④「学校へ行ってほしい」という気持ちとの向き合い方(実践編)
はじめに
できれば学校に行ってほしいと思うものですが・・・。
気持ちは分かるけど・・・。
そうだよね。
期待には応えたいけど・・・。
そう思っているのであれば大丈夫。
- 0.1. 事例プロフィール
- 1. はじめに
- 2. 「学校へ行ってほしいと思うのは、間違いですか?」
- 2.1. 親が本当に願っていることは何だろう
- 3. 「学校が嫌いなわけじゃない」という本音
- 3.1. 「学校へ行ってほしい」を伝える前に聞くこと
- 3.2. 「明日は行ける?」を聞かなかった朝
- 4. 学校へ行くことを急がせず、将来への準備を進める
- 4.1. 学校に相談することは、登校を約束することではない
- 4.2. 「勉強しなさい」ではなく、「何ならできそう?」と聞いてみる
- 5. 親の願いを、子どもへの要求ではなく支援に変える
- 5.1. 学校へ戻ることも、学び続けることも諦めない
- 5.2. 「学校へ行ってほしい」という気持ちは、今もある
- 5.3. 親が願う未来と、子どもが選ぶ未来
- 5.3.1. 理論編はこちらから
事例プロフィール
- 対象者: Aさん(中学2年生)
- 地域: 福井県内
- 性格・特徴: 真面目で周囲に気を遣いやすく、自分の気持ちを言葉にするのが苦手
- 当初の状況: 学校を休み始めて約1か月。家では比較的落ち着いて過ごせるものの、登校の話題になると表情が硬くなる
- 保護者の悩み: 学校へ行ってほしい気持ちを抑えようとしているが、将来への不安が消えない
- 支援テーマ: 親の願いを否定せず、子どもの今の気持ちと両立させる関わり方を考える
はじめに
「学校へ行ってほしいと思ってはいけないのでしょうか」
不登校の子どもを支える保護者の中には、そんな悩みを抱えている方がいます。
無理に登校させてはいけない。
子どもの気持ちを尊重しなければいけない。
学校へ戻ることだけを目標にしてはいけない。
そうした考え方を知るほど、保護者は自分の本音を口にしにくくなることがあります。
しかし、学校へ行ってほしいと願うこと自体が悪いわけではありません。
友達と笑い合ってほしい。
授業を受けて、勉強を続けてほしい。
将来の選択肢を広げてほしい。
そう願うのは、子どものこれからを大切に思っているからでしょう。
ただし、その願いが強くなりすぎると、目の前の子どもの苦しさが見えなくなってしまうことがあります。
今回の実践編では、学校へ行けなくなった中学生と、その保護者の関わりを通して、親の願いと子どもの気持ちをどう両立させていくのかを考えます。
親の気持ちを無理に消すのでも、子どもの気持ちを無理に変えるのでもありません。
お互いの思いを大切にしながら、今できることを探していく過程を見ていきましょう。
「学校へ行ってほしいと思うのは、間違いですか?」
相談に来た保護者は、少し迷うような表情で話し始めました。
🔴 保護者
「一つ、聞いてもいいですか?」
🔵 講師
「もちろんです。」
🔴 保護者
「学校へ行ってほしいと思うのは、間違いなんでしょうか。」
講師はすぐに答えを出さず、保護者の言葉を待ちました。
🔴 保護者
「最近、不登校についていろいろ調べているんです。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「無理に学校へ行かせないほうがいいとか、学校復帰だけが目標じゃないとか……。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「頭では分かるんです。でも、やっぱり学校へ行ってほしいんです。」
🔵 講師
「その気持ちは、あっていいと思いますよ。」
🔴 保護者
「本当ですか?」
🔵 講師
「はい。学校へ行ってほしいと思うこと自体が、悪いわけではありません。」
保護者は少し安心したようでした。
しかし、すぐに続けました。
🔴 保護者
「でも、Aは学校の話をすると嫌がるんです。」
🔵 講師
「どんな反応をしますか?」
🔴 保護者
「黙ってしまいます。ときには『その話はやめて』って。」
🔵 講師
「そのとき、どうしていますか?」
🔴 保護者
「最近は、それ以上言わないようにしています。」
🔵 講師
「そうなんですね。」
🔴 保護者
「でも、心の中ではずっと思っています。」
🔵 講師
「学校へ行ってほしい、と。」
🔴 保護者
「はい。」
少し沈黙がありました。
🔴 保護者
「私が学校へ行ってほしいと思うこと自体が、Aの負担になっているんじゃないかって……。」
🔵 講師
「では、その気持ちを少し整理してみましょうか。」
親が本当に願っていることは何だろう
講師は紙を一枚取り出しました。
🔵 講師
「Aさんに学校へ行ってほしいのは、どうしてですか?」
🔴 保護者
「どうして……。」
🔵 講師
「思いつくことを、そのまま話してみてください。」
🔴 保護者
「まず、勉強が心配です。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「授業がどんどん進んでいますし、このままだと高校受験も大変になると思います。」
🔵 講師
「ほかには?」
🔴 保護者
「友達ですね。」
🔵 講師
「友達?」
🔴 保護者
「以前は、学校から帰ると友達の話をよくしていたんです。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
🔴 保護者
「それが今は、ほとんど家にいます。友達と笑っている姿を、また見たいんです。」
講師はうなずきました。
🔵 講師
「ほかにもありますか?」
🔴 保護者
「将来、自分で生活していけるようになってほしいです。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「勉強して、友達をつくって、社会に出て……普通に幸せになってほしいんです。」
講師は、紙に三つの言葉を書きました。
「学び続けること」
「人とのつながり」
「将来の自立」
🔵 講師
「今のお話を整理すると、こういうことですね。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「では、少し考えてみてください。この三つは、学校へ毎日通わなければ絶対に実現できないことでしょうか。」
保護者は紙を見つめました。
🔴 保護者
「……学校へ行かなくても、勉強する方法はありますよね。」
🔵 講師
「ありますね。」
🔴 保護者
「友達も、学校以外でつくることはできます。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「でも、やっぱり学校に行ったほうがいいと思うんです。」
🔵 講師
「そう思っていても構いません。」
🔴 保護者
「いいんですか?」
🔵 講師
「はい。ただ、学校に行くことと、Aさんが幸せになることを、まったく同じものとして考えなくてもいいと思います。」
保護者は黙って聞いていました。
🔵 講師
「学校へ戻る道もあります。学校以外の場所で学び続ける道もあります。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「今は、どちらか一つに決める必要はありません。」
🔴 保護者
「決めなくてもいい……。」
🔵 講師
「まずは、Aさんが今どんなことに困っているのかを知るところから始めませんか。」
「学校が嫌いなわけじゃない」という本音
その日の夜。
保護者は夕食のあと、リビングでテレビを見ていたAさんに声をかけました。
🔴 保護者
「A、ちょっと聞いてもいい?」
🟢 生徒
「何?」
🔴 保護者
「学校へ行くかどうかを聞きたいわけじゃないんだけど。」
Aさんの表情が少し硬くなりました。
🟢 生徒
「……うん。」
🔴 保護者
「最近、学校の話になると嫌そうにしていたでしょう。」
🟢 生徒
「うん。」
🔴 保護者
「何か、私が言いすぎていたのかなと思って。」
Aさんはしばらく黙っていました。
🟢 生徒
「……行けるなら行ってるよ。」
保護者は驚きました。
🔴 保護者
「そう思ってたんだね。」
🟢 生徒
「うん。」
🔴 保護者
「学校へ行きたい気持ちもある?」
🟢 生徒
「……あるときもある。」
🔴 保護者
「そうなんだね。」
🟢 生徒
「でも、行こうと思うと嫌になる。」
🔴 保護者
「どんなところが嫌になるの?」
Aさんは少し考えました。
🟢 生徒
「教室。」
🔴 保護者
「教室?」
🟢 生徒
「みんながいるところ。」
🔴 保護者
「人が多いのがつらい?」
🟢 生徒
「それもあるけど……。」
言葉が止まりました。
保護者は、すぐに次の質問をしないようにしました。
しばらくして、Aさんが続けました。
🟢 生徒
「休む前、授業中に当てられるのが嫌だった。」
🔴 保護者
「そうだったんだ。」
🟢 生徒
「答えられないと、みんなに見られるから。」
🔴 保護者
「うん。」
🟢 生徒
「別に、誰かに何か言われたわけじゃないけど。」
🔴 保護者
「見られるのがつらかったんだね。」
🟢 生徒
「うん。」
Aさんは少しずつ話し始めました。
授業中に突然当てられること。
答えられないときの沈黙。
周囲の視線。
間違えることへの不安。
そして、学校を休み始めてからは、さらに別の心配が増えていました。
🟢 生徒
「今さら学校行ったら、絶対聞かれるじゃん。」
🔴 保護者
「何を?」
🟢 生徒
「何で休んでたのって。」
🔴 保護者
「そうだね。聞かれるかもしれないね。」
🟢 生徒
「何て言えばいいか分かんない。」
🔴 保護者
「うん。」
🟢 生徒
「自分でも、何でこんなに行けないのか分かんないのに。」
保護者は、これまでの自分の言葉を思い出しました。
「明日は行ける?」
「そろそろ学校へ行かないと」
「みんな待っているよ」
励ましているつもりでした。
しかし、Aさんはすでに、学校へ行けないことを自分で苦しく感じていたのです。
「学校へ行ってほしい」を伝える前に聞くこと
翌日、保護者は講師に前夜の会話を報告しました。
🔴 保護者
「Aが、学校のことを少し話してくれたんです。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
🔴 保護者
「授業中に当てられるのが怖かったみたいです。」
🔵 講師
「なるほど。」
🔴 保護者
「私は、友達関係が原因なのかなと思っていました。」
🔵 講師
「実際に聞いてみると、違うこともありますね。」
🔴 保護者
「はい。それに、休んでいる理由を友達に聞かれるのも嫌みたいで。」
🔵 講師
「学校を休み始めた理由とは別に、戻ることへの不安も生まれているんですね。」
🔴 保護者
「そうなんです。」
保護者は少し考えてから尋ねました。
🔴 保護者
「でも、Aがそう思っているなら、学校へ行ってほしいとは言わないほうがいいんでしょうか。」
🔵 講師
「気持ちを持っていることと、毎日その気持ちを伝えることは別ですよ。」
🔴 保護者
「別……。」
🔵 講師
「保護者の方が学校へ行ってほしいと思っていても、Aさんが今つらいと感じていることを聞くことはできます。」
🔴 保護者
「はい。」
🔵 講師
「それに、学校へ行くかどうかを今すぐ決めなくても、困っていることについて学校に相談することはできます。」
🔴 保護者
「たとえば、授業中に当てられることですか?」
🔵 講師
「そうです。本人が望むなら、授業での配慮や、教室以外での学び方について相談することも考えられます。」
🔴 保護者
「学校へ戻るかどうかを決める前に、相談してもいいんですね。」
🔵 講師
「もちろんです。ただし、Aさんの気持ちを確かめながら進めましょう。」
🔴 保護者
「分かりました。」
「明日は行ける?」を聞かなかった朝
数日後の朝。
Aさんはいつもより少し早く起きてきました。
🟢 生徒
「おはよう。」
🔴 保護者
「おはよう。」
🟢 生徒
「今日、何曜日?」
🔴 保護者
「木曜日だよ。」
Aさんは少し考えていました。
保護者は、
「今日は学校へ行ける?」
と聞きたくなりました。
いつもより早く起きている。
表情も悪くない。
もしかしたら、今日は行けるかもしれない。
そんな期待が浮かびました。
しかし、保護者はその言葉を飲み込みました。
🔴 保護者
「朝ご飯、食べる?」
🟢 生徒
「うん。」
二人で朝食を食べました。
しばらくして、Aさんが言いました。
🟢 生徒
「今日、体育あるんだよね。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
🟢 生徒
「体育は嫌いじゃなかった。」
🔴 保護者
「体を動かすの、好きだったもんね。」
🟢 生徒
「うん。」
少し沈黙がありました。
🟢 生徒
「友達、今ごろ体育かな。」
🔴 保護者
「そうかもしれないね。」
Aさんは窓の外を見ました。
🟢 生徒
「……ちょっと、うらやましい。」
保護者は胸がいっぱいになりました。
「だったら学校へ行ってみよう」
そう言いたい気持ちが、強く湧き上がりました。
けれど、今はその言葉を伝えるときではないように感じました。
🔴 保護者
「友達と一緒に体育したかったんだね。」
Aさんは小さくうなずきました。
🟢 生徒
「……うん。」
そのあと、Aさんは自分の部屋へ戻っていきました。
学校へ行ったわけではありません。
登校の約束をしたわけでもありません。
それでも、保護者は一つのことに気づきました。
Aさんの中にも、学校へ行きたい気持ちと、行くのが怖い気持ちが同時にある。
そして、親の「学校へ行ってほしい」という願いと、子どもの「今は行けない」という気持ちも、どちらかを否定する必要はないのかもしれない。
そう思い始めたのです。
ただ、保護者にはまだ一つの不安が残っていました。
このまま子どもの気持ちを尊重しているだけで、勉強や進路は大丈夫なのだろうか。
学校へ戻ることを急がせずに、将来への準備を進める方法はあるのだろうか。
学校へ行くことを急がせず、将来への準備を進める
次の相談の日、保護者は講師に一つの不安を打ち明けました。
🔴 保護者
「Aの気持ちを聞くことが大切なのは、少し分かってきました。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「でも、このままで本当にいいんでしょうか。」
🔵 講師
「どんなところが心配ですか?」
🔴 保護者
「学校へ行くことを急がせないのはいいとしても、勉強はどんどん遅れていきますよね。」
🔵 講師
「そうですね。学習面のことは、考えていく必要があります。」
🔴 保護者
「中学2年生ですし、来年は受験もあります。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「学校へ行けなくても大丈夫だと言っているうちに、取り返しがつかなくなるんじゃないかって……。」
講師は保護者の話を聞いてから、静かに答えました。
🔵 講師
「学校へ行くことを急がせないことと、将来への準備をしないことは違いますよ。」
🔴 保護者
「違うんですか?」
🔵 講師
「はい。Aさんが今すぐ登校できなくても、学習状況を確認したり、学校と相談したりすることはできます。」
🔴 保護者
「でも、本人が勉強する気にならなければ、何もできないんじゃないでしょうか。」
🔵 講師
「本人に無理やり勉強させることはできません。ただ、勉強を始めたいと思ったときに、始めやすい環境を整えることはできます。」
🔴 保護者
「始めやすい環境……。」
🔵 講師
「例えば、どこから分からなくなっているのかを整理しておくことです。」
🔴 保護者
「今の授業についていくことばかり考えていました。」
🔵 講師
「今の授業を理解するために、前の学年の内容から復習する必要がある場合もあります。」
🔴 保護者
「戻って勉強してもいいんですね。」
🔵 講師
「もちろんです。学習は、必ずしも学校の授業と同じ速さで進めなければならないものではありません。」
保護者は少し安心した表情を見せました。
学校に相談することは、登校を約束することではない
講師は続けました。
🔵 講師
「それから、Aさんが話してくれた『授業中に当てられるのが怖い』ということも、学校に相談できるかもしれません。」
🔴 保護者
「でも、先生に話したら、学校へ来るように言われませんか?」
🔵 講師
「まずは、本人が何に困っているかを伝え、どんな配慮が可能かを確認する相談にしてみましょう。」
🔴 保護者
「登校する日を決めるためではなく?」
🔵 講師
「そうです。今すぐ登校を約束する必要はありません。」
🔴 保護者
「なるほど……。」
🔵 講師
「ただ、Aさんが話してくれた内容ですから、学校にどこまで伝えてよいかは、本人にも確認しておきたいですね。」
その日の夕方、保護者はAさんに声をかけました。
🔴 保護者
「この前、授業中に当てられるのが怖かったって話してくれたでしょう。」
🟢 生徒
「……うん。」
🔴 保護者
「そのこと、先生に相談してみてもいいかな。」
Aさんはすぐには答えませんでした。
🟢 生徒
「何で?」
🔴 保護者
「もし学校へ行きたいと思ったときに、少しでも安心できる方法があるか聞いてみたいんだ。」
🟢 生徒
「学校へ行けって言われる?」
🔴 保護者
「今すぐ行く日を決めるための相談にはしないよ。」
🟢 生徒
「……。」
🔴 保護者
「嫌だったら、今は伝えなくてもいいからね。」
しばらく考えたあと、Aさんは小さな声で言いました。
🟢 生徒
「授業中に当てられるのが嫌だったってことだけなら、いい。」
🔴 保護者
「分かった。それ以外のことは勝手に話さないようにするね。」
🟢 生徒
「うん。」
保護者は、以前の自分ならどうしていただろうと考えました。
おそらく、Aさんが少しでも学校の話をしたら、すぐに担任へ連絡し、登校につながる方法を探していたでしょう。
しかし今回は、本人が何を伝えてほしいのかを確認することができました。
学校との相談を、親だけの判断で進めるのではなく、Aさんの気持ちも大切にしながら進めようとしていたのです。
「勉強しなさい」ではなく、「何ならできそう?」と聞いてみる
数日後、保護者はAさんが机の上に置いていた数学の教科書に気づきました。
以前は、学校の教科書をほとんど開いていませんでした。
🔴 保護者
「数学、見てたの?」
🟢 生徒
「ちょっとだけ。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
🟢 生徒
「今、学校でどこやってるのかなと思って。」
保護者は、すぐに、
「じゃあ勉強してみよう」
と言いたくなりました。
しかし、Aさんの様子を見ながら、別の言葉を選びました。
🔴 保護者
「気になったんだね。」
🟢 生徒
「うん。でも、全然分かんない。」
🔴 保護者
「どのあたりから難しくなったの?」
🟢 生徒
「前から。」
🔴 保護者
「前って、中学1年生のころ?」
🟢 生徒
「たぶん。」
保護者は少し考えてから言いました。
🔴 保護者
「分からなくなったところから、少しずつ確認する方法もあるよ。」
🟢 生徒
「今のところからじゃなくて?」
🔴 保護者
「うん。前に戻ってもいいんだよ。」
Aさんは教科書を見つめました。
🟢 生徒
「でも、そんなことしてたら、追いつかないんじゃない?」
🔴 保護者
「急いで全部やろうとすると、かえって大変かもしれないね。」
🟢 生徒
「……そうかも。」
🔴 保護者
「もし分からないところを一緒に確認したくなったら、講師の先生に相談してみることもできるよ。」
🟢 生徒
「勉強しないといけないの?」
🔴 保護者
「今すぐ決めなくていいよ。どんな方法があるか知っておくだけでもいいと思う。」
Aさんは少し考えてから答えました。
🟢 生徒
「……一回、話だけ聞いてみたい。」
保護者は驚きました。
けれど、その場で予定を決めたり、学習計画を立てたりすることはしませんでした。
🔴 保護者
「分かった。どんなことを聞いてみたいか、また一緒に考えよう。」
Aさんは小さくうなずきました。
親の願いを、子どもへの要求ではなく支援に変える
後日、Aさんは保護者と一緒に講師と話すことになりました。
最初は緊張していたものの、学校へ行くことをすぐに求められないと分かると、少しずつ自分の気持ちを話し始めました。
🔵 講師
「今日は、勉強を始めるかどうかを決めなくても大丈夫ですよ。」
🟢 生徒
「……はい。」
🔵 講師
「今、気になっていることはありますか?」
🟢 生徒
「数学が、分からなくなってて。」
🔵 講師
「そうなんですね。どのあたりから難しくなりましたか?」
🟢 生徒
「中学1年生の途中くらいから。」
🔵 講師
「なるほど。では、そのあたりから確認していく方法もありますよ。」
🟢 生徒
「今の授業に追いつくの、大変ですよね。」
🔵 講師
「全部を一度に取り戻そうとすると大変だと思います。でも、分からないところを整理して、一つずつ理解していくことはできます。」
🟢 生徒
「……。」
🔵 講師
「例えば、今日は一問だけ確認してみる、という始め方でもいいんです。」
Aさんは少し顔を上げました。
🟢 生徒
「一問だけでも?」
🔵 講師
「もちろんです。まずは、どこが分からないのかを知るところから始めましょう。」
Aさんは、少し考えてから答えました。
🟢 生徒
「それなら、やってみてもいいかも。」
保護者は、その言葉を聞いて胸がいっぱいになりました。
以前なら、
「せっかくやる気になったんだから、もっと頑張ってほしい」
と思っていたかもしれません。
しかし、今は違いました。
Aさんが自分から「やってみてもいい」と言ったことを、そのまま大切にしたいと思ったのです。
学校へ戻ることも、学び続けることも諦めない
その後、保護者は担任の先生とも相談しました。
Aさんが授業中に当てられることを負担に感じていたこと。
学校へ戻ることに不安を持っていること。
そして、今は家庭で少しずつ学習を考え始めていること。
本人が伝えてよいとした範囲で、状況を共有しました。
学校側からは、本人の状態に応じて、別室で過ごす方法や、登校時間を調整する方法などについて説明がありました。
ただし、具体的な対応は学校の体制や本人の状況によって異なるため、すぐに実施できるとは限りません。
保護者は、その情報をAさんに伝えました。
🔴 保護者
「先生と相談して、いくつか方法を聞いてきたよ。」
🟢 生徒
「どんな?」
🔴 保護者
「教室以外の場所で過ごせるか相談する方法とか、短い時間から考える方法とか。」
🟢 生徒
「……教室じゃなくてもいいの?」
🔴 保護者
「学校と相談して決めることになるけど、そういう方法も考えられるみたい。」
🟢 生徒
「そうなんだ。」
🔴 保護者
「今すぐ決めなくていいからね。」
Aさんは少し黙っていました。
🟢 生徒
「もし行くなら、最初は教室じゃないところがいい。」
🔴 保護者
「そう思ってるんだね。」
🟢 生徒
「うん。いきなり教室は無理。」
🔴 保護者
「分かった。その気持ちも先生に相談してみようか。」
🟢 生徒
「……うん。」
その日は、登校する日を決めませんでした。
しかし、Aさん自身が、どんな方法なら学校との関わりを考えられるのかを話すことができました。
それは、保護者にとって大切な変化でした。
「学校へ行ってほしい」という気持ちは、今もある
次の相談で、保護者は講師に話しました。
🔴 保護者
「Aが、少しずつ学校のことを話してくれるようになりました。」
🔵 講師
「そうだったんですね。」
🔴 保護者
「勉強についても、自分から考え始めています。」
🔵 講師
「それは変化ですね。」
🔴 保護者
「でも、正直に言うと……。」
保護者は少し言葉を選びました。
🔴 保護者
「私は今でも、学校へ行ってほしいと思っています。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「友達と笑っている姿を見たいですし、授業も受けてほしいです。」
🔵 講師
「その気持ちは、無理になくさなくてもいいと思いますよ。」
🔴 保護者
「以前は、その気持ちを持っていること自体がいけないと思っていました。」
🔵 講師
「今はどうですか?」
🔴 保護者
「学校へ行ってほしいという願いはあります。でも、そのためにAを急がせる必要はないんだと思えるようになりました。」
🔵 講師
「そうですね。」
🔴 保護者
「それに、学校へ行けない間にも、できることはあるんですね。」
🔵 講師
「はい。学習を続けることも、学校と相談することも、将来の進路を考えることもできます。」
🔴 保護者
「私は、Aが学校へ行けるようになるまで、何もできないと思っていました。」
🔵 講師
「今は、そうではないと感じていますか?」
🔴 保護者
「はい。Aが動き出すのを待ちながら、私にもできる準備があるんだと思っています。」
講師はうなずきました。
🔵 講師
「Aさんが自分で考えられるように、選択肢を用意しておくことも大切な支援ですね。」
🔴 保護者
「そうですね。」
少し間を置いて、保護者は続けました。
🔴 保護者
「前は、Aが学校へ行ったら安心できると思っていました。」
🔵 講師
「はい。」
🔴 保護者
「でも今は、Aが自分の気持ちを話してくれることや、勉強を少しやってみようと思ってくれることも、うれしいんです。」
🔵 講師
「学校へ行けたかどうかだけではなく、Aさん自身の変化が見えるようになったんですね。」
🔴 保護者
「そうかもしれません。」
親が願う未来と、子どもが選ぶ未来
不登校の子どもを支える保護者が、「学校へ行ってほしい」と願うことは自然です。
その気持ちを無理に消す必要はありません。
しかし、親が願う未来と、子どもが今歩める道が、必ずしも同じとは限りません。
学校へ戻ることができる子どももいます。
別の学び方を選ぶ子どももいます。
進学先で新しい生活を始める子どももいます。
大切なのは、今の子どもの状態だけで、将来の可能性を決めつけないことです。
そして、親の願いを実現するために子どもを動かそうとするのではなく、子どもが自分で選択できるように支えることです。
学校へ行ってほしい。
勉強を続けてほしい。
友達と関わってほしい。
将来、自分の力で生きていけるようになってほしい。
そうした願いを持ちながら、今の子どもにできることを一緒に考える。
学校へ戻るための準備をすることもできます。
家庭で学習を続ける方法を探すこともできます。
必要に応じて、別の学び方や進路を検討することもできます。
「学校へ行ってほしい」という親の願いと、「今は学校へ行けない」という子どもの気持ちは、同時に存在していてもいいのです。
親が自分の願いを否定する必要も、子どもが親の願いにすぐ応える必要もありません。
お互いの気持ちを大切にしながら、少しずつ次の一歩を探していくことができます。
そして、その一歩は、必ずしも登校という形で現れるとは限りません。
自分の気持ちを話せたこと。
分からない問題を一つ解いてみたこと。
学校との関わり方について考えられたこと。
そうした小さな変化も、未来へつながる大切な一歩です。
学校へ行ってほしいという願いを、子どもへの要求ではなく、子どもの未来を支える力に変えていく。
それが、不登校の子どもと向き合う保護者にとって、大切な関わり方の一つなのです。
理論編はこちらから
④「学校へ行ってほしい」という気持ちとの向き合い方(理論編)
はじめに 「学校へ行ってほしいと思うことは、いけないのでしょうか」 不登校の子どもを支える保護者から、こうした悩みを聞くことがあります。 子どもに無理をさせてはいけない。 焦らせてはいけない。 学校へ行くことだけを目標に […]
学校に行けないお子さんのための家庭教師
不登校のお子さんのことで悩まれている方からのご相談が増えています。
無理に勉強を始める必要はありません。
まずは今の状況をお聞かせください。
【ご相談の流れ】
① メール・電話・LINEでご相談
② 現在の状況をヒアリング
③ お子さんに合った進め方をご提案
※ご相談だけでも大丈夫です
※無理な勧誘は一切ありません



