⑳ 第1章まとめ──焦らないことが第一歩
- 1. 不登校は「突然起きた問題」に見えても、突然始まったとは限らない
- 1.1. 「行けない」状態になるまでに積み重なっているもの
- 2. 最初の目標を「学校へ戻すこと」だけにしない
- 2.1. 回復はもっと小さなところから始まる
- 3. 「何もしない時間」が必要なこともある
- 3.1. 休むことは、止まることではない
- 4. 親子の信頼関係を壊してまで登校を急がない
- 4.1. 家を「安心できる場所」に戻す
- 5. 学びまで諦める必要はない
- 5.1. 学ぶ場所は学校だけではない
- 6. 学校へ戻ることだけが未来ではない
- 7. 親も一人で抱え込まない
- 8. 今日、答えを出さなくてもいい
- 9. 焦らないことが、最初の一歩になる
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子どもが突然、
「学校へ行きたくない」
と言ったとき、多くの保護者は戸惑います。
昨日まで普通に学校へ行っていた。
友達とも話していた。
家では笑っていた。
それなのに、ある朝、布団から出てこない。
「お腹が痛い」
「頭が痛い」
「今日は休みたい」
最初は、単なる疲れだと思うかもしれません。
ところが一日休み、二日休み、一週間が過ぎても状況が変わらない。
そこで初めて、
「もしかして、不登校になるのではないか」
という不安が現実味を帯びてきます。
そして保護者の頭の中には、次々と疑問が浮かびます。
このまま休ませていいのだろうか。
勉強が遅れてしまわないだろうか。
高校へ行けるのだろうか。
将来、仕事に就けるのだろうか。
何より、
「今すぐ何とかしなければ」
という焦りが生まれます。
しかし、第1章の最後に、最も大切なことをもう一度お伝えしたいと思います。
不登校への対応は、焦らないことから始まります。
不登校は「突然起きた問題」に見えても、突然始まったとは限らない
保護者から見ると、不登校は突然始まったように感じることがあります。
しかし、子どもの中では、そのずっと前から小さな負担が積み重なっていたのかもしれません。
「行けない」状態になるまでに積み重なっているもの
友達との関係。
先生との関係。
授業についていけない不安。
集団生活の疲れ。
周囲からどう見られているかという緊張。
失敗することへの怖さ。
期待に応えなければならないというプレッシャー。
一つひとつを見ると、それほど大きな問題には見えないこともあります。
だから本人も、
「これが原因です」
とは説明できません。
それでも、小さな負担が毎日少しずつ積み重なれば、あるところで心や体が動かなくなることがあります。
朝になると起きられない。
制服を見るだけで苦しくなる。
玄関まで行ったのに足が止まる。
学校のことを考えると腹痛や頭痛がする。
そうした状態の子どもに、
「頑張れば行けるでしょう」
と伝えても、解決しないことがあります。
必要なのは、行けない理由を無理に聞き出すことではありません。
まず、
「今、この子には何が起きているのだろう」
と考えることです。
最初の目標を「学校へ戻すこと」だけにしない
子どもが不登校になると、どうしても「再登校」が目標になりやすくなります。
もちろん、本人が学校へ戻りたいと思っていて、そのための支援が必要なのであれば、再登校を目指すことは一つの選択肢です。
ただし、それだけを回復の基準にすると、小さな変化を見落としてしまいます。
回復はもっと小さなところから始まる
たとえば、
朝起きられるようになった。
家族と一緒に食事をするようになった。
自分の部屋から出てくる時間が増えた。
笑うことが増えた。
散歩へ行けるようになった。
好きなことについて話すようになった。
10分だけ勉強してみた。
将来について少し話した。
これらもすべて、大切な変化です。
昨日まで何もする気になれなかった子どもが、
「ちょっと外に出ようかな」
と言った。
それは、学校へ登校したという変化ほど目立たないかもしれません。
しかし、その子にとっては大きな一歩である可能性があります。
不登校からの回復を、
「学校へ行った・行かなかった」
という二択だけで判断しないでください。
子どもの生活全体を見ていくことが大切です。
「何もしない時間」が必要なこともある
保護者にとって、最も苦しい時期の一つが、子どもが何もしないように見える時期です。
学校へ行かない。
勉強もしない。
昼まで寝ている。
ゲームをしている。
スマートフォンを見ている。
そんな毎日が続けば、
「このままで本当に大丈夫なの?」
と思うでしょう。
そして、
「少しくらい勉強したら?」
「いつまでこうしているの?」
「そろそろ学校のことを考えないと」
と言いたくなることがあります。
しかし、心身が疲れている時期には、外から見ると「何もしていない時間」が必要なことがあります。
休むことは、止まることではない
私たちは、目に見える行動があると安心します。
学校へ行く。
勉強する。
外出する。
誰かと話す。
反対に、それらがなくなると、
「何も進んでいない」
と感じます。
しかし、人は疲れ切った状態のまま走り続けることはできません。
一度止まり、休み、力を取り戻す時間が必要になることがあります。
その時間を、
「何もしていない」
と見るのか、
「次に動くためにエネルギーをためている」
と見るのか。
この違いは、親子関係にも大きく影響します。
親子の信頼関係を壊してまで登校を急がない
不登校になったとき、保護者が最も避けたいことの一つが、子どもとの関係が壊れてしまうことです。
朝になるたびに、
「起きなさい」
「今日は行くって言ったでしょう」
「いつまで休むの?」
というやり取りになる。
子どもは、
「どうせ学校へ行けと言われる」
と思い、親との会話を避けるようになる。
保護者も、
「何を言っても聞いてくれない」
と疲れていく。
こうして、もともとは子どもを助けるための言葉が、親子双方を苦しめてしまうことがあります。
家を「安心できる場所」に戻す
不登校の子どもにとって、家庭は非常に重要な場所です。
学校でも緊張する。
家に帰っても責められる。
そうなると、子どもには安心できる場所がなくなってしまいます。
だからこそ、
「今日は学校の話をしない」
という日があっても構いません。
一緒に食事をする。
テレビを見る。
好きなゲームの話を聞く。
犬の散歩をする。
そんな普通の時間を取り戻すことも、支援の一つです。
子どもが、
「学校へ行けなくても、ここにいていい」
と思えること。
その安心感が、次の一歩につながることがあります。
学びまで諦める必要はない
ここで、もう一つ大切なことがあります。
「学校へ無理に戻さなくてもいい」
という話をすると、
「では、勉強もしなくていいのでしょうか」
という疑問が出てきます。
これは別の問題として考える必要があります。
学校へ行けないことと、学べないことは同じではありません。
学ぶ場所は学校だけではない
自宅で教科書を読むこともできます。
問題集を一ページだけ解くこともできます。
動画教材を利用することもできます。
オンライン学習という方法もあります。
家庭教師と一対一で勉強する方法もあります。
本人の状態によっては、しばらく勉強から完全に離れたほうがよい時期もあるでしょう。
しかし、少し元気が戻ってきたら、
「今なら何ができそう?」
と一緒に考えてみてください。
大切なのは、いきなり遅れを取り戻そうとしないことです。
一日10分でもいい。
一問でもいい。
好きな教科からでもいい。
「自分にもできた」
という経験を少しずつ積み重ねていきます。
それが、学習への自信を取り戻す第一歩になります。
学校へ戻ることだけが未来ではない
不登校が長くなるほど、保護者の心配は将来へ向かいます。
「このまま中学校へ行けなかったら?」
「高校はどうするの?」
「大学は?」
「就職は?」
まだ起きていない未来まで、一気に考えてしまいます。
しかし、第1章で見てきたように、子どもの学び方や進路は一つではありません。
学校への復帰を目指すこともできます。
別室登校を利用する方法もあります。
教育支援センターやフリースクールなど、学校以外の居場所を検討することもできます。
通信制高校などを含め、進路についてもさまざまな選択肢があります。
家庭で学習を続ける方法もあります。
重要なのは、
「学校へ戻れなければ人生が終わる」という考え方から離れることです。
学校は大切な場所です。
しかし、学校は人生そのものではありません。
親も一人で抱え込まない
そして、忘れてはいけないのが保護者自身のことです。
不登校になると、子どもだけでなく、保護者も大きなストレスを抱えます。
「自分の育て方が悪かったのではないか」
「もっと早く気づけばよかった」
「他の家庭は普通に学校へ行っているのに」
「周囲からどう思われるだろう」
そんなことを考え続けてしまうことがあります。
しかし、保護者がすべてを一人で解決する必要はありません。
学校。
教育相談。
医療や福祉などの専門機関。
地域の支援機関。
家庭教師。
その他、子どもの状態に応じて頼れる人や場所があります。
大切なのは、
「誰かに相談すること=親として失敗した」という考え方を持たないことです。
一人で答えを出せない問題だからこそ、必要に応じて周囲の力を借りればよいのです。
今日、答えを出さなくてもいい
子どもが学校へ行けなくなると、保護者はすぐに答えを求めたくなります。
いつ学校へ戻すのか。
どんな勉強をさせるのか。
どの高校へ行くのか。
将来どうするのか。
しかし、それらすべてを今日決める必要はありません。
今必要なのは、
「10年後どうするか」
ではなく、
「今日、この子が少し安心して過ごすために何ができるか」
を考えることかもしれません。
明日のことは、明日考えてもいい。
来月のことは、状態が変わってから考えてもいい。
子どもが少し元気になれば、見える選択肢も変わります。
親子の会話が戻れば、本人の希望も聞けるようになります。
学習を再開できれば、新しい進路も見えてきます。
未来は、今この瞬間にすべて決まるわけではありません。
焦らないことが、最初の一歩になる
第1章では、不登校になった子どもの内側で何が起きているのかを見てきました。
不登校は単なる「甘え」とは限らないこと。
原因は一つとは限らないこと。
心が疲れると勉強することさえ難しくなること。
まず休むことが必要な場合があること。
子どもの話を聞くこと。
家庭を安心できる場所にすること。
学校との適切な距離を考えること。
生活や学習を少しずつ立て直していくこと。
そして、学校へ戻ること以外にも選択肢があること。
これらに共通している考え方があります。
それが、
「焦って子どもを動かそうとしない」
ということです。
焦らないというのは、何もしないという意味ではありません。
子どもの状態を見る。
話を聞く。
環境を整える。
必要な支援を探す。
学べそうな時期を待つ。
小さな変化に気づく。
そのうえで、今できる一歩を一緒に探していく。
それが「焦らない支援」です。
不登校になったからといって、子どもの人生が失われれたわけではありません。
少し立ち止まっているだけかもしれません。
遠回りすることになるかもしれません。
人とは違う道を歩くことになるかもしれません。
それでも、人生は続いていきます。
そして、その道の途中で、
「もう一度やってみようかな」
と思える瞬間が来ることがあります。
そのときに必要なのは、
「早く元の道へ戻りなさい」
と言う人ではありません。
「ここから、どんな道なら歩けそう?」
と一緒に考えてくれる人です。
不登校支援の第一歩は、子どもを急いで変えることではありません。
まず、今の子どもの状態を知ること。
そして、焦らず、今日できることから始めることです。
それが、子どもが自分の人生をもう一度歩き始めるための、最初の土台になります。
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