⑱ 「学校へ戻る」以外の選択肢を知る(実践編)
はじめに
不登校からの回復とか改善といえば「学校に戻る」ですが・・・そうじゃない手もあるようです。
やっぱ学校に戻ったほうが・・・?
[/word_balloon]それもある。
[/word_balloon]他の方法もあるってこと?
[/word_balloon]いろいろあるよ♪
[/word_balloon]- 1. はじめに
- 2. 「そろそろ学校へ戻ることを考えた方がいいですよね」
- 2.1. 家では元気なのに学校の話になると黙る
- 2.2. 「元気になった」と「学校へ戻れる」は同じではない
- 2.3. 「学校へ戻らないと次へ進めない」と思っていた
- 2.4. 娘も同じように考えていた
- 2.5. 「別の道もあるよ」と初めて伝えた
- 3. まず親が選択肢を調べてみる
- 3.1. 選択肢を一度に全部見せない
- 3.2. 「高校へ行けない」と思っていた不安
- 3.3. 「戻らなくていい」と決めることでもない
- 3.4. 「今は決めなくていい」が安心につながる
- 3.5. 学校へ戻るためではなく「学ぶため」に考える
- 3.6. 「学校の遅れを取り戻す」から考え方を変える
- 3.7. 「勉強できた」が学校復帰の材料にならないようにする
- 3.8. 娘から出てきた「見てみたい」
- 4. 「見学する=そこへ行く」ではない
- 4.1. 選択肢を知るための見学にする
- 4.2. 見学当日の朝に「行きたくない」
- 4.3. 「やめてもいい」があるから考えられる
- 4.4. 「学校」という言葉から想像していたものと違った
- 4.5. 「自分でもできるかもしれない」
- 4.6. 一つ見たからといって一つに決めない
- 4.7. 学校以外の場所にも目を向ける
- 5. 「学校へ戻れない自分」から見方が変わる
- 5.1. お母さんの焦りも少し変わった
- 5.2. 学校との関係も「ゼロか百か」ではない
- 5.3. 「戻るか、戻らないか」ではなくなる
- 5.4. 「どこへ行くか」より「どう学びたいか」
- 5.5. 選択肢が増えると「できない」だけではなくなる
- 5.6. 「自分で選んでいい」と知る
- 6. おわりに
- 6.1.1. 理論編はこちらから
はじめに
「学校へ戻れなかったら、この子はどうなるんでしょうか。」
不登校の子どもを持つ保護者から、よく聞かれる言葉です。
学校へ行けなくなった。
最初は数日休むだけだと思っていた。
しかし、一週間が過ぎ、一か月が過ぎ、気づけば数か月が経っている。
子どもは少しずつ元気になってきたように見える。
家では笑うこともある。
好きなことなら話せる。
外へ出られる日もある。
それでも学校には戻れない。
そんな状態が続くと、保護者の中には別の不安が生まれます。
「このまま待っていていいのだろうか。」
「勉強はどうなるのだろう。」
「高校へ行けるのだろうか。」
「学校へ戻れなければ、将来まで難しくなってしまうのではないか。」
今回登場するのは、中学二年生の娘が不登校になっているお母さんです。
娘は以前よりも家の中では落ち着いて過ごせるようになりました。
しかし、学校の話になると表情が変わります。
お母さんは、
「そろそろ学校へ戻る方法を考えなければ。」
と思っていました。
ところが、娘が少しずつ動き始めたきっかけは、「どうやって元の学校へ戻るか」を考え続けたことではありませんでした。
「学校へ戻る以外にも道がある。」
そう知ったことから、親子の会話が少しずつ変わっていったのです。
「そろそろ学校へ戻ることを考えた方がいいですよね」
🔴 保護者
「先生、娘は最近かなり元気になってきたんです。」
🔵 講師
「以前と比べて、どんなところが変わりましたか。」
🔴 保護者
「朝はまだ遅いですけど、昼頃には起きるようになりました。」
「一緒に買い物へ行くこともあります。」
「家では普通に話します。」
「この前なんて、妹とずっと笑っていました。」
🔵 講師
「家の中では安心して過ごせる時間が増えてきたんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「だからこそ、そろそろ学校へ戻ることを考えた方がいいのかなって。」
🔵 講師
「お母さんは、学校へ戻ってほしいですか。」
🔴 保護者
「もちろん戻れるなら戻ってほしいです。」
「でも……。」
お母さんは少し言葉を止めました。
🔵 講師
「でも?」
🔴 保護者
「学校の話をすると、急に表情が変わるんです。」
家では元気なのに学校の話になると黙る
数日前の夕食。
娘は妹と楽しそうに話していました。
テレビで紹介されていたスイーツを見ながら、
「これ食べたい。」
「今度買いに行こうよ。」
と笑っています。
その様子を見たお母さんは思いました。
「これだけ元気なら、そろそろ学校のことも考えられるかもしれない。」
そこで何気なく言いました。
🔴 保護者
「そういえば、来週から学校でテスト期間らしいよ。」
娘の表情が止まりました。
「……そう。」
🔴 保護者
「先生から連絡があってね。」
「別室でも受けられるみたい。」
娘は黙っています。
🔴 保護者
「教室じゃなくてもいいんだって。」
「別室なら人も少ないし、一回行ってみても……。」
「今その話したくない。」
🔴 保護者
「あ、ごめん。」
娘は箸を置きました。
「もういい。」
そのまま自分の部屋へ戻ってしまいました。
数分前まで笑っていたのに。
学校という言葉が出た瞬間、空気が変わりました。
「元気になった」と「学校へ戻れる」は同じではない
🔴 保護者
「先生、私にはよく分からないんです。」
🔵 講師
「何がでしょう。」
🔴 保護者
「家ではあんなに元気なんです。」
「買い物にも行ける。」
「ゲームもする。」
「妹とは笑って話している。」
「なのに学校の話をした途端、ああなるんです。」
🔵 講師
「お母さんからすると、元気になってきたのだから学校にも行けるのではないか、と思うんですね。」
🔴 保護者
「はい。」
「正直、少し思います。」
「家でこれだけ普通にしているなら、別室くらいなら行けるんじゃないかなって。」
🔵 講師
「家で元気に過ごせることと、学校へ戻れることは、必ずしも同じではないんです。」
🔴 保護者
「違うんですか。」
🔵 講師
「家は安心できる場所になってきた。」
「だから元気に過ごせる。」
「でも学校には、まだ強い不安や緊張が残っているかもしれません。」
🔴 保護者
「元気になったから、全部できるわけではない。」
🔵 講師
「そうですね。」
「学校へ戻らないと次へ進めない」と思っていた
🔴 保護者
「でも、学校へ戻らないままだったら、この先どうなるんでしょう。」
🔵 講師
「何が一番心配ですか。」
🔴 保護者
「勉強です。」
「それから高校。」
「友達との関係も。」
「全部ですね。」
お母さんは苦笑しました。
🔴 保護者
「中学生なんだから、学校へ行って、勉強して、高校へ行く。」
「それが普通だと思っていました。」
🔵 講師
「だから、今の学校へ戻れないと、その先へ進めないように感じますか。」
🔴 保護者
「そうかもしれません。」
「学校へ戻る。」
「授業を受ける。」
「高校受験をする。」
「高校へ行く。」
「私の中では全部一本の道なんです。」
🔵 講師
「その道から外れたら?」
お母さんは少し考えました。
🔴 保護者
「……どうしたらいいのか分からないです。」
娘も同じように考えていた
その日の夜。
お母さんがリビングで洗濯物を畳んでいると、娘がやってきました。
冷蔵庫から飲み物を取り出し、しばらく黙っていました。
そして突然言いました。
「私って、高校行けないよね。」
お母さんは手を止めました。
🔴 保護者
「どうして?」
「だって学校行ってないじゃん。」
🔴 保護者
「でも、これから戻れるかもしれないでしょう。」
娘の表情が曇りました。
「だから、それが無理なんだって。」
🔴 保護者
「別室とかもあるよ。」
「そういう話じゃない。」
🔴 保護者
「じゃあ、どういうこと?」
娘はしばらく黙っていました。
「学校に戻れないと高校行けないなら、もう無理ってこと。」
お母さんは何も言えなくなりました。
自分と娘が、まったく同じことを考えていたことに気づいたからです。
「学校へ戻れなければ、その先へ進めない。」
親子ともに、そう思い込んでいました。
「別の道もあるよ」と初めて伝えた
翌日。
お母さんは講師に前日の会話を伝えました。
🔴 保護者
「娘も私と同じだったんです。」
「学校へ戻れないなら高校へ行けないって。」
🔵 講師
「お母さんは、何と答えましたか。」
🔴 保護者
「何も答えられませんでした。」
「私自身、よく分かっていなかったので。」
🔵 講師
「では、まずお母さんが選択肢を知ってみませんか。」
🔴 保護者
「選択肢?」
🔵 講師
「今の教室へ戻ることだけが、その先へ進む方法ではありません。」
「学校との関わり方にもいろいろあります。」
「学校の外で学ぶ方法もあります。」
「高校にも、さまざまな学び方があります。」
🔴 保護者
「今の学校に毎日戻れなくてもですか。」
🔵 講師
「これからの道を考えることはできます。」
お母さんは少し驚いたような表情をしました。
🔴 保護者
「私、学校へ戻すことしか考えていませんでした。」
まず親が選択肢を調べてみる
その日から、お母さんは少しずつ情報を集め始めました。
学校の別室。
教育支援センター。
学校外の居場所。
家庭での学習。
家庭教師。
通信制高校。
定時制高校。
これまで名前だけは聞いたことがあっても、詳しく調べたことはありませんでした。
調べていくうちに、お母さん自身の気持ちが少し変わっていきました。
「こんな方法もあるんだ。」
「毎日同じ教室へ通うことだけが学びではないんだ。」
そして、もう一つ大きな変化がありました。
以前ほど、
「何とか学校へ戻さなければ。」
と思わなくなったのです。
選択肢を一度に全部見せない
数日後。
お母さんは娘に言いました。
🔴 保護者
「この前、高校の話したでしょう。」
「うん。」
🔴 保護者
「お母さん、ちょっと調べてみたんだ。」
娘の表情が少し硬くなりました。
「何を?」
🔴 保護者
「学校に毎日行けない場合でも、いろんな進み方があるみたい。」
「……。」
🔴 保護者
「今すぐ何か決めなくていいよ。」
娘は黙っています。
お母さんは、調べた情報を全部説明したくなりました。
通信制高校について。
定時制高校について。
学校外の学習について。
でも、やめました。
🔴 保護者
「ただ、今の学校に戻れなかったら全部終わりってわけじゃないみたい。」
娘が顔を上げました。
「ほんと?」
🔴 保護者
「うん。」
「いろんな方法があるみたい。」
「そうなんだ。」
それだけで会話は終わりました。
「高校へ行けない」と思っていた不安
その日の夜。
娘の方から話しかけてきました。
「さっきの話なんだけど。」
🔴 保護者
「うん。」
「学校行ってなくても行ける高校ってあるの?」
🔴 保護者
「あるみたいだよ。」
「毎日行かなくてもいいの?」
🔴 保護者
「学校によって、いろいろみたい。」
「家で勉強するところもある?」
🔴 保護者
「そういう学び方ができるところもあるみたい。」
娘はしばらく考えていました。
「私、もう高校無理だと思ってた。」
🔴 保護者
「そうだったんだ。」
「だって中学校も行けてないから。」
🔴 保護者
「お母さんも、前は今の学校へ戻らないとダメだと思ってた。」
「今は?」
🔴 保護者
「今は、あなたに合う方法を探せばいいのかなって思ってる。」
娘は何も言いませんでした。
でも、その表情は以前学校の話をした時とは少し違っていました。
「戻らなくていい」と決めることでもない
数日後。
🔴 保護者
「先生、娘に別の道もあるって話しました。」
🔵 講師
「反応はどうでしたか。」
🔴 保護者
「少し安心したように見えました。」
「でも、ちょっと心配もあって。」
🔵 講師
「何でしょう。」
🔴 保護者
「『学校へ戻らなくていいよ』って言ってしまっていいんでしょうか。」
🔵 講師
「そう決める必要もありませんよ。」
🔴 保護者
「え?」
🔵 講師
「学校へ戻る道をなくす必要はないんです。」
「戻りたくなったら戻る方法を考える。」
「別の場所で学びたくなったら、その方法を考える。」
「今は何も決めたくなければ、急いで決めない。」
🔴 保護者
「どちらかに決めなくていいんですね。」
🔵 講師
「はい。」
「選択肢を知るというのは、学校復帰を諦めることではありません。」
「道を一つに限定しないということです。」
「今は決めなくていい」が安心につながる
その夜。
お母さんは娘に伝えました。
🔴 保護者
「この前の高校の話なんだけど。」
「うん。」
🔴 保護者
「別に今、何か決めなくていいからね。」
「……。」
🔴 保護者
「学校へ戻りたくなったら、その方法を考えればいい。」
「違うところで勉強したくなったら、それも調べればいい。」
「今は何もしたくなかったら、すぐ決めなくてもいい。」
娘はしばらく黙っていました。
そして言いました。
「じゃあ、今の学校に戻るかどうかも決めなくていい?」
🔴 保護者
「うん。」
「今決めなくてもいいと思う。」
娘は小さく息を吐きました。
「それなら、ちょっと楽かも。」
学校へ戻るためではなく「学ぶため」に考える
数日後。
娘がリビングで数学の問題集を開いていました。
お母さんは驚きました。
学校へ行けなくなってから、娘が自分から問題集を開くことはほとんどありませんでした。
🔴 保護者
「数学?」
「うん。」
🔴 保護者
「勉強するの?」
娘が少し嫌そうな顔をしました。
お母さんは、
「あ、ごめん。」
と言って、その場を離れようとしました。
すると娘が言いました。
「高校行くなら、数学分かんないと困るかなって。」
お母さんは振り返りました。
🔴 保護者
「分からないところある?」
「ほとんど。」
娘が笑いました。
お母さんも笑いました。
🔴 保護者
「じゃあ、分かるところからでいいんじゃない?」
「どこが分かるかも分かんない。」
🔴 保護者
「それなら先生に相談してみる?」
娘は少し考えました。
「家庭教師の先生?」
🔴 保護者
「うん。」
「学校へ戻るためじゃなくても教えてくれる?」
🔴 保護者
「もちろん相談できると思うよ。」
「じゃあ……ちょっと聞いてみたい。」
「学校の遅れを取り戻す」から考え方を変える
次の指導日。
🔵 講師
「今日は数学をやってみたいって聞いたけど。」
「うん。」
🔵 講師
「どこからやろうか。」
「分かんない。」
🔵 講師
「じゃあ、一緒に探してみよう。」
講師は、いきなり現在の学校の授業範囲から始めませんでした。
簡単な問題をいくつか見せました。
「これはできる。」
🔵 講師
「じゃあ、これは?」
「たぶん。」
娘が解きます。
🔵 講師
「合ってる。」
「じゃあ次。」
少しずつ問題を確認していきます。
途中で娘の手が止まりました。
「ここから分かんない。」
🔵 講師
「じゃあ、ここがスタート地点だね。」
「え、こんな前から?」
🔵 講師
「いいんじゃない?」
「でも学校、もっと先やってるよ。」
🔵 講師
「今、学校がどこをやっているかより、あなたがどこからなら分かるかの方が大事だよ。」
娘は問題集を見ました。
「全部追いつかなくてもいいの?」
🔵 講師
「まず一つずつ分かるようにしていこう。」
「必要になったら、その時に進み方を考えればいい。」
娘は鉛筆を持ち直しました。
「じゃあ、ここやる。」
「勉強できた」が学校復帰の材料にならないようにする
その日の指導が終わったあと。
娘は三十分ほど数学に取り組みました。
久しぶりのことでした。
お母さんはとてもうれしくなりました。
そして、一瞬こう思いました。
「これだけ勉強できるなら、学校でも授業を受けられるのではないか。」
しかし、その言葉は飲み込みました。
🔴 保護者
「どうだった?」
「思ったよりできた。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
「先生が前のところからやってくれた。」
🔴 保護者
「分かりやすかった?」
「うん。」
お母さんは、
「じゃあ学校でも……。」
とは言いませんでした。
娘が勉強できたことを、学校へ戻すための材料にしない。
今は、
「自分にもまだ学べる。」
と娘自身が感じられることの方が大切でした。
娘から出てきた「見てみたい」
それから数日。
娘は毎日ではありませんが、時々数学の問題集を開くようになりました。
ある日の夕方。
娘がスマートフォンを見ながら、お母さんに聞きました。
「通信制高校って、どんなところ?」
🔴 保護者
「お母さんも詳しくは分からないな。」
「この前調べたんじゃないの?」
🔴 保護者
「少しだけね。」
娘は画面を見ながら言いました。
「学校によって違うの?」
🔴 保護者
「みたいだよ。」
「毎日通うところもある?」
🔴 保護者
「通い方はいろいろあるみたい。」
娘はしばらくスマートフォンを見ていました。
そして、
「こういう学校って、見に行けるのかな。」
と聞きました。
お母さんは驚きました。
しかし、すぐに、
「じゃあ見学を申し込もう。」
とは言いませんでした。
🔴 保護者
「見てみたい?」
「ちょっとだけ。」
🔴 保護者
「じゃあ、見学できるところがあるか一緒に調べてみる?」
娘は少し考えました。
「うん。」
そして画面をお母さんの方へ向けました。
「でも、人が多い説明会は嫌。」
🔴 保護者
「分かった。少人数で見られるところがあるか探してみよう。」
「それなら……行ってみてもいいかも。」
「見学する=そこへ行く」ではない
お母さんは娘と一緒に、いくつかの学校について調べました。
ホームページを見ながら、
通学する日数。
授業の受け方。
学校の雰囲気。
どんな行事があるのか。
少しずつ確認していきました。
その中に、個別で相談できる学校がありました。
🔴 保護者
「ここ、個別相談もできるみたい。」
「個別?」
🔴 保護者
「大勢の説明会じゃなくて、一組ずつ話を聞けるみたいだよ。」
娘は画面を見ました。
「それならいいかも。」
🔴 保護者
「申し込んでみる?」
「……。」
娘の手が止まりました。
「でもさ。」
🔴 保護者
「うん。」
「見に行ったら、そこに決めないとダメなの?」
🔴 保護者
「そんなことないと思うよ。」
「ほんと?」
🔴 保護者
「見るだけでいいんじゃない?」
「合わなかったら?」
🔴 保護者
「別のところを探せばいいよ。」
娘は少し安心したような表情になりました。
「じゃあ、見るだけなら行ってみたい。」
選択肢を知るための見学にする
後日、お母さんは講師に相談しました。
🔴 保護者
「娘が学校を見に行ってみたいって言いました。」
🔵 講師
「自分からですか。」
🔴 保護者
「はい。」
「ただ、見学したらそこへ行かなければいけないと思っていたみたいで。」
🔵 講師
「選ぶために見るのであって、見たから選ばなければならないわけではありませんよ。」
🔴 保護者
「そうですよね。」
🔵 講師
「むしろ、
『ここは自分には合わない。』
と分かることも大切です。」
🔴 保護者
「合わないことが分かるのも?」
🔵 講師
「はい。」
「進路を考える時は、
『ここがいい。』
だけではなく、
『こういう環境は苦手。』
『こういう通い方ならできそう。』
と知ることにも意味があります。」
お母さんはうなずきました。
これまでのお母さんは、学校見学とは、
「行く学校を決めるためのもの」
だと思っていました。
しかし娘にとっては、
「自分に合う環境を知るためのもの」
でもあるのです。
見学当日の朝に「行きたくない」
見学の日。
約束の時間は午後でした。
ところが昼頃になっても、娘は部屋から出てきません。
お母さんは少し心配になりました。
予約した時間が近づいてきます。
それでも、すぐには声をかけませんでした。
しばらくすると、娘がリビングへ来ました。
「今日さ。」
🔴 保護者
「うん。」
「やっぱ行きたくないかも。」
お母さんの胸がざわつきました。
せっかく娘から、
「見てみたい。」
と言ったのです。
個別相談も予約しました。
ここでやめたら、また進路について考えなくなるのではないか。
そんな不安が浮かびました。
それでも、お母さんは言いました。
🔴 保護者
「そっか。」
「キャンセルしてもいい?」
🔴 保護者
「いいよ。」
娘は少し驚いた顔をしました。
「怒らない?」
🔴 保護者
「怒らないよ。」
「だって予約したじゃん。」
🔴 保護者
「行けなかったら、お母さんから連絡するよ。」
娘は黙りました。
「やめてもいい」があるから考えられる
しばらくして娘が言いました。
「車で近くまで行くのは?」
🔴 保護者
「いいよ。」
「でも、着いて無理だったら帰っていい?」
🔴 保護者
「もちろん。」
「中に入らなくても?」
🔴 保護者
「うん。」
娘は少し考えました。
「じゃあ、行くだけ行ってみる。」
二人は車で出かけました。
学校が近づくにつれて、娘の口数が減っていきました。
建物が見えてきました。
「ここ?」
🔴 保護者
「そうみたい。」
「思ったより普通の学校っぽい。」
🔴 保護者
「そうだね。」
駐車場に車を停めました。
娘はすぐには降りませんでした。
「ちょっと待って。」
🔴 保護者
「うん。」
お母さんも、そのまま座っていました。
数分後。
娘が大きく息を吐きました。
「行ってみる。」
「学校」という言葉から想像していたものと違った
建物の中へ入ると、担当者が迎えてくれました。
大勢の生徒がいる場所へいきなり案内されることはありませんでした。
まず小さな部屋で話を聞きました。
担当者が娘に尋ねました。
「今日は来てくれてありがとう。何か聞いてみたいことはありますか。」
娘は首を横に振りました。
「今は特に……。」
「大丈夫ですよ。見ているだけでも構いません。」
娘の表情が少し緩みました。
担当者は、お母さんにも説明しながら、学校での過ごし方を紹介してくれました。
毎日のように通う生徒もいる。
自宅での学習を多くする生徒もいる。
登校する日を相談しながら決める場合もある。
それぞれの状況に合わせて学習を進めている。
説明を聞いていた娘が、初めて自分から質問しました。
「毎日来ない人もいるんですか。」
「いますよ。」
「最初から?」
「最初は少ない日数から始める人もいます。」
娘は、
「へえ。」
と言って、お母さんの方を見ました。
「自分でもできるかもしれない」
帰りの車。
お母さんは、すぐに感想を聞かないようにしました。
しばらく無言で走りました。
娘が自分から言いました。
「思ってたのと違った。」
🔴 保護者
「どんなふうに?」
「もっと学校っぽいと思ってた。」
🔴 保護者
「学校っぽい?」
「朝から毎日行って、教室でずっと授業受ける感じ。」
🔴 保護者
「そう思ってたんだ。」
「うん。」
娘は窓の外を見ながら言いました。
「毎日じゃなくてもいいなら、自分でもできるのかな。」
お母さんは、すぐに、
「できるよ。」
とは言いませんでした。
🔴 保護者
「どう思った?」
「分かんない。」
少し間がありました。
「でも、今の学校に戻るよりは想像できる。」
🔴 保護者
「そっか。」
その言葉だけで十分でした。
一つ見たからといって一つに決めない
家に帰ってから、娘は学校のパンフレットを机の上に置きました。
捨てることも、すぐに詳しく読むこともしませんでした。
翌日。
娘が言いました。
「他にもこういうところある?」
🔴 保護者
「あると思うよ。」
「見てみたい。」
🔴 保護者
「ホームページ?」
「うん。」
二人でもう一度調べました。
すると、最初に見学した学校とは違う特徴を持つ学校も見つかりました。
娘が言いました。
「ここは通う日が多そう。」
🔴 保護者
「そうみたいだね。」
「これはちょっと嫌かな。」
🔴 保護者
「じゃあ候補から外す?」
「まだ分かんない。」
🔴 保護者
「分かった。」
以前のお母さんなら、
「じゃあ最初に見た学校にしよう。」
と言っていたかもしれません。
しかし今は、急いで結論を出しませんでした。
娘が比較しながら、
「自分には何が合うのか。」
を考えていること自体が、大切な変化だったからです。
学校以外の場所にも目を向ける
ある日の指導中。
娘が講師に言いました。
「先生。」
🔵 講師
「何?」
「高校までずっと家で勉強するのってダメ?」
🔵 講師
「どうしてそう思ったの?」
「今の中学校、やっぱり戻れる気しない。」
🔵 講師
「そうなんだ。」
「でも勉強はちょっとやりたい。」
🔵 講師
「じゃあ、今は家でできる勉強を続けてもいいんじゃないかな。」
「学校行かなくても?」
🔵 講師
「学校との相談が必要なことはあるけれど、学ぶことそのものは学校の教室だけでしかできないわけじゃないよ。」
娘は少し考えました。
「じゃあ、数学ここでやって、英語は家でやるとか?」
🔵 講師
「そういう方法も考えられるね。」
「英語、めっちゃ前から分かんない。」
🔵 講師
「じゃあ英語も、どこから分からなくなったか探してみようか。」
「それならやる。」
学校へ戻るための勉強ではありません。
娘自身が、
「これからの自分のために、少し勉強してみよう。」
と考え始めていました。
「学校へ戻れない自分」から見方が変わる
それからしばらくして。
娘は週に何度か、自分のペースで勉強するようになりました。
毎日ではありません。
三十分できる日もあれば、十分で終わる日もあります。
何もしない日もあります。
それでも以前のように、
「学校へ行っていないから、勉強しても意味がない。」
とは言わなくなりました。
ある日。
娘が問題を解きながら言いました。
「私、学校行ってないから頭悪くなったと思ってた。」
🔵 講師
「今は?」
「分かるところからやったら、意外とできる。」
🔵 講師
「そうだね。」
「でも、みんなより遅れてるでしょ。」
🔵 講師
「比べたらそういう部分もあるかもしれないね。」
「でも今は、あなたがどこまで分かっているかを見ながら進めればいい。」
娘は少し笑いました。
「学校みたいに、勝手に先に行かないもんね。」
🔵 講師
「ここでは待ちます。」
「それ助かる。」
お母さんの焦りも少し変わった
指導が終わったあと。
🔴 保護者
「先生、私も最近ちょっと変わった気がします。」
🔵 講師
「どんなところがですか。」
🔴 保護者
「前は、娘が何かできるようになるたびに、
『これなら学校へ戻れるかも。』
って考えていました。」
「朝起きた。」
「外へ出た。」
「勉強した。」
「友達と話した。」
「全部、学校復帰につなげようとしていました。」
🔵 講師
「今はどうですか。」
🔴 保護者
「今は、
『この子なりに前へ進んでいるんだな。』
と思えることが増えました。」
🔵 講師
「学校へ戻ることについては?」
🔴 保護者
「戻りたいと言ったら、その時は一緒に考えます。」
「でも、戻れなかったら終わりとは思わなくなりました。」
学校との関係も「ゼロか百か」ではない
お母さんは学校とも相談しました。
娘が現在どのように過ごしているのか。
家庭で少しずつ学習を始めたこと。
今のところ教室へ戻ることには強い不安があること。
進路について少しずつ情報を集め始めていること。
担任からは、
「本人が来られそうな時には、放課後に少し話すこともできます。」
と言われました。
お母さんは娘にそのことを伝えました。
🔴 保護者
「先生が、もし話したくなったら放課後でもいいって。」
「今はいい。」
🔴 保護者
「分かった。」
それ以上は言いませんでした。
数週間後。
娘の方から聞きました。
「担任の先生、まだ私のこと気にしてる?」
🔴 保護者
「気にしてくれてるよ。」
「怒ってない?」
🔴 保護者
「怒ってないよ。」
娘は少し黙りました。
「いつかなら、会ってもいいかも。」
🔴 保護者
「その時に考えよう。」
学校へ戻ると決めたわけではありません。
でも、学校とのつながりが完全になくなったわけでもありません。
必要な距離を取りながら、つながっている。
それも一つの関わり方でした。
「戻るか、戻らないか」ではなくなる
ある日の夕食。
お母さんが聞きました。
🔴 保護者
「高校のこと、最近どう思ってる?」
娘は少し考えました。
「まだ分かんない。」
🔴 保護者
「そっか。」
「通信のところも気になるし。」
「うん。」
「でも、今の学校も卒業までは一応つながっていたい。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
「戻るかは分かんないけど。」
🔴 保護者
「分かった。」
「あと、数学は続けたい。」
🔴 保護者
「うん。」
「英語もやばいから、そろそろやる。」
お母さんは笑いました。
🔴 保護者
「それは先生に相談しようか。」
「うん。」
以前なら、この会話を聞いて、
「学校へ戻る気になったのではないか。」
「高校へ行く気になったのではないか。」
と期待していたでしょう。
今は違います。
娘自身が、自分の未来について少しずつ考え始めている。
それをそのまま受け止められるようになっていました。
「どこへ行くか」より「どう学びたいか」
数週間後。
娘は別の学校についても調べていました。
🔴 保護者
「何見てるの?」
「この前とは別のところ。」
🔴 保護者
「どう?」
「こっちは家で勉強するの多いみたい。」
🔴 保護者
「それがいい?」
「分かんない。」
娘は画面をスクロールしました。
「でも、ずっと家だけも嫌かも。」
🔴 保護者
「そうなんだ。」
「たまには人と話したい。」
🔴 保護者
「じゃあ、そういう学校を探してみる?」
「うん。」
少しして娘が言いました。
「毎日は行きたくない。」
🔴 保護者
「うん。」
「でも、全然人に会わないのも嫌。」
🔴 保護者
「うん。」
「勉強は、自分のペースがいい。」
🔴 保護者
「それ、大事な条件かもしれないね。」
娘は画面を見ながら、
「そうかも。」
と言いました。
初めて娘自身の口から、
「自分はどう学びたいのか。」
が出てきました。
選択肢が増えると「できない」だけではなくなる
不登校になったばかりの頃。
娘の中にあった選択肢は、ほとんど一つでした。
「学校へ行く。」
しかし、それができませんでした。
だから娘は、
「私は何もできない。」
と思っていました。
学校へ行けない。
授業を受けられない。
テストも受けられない。
みんなと同じことができない。
できないことばかりが目に入っていました。
しかし、選択肢を知ってから少しずつ言葉が変わりました。
「家なら勉強できる。」
「一対一なら質問できる。」
「毎日じゃなければ通えるかもしれない。」
「少人数なら見学できる。」
「今の学校とも、完全に切れなくていい。」
「別の高校も選べる。」
できないことが突然なくなったわけではありません。
学校への不安も残っています。
それでも、
「自分には何もできない。」
から、
「これならできるかもしれない。」
へと、少しずつ視線が変わっていきました。
「自分で選んでいい」と知る
ある日。
娘が講師に聞きました。
「先生なら、どの高校がいいと思う?」
🔵 講師
「僕が決めるの?」
「だって分かんないもん。」
🔵 講師
「じゃあ、一緒に考えることはできるよ。」
「でも最後に決めるのは?」
娘が講師を見ました。
🔵 講師
「あなた。」
「私?」
🔵 講師
「そう。」
「お母さんでも、僕でもなくて?」
🔵 講師
「アドバイスはできる。」
「情報も一緒に探せる。」
「でも、実際にそこで学ぶのはあなたでしょう。」
娘は少し考えました。
「自分で決めていいんだ。」
🔵 講師
「自分で考えて決められるように、周りの大人が手伝うんだと思うよ。」
娘は小さくうなずきました。
おわりに
不登校になった時、
「どうすれば学校へ戻れるのか。」
という問いから始まる家庭は少なくありません。
もちろん、子ども自身が学校へ戻りたいと思うのであれば、その気持ちを支えることは大切です。
学校との関係を少しずつ作り直すことが、その子にとって良い選択になることもあります。
しかし、学校へ戻ることだけを唯一の道にしてしまうと、その道を進めない子どもは、
「自分にはもう先がない。」
と感じてしまうことがあります。
教室へ戻る。
別室を利用する。
学校とは距離を取りながらつながる。
学校外の居場所を利用する。
家庭で学習する。
一対一で学ぶ。
別の学校を検討する。
自分に合った高校を探す。
子どもの状態によって、考えられる道はいくつもあります。
そして、それらの選択肢は最初から一つに決める必要もありません。
今は家で学ぶ。
少し元気になったら外へ出る。
興味が出たら学校を見学する。
合わなければ別の場所を見る。
学校へ戻りたくなったら、その方法を考える。
途中で考えが変わっても構いません。
大切なのは、
「学校へ戻るか、戻らないか。」
という二択だけで子どもの未来を考えないことです。
今回のお母さんも、最初は、
「今の学校へ戻らなければ、その先へ進めない。」
と思っていました。
娘も同じでした。
だからこそ、学校へ戻れない自分を見て、
「高校にも行けない。」
「もう無理だ。」
と思っていました。
しかし、
「別の道もある。」
と知ったことで、娘は少しずつ未来について話せるようになりました。
そして最後には、
「毎日は行きたくない。」
「でも人とは少し関わりたい。」
「勉強は自分のペースでしたい。」
と、自分に合う学び方を考え始めました。
選択肢を増やすということは、子どもに楽な道を選ばせることではありません。
学校復帰を諦めることでもありません。
子どもの未来を、一つの方法だけに限定しないということです。
「ここへ戻らなければならない。」
から、
「自分に合う場所を探していい。」
へ。
「みんなと同じようにできなければならない。」
から、
「自分に合う学び方を考えていい。」
へ。
そして、
「自分にはもう道がない。」
から、
「自分にも選べる道がある。」
へ。
子どもがそう思えるようになった時、未来は「元の場所へ戻れるかどうか」だけで決まるものではなくなります。
どこで学ぶのか。
誰と学ぶのか。
どのくらいのペースで進むのか。
どんな場所なら安心できるのか。
それを周囲の大人と一緒に考えながら、最後には自分で選んでいく。
学校へ戻る道も、その中の一つです。
そして、それ以外の道もまた、子どもが自分の人生を前へ進めていくための大切な選択肢なのです。
理論編はこちらから
⑱ 「学校へ戻る」以外の選択肢を知る(理論編)
はじめに 子どもが学校へ行けなくなると、保護者はどうしても「どうすれば学校へ戻れるだろう」と考えます。 朝起きられるようにする。 学校の近くまで行ってみる。 保健室登校を試してみる。 担任の先生と話してみる。 少しずつ授 […]
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