⑨ 「学校へ行きたくない」と言われた最初の日の対応(理論編)
はじめに
朝、いつものように子どもを起こした時、
「今日、学校へ行きたくない。」
突然そう言われたら、保護者はどうすればいいのでしょうか。
「何があったの?」
「昨日までは普通だったのに。」
「とりあえず学校へ行けば何とかなるのでは?」
頭の中には、さまざまな考えが浮かぶでしょう。
時計を見ると、登校時間はどんどん近づいてきます。
仕事へ行かなければならない。
学校への連絡もしなければならない。
子どもが休めば、勉強も遅れるかもしれない。
その焦りの中で、
「いいから早く着替えなさい。」
「学校へ行けば大丈夫だから。」
と言ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、「学校へ行きたくない」という言葉は、子どもが勇気を出して発した最初のSOSである可能性があります。
その一言に対して、最初にどのように反応するかはとても大切です。
だからといって、完璧な対応をしなければならないわけではありません。
必要なのは、その場ですべてを解決することではなく、まず子どもの状態を落ち着いて受け止めることです。
最初に「理由」を聞き出そうとし過ぎない
子どもから、
「学校へ行きたくない。」
と言われた時、多くの保護者が最初に聞きたくなるのが、
「どうして?」
という言葉です。
もちろん、理由を知りたいと思うのは自然なことです。
いじめがあるのか。
友達とけんかしたのか。
先生と何かあったのか。
勉強についていけなくなったのか。
原因が分かれば、すぐに解決できるような気がします。
しかし、子ども自身が理由を整理できていないこともあります。
「分からない。」
と答えたとしても、隠しているとは限りません。
いくつもの小さな負担が重なり、自分でも何が一番つらいのか分からなくなっていることがあります。
そんな時に、
「何かあったんでしょう?」
「誰かに何かされたの?」
「ちゃんと話して。」
と質問を重ねると、子どもはさらに追い詰められることがあります。
最初の日は、原因を特定することより、
「今日は行くのがつらいんだね。」
と、まず今の気持ちを受け止めることが大切です。
「行きたくない」をすぐに否定しない
子どもの「学校へ行きたくない」という言葉を聞いた瞬間、
「そんなこと言わないの。」
「みんな行っているんだから。」
「休み癖がつくよ。」
と言いたくなることもあるでしょう。
保護者としては、学校へ行くことの大切さを伝えているつもりです。
しかし、子ども側からすると、
「つらいと言っても分かってもらえない。」
と感じてしまうことがあります。
それ以降、本当に苦しいことがあっても、話さなくなる場合があります。
最初に大切なのは、
「行くか、行かないか」
を決める前に、
「そんなにしんどいんだね。」
「話してくれてありがとう。」
と伝えることです。
子どもは、問題がすぐに解決しなくても、「自分の気持ちを否定されなかった」と感じるだけで少し安心することがあります。
その日の朝に「将来」まで考えなくていい
保護者が焦ってしまう大きな理由の一つが、将来への不安です。
「今日休んだら、明日も休むのではないか。」
「不登校になったらどうしよう。」
「高校受験はどうなるのか。」
「将来、社会に出られなくなるのではないか。」
一日の欠席から、何年も先の未来まで一気に考えてしまうことがあります。
しかし、最初の日にそこまで答えを出す必要はありません。
今日学校へ行けないことと、将来が決まることは同じではありません。
まずは、
「今日、この子はどういう状態なのか」
を見ることです。
顔色はどうか。
眠れているか。
食事は取れているか。
体調は悪くないか。
強い不安がないか。
まず目の前の一日に集中します。
先のことは、少し落ち着いてから考えても遅くありません。
「今日は休もう」と決めることも一つの選択
子どもが強くつらそうな場合、
「今日は休もう。」
と決めることもあります。
休ませることに抵抗を感じる保護者もいるでしょう。
「一度認めたら、そのまま休むようになるのではないか。」
と不安になるからです。
しかし、体調が悪い時に休むのと同じように、心が強く疲れている時にも、休養が必要になることがあります。
重要なのは、
「もう学校へ行かなくていい。」
とその場で将来まで決めることではありません。
「今日は休もう。」
でいいのです。
今日休んで、少し落ち着いてから、
「何がつらかったのかな。」
「これからどうしようか。」
と一緒に考えていけばいいのです。
朝の「説得合戦」を長引かせない
不登校の始まりでよく起こるのが、朝の長い説得です。
「あと五分でいいから起きて。」
「制服だけ着よう。」
「車で送るから。」
「校門まででいいから。」
「保健室だけでも。」
保護者も子どもも必死です。
気がつけば、一時間近く押し問答をしていることもあります。
しかし、このような状態が毎日続くと、「朝=親子で争う時間」になってしまいます。
子どもは夜のうちから、
「明日の朝、また学校へ行けと言われる。」
と緊張するようになります。
保護者も、
「明日は何とか行かせなければ。」
と構えるようになります。
すると、親子双方の疲れが大きくなります。
子どもが明らかに強い不調を示している時には、一定のところで、
「今日はここまでにしよう。」
と切り替えることも必要です。
学校への連絡は、大人が引き受ける
学校を休むことになった時、
「自分で先生に電話しなさい。」
と子どもに求めることがあります。
もちろん、自分で連絡できる子どもなら問題ありません。
しかし、学校そのものに強い不安を感じている時には、先生へ連絡することさえ大きな負担になる場合があります。
最初の段階では、保護者が学校への連絡を引き受けても構いません。
例えば、
「今日は体調が整わないため休ませます。」
と簡潔に伝えるだけでも十分です。
その朝の時点で、詳しい原因や今後の方針まで説明する必要はありません。
落ち着いてから、必要に応じて担任や学校と相談していけばいいのです。
休んだ日の過ごし方を「罰」にしない
学校を休んだ子どもが、午後になるとゲームをしたり、テレビを見たりすることがあります。
すると、
「学校を休んだんだからゲームは禁止。」
「休んだ日は勉強しなさい。」
と考える保護者もいるでしょう。
しかし、休むことを罰のように扱うと、
「学校へ行けなかった自分は悪い。」
という感覚が強くなってしまうことがあります。
もちろん、何でも好き放題にしていいという意味ではありません。
家庭のルールは必要です。
ただし、
「学校を休んだ罰として楽しみを取り上げる」
という考え方は避けた方がよいでしょう。
その日はまず、心と体を落ち着かせることを優先します。
午後に元気になっても「朝は仮病だった」と決めつけない
朝は腹痛や頭痛で動けなかったのに、午後になると元気になっている。
この姿も、保護者を戸惑わせます。
「さっきまであんなに具合が悪かったのに。」
「やっぱり学校へ行きたくなかっただけなのでは?」
と思うこともあるでしょう。
しかし、学校へ行かなければならないという緊張から解放されることで、症状が軽くなることはあります。
そのため、
「元気になったじゃない。やっぱり行けたでしょう。」
と責めると、翌日から子どもは体調について話しにくくなってしまいます。
午後に元気になったなら、
「少し楽になったみたいでよかった。」
くらいで構いません。
その日の夜に「明日は絶対行く」と約束させない
学校を一日休むと、夜になる頃には少し元気になることがあります。
すると、
「明日は学校へ行ける?」
と確認したくなります。
子ども自身も、
「明日は絶対に行く。」
と言うことがあります。
しかし、ここで「約束」にしてしまうと、翌朝行けなかった時に、
「約束を破った。」
「またできなかった。」
という自己否定につながることがあります。
そんな時は、
「明日の朝の様子を見て考えよう。」
で十分です。
夜の元気な状態と、翌朝の状態は違うことがあります。
明日のことは、明日の子どもの状態を見ながら考えればいいのです。
保護者自身も自分を責めない
初めて「学校へ行きたくない」と言われると、
「私の育て方が悪かったのでは。」
「もっと早く気づくべきだった。」
と保護者が自分を責めてしまうことがあります。
しかし、子どもが学校へ行きづらくなる背景には、さまざまな要因があります。
家庭だけに原因を求める必要はありません。
そして、最初の日に完璧な対応ができなくても、それですべてが決まるわけではありません。
焦って強い言葉を言ってしまったとしても、
「朝は焦ってしまってごめんね。」
とあとから伝えることもできます。
親子関係は、一度の対応で決まるものではありません。
大切なのは、その後も子どもの話を聞こうとする姿勢を持ち続けることです。
最初の日に覚えておきたい四つのこと
「学校へ行きたくない」と言われた最初の日には、すべてを解決しようとしないことが大切です。
覚えておきたいのは、次の四つです。
- まず気持ちを否定しない「行きたくないほどつらいんだね」と受け止めます。
- 理由を無理に聞き出さない本人にも分からないことがあります。
- 今日の状態を見る将来まで一気に考えず、その日の心身の状態を確認します。
- 答えを急がない「明日からどうするか」は、落ち着いてから考えて構いません。
この四つだけでも、最初の日の親子の緊張は大きく変わります。
まとめ
子どもから初めて、
「学校へ行きたくない。」
と言われた時、保護者が不安になるのは当然です。
「休ませていいのか。」
「何があったのか。」
「この先どうなるのか。」
さまざまなことを一度に考えてしまいます。
しかし、その日の朝にすべてを解決する必要はありません。
まず大切なのは、子どもが発した、
「学校へ行きたくない。」
という言葉を受け止めることです。
その言葉の背景には、
「疲れた。」
「怖い。」
「苦しい。」
「どうしたらいいか分からない。」
という気持ちが隠れているかもしれません。
最初の日に必要なのは、正しい答えを出すことではありません。
「話しても大丈夫。」
「分かってもらえる。」
「困った時は一緒に考えてもらえる。」
と子どもが感じられることです。
その安心感があれば、すぐには話せなかったことを、後になって少しずつ話せるようになることもあります。
不登校への対応は、一日の判断で決まるものではありません。
今日できることを考え、明日はまた明日の状態を見る。
その積み重ねの中で、その子に合った支え方を見つけていけばいいのです。
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