」
といった友達の日常が目に入ることもあります。
すると、
「みんなは前に進んでいる」
「自分だけ止まっている」
という感覚を持つことがあります。
しかし、子どもが見ているのは、他人の生活のほんの一部分です。
学校へ通っている子にも悩みはあります。
勉強に苦しんでいる子もいれば、人間関係で悩んでいる子もいます。
それでも、自分が苦しい時には、周囲がみんな順調に進んでいるように見えてしまうものです。
そして、
「みんなはできている」
「自分だけできない」
という比較が繰り返されることで、自分への評価がさらに下がってしまうことがあります。
「できないこと探し」が始まってしまう
自己肯定感が下がってくると、自分の「できていない部分」に目が向きやすくなります。
学校へ行けない。
朝起きられない。
勉強できない。
友達と会えない。
外出できない。
以前できていたことができなくなると、そればかりが気になってしまいます。
一方で、
家族と話せた。
自分で食事を取れた。
好きな本を読めた。
少し外へ出られた。
自分の気持ちを話せた。
といった「できていること」は、自分ではなかなか評価できません。
すると、一日の終わりに残るのは、
「今日も何もできなかった」
という感覚です。
実際には何もしていないわけではありません。
しかし、自分の中の評価基準が「学校へ行けたか」「勉強できたか」といった一部の結果だけになっているため、それ以外の小さな行動を価値あるものとして認識できなくなってしまうのです。
「迷惑をかけている」という思いも自己否定につながる
不登校の子どもの中には、保護者に対して強い申し訳なさを抱えている子もいます。
「お母さんを心配させている」
「お父さんを困らせている」
「自分のことで家族が話し合っている」
「学校の先生にも迷惑をかけている」
そう考えるうちに、
「自分がいなければ、みんな困らないのに」
という方向へ自己評価が下がってしまうことがあります。
だからこそ、家庭では「あなたのせいで大変」というメッセージではなく、
「困ったことがあったら一緒に考えればいい」
「今できることから考えていこう」
という姿勢を伝えることが大切です。
子どもにとって、
「自分は家族にとって迷惑な存在ではない」
と思えることは、大きな安心につながります。
励ましているのに、なぜ届かないのか
自己肯定感が下がっている子どもに、
「あなたならできるよ」
「もっと自信を持って」
「頑張れば大丈夫」
と声をかけることがあります。
もちろん、励ますこと自体が悪いわけではありません。
しかし、本人が「自分には何もできない」と感じている時には、その言葉を受け取れないことがあります。
「できると言われても、実際にはできていない」
「頑張れと言われても、もう頑張れない」
そう感じると、励ましさえプレッシャーになる場合があります。
そんな時に必要なのは、無理に自信を持たせることではありません。
まず、
「今はつらいんだね」
「できない日があっても大丈夫」
と、現在の状態を受け止めてもらうことです。
自己肯定感は、言葉だけで無理に高めるものではありません。
安心できる経験の積み重ねの中で、少しずつ回復していくものなのです。
「結果」だけで評価しないことが大切
子どもが何かできた時に褒めることは大切です。
しかし、
「学校へ行けたから偉い」
「勉強したから偉い」
だけになってしまうと、
「学校へ行けない自分には価値がない」
「勉強できない自分は認めてもらえない」
と受け取ってしまうことがあります。
そこで大切になるのが、結果だけではなく「過程」を見ることです。
「今日は起きてこられたね」
「話してくれてありがとう」
「やってみようと思えたんだね」
「昨日より少し表情が明るくなったね」
こうした小さな変化を認めていきます。
特に大切なのは、何かができた時だけ認めるのではなく、
「できる・できないに関係なく、あなたは大切な存在だ」
ということが伝わる関わり方です。
自己肯定感が戻ると「やってみよう」が生まれる
自己肯定感が少しずつ回復してくると、子どもの言葉にも変化が現れることがあります。
「どうせ無理」
だったものが、
「少しならできるかも」
に変わる。
「絶対できない」
だったものが、
「やってみようかな」
に変わる。
これは、とても大きな変化です。
最初から学校へ戻る必要はありません。
最初から何時間も勉強する必要もありません。
五分だけ勉強してみる。
家の外へ少し出てみる。
興味のある高校について調べてみる。
誰かと少し話してみる。
そうした小さな挑戦を積み重ねることで、
「自分にもできることがある」
という感覚が戻ってきます。
そして、
「できることがある」
から、
「もう少しやってみたい」
へとつながっていくのです。
自己肯定感を回復させる小さな循環
自己肯定感が下がっている時には、
「できない」
↓
「自分はダメだ」
↓
「挑戦するのが怖い」
↓
「さらにできることが減る」
↓
「やっぱり自分はダメだ」
という悪循環が起こることがあります。
回復するときは、その反対です。
「安心できる」
↓
「少しやってみる」
↓
「少しできる」
↓
「認めてもらえる」
↓
「もう少しやってみようと思う」
という小さな循環をつくっていきます。
重要なのは、大きな成功を急がないことです。
小さな「できた」を積み重ねること。
そして、できなかった日にも自分の価値は変わらないと感じられること。
この二つが、自己肯定感を回復させる大切な土台になります。
まとめ
不登校になると自己肯定感が下がることがあります。
しかし、それは「学校へ行けなくなったから、弱い人間になった」ということではありません。
学校へ行けない。
周囲と比べる。
できないことばかりを見る。
家族に迷惑をかけていると思う。
挑戦することが怖くなる。
そうした経験が重なることで、少しずつ自分自身への評価が下がっていくのです。
だからこそ、回復も一つずつ進めていけばいいのです。
学校へ行けなくても、その子の価値は変わりません。
勉強できない時期があっても、その子の可能性がなくなるわけではありません。
「今の自分でも、ここにいていい」
「できないことがあっても、自分には価値がある」
そう感じられる環境をつくることが、自己肯定感を取り戻す第一歩になります。
そして安心感が戻ってきた時、子どもの中には少しずつ、
「もう一度やってみようかな」
という気持ちが生まれてきます。
その小さな気持ちこそが、次の一歩につながっていくのです。
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