① 不登校になったとき親が最初に知っておきたいこと(実践編)

はじめに

実際にそういう状況になったときの対応って?

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親は「学校くらい行け!」って・・・。

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気持ちは分からなくはないけどね・・・。

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そこは分かってるけど・・・。

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どうすればいいか・・・ってやつだね。

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はじめに

「学校へ行きたくない」

子どもから初めてそう言われたとき、落ち着いて受け止められる保護者は多くありません。

「何があったの?」

「友達と何かあった?」

「今日は休んでも、明日は行ける?」

心配だからこそ、理由を知りたくなります。

そして、何とか元の生活に戻してあげたいと思います。

しかし、その気持ちが強くなりすぎると、親の「心配」が子どもには「学校へ行ってほしいという圧力」として伝わってしまうことがあります。

今回登場するのは、中学2年生のYくんと、その保護者です。

Yくんが学校へ行けなくなって数日。

保護者は「このままでいいのだろうか」という不安を抱え、学習支援に関わる講師へ相談することにしました。

親として何をすればいいのか。

何を言えばいいのか。

そして、何を「しない」ことが必要なのか。

実際の会話を通して考えていきます。

「明日は行ける?」を毎日聞いてしまう

相談の日、保護者は少し疲れた表情をしていました。

🔴 保護者
「学校を休み始めて、今日で5日目です。」

🔵 講師
「この5日間、かなり心配だったのではないですか?」

🔴 保護者
「はい。最初は一日休めば大丈夫だと思っていたんです。疲れているだけかなって。でも、次の日も、その次の日も『行けない』って言って……。」

🔵 講師
「朝はどんな様子ですか?」

🔴 保護者
「夜は普通なんです。ゲームもしますし、ご飯も食べます。テレビを見て笑っていることもあります。」

少し言いにくそうに、保護者は続けました。

🔴 保護者
「だから正直、『そんなに元気なら学校に行けるんじゃないの?』って思ってしまうんです。」

🔵 講師
「そう感じる保護者の方は少なくありません。」

🔴 保護者
「でも、朝になると全然違うんです。起こしても布団から出てこなくて。」

🔵 講師
「どんな声をかけていますか?」

🔴 保護者
「最初は『起きる時間だよ』です。それでも起きないと、『学校遅れるよ』って。それから……。」

保護者は少し黙りました。

🔵 講師
「そのまま話して大丈夫ですよ。」

🔴 保護者
「『昨日は明日行くって言ったでしょう』とか、『いつまで休むの?』とか……言ってしまいます。」

🔵 講師
「言ったあと、どう感じますか?」

🔴 保護者
「後悔します。でも次の朝になると、また言ってしまうんです。」

🔵 講師
「なぜ言ってしまうと思いますか?」

🔴 保護者
「……怖いからだと思います。」

🔵 講師
「何が一番怖いですか?」

🔴 保護者
「このままずっと学校へ行けなくなることです。」

そして、保護者の口から次々に不安が出てきました。

🔴 保護者
「勉強も遅れますよね。中学2年生だから、そのうち受験もあります。このまま3年生になったらどうするんだろう、高校へ行けるんだろうか、その先はどうなるんだろうって……。」

講師は少し考えてから尋ねました。

🔵 講師
「Yくんが学校を休み始めて、まだ5日なんですよね。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「でも、保護者の方の頭の中では、もう高校受験やその先まで進んでいる。」

保護者は一瞬驚いたあと、苦笑しました。

🔴 保護者
「……本当ですね。」

🔵 講師
「それくらいYくんのことが心配なんですよね。」

🔴 保護者
「そうなんです。」

🔵 講師
「まず、その不安そのものを悪いものだと思わなくていいですよ。」

🔴 保護者
「でも、その不安でYを追い詰めているんじゃないでしょうか。」

🔵 講師
「そこは分けて考えてみましょう。心配することと、その心配を全部Yくんに背負わせることは別です。」

親の不安と子どもの「今日」を分けてみる

講師は紙を一枚取り出しました。

🔵 講師
「今、心配していることを書いてみましょうか。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「まず一つ目は?」

🔴 保護者
「学校へ戻れるか。」

🔵 講師
「次は?」

🔴 保護者
「勉強です。」

🔵 講師
「ほかには?」

🔴 保護者
「高校受験、進路……。将来ちゃんと働けるのかも心配です。」

紙には、

学校。

勉強。

高校受験。

進路。

就職。

将来。

いくつもの言葉が並びました。

🔵 講師
「では、この中で今日中に答えを出さなければならないものはありますか?」

保護者は紙を見つめました。

🔴 保護者
「……ないですね。」

🔵 講師
「そうなんです。どれも大切なことです。でも、全部を今日解決する必要はありません。」

🔴 保護者
「頭では分かるんですけど……。」

🔵 講師
「朝になると不安になる?」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「では明日の朝は、高校受験も進路も、その先の将来もいったん横に置いてみませんか。」

🔴 保護者
「何を見ればいいんですか?」

🔵 講師
「今日のYくんです。」

保護者は黙って講師を見ました。

🔵 講師
「眠れているのか。食事はできているのか。家族と話せるのか。何かを楽しむ余裕があるのか。学校の話をしたときに、どんな反応をするのか。」

🔴 保護者
「先のことじゃなくて、今を見るということですか?」

🔵 講師
「そうです。未来を考えることは必要です。でも、その未来を考えるためにも、まず今のYくんを知る必要があります。」

「どうして行けないの?」をいったんやめる

講師は続けて尋ねました。

🔵 講師
「Yくんは、学校へ行けない理由について何と言っていますか?」

🔴 保護者
「それが分からないんです。」

🔵 講師
「Yくん自身が?」

🔴 保護者
「何を聞いても『分からない』って言います。」

保護者は少し身を乗り出しました。

🔴 保護者
「友達と何かあったのか、先生なのか、勉強なのか……。原因さえ分かれば、何とかしてあげられると思うんです。」

🔵 講師
「どんなふうに聞いていますか?」

🔴 保護者
「『友達と何かあった?』『いじめられてない?』『先生に何か言われた?』『勉強が分からないの?』って。」

🔵 講師
「Yくんは?」

🔴 保護者
「全部『違う』です。最後には『分からないって言ってるだろ』って怒りました。」

講師は少し考えてから言いました。

🔵 講師
「本当にYくんにも分からないのかもしれません。」

🔴 保護者
「本人にも分からないことがあるんですか?」

🔵 講師
「あります。」

🔴 保護者
「でも、何か理由があるから行けないんですよね?」

🔵 講師
「もちろん何らかの負担はあると思います。ただ、それが一つとは限りません。」

🔴 保護者
「一つじゃない?」

🔵 講師
「友達に少し気を遣っている。授業で分からないところが増えている。先生に注意されるのが怖い。周囲に合わせることに疲れている。朝起きること自体もしんどい。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「それぞれは小さなことでも、全部が重なると大きな負担になります。」

🔴 保護者
「なるほど……。」

🔵 講師
「それを『学校へ行けない理由を一つ説明してください』と言われても、本人には答えられないことがあります。」

保護者はしばらく考えました。

🔴 保護者
「そういえば、学校を休む少し前から『疲れた』ってよく言っていました。」

🔵 講師
「ほかに変化はありませんでしたか?」

🔴 保護者
「学校から帰ると、すぐ横になることが増えていました。」

🔵 講師
「ほかには?」

🔴 保護者
「夕食のときも、前より話さなくなっていました。」

保護者の表情が曇りました。

🔴 保護者
「私、気づいてあげられなかったんですね。」

🔵 講師
「そうやって自分を責める必要はありません。」

🔴 保護者
「でも……。」

🔵 講師
「今、気づき始めていますよね。」

保護者は顔を上げました。

🔵 講師
「過去の対応を責め続けるより、今日からYくんを見るほうが大切です。」

明日の朝、一つだけ変えてみる

相談の最後に、講師は一つ提案しました。

🔵 講師
「明日の朝、一つだけ変えてみませんか?」

🔴 保護者
「何をですか?」

🔵 講師
「『学校へ行く?』と聞くのを、一度やめてみましょう。」

保護者は戸惑いました。

🔴 保護者
「何も聞かなくていいんですか?」

🔵 講師
「学校については、です。」

🔴 保護者
「でも、それだと『学校へ行かなくていい』って思ってしまいませんか?」

🔵 講師
「学校へ行かなくてもいいと決めることと、今のYくんを追い詰めないことは別です。」

🔴 保護者
「じゃあ、何て言えばいいんでしょう。」

🔵 講師
「普通でいいんです。」

🔴 保護者
「普通?」

🔵 講師
「『おはよう』でもいい。『朝ご飯どうする?』でもいい。すべての会話を学校につなげないことです。」

翌朝。

いつもの時間になりました。

保護者はYくんの部屋の前に立ちました。

これまでなら、

「学校遅れるよ」

と言っていたところです。

ドアを軽くノックしました。

🔴 保護者
「Y、おはよう。」

少しして返事がありました。

🟢 生徒
「……おはよう。」

🔴 保護者
「朝ご飯どうする?」

🟢 生徒
「今はいらない。」

🔴 保護者
「分かった。食べたくなったらパンあるからね。」

それだけ言って、保護者はリビングへ戻りました。

本当は聞きたいことがたくさんありました。

「今日は学校どうする?」

「先生には何て連絡する?」

「明日は行けそう?」

でも、聞きませんでした。

30分ほどすると、Yくんが部屋から出てきました。

🟢 生徒
「パン、まだある?」

🔴 保護者
「あるよ。」

🟢 生徒
「食べようかな。」

🔴 保護者
「うん。」

Yくんはパンを焼き、テーブルに座りました。

しばらくすると、自分から尋ねました。

🟢 生徒
「学校から電話あった?」

🔴 保護者
「昨日、担任の先生からあったよ。」

🟢 生徒
「何て?」

🔴 保護者
「最近の様子を聞かれたから、今は少し疲れているみたいですって伝えたよ。」

Yくんは少し黙りました。

🟢 生徒
「先生、怒ってた?」

🔴 保護者
「怒ってないよ。心配してた。」

🟢 生徒
「……そっか。」

保護者は、

「先生も心配しているんだから学校へ行ってみたら?」

と言いそうになりました。

しかし、その言葉を飲み込みました。

しばらくすると、Yくんがぽつりと言いました。

🟢 生徒
「俺さ、学校が嫌いなわけじゃないんだよ。」

🔴 保護者
「うん。」

🟢 生徒
「友達もいるし。」

🔴 保護者
「うん。」

🟢 生徒
「でも朝になると……なんか無理になる。」

🔴 保護者
「朝になると苦しくなるんだね。」

🟢 生徒
「自分でも分かんない。」

以前なら、

「何が無理なの?」

「何か理由があるでしょう?」

と聞いていたでしょう。

しかし、その日は違いました。

🔴 保護者
「分からないんだね。」

🟢 生徒
「うん。」

短い会話でした。

それでも保護者は、これまでとは違うものを感じていました。

理由を聞き続けていたとき、Yくんは何も話してくれませんでした。

ところが、

「学校へ行くの?」

「なぜ行けないの?」

と聞くのをやめた朝に、Yくんのほうから学校について話し始めました。

学校へ行けたわけではありません。

問題が解決したわけでもありません。

それでも、保護者の中で一つの考えが生まれました。

今必要なのは、答えを聞き出すことではなく、Yくんが安心して「分からない」と言えることなのかもしれない。

その日から保護者は、Yくんを「学校へ行けているかどうか」だけで見るのではなく、日々の小さな変化を見るようになっていきました。

「学校へ行けたか」以外の変化を見る

それから数日が過ぎました。

Yくんは、まだ学校へ行っていません。

以前の保護者なら、朝になるたびに、

「今日も行けなかった」

と考えていたでしょう。

しかし今は、少しずつ違うところにも目が向くようになっていました。

朝起きる時間が少し早くなった。

リビングにいる時間が増えた。

家族と一緒に食事をするようになった。

自分から話しかけてくることも増えた。

学校へ行けているかどうかだけを見れば、何も変わっていないように見えます。

けれど、Yくんの生活には小さな変化が始まっていました。

「外へ出られるなら学校にも行ける」と言いそうになる

ある日の午後、Yくんが突然言いました。

🟢 生徒
「ちょっとコンビニ行ってくる。」

🔴 保護者
「コンビニ?」

🟢 生徒
「うん。飲み物買ってくる。」

🔴 保護者
「一人で大丈夫?」

🟢 生徒
「大丈夫。」

その瞬間、保護者の頭にある言葉が浮かびました。

「外へ出られるなら、学校にも行けるんじゃない?」

以前なら、そのまま口にしていたかもしれません。

しかし、今回は止まりました。

🔴 保護者
「分かった。気をつけてね。」

🟢 生徒
「うん。」

20分ほどして、Yくんが帰ってきました。

🟢 生徒
「外、めちゃくちゃまぶしかった。」

🔴 保護者
「最近、昼間にあまり外へ出てなかったもんね。」

🟢 生徒
「うん。でも、ちょっと気持ちよかった。」

🔴 保護者
「そっか。」

Yくんは買ってきた飲み物を冷蔵庫へ入れ、自分の部屋へ戻っていきました。

ほんの短い外出です。

学校へ行ったわけではありません。

勉強をしたわけでもありません。

けれど、

「自分から外へ出ようと思った」

という小さな変化がありました。

保護者は、それをそのまま受け止めることにしました。

「何もしていない一日」ではない

数日後。

保護者は再び講師に相談しました。

🔵 講師
「その後、Yくんはどうですか?」

🔴 保護者
「学校にはまだ行けていません。」

そう答えたあと、保護者は少し考えました。

🔴 保護者
「でも……前とは少し違います。」

🔵 講師
「どんなところが違いますか?」

🔴 保護者
「朝、少し早く起きる日が増えました。リビングにも来ます。この前は自分からコンビニにも行ったんです。」

🔵 講師
「いい変化ですね。」

🔴 保護者
「これも変化と考えていいんでしょうか。」

🔵 講師
「もちろんです。」

🔴 保護者
「でも学校には行けていません。」

🔵 講師
「最初に相談に来たときのYくんは、どんな様子でした?」

🔴 保護者
「朝は布団から出られなくて、昼間もほとんど部屋にいました。」

🔵 講師
「今は?」

🔴 保護者
「起きる時間が少し早くなって、リビングにも来るようになりました。」

🔵 講師
「それなら、何も変わっていないわけではありませんよね。」

🔴 保護者
「……そうですね。」

🔵 講師
「学校へ行けたかどうかだけを基準にすると、その変化が全部見えなくなってしまいます。」

保護者はうなずきました。

🔴 保護者
「以前の私は、学校を休んでいる日は『何もしていない』と思っていました。」

🔵 講師
「今はどうですか?」

🔴 保護者
「休んでいるんだと思えるようになりました。」

🔵 講師
「そこは大きな違いですね。」

🔴 保護者
「でも、ずっと休ませているだけでいいんでしょうか。」

🔵 講師
「ずっと何もしなくていいという意味ではありません。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「大切なのは、Yくんが次に動けそうになったとき、その小さな変化を見逃さないことです。」

🔴 保護者
「小さな変化……。」

🔵 講師
「朝起きる。家族と話す。外へ出る。好きなことを楽しめる。学校の話を自分からする。そうした一つひとつです。」

🔴 保護者
「最初から学校へ戻ることだけを考えなくていいということですね。」

🔵 講師
「そうです。大きな一歩の前には、小さな一歩がいくつもあります。」

「本当は学校へ行きたい」

その日の夜。

夕食が終わったあと、Yくんが自分から話しかけてきました。

🟢 生徒
「ちょっと聞いていい?」

🔴 保護者
「いいよ。」

🟢 生徒
「俺さ……ずっと学校行きたくないわけじゃないんだよ。」

保護者は驚きました。

しかし、すぐに質問を重ねることはしませんでした。

🔴 保護者
「うん。」

🟢 生徒
「できれば普通に行きたい。」

🔴 保護者
「そう思ってるんだね。」

🟢 生徒
「夜はさ、『明日は行こうかな』って思うときもあるんだよ。」

🔴 保護者
「うん。」

🟢 生徒
「でも朝になると無理になる。」

🔴 保護者
「朝になると?」

🟢 生徒
「学校のこと考えると、急に嫌になるっていうか……。」

Yくんは言葉を探していました。

保護者は黙って待ちました。

🟢 生徒
「もう授業も進んでるだろうし。」

🔴 保護者
「遅れていることも気になる?」

🟢 生徒
「うん。それもある。」

少し沈黙したあと、Yくんは続けました。

🟢 生徒
「あと、教室に入ったら絶対聞かれるじゃん。」

🔴 保護者
「何を?」

🟢 生徒
「『なんで休んでたの?』って。」

🔴 保護者
「ああ……。」

🟢 生徒
「自分でも分かんないのに、何て答えればいいの。」

その言葉を聞いて、保護者は初めて気づきました。

休み始めた理由だけが問題なのではありません。

学校を休んだ日が増えることで、

「どうやって戻ればいいのか」

という新しい不安も生まれていたのです。

🔴 保護者
「聞かれるのが嫌なんだね。」

🟢 生徒
「うん。」

🔴 保護者
「だったら、そのことも先生に相談できると思うよ。」

🟢 生徒
「先生に?」

🔴 保護者
「もし学校へ行ってみようかなと思ったときに、最初から教室じゃなくてもいい方法があるかもしれないし。」

🟢 生徒
「そんなのできるの?」

🔴 保護者
「分からない。でも、相談はできると思うよ。」

Yくんは少し考えました。

🟢 生徒
「……じゃあ、聞くだけ聞いてみて。」

🔴 保護者
「分かった。」

以前なら、保護者はすぐに、

「じゃあ明日行ってみる?」

と聞いていたかもしれません。

でも今回は聞きませんでした。

Yくん自身が出した、

「聞くだけ聞いてみて」

という小さな一歩を、そのまま大切にすることにしました。

親が答えを急がなくなると、子どもが自分で考え始める

翌週、保護者はその出来事を講師に話しました。

🔴 保護者
「Yのほうから、学校のことを先生に聞いてほしいって言ったんです。」

🔵 講師
「Yくんから言ったんですね。」

🔴 保護者
「はい。正直、すごくうれしかったです。」

🔵 講師
「そうですよね。」

🔴 保護者
「それで、『じゃあ学校へ戻れるかもしれない』って思いました。」

🔵 講師
「そのあと、Yくんには何て言いました?」

🔴 保護者
「『分かった』だけです。」

🔵 講師
「『いつ行く?』とは聞かなかった?」

🔴 保護者
「聞きたかったです。」

保護者は笑いました。

🔴 保護者
「ものすごく聞きたかったです。」

🔵 講師
「でも待った。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「それは大切なことだと思います。」

🔴 保護者
「最近、少し分かってきた気がするんです。」

🔵 講師
「何がですか?」

🔴 保護者
「私は何か一つできると、すぐ次を求めていたんです。」

🔵 講師
「たとえば?」

🔴 保護者
「朝起きたら『学校行ける?』。外に出たら『学校も行けるんじゃない?』。学校の話をしたら『じゃあ明日は?』って。」

🔵 講師
「一つ進むと、すぐ次へ進ませようとしていたんですね。」

🔴 保護者
「はい。」

🔵 講師
「どうしてだったと思います?」

保護者は少し考えました。

🔴 保護者
「早く元に戻ってほしかったからです。」

そして、少し間を置いて続けました。

🔴 保護者
「たぶん……私が安心したかったんだと思います。」

講師は静かにうなずきました。

🔵 講師
「そこに気づけたことは、とても大きいと思います。」

親も間違えていい

保護者は続けました。

🔴 保護者
「でも、今でも不安になるんです。」

🔵 講師
「もちろんです。」

🔴 保護者
「制服を着て学校へ行っている子を見ると、どうしても比べてしまいます。」

🔵 講師
「はい。」

🔴 保護者
「ゲームをしているYを見ると、『ゲームできるなら勉強すればいいのに』って思うこともあります。」

🔵 講師
「思ってしまうこと自体を責めなくてもいいですよ。」

🔴 保護者
「そうなんですか?」

🔵 講師
「保護者も人間です。不安にもなりますし、イライラする日もあります。」

🔴 保護者
「この前、実際に言ってしまいました。」

🔵 講師
「何て?」

🔴 保護者
「『少しくらい勉強したら?』って。」

🔵 講師
「そのあと、どうしました?」

🔴 保護者
「Yが黙ってしまったので、あとで『焦って言っちゃった。ごめん』って謝りました。」

🔵 講師
「それでいいと思います。」

🔴 保護者
「親が謝ってもいいんでしょうか。」

🔵 講師
「もちろんです。」

🔴 保護者
「正しい対応をしなきゃいけないと思っていました。」

🔵 講師
「毎日すべて正しく対応するなんて、誰にもできません。」

🔴 保護者
「失敗してもいい?」

🔵 講師
「失敗したら、また関係をつくり直せばいいんです。」

🔴 保護者
「つくり直す……。」

🔵 講師
「大切なのは、一度も間違えないことではありません。間違えたときに、『さっきは言いすぎたね』と戻れる関係をつくることです。」

保護者は少し安心したように笑いました。

「今日は数学をやってみたい」

数日後の朝。

Yくんは8時半ごろ、自分からリビングへやってきました。

🟢 生徒
「おはよう。」

🔴 保護者
「おはよう。今日は少し早いね。」

🟢 生徒
「昨日、早く寝たから。」

朝食を食べながら、Yくんはしばらくスマートフォンを見ていました。

すると突然、尋ねました。

🟢 生徒
「数学の教科書、どこにあるか知らない?」

🔴 保護者
「机の横になかった?」

🟢 生徒
「あったかな。」

🔴 保護者
「数学やるの?」

🟢 生徒
「……ちょっとだけ。」

保護者は驚きました。

学校を休み始めてから、Yくんが自分から勉強について話したのは初めてでした。

以前なら、

「やっと勉強する気になったの?」

「どこまで遅れているか確認しないと」

と言っていたかもしれません。

しかし今回は違いました。

🔴 保護者
「分からないところがあったら、講師にも相談できると思うよ。」

🟢 生徒
「うん。」

その日の午後。

講師がYくんと話しました。

🔵 講師
「今日は数学をやってみたいって聞いたけど。」

🟢 生徒
「はい。でも、たぶん全然分かんないです。」

🔵 講師
「じゃあ、どこから分からなくなったのか一緒に探してみようか。」

🟢 生徒
「そんなところからでいいんですか?」

🔵 講師
「もちろん。今日全部取り戻す必要はないよ。」

🟢 生徒
「でも、授業かなり進んでますよね。」

🔵 講師
「進んでいるね。でも、今は追いつくことより、もう一度始められるところを見つけるほうが大切だと思う。」

🟢 生徒
「じゃあ……ちょっとだけやります。」

🔵 講師
「うん。ちょっとだけやってみよう。」

その様子を見ながら、保護者は数週間前の自分を思い出していました。

学校へ行かせなければ。

勉強させなければ。

生活リズムを戻さなければ。

早く原因を見つけなければ。

何とかしなければ。

そう思えば思うほど、Yくんとの会話は減っていました。

今も、すべてが解決したわけではありません。

Yくんはまだ学校へ戻っていません。

勉強の遅れもあります。

これから学校とどう関わるのかも決まっていません。

それでも、Yくんは自分から教科書を開きました。

誰かに無理やり開かされたのではありません。

自分で、

「少しやってみようかな」

と思えたのです。

最初に必要なのは「元に戻すこと」ではない

不登校になったとき、保護者はどうしても先のことを考えます。

「このまま学校へ行けなかったらどうしよう」

「勉強が遅れたらどうしよう」

「高校へ行けるのだろうか」

「将来は大丈夫なのだろうか」

どれも、子どものことを大切に思っているからこそ生まれる不安です。

しかし、その不安から答えを急ぎすぎると、目の前にいる子どもの状態が見えなくなることがあります。

学校へ行けなかった一日の中にも、小さな変化があります。

朝起きられた。

家族と食事ができた。

自分から話してくれた。

外へ出られた。

学校について自分の気持ちを話せた。

教科書を開いてみた。

それらは、学校へ戻ることと比べれば小さく見えるかもしれません。

けれど、子どもがもう一度動き始めるためには、とても大切な一歩です。

不登校になったとき、親が最初にすることは、子どもの人生を急いで元に戻すことではありません。

まず、

「今、この子はどんな状態なのだろう」

と見ることです。

そして、

「今なら何ができそうなのだろう」

と考えることです。

理由がすぐに分からなくても構いません。

将来の答えがまだ出ていなくても構いません。

親自身が不安になったり、対応を間違えたりする日があっても構いません。

間違えたら、また話せばいい。

焦ってしまったら、もう一度立ち止まればいい。

子どもの小さな変化を見つけながら、親子で少しずつ次の一歩を探していく。

親が答えを急ぐのを少しやめることで、子ども自身が、

「自分はどうしたいのだろう」

と考える余白が生まれます。

その余白を守ること。

それが、不登校になったときに親ができる、最初の大切な支援なのです。

理論編はこちらから

① 不登校になったとき親が最初に知っておきたいこと(理論編)

子どもが「学校へ行きたくない」と言ったとき、多くの保護者は戸惑います。 昨日までは学校へ行っていたのに、突然布団から出てこなくなった。 朝になると「お腹が痛い」「頭が痛い」と訴える。 「今日は休みたい」と言う日が増えてき […]

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